物静かな男の復讐(静かなる復讐)

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物静かな男の復讐

 

「物静かな男の復讐(静かなる復讐)」

原題:Tar de para la ira

監督:ラウール・アレバロ

2016年 スペイン映画 92分

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トレ

     ルイス・カイェホ

     ルス・ディアス

     ラウール・ヒメキス

 

アナは8年前の強盗事件に関わり服役中の夫クーロと

一人息子がいる。彼女は兄の経営するバーで働いて

いたが、1人の物静かな男が毎日通っていることに

気づくのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 心の奥に秘めた静かな怒りを

ひしひしと肌で感じる映画です。


無表情に隠された怒りの炎


映画開始後すぐに始まる強盗事件の犯人たちの顔は

黒いマスクに覆われており、唯一顔が分かるのは運転手役

の男です。あとから考えるとこれが大きなカギでもあった

と気づきます。
映画は3つの章に分かれており、まず「バー」と出てくる

のです。バーと言っても家族経営のような小さな店で、

常連客が日中カードゲームをしてのんびりと過ごすような感じ。

そこにたった一人無表情の男がカウンターで酒を飲んでいます。

なぜにカウンター席にいるのかとか目的があるのかとか全く

わかりません。とりあえず場違いなのは確か。

 

物静かな男の復讐

 

彼の名前がホセであるというのも次の章「アナ」に入って

ようやくわかるというくらい、不明な点がたくさんあるのです。

大体人物相関図が全くつかめない。毎回映画ではメモを取るの

ですが、名前を書きとめるにも名前がわからないので「ひげ1」

「おしゃべり女」などと書く始末です。

 

物静かな男の復讐
 

そして「アナ」の章でホセがアナの後を追い、2人は意気投合

したことやアナの夫クーロが収監中でもうすぐ釈放されることを

知ります。このホセとアナのラブシーンは、刑務所内でのアナと

クーロのラブシーンと同じくまことになまめかしいです。

(スペインって刑務所への面会であんなことができちゃうんだー。)

 

物静かな男の復讐
 

しかしながらホセの素性がまだわからないのです。彼が病院へ

見舞う意識不明の老人は誰なのか。ただクーロの顔を見て、

ああ、あの時のドライバー役の男であると確信すると、ホセの

目的が少しずつわかってきます。
いや、邦題で「復讐」とあるから、ホセが冒頭の事件の関係で

何かの復讐を企てているのだととっくに想像できてしまいますね。

「復讐」といえば、韓国映画パ・チャヌク監督のの復讐三部作

「復讐者に憐れみを」(2002)「オールド・ボーイ」

(2003)「親切なクムジャさん」(2005)を思い出します。

しかしながらあのようなドロドロした復讐劇ではなく、

静かに静かに進んでいくのです。
「怒り」の章では、まさにここまでとことん静かだったホセの

眉間の皺がみるみるうちに深くなり、ピクピクと少し動いたかと

思った瞬間、突然爆発します。これこそ彼が8年間ため続け、

防犯テープを擦り切れるほど見返し、毎日病院へ見舞い、孤独と

絶望に耐えながら自分を奮い立たせてきたものの正体であると

知ると、その大きさに恐怖しか感じません。そのシーンでは

無機質な効果音が流れ、ズームアップされたホセの顔が映るのです。
ホセは後半はほぼクーロと車で旅を遂行しますが、それは当然

クーロが望んだものではなく、ホセ主導です。釈放直後は

イキがっていたクーロがなぜにホセに歯向かわないのか。ホセが

本当に成し遂げたかったことは何かを知るのは、見る側の頭の中で

考えるしかないのですが、幾つかシーンを思い返して、彼が最初に

持っていた思いが、アナやクーロと接していくうちに少しずつ

変わっていたことは確かだと思います。それほどまでに彼は孤独で

あったことにも気づかされ愕然とするのですが。

 

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空の沈黙

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空の沈黙

 

「空の沈黙」

原題:The Silence of the Sky/O Silencio do Ceu

監督:マルコ・ドゥトラ

2016年 ブラジル映画 102分

キャスト:レオナルド・スバラーリャ

     カロリーナ・ジッケマン

     チノ・ダリン

     アルバロ・アルマン・ウゴン

 

夫マリオが留守中に妻ダイアナは2人組の男に

乱暴される。偶然その現場を見てしまったマリオは

ダイアナがその事実打ち明けることを望むが、彼女は

一切口にせずいつも通りの生活を送っていく..。


<お勧め星>☆☆☆ なんとなく不快な思いに包まれた

ままエンドロールを迎えます。


言葉と心の断絶


オープニングクレジットの背景は昼間の真っ青な空。

この空の下のある一軒の家では大変なことが起きている

のです。それはまずダイアナの視点から描かれ、おそらく

2人組の男が彼女の自宅の寝室で彼女を乱暴しています。

彼女の悲鳴とぼんやりした映像、そして男たちの声と

ガタガタと小さく響く音が何が行われているのかを想像

させるのです。そしてすべてが終わった後、1本の電話が

かかり、夫マリオからだとわかっても、子どもたちの迎えを

頼むだけなのです。なぜに夫に知らせないのか。そもそも

なぜ通報しないのか。

 

空の沈黙
 

一方、この時間を再び映し、今度はマリオの視点からダイアナが

乱暴を受けるシーンが映ります。外で岩を持ち、ガレージでそれを

はさみに持ち替え、現場付近まで行くものの、結局何もできない。

彼は妻に電話をかけ、普通通りの会話をするのです。なぜに

お互いに知らないふりをするのでしょう。この2人の間に広がる

心と心の隔たりは何に起因しているのでしょうか。

 

空の沈黙
 

どうやら夫婦は8年間の結婚生活のうち、2年余り別居しており、

妻子を残して、マリオは他の女性と暮らしていたらしい。何と

なく会話がおかしいなと思っていたら、夫妻はスペイン語で

話すのに、ダイアナは知人とはポルトガル語で話しているらしい。
これは後から知ったことで、この言葉の壁によって微妙な感情を

伝えきれずにいたかのように感じられます。何かを象徴するように

出てくるサボテン。このトゲがまたとても鋭いのです。サボテンは

昔はよく見かけましたが、今は観葉植物の方が多く売られていて、

敢えてとげとげしたサボテンを購入することもなくなりましたねえ。
マリオは最初のシーンで、このサボテンを握ったために掌が

ぼつぼつの血まみれになるんです。これは夫妻のお互いの心の中を

表しているのかもしれません。
そしてマリオは独自に暴行犯を調べ上げていくのです。調べて

どうするというのか。そこでも真っ青な空が映ります。
エンドロールの背景は少しずつ明るさを取り戻していく早朝の空。

ただただ無音でその光景が映るのみです。目の前で起きたことは

大変なことばかりなのに、お互いに何もかも知っている夫妻は、

何もなかったかのように「家に入ろうか」と言葉を交わす。この

夫妻はずっと平行線をたどるような人生を送っていくのでしょうか。

それを考えると深い絶望のような感情に包まれて、明け方が

夕やみに変わっていくように思えました。

 

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ベター・ウォッチ・アウト

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ベターウォッチアウト

 

「ベター・ウォッチ・アウト」

原題:Better Watch Out

監督:クリス・ペッコーバー

2017年 アメリカ=オーストラリア映画 89分

キャスト:オリビア・デヨング

     ヴァージニア・マドセン

     パトリック・ウォーバートン

     デイカー・モンゴメリー

 

両親がクリスマスパーティーに出かける晩、ルークは

シッターのアシュリーと過ごすことになる。しかし、

無言電話や不気味な物音がし、2階に人の気配を感じた

ことから2人は恐怖の中様子を見に行くのだったが...。


<お勧め星>☆☆☆ もう笑えない不快な部分が多すぎる

けれど、あっと驚く展開が見られます。


どこが「ホーム・アローン」だ!!


映画内でシッター、アシュリー役を演じた

オリビア・デヨングと主人公ルークの親友ギャレット役

のエド・オクセンボウルドは、ナイト・シャラマン監督

「ヴィジット」(2015)で姉弟役を演じていた2人と

知り、この年頃の成長の早さを実感します。

 

ベターウォッチアウト

 

「ヴィジット」に関しては、シャラマン監督の原点回帰映画と

思えるようないくつものトリックがありましたが、やはり

「シックス・センス」(1999)に勝る映画には

なりませんでした。あれ以上の作品がこの先生まれるの

でしょうか。

 

ベターウォッチアウト
 

さて、この映画の良い点は2つ。オリビア・デヨングがとても

美しく成長したことと、主人公リッキー役のリーバイ・ミラーが

将来有望な美少年なのです。役の上では12歳。まだまだ

シッターがいないと家を空けられない年齢なんですよ。
母親は特に彼を子ども扱いし、アシュリーに一から十まで

指示をして行きます。しかーし、このお年頃の少年たちの頭の

中は妄想が渦巻いているんでしょうね。今宵、なんと、

アシュリーとキメたい!と思っているんです。え、え、え〜〜。
アシュリーと二人きりになると、ホラー映画を見て「キャー」と

しがみつくのを待ったり、2階から聞こえる不気味な物音に

「僕が君を守る」なーんてかっこつけたりします。どれもかなり

幼稚な発想なんだけど、それが物音や電話のベルを鳴らせたり、

窓に人影などを映らせることで、見ている側はすっかり違う方向の

話と思ってしまいます。
くそう、間違えちゃったじゃないか!
ところが後半に入ると、話はすっかり様相を変え、このクソガキ

いい加減にせいよ!と必ず思うシーンの連続です。ルークが

美少年すぎるのが功を奏し、冷たい恐怖を感じつつ思いがけない

ラストへと突入。
だてにホラー映画ばかり見ていたわけではなかったんですねえ。

 

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黒い雪

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黒い雪

 

「黒い雪」

原題:Nieve Negra

監督:マルティン・オダク

2017年 アルゼンチン映画 90分

キャスト:ライア・コスタ

     リチャード・ダーリン

     ドロレス・フォンシ

     ミケル・イグレシアス

 

スペインに暮らすマルコスは、父の訃報を受け、

身重の妻ラウラとアルゼンチンに戻って来る。父の

遺言の実行と土地売却話を進めるため、彼らは長年

疎遠だった兄サルバドルの元に向かうが..。


<お勧め星>☆☆☆ 真っ白く美しいはずの雪景色が

少しも清らかに見えなくなる愛憎ドラマです。


雪に残る真っ赤な血の跡


サルバドル役のリカルド・ダリンは、私の大好きな

映画「瞳の奥の秘密」(2010)の主役を演じて

いました。ラテン系の顔立ちの大きな瞳が印象的で

とても色気のある俳優さんです。ところがこの映画では、

人里離れたパタゴニア地方の山奥にたった一人で暮らす

孤独な男を演じており、白いものが目立つ髭も髪の毛も

ボーボーで獣のように感じます。ただそのつぶらな瞳は

健在であり、一目で彼だとわかりました。
オープニングに映るホアンという少年が、マルコスの

弟であることは、映画内の会話からわかってきますが、

なぜかマルコスはその話を口にしたがらない。さらに

父の遺言を実行するためにどうしてもサルバドルに会

わなければならないのに、ものすごく腰が重いことから、

マルコスとサルバドルの間に大きな確執があることは

わかってくるのです。

 

黒い雪

 

また妹サブリナは精神疾患で病院に収容されている。現在

のマルコスやラウラの姿と20年以上前の一家の姿が交互に

映るものの、20年以上前の出来事が切れ切れで、さらに

時を前後して映り込むので、見ている側は、その「謎」に

ついてものすごく好奇心をかきたてられます。父、サルバドル、

マルコス、サブリナ、ホアンで雪山で狩猟をする姿。

そこでいったい何が起きたのか??なぜサルバドルは父から

折檻を受けていたのか。

 

黒い雪
 

この好奇心はマルコスの妻ラウラが代わりに満たしていくの

です。なんせものすごく詮索好きだし、のぞき見、盗み聞き、

盗み読みが大の得意らしい。隠されているとわかると見たく

なるし、調べたくなるのは誰でも同じなのね。姉の日記の

盗み読みは叱られることがわかっていても、ついこの手が

ふすまを開けてしまい、ついこの指が日記のページをめくって

しまったものです。特に大したことは書いてなかったのに、

その後ろめたさが逆にワクワク感を誘いました。
このラウラはとっても可愛い女性なんですが、マルコスの

父親が遺した土地が900万ドルで売れると聞かされた時、

はっと目を見開きます。この目は、次にサルバドルから、

900万ドルではなく1100万ドルなんだ、と聞かされた時

にも見られるのです。こんなどへき地でも鉱山としての価値が

あり、それほどの値段がつくと地元の有力者は語ります。

この有力者もかなり胡散臭い。ただカナダの企業が買おうと

している話は本当らしい。

 

黒い雪
 

「一人にして悪かった」と頭を下げるマルコスに殴りかかる

サルバドルの額に残る深い傷跡は父がつけたものであり、

そのきっかけは...。さらに盗み読み得意のラウラが知って

しまったおぞましいこの一家の秘密。ラウラは涙にくれる

ものの、やはりその目には強固な意志=金を手にすること、

が宿っていた気がします。
アルゼンチンという国の閉鎖的な面や兄弟間の口では語れない

ほど濁ったドス黒い憎悪の感情を見せつけられた気がしました。

雪に広がる真っ赤な血が、唯一美しいと思えるものだというのも

悲しすぎる事実です。それにしても車がボロい。

 

黒い雪

 

あんなボロい車が今でも使われているんだろうか。

 

 

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美しい湖の底

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美しい湖の底

 

「美しい湖の底」

原題:Shimmer Lake

監督:オーレン・ウジエル

2017年 アメリカ映画 86分

キャスト:ベンジャミン・ウォーカー

     レイン・ウィルソン

     ステファニー・シグマン

     ワイヤット・ラッセル

 

アメリカの田舎町で銀行強盗事件が発生する。

犯人の3人組のうちの1人アンディの弟で保安官

のジークは銃弾を受けており、彼は相棒リードと

共に3人の行方を追うが...。


<お勧め星>☆☆☆ とても斬新なアイデアの

ミステリーでした。


不正を見逃した結果


アメリカの寒々しい田舎町で起きた犯罪から始まる

映画はいくつも見てきましたが、つい最近見たものは

「スリービルボード」(2017)です。閉塞感に

満ちた田舎町での人間関係を、今にも窒息しそうな

緊張感を漂わせて描いていました。あの映画ではラスト

だけヒロイン、ミルドレッドに笑顔が見られるという

内容でした。でも大好きな映画です。
今回の映画の舞台もそんな田舎町であり、そこでなければ

起こり得なかったような事件を映していきます。ただ

その中で随所に見られる、クスリと笑えるシーンは、

コーエン兄弟が手掛けたクライムサスペンス映画に

見られるそれによく似ていて、上手くやればやろうと

するほど逆の方向の転がっていくという皮肉な内容

でもあります。いやこの映画は謎の中に謎があって、

ラストにはそうかそうだよな、と納得するものなのです。
俳優陣は豪華で、銀行強盗3人組の一人アンディの弟で

保安官のジーク役は「リンカーン/秘密の書」(2012)

のベンジャミン・ウォーカー。

 

美しい湖の底

 

そのアンディの中間エド役は「ウェディング・テーブル」

(2017)でヒロインの元カレのクズ男を演じた

ワイヤット・ラッセウ。この人一目でわかっちゃう。

 

美しい湖の底

 

次にどこかで出ても絶対に判別できる自信あります。粗暴で

どこかマヌケな感じなんですよね。そしてエドの

妻ステファニー役は「アナベル 死霊人形の誕生」(2017)

のステファニー・シグマン。「007 スペクター」(2015)

でボンドガールを演じただけあって、ナイスなバディを

見せてくれます。いや見えない。

 

美しい湖の底
 

ストーリーは金曜日から時間をさかのぼる形で進み、すべてが

明らかになるのが、事件当日の火曜日というもの。FBIが

登場するんだけど、韓国映画での警察並みにおまぬけで、

自称「BチームのDクラス」だけありました。
事件の関係者がかつてアメフトを一緒にプレイした仲間であり、

「あの時代はよかったなあ」「でももう戻れないんだ」という

会話は限りなく哀愁を帯びていました。

 

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善悪の刃

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善悪の刃

 

「善悪の刃」

原題:New Trial

監督:キム・テユン

2017年 韓国映画 119分

キャスト:チョンウ

     カン・ハヌル

     キム・ヘスク

 

釜山でタクシー運転手が刺殺され、第一発見者の

少年ヒョヌがたまたま持っていた刃物のせいで犯人

として逮捕され懲役刑となる。彼は10年後出所

するが、被害者への賠償金の返済を迫れら、再び

逮捕の危機に陥る...。


<お勧め星>☆☆☆ 実話ベースだけあって見ごたえが

あり、歯がゆさの中に人間味を感じる映画です。


世間の常識と法の常識は異なる


韓国警察の腐敗ぶりは、映画内で必ず描かれており、

司法に関しても「正義」が「民意」に翻弄されているのは

実際のところそうなのではないでしょうか。そして警察に

関しては取り調べ段階での暴力はもれなくついてきます。
この映画のモチーフとなった事件は2000年に韓国の

薬村で実際に起きた「タクシー運転手殺害事件」であり、

犯人が誰か?ではなく、冤罪で服役した少年の再審開始及び

無実が証明されるのかがメインテーマです。
なのでサスペンス要素はあるけれど、極めて人間ドラマ色の

濃い内容になっており、主人公の弁護士ジュニョンと服役

した少年(当時)ヒョニュ、そしてその母の心情の移り変わりを

丁寧に描いているのです。いや所々駆け足もあるけれど。

 

善悪の刃
 

ジュニョンは大儲けしようと考える貧乏弁護士であり、

そのためにヒョニュの再審を利用しようとする。一方の

ジョニュは警察の暴行による自白の強要から10年の服役を

経て、すべてに投げやりになっているのです。この自白の

強要から服役中の状況まで見ていると本当に気分が悪く

なります。これが2000年の出来事なんですよ。ほんの

18年ほど前のことなんですよ。
ジュニュがいつ「金」ではなく「正義」を追求することを

求め始めたのかは、おそらくは彼が貧しい家庭の出身であり、

根は誠実な人柄だったのだろうと推察するのです。役の上で

もふんぞりかえっている検察のトップや悪徳警官はとにかく

「悪そうな」顔つきをしていて、これがまたわかりやすい。

 

善悪の刃

 

ヒョニュはよく見るととても端正な顔つきをしているのです。

 

善悪の刃

 

彼の母親役は「お嬢さん」(2016)「渇き」(2009)

などで存在感あふれる演技を見せたキム・ヘスク。貫禄抜群

なんですが、この映画ではヒョニュの出所後は盲目の役を

演じています。まさに「ママ」という感じです。
貧しい者はとことん貧しく、無実を証明する手立てすらなく、

あったとしても警察、検察の筋書き通りに上書きされていく。

そんな不条理な様子を見続けるととても悲しくなるのですが、

実際にこういう状況なのでしょうね。財閥の誰かが何か罪を

犯したとしてもすぐに保釈されるし、ほとぼりが冷めれば公の

場に堂々と姿を現す。それでもこの映画のラストを見ると

「正義」を証明しようと考える人々は確かに存在し、それが

成功することもあるのだと実感します。
話の構成の部分で緩急をつけすぎたのか、ジュニョンの家族や

友人弁護士との関係など多くを盛り込みすぎたのか、やや説明

不足の個所がみられましたが、見終わってモヤモヤしないので

お勧めかもしれません。
だけど終盤のミョンソン・ホテルのシーンは、あれだけ警官を

痛めつけてどう説明したのか謎が残るなあ。まあいいか。

 

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Suburbicon

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サバービコン

 

「Suburbicon」

監督:ジョージ・クルーニー

脚本:コーエン兄弟

   ジョージ・クルーニー

   グラント・ヘスロウ

2017年 アメリカ映画 105分

キャスト:マット・デイモン

     ジュリアン・ムーア

     バッド・クーパー

 

1950年代のアメリカの平穏な田舎町。

そこにアフリカ系アメリカ人一家が引っ越して

くる。町民はその一家を敵視するが、時を

同じくしてその家の裏に住むロッジ家にある晩

侵入した2人組の男性にガードナーの妻ローズは

殺害されてしまうのだった。


<お勧め星>☆☆☆ 少し焦点がボケているけれど、

サスペンスと不条理さとコミカルな映像で一気に

見られます。


木を見て森を見ず


ジョージ・クルーニーとコーエン兄弟の組み合わせは

「オー・ブラザー!」(2000)「ディボース・ショウ」

(2003)「ヘイル・シーザー」(2016)とあり、

今回はジョージ・クルーニーは出演せず、監督にまわり、

コーエン兄弟は脚本に携わっています。先に挙げた三作品は、

個人の感想では次第につまらなくなっているのはなぜかと

考えると、コーエン兄弟の描く世界が1950年代が多く、

そこで展開されるストーリーに飽きてきたせいかもしれ

ません。ここで笑わせるな、というツボが読めてしまう感じ。
今回の「Suburbicon」は航空機内で鑑賞したもので日本では

今春公開予定です。
1950年代の平和な田舎町にはそれぞれが真っ青な芝生の

生えた庭を持ち可愛いらしい家が立ち並んでいます。

郵便配達人がにこやかに「こんな幸せな町はないんだ」と

郵便物を配りながら新しく引っ越してきた一軒の家に向かう。

そこで顔を出したのがアフリカ系アメリカ人の女性でそれを

見たとたんに彼は凍り付くのです。彼だけでなく近所の誰もが

凍り付きます。この幸せな町に住んでいるのは白人だけだと

気づくと、彼らが猛烈によそ者を排除し始めるのが予想できる

というもの。「住民のつながりに悪い影響を及ぼす」「何かを

起こす」「町の治安が乱れる」などどれも根拠のないことなの

です。そこにあるのは排他的な差別主義のみであり、(特に

時代も時代なので)同じように今この島国日本でも田舎町では

コミュニティ意識が強く、新参者には厳しく元から住んでいる

人には甘い面が確実に残っています。それは逆に田舎町の

知り合い同士で何かを起こすとものすごく居づらくなるものの、

そこに住むしかないという悲哀も感じるのです。

 

サバービコン
 

この映画には大きく分けると2つのストーリーがあり、何も

していないアフリカ系アメリカ人一家への住民の攻撃と、

その家の真裏に住むロッジ一家がやらかしているものすごく

大きな出来事が交互に映っていきます。

 

サバービコン
 

マット・デイモン演じるガードナー・ロッジは一家の主であり、

1950年代の父親像そのものつまり家族のために外で働き、

妻子のために奮闘する、そして絶対的な権限を持っているのです。

ところがそのガードナーの妻ローズは交通事故の後遺症で

車いす生活のため、双子の妹マーガレットが彼女の息子ニッキー

の世話に来ているらしい。この双子の姉妹役はジュリアン・ムーア。

一応姉は金髪、妹はブラウンの髪色と分けています。そして

ある晩突然二人組の男が侵入し、彼らを縛ったあげく睡眠薬を

吸わせるとローズだけ亡くなってしまいます。この悪い男たちの

目的やその黒幕がすぐにわかってしまうんだけど、そこからが

全然予定通りいかないのは当たり前のこと。一方で裏の家は

徹底的に嫌がらせを受け続けています。

もしもーし、こっちの方が大変なんですよ〜。
坂道を転がり落ちる石のように物事はどんどん悪化していく

のに、ガードナーはその場しのぎの対策ばかり講じるから

そこは結構コミカルに感じます。特にガードナーが血まみれの

シャツを着ながらニッキーの子供自転車をもりこぎしている

シーンの会話は必見です。

 

サバービコン

 

「自転車に乗ってるんだ」「俺たちは最初から見ていたよ」

ドッカーン!
アメリカのレビューサイトではまとまりがないとか、

ジャンル分けに苦しむかのようなコメントがありますが、

私は結構楽しめました。

 

 

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エリザのために

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エリザのために

 

「エリザのために」

原題:Bacalaureat

監督:クリスティアン・ムンジウ

2016年 ルーマニア=フランス=ベルギー映画 

128分

キャスト:アンドリアン・ティティエン

     マリア・ドラグシ

     ブラド・イバノフ

     リア・ブグナル

     マリナ・マノビッチ

 

外科医のロメオの娘エリザは、高校の最終試験を前に

強姦未遂事件に遭ってしまう。動揺する娘を見て、

ロメオはあらゆるつてをたどって試験の合格を目指すが... .


<お勧め星>☆☆☆半 何も解決しておらずただ日にちが

経っただけなのですが、ラストの笑顔で少しだけ希望が

生まれます。


絶望の中の希望


舞台となるルーマニアは、1989年にチャウセスク

独裁政権が倒れ、民主化の道を進むと思われていた国です。

チャウセスク元大統領夫妻の銃殺シーンはテレビで何度も

流れ、彼が1960年代から80年代にかけて独裁者と

して君臨したルーマニアという国を知ったものです。

それ以前は体操選手コマネチの可愛い演技に魅了された

程度の知識しかなく、彼女がアメリカに亡命後語った

国内での生活は週刊誌がこぞって書き立てていました。
さて、この映画は外科医ロメオが娘エリザの最終試験を

巡って右往左往する姿が、ほとんど無音で描かれていきます。

車の音、草がすれる音、犬の鳴き声、そして当事者の

息遣いなどがBGMのように聞こえるのです。

 

エリザのために
 

冒頭からこの夫妻の関係が冷え切っていることが伺える朝

のシーン。妻マグダのぼさぼさの頭や夫を見送ることさえ

なくベッドに横たわっている姿が、ボンと映されるのです。

またエリザも父ロメオの愛情をかなりうっとうしく思って

いる模様で、逆にロメオはそんな事お構いなく世話を焼き

まくるし、とはいえ娘を学校の前で車から降ろすとちゃっかり

不倫相手のもとへ行ったりする。結構自分勝手な男でもある

のです。もちろん本人はこの不倫相手サンドラに気持ちが

傾いているけれど、たぶん死ぬほど愛しているのは娘なんだ

ろうな。
ところがサンドラといちゃこちゃしていていると、娘が強姦

未遂事件に遭った電話が入るのです。えらいこっちゃ。

ちゃんと学校の門まで送らなかったからだ、と反省はする

ものの、それを妻に言われると、すんなり謝罪できないところが

男の意地でしょうか。
明日は大事な最終試験で、それに高得点を取らないとイギリス

への留学がダメになってしまうのです。えらいこっちゃ。
ここから頻繁に登場するのがルーマニア国内における汚職、

不正、コネ社会であり、それは持ちつ持たれつなので、前に

世話をしたから次は恩を返してくれるという論理が社会全般

に広まっています。わたしの住んでいた田舎町でも小さい

ながらこんなことがたくさんあったので、なんだか身に

つまされる思いになってしまう。
とはいえロメオはとにもかくにも、あらゆるツテを頼りに

この娘の大ピンチを乗り越えようとするのです。娘を

イギリスに留学させ、この未来のない国から脱出させて

自由にそして幸せになってほしい。そう願うロメオの

気持ちもよくわかります。しかし妻マグダは、夫同様に

この国に戻って夢が破れたはずなのに、そんな希望を娘に

託さないのです。まず今のこの状況がいやだ、つまり冷え

切った夫との関係が嫌だ、ということに尽きます。ここが

かなり食い違うんですよね。夫は自分のできなかった夢を

娘が叶えてほしいと願い、妻は自分のできなかった夢は

もうあきらめたという感じでしょうか。今更仕方がない。
で、当のエリザはというと、BFのいるこの国にとどまって

変化もない生活でもいいな、くらいに思っているらしい。

18歳くらいで、全く知らない国へ単身で向かう気持ちって

あっただろうか。文化も社会も生活も全く異なる場所で、

夢をかなえるなどと思いもしなかったなあ。これはすごい

覚悟と勇気が必要なんだと思う。
映画内で、サンドラの息子マテイが遊具で順番抜かしした

子供に石を投げつけるシーンがあるのですが、ロメオに

「なぜ石を投げたのか?」と尋ねられると

「順番を抜かしたから」と極めてまっとうな答えをするんです。

こんな子供でも分かる不正が、もっと大きな形ではびこる

社会に身を置くロメオは、自らもそれを利用しようとしていた

ことを改めて気づいたのかどうか。

 

エリザのために
 

結局何一つ、そう強姦未遂犯すら見つからないまま映画は

終わりますが、エリザの飛び切りの笑顔が見られたことで

ロメオはしばしの間幸せになったんじゃないんだろうか。

そんな気がしました。

 

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二つの真実、三つの嘘

3

JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

二つの真実、三つの嘘

 

「二つの真実、三つの嘘」

原題:Proxy

監督:ザック・パーカー

2013年 アメリカ映画 130分 PG12

キャスト:ジョー・スワンバーグ

     アレクサ・ハビンス

     クリスティーナ・クリープ

     アレクシア・ラスムッセン

 

妊娠9か月のエスターは暴漢に襲われ死産して

しまう。その後セラピーで知り合ったメラニーと親

しくなるが、彼女が事故死したと話す子供と

ショッピングモールにいるのを目撃してしまう。


<お勧め星>☆☆☆ 現実と妄想が入り乱れ、先の

読めない内容になっています。


注目されたい心


この映画を見てまず頭に浮かんだのが

「代理ミュンヒハウゼン症候群」。子どもなどに傷害行為

をし、周囲から自分の看護ぶりを認めてもらいたい欲求に

かられる精神疾患で、日本でも時折事件として報道されます。
とはいえこの映画での第一のヒロイン、エスターはそう

ではなく、「妊婦」ということで周囲から注目され、優しく

されることの喜びを感じ、精子バンクで妊娠した女性なのです。

この人がまた幸薄そうなルックスなんだなあ。

 

二つの真実、三つの嘘

 

帝王切開後の体を鏡に映すけれど、かなりリアルでありつつ、

少しも色気を感じないヌードです。
一方、彼女がセラピーで知り合った第二のヒロイン、メラニー

は、子供が誘拐されたとか、交通事故で亡くしたなどと語る

ものの、実際には夫も子供もいる幸せな家庭のはず。夫は

社長の御曹司でありお金はあるが、仕事人間かつ我が子と

同じくらい子供っぽい..と思う。結局メラニーも「孤独」を

感じているんだけれど、それは普通ではなく、

「子どもを亡くした母として同情されたい。注目されたい」と

いうものなのです。ここ、かなりイカれていますよ。

 

二つの真実、三つの嘘
 

エスターはレズビアンで、恋人アニカがいるけれど、なぜか

行きずりの男たちと関係を持ってしまう。う〜ん、やっぱり少し

おかしいか。
エスターは一方的にメラニーにシンパシーを感じ、それを拒絶

されると、彼女の自宅に侵入するという暴挙に出るのです。

そこで起こる恐怖の出来事は、まずバスルームのドア越しに

聞こえる水音、物音から始まり、ショットガンで撃ち抜かれる

エスターの飛ばす血しぶきがスロー映像となってゆっくり目に

入ります。

 

二つの真実、三つの嘘

 

血の1滴1滴が、ゆっくり頬に額に腕に壁に飛んできます。

2回目の銃撃の後は、撃たれたエスターの姿は映らず、そこに

飛んできた物体で彼女の姿が想像できるという怖さ。

すごいんです。
時折入り込む妄想が現実と入り乱れ、え?と思う瞬間がいくつも

ありましたが、それがラストシーンまで続くとは思わなかった

です。さあ、どうなったんだろうか。
そして邦題の2つの真実は何で、3つの嘘は何だろうか。なかなか

興味深い内容でした。

 

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ボーイ・ミッシング

4

JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

ボーイ・ミッシング

 

「ボーイ・ミッシング」

原題:Secuestro

監督:マル・タルガローナ

2016年 スペイン映画 105分

キャスト:ブランカ・ポルティージョ

     アントニオ・デチェント

     マルク・ドメネク

     ビセンテ・ロメロ

 

高名な弁護士パトリシアの息子ビクトルは、ある日、

けがをした状態で森の中を歩いているところを保護

される。彼の証言からチャーリーという男に誘拐

されたことがわかり、その男は逮捕されるが、証拠

不十分で釈放される。パトリシアは、彼への恐怖から

元恋人に助けを求めるが...。


<お勧め星>☆☆☆ ラストは釈然としませんが、

まあまあ楽しめる映画です。


親バカが生んだ不幸


日本版ジャケットは、かなりデカデカと「新たな暴力」

「惨劇」と書いてありますが、実はそれほどひどいことが

起きるわけでもなく、母というにはかなり老けている

パトリシアがひたすら坂道を転がり落ちていく様が描かれる

のです。
だいたい先手を打とうと考えて、知恵を絞ったことでうまく

いったというのを映画内で見たことはほぼありません。何か

良い方向に転換するきっかけになることはあっても、大体が

失敗して身を亡ぼすというもの。その期待を裏切れるかどうか。
よくありがちかつ極めて興味をそそられる始まり方には、

一応「何があったのかな〜?」と食いついてしまします。

森の中を傷だらけで走って逃げる若い女性...なんてのは見飽きる

ほど見たなあ。今回は頭から血を流して見つかったビクトルが、

耳が不自由であり、彼の母が、黒いものも白く変えてしまえる

ほどの敏腕弁護士であることがすぐにわかります。そして

あっという間にビクトルの証言から容疑者チャーリーが拘束

されるのです。

 

ボーイ・ミッシング
 

チャーリーも前科持ちで、とにかく怪しい行動ばかりする。

けれど証拠がないことで釈放されてしまいます。スペインでは

金銭的に余裕がなくてもすぐに弁護士がつくんだなあとか、

チャーリーは誰から電話をもらったのかなあ、とか、なぜに

パトリシアの車をつけたりするんだろう、なぜに彼女の家の

敷地に入り込むだろうと思うんだけど、そこには深い意味は

なかったみたい。深読みすると後で頭が混乱してしまいます。

この映画の監督が製作に携わった「ロスト・ボディ」(2012)

「ロスト・アイズ」(2010)のようなミステリアスな展開を

期待してはいけないのですよっと。

 

ボーイ・ミッシング
 

とりあえず溺愛する息子の身を案じたパトリシアは、元恋人で

実はビクトルの実父であるラウルに相談したことから話が

ややこしくなります。もしラウルがはなからチャーリーと

つながっていたら、その後の展開は本当に面白くなったはずなのに、

どう考えても、借金のある前科持ちの男が、不運にも巻き込まれた

に過ぎないと知ると、かなりがっかりするはず。聡明なパトリシア

の唯一の弱点は、男を見る目がなかったことで、それに親バカが

加わると、物事が悪い方向にしか向かわないのですね。

 

ボーイ・ミッシング
 

チャーリーを脅すだけだったのに、それを依頼したラウルの

手配したワルに脅されるは、ラウル自身からも脅されるは、

ラウルとパトリシアとのつながりを知った警察にも追われるはで、

散々な目に遭うパトリシアが哀れなんだけど、ちっとも同情

できないのも確かです。
ラストに「助けを求める強さ」を息子に説くパトリシアの言葉が

なんと軽く感じることか。あなたが助けを求めたのは「強さ」

の表れではなく、周りが見えない「愚かさ」の表れだったんですよ。

 

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