バクマン。

3

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バクマン。

 

「バクマン。」

監督:大根 仁

2015年 日本映画 120分

キャスト:佐藤 健

     神木隆之介

     小松菜奈

     桐田健太

     新井浩文

 

進路の決まらない高校生、真城の描く絵に

魅せられた同級生、高木にコンビで漫画家に

なろうと誘われる。彼は心を寄せる亜豆の

励ましもあり、週刊少年ジャンプ連載を目指して

漫画を描き始めるが..。


<お勧め星>☆☆☆☆ 暑苦しくもなくすべてが

上手くいくというわけでもなく絶妙なバランスの

内容が心地よいです。


先に行くから。


映画は高評価の人が多く、いつか見たいと思って

いた作品です。原作の漫画は当然未読。そもそも

漫画というものを読まないのです。もちろんかつては

少女漫画を読み、連載漫画の先が見たくて町に1件

しかない本屋に発売日にはいち早く走って行きました。

その時いつも立ち読みしている同級生がいて、

「絶対に先を言わないでよ!」と念を押してお店に入

ったものでした。いつの頃か漫画を読まなくなり、

読むとしても西原理恵子さんやほしよりこさんくらいに

なりました。
この映画の主人公は勉強も部活も遊びもしてこなかった

高校生、真城。この役は「半分、青い」の佐藤健。

いやいやこのルックスならモテたでしょう、と突っ込み

たくなるけれど、秘かに思いを寄せる女子はいるものの

スクールカーストで言うと底辺の部類です。彼の絵を

見て熱心に漫画を描こうと誘うのが、神木隆之介演じる

高木。あれ?「桐島、部活やめるってよ」(2012)

の時の映画部の高校生とあまり変化がありません。高木が

原作を書き、真城が絵を描いて漫画を製作しようという

わけです。実は真城の亡き叔父は有名な漫画家であった

ことから部屋も道具もしっかりそろっている。でも真城の

背中を後押ししたのが心を寄せる亜豆さんの言葉と言うのが、

全くもって不純でいいですね。

 

バクマン。
 

原作との違いを事細かに指摘するレビューもありましたが、

読んでいないので全然気になりません。さらに登場人物が

それぞれ個性的で、真城、高木が狙う同じ高校生の天才

漫画家新妻役の染谷将太の演技は抜群です。もう、キモさが

丸出しであり、猫背で歩幅が狭く、口を開くと人を小ばかに

したような言葉ばかり発するんです。

 

バクマン。
 

また週刊漫画の掲載が、アンケート至上主義というのも初めて

知ったし、(テレビ局の視聴率至上主義みたいだな)編集部の

状況も詳しすぎず、それでいて雑すぎない描かれ方でするりと

頭に入ってきます。

 

バクマン。
 

ペンと漫画を持って、新妻VS真城、高木が闘いを繰り広げる

シーンのアイデアの斬新さにも驚きます。
そして特に気に入っているのが、友情、努力、勝利という

ともすれば白けてしまうような青臭い言葉が、目の前で実像

となって現れ、それでいて永遠に継続するわけではないところ

です。一瞬だけの勝利だからこそ見ていて気分がいいのです。
「ずっと待っているなんてムリ。先に行くから」亜豆さんに

言われてしまう真城の姿も、そこでこの言葉を言うの?と思う

くらい気持ちよく感じます。
後半になってスルスルとうまく展開する映画は、内容が浅く

ペラペラに感じるし、逆にこんなにも努力したんだのになぜだ!

と泣かせるのはあまりに鬱陶しい。この映画のように、ラストは

悩める2人の姿というのが、なぜか清々しく感じてしまうのは

なぜだろう。
そういえばわたしも高校の卒業式にな出席しなかったなと

思い出し、あれは別に出なくても、どうってことないんだと

妙に納得しています。

ああ、もっと早く見ればよかった!

 

 

 

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三度目の殺人

4

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三度目の殺人

 

「三度目の殺人」

監督:是枝裕和

2017年 日本映画 124分

キャスト:福山雅治

     役所広司

     広瀬すず

     満島真之介

     吉田鋼太郎

     市川実日子

 

エリート弁護士の重盛に強盗殺人事件の容疑者

三隅の弁護の依頼が持ち込まれる。三隅は犯行を

自供しており、情状酌量による減刑を求めるだけの

簡単な事件に思われたが...。


<お勧め星>☆☆☆☆ 見た人がいろいろ考えること

ができる映画です。


三度目の殺人の意味


2018年第71回カンヌ国際映画祭のパルムドールを

受賞した「万引き家族」の是枝監督作品です。是枝監督は、

作品全体に漂う空気感がとても緩やかで、しかし核心部分

では強く輝きを放つものを見せるというイメージを

個人的に持っており、大好きな監督の一人です。
特に2015年「海街diary」は美人4姉妹が鎌倉の景色と

重なり、何度でも見たくなる内容でした。ちなみに原作の

漫画は読んでいません。
今回は法廷サスペンスとうことで、いつもと雰囲気が異なる

のかと思いましたが、やはり光の使い方やBGMに流れる

ピアノの音、風の音などが効果的に使われ、緊張感の中に、

決して不快な瞬間を抱かせない独特の何かを漂わせています。

また十字架を意味するかのような被害者の燃えた跡、雪合戦

の後に倒れこむ姿、カナリヤの墓、ラストの十字路などが象徴的

に表れ、この映画が罪と裁きを観念的に描いているように

思えるのです。

 

三度目の殺人
 

エリート弁護士重盛が死刑回避のためだけに弁護を行おうと

考えていた強盗殺人事件犯、三隅にとにかく振り回され、

次第に自分と彼を重ね合わせてしまったことで、自信満々

だった重盛が、すべてのものに疑問を抱いて行ったかのよう

にも受け取れました。

 

三度目の殺人
 

逮捕後すぐに自供したはずの三隅。しかし彼の供述は二転三転し、

被害者の妻による「保険金目当ての殺人依頼」を週刊誌記者

に告白する。何も聞かされていない弁護側は、方針の転換を

せざるを得ないのです。すると次には被害者の娘、咲江が

「父から性的暴行を受けていた。三隅さんは父を殺していない」

と言い始める。

 

三度目の殺人

 

ああ、こうなると三隅犯行説すら揺らいできます。ところが

この咲江は自らの脚が不自由な理由を嘘で固めています。

嘘つきなんです。その上、今度は三隅自身が「実は殺していない」

と言い始めます。こうなると「真実」はなにかすっかり

わからなくなるのですよ。

 

三度目の殺人


ただ三隅の死刑だけを回避する弁護を行うはずが、すべての

ストーリーが崩れ、おまけに三隅がかつて起こした事件の

せいで疎遠になっている娘と、重盛が別居中の妻との間に

もうけた娘が重なってきてしまうのです。その上、重盛の

かつての事件の判決を下したのが重盛の父であり、2人殺害

なのに死刑を回避し、無期懲役だったことを知ると、彼は

混乱します。犯罪は社会が生んだと思われていた30年前。

今はどうか。「人の命を自由にできるのは裁判官」と語る三隅は、

人間の意志に関係なく命が選別されることに途方もない理不尽

さを感じていたのでしょうか。いや、私個人の考えでは、彼は

そんなことを考えていなかったと思うのです。殺されて当然の

人間もいなければ生まれてこなければよかった人間もいない、

というきれいごとを並べ立てても社会において、そう考えてしまう

事例はいくつもあるかもしれません。ただそれを誰が裁いて誰が

決めるのか。その最後の砦である裁判所が、真実を求めるのでは

なく、弁護士、検察官、裁判官のそれぞれのメリットを求める場所に

なっていないのかと考えてしまいます。
終盤の拘置所のガラス越しの重盛と三隅は、最初日差しが重盛に

当たっていたのに、途中でガラスに映る三隅と重盛が重なって

映ります。三隅は重盛を演じていただけの空っぽの器の人物で

あるかを物語るようでした。三隅が飼っていた5羽のカナリヤの

話も象徴的に思えました。ゆっくり考えたい映画です。

 

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オケ老人

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オケ老人

 

「オケ老人」

監督:細川 徹

2016年 日本映画 119分

キャスト:杏

     黒島結菜

     坂口健太郎

     笹野高史

     左とん平

     藤田弓子

     小松政夫

 

高校教師千鶴は、ヴァイオリンを演奏する夢を

いかすべく梅が岡交響楽団に入団する。しかし

そこは老人ばかりのアマチュア集団で、彼女は

なぜか指揮者をすることになってしまうのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ これは面白かった。


なんでも楽しみましょう


2009年フランス映画「オーケストラ!」を少し

思い出す内容でしたが、あちらはかつて名指揮者

だった男性が政治的な理由でその座を奪われ、その後

あれこれいかさまをしながら、かつての仲間と

「ボリショイ管弦楽団」として舞台に立つというもの

でした。その中には最初からソリストに決めていた

アンヌと楽団との関係も絡められ、チャイコフスキーの

「ヴァイオリン協奏曲」を演奏するクライマックスには

涙が溢れてたまりませんでした。前半の限りなく滑稽な

シーンの連続から後半では、過去を回想しつつ、そこまで

こだわった謎が解き明かされていくのです。アンヌ役の

メラニー・ロランがとても美しいので機会があれば

ぜひご覧になってください。

 

オーケストラ
 

この映画ではそれに比べるとスケールはかなり小さく

なりますが、様々な困難を経て、夢を実現していく老人

たちの姿が生き生きと描かれています。
ストーリーは、老人だらけの梅が岡交響楽団がいかにして

コンサートを開催できるほどの練習を積んでいったか、

どんなラッキーな出来事があったかが柱です。

 

オケ老人

 

そしてそこに、梅が岡フィルハーモニーを主宰する大沢と

交響楽団を主宰する野々村との個人的な因縁、大沢の息子と

野々村の孫娘和音との恋、さらには千鶴の恋?を織り込んで

いるのです。

 

オケ老人
 

オケ老人

 

なんせ「何が起こるかわからない」お年頃のご老人たちで、

かつて実父がグランドゴルフのチームに参加していて、毎月

発行する新聞を手書きで制作していたのですが、その月の

参加者が毎月減っていったことを思い出します。

最後は4人だったかなあ。
それでもこの映画では年齢というもののハードルをほとんど

感じません。逆に若い千鶴の方がいろいろなことをあきらめて

いるように見受けられるのです。
「できるのにやらないのはだめ」当たり前のことだけれど、

あきらめてしまう人が多い。人生にはチャンスが何度でも

訪れるし、それを楽しみながら生かしたいと強く思うラスト

でした。千鶴の恋...プププ。あれもいいですよね。

やっぱりパティシエになるには本場フランスで学ぶべきだわ〜。

(少し前の朝ドラを思い出しつつ闘魂込めて最後に書いた)

 

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恋妻家宮本

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恋妻家宮本

 

「恋妻家宮本」

監督:遊川和彦

原作:重松 清

2016年 日本映画 117分

キャスト:阿部 寛

     天海祐希

     菅野美穂

     相武紗季

 

結婚27年を迎え、一人息子が結婚し家を出て

2人きりの生活が始まった陽平と美代子。しかし

陽平は1冊の本から、妻の署名入りの離婚届用紙

を見つけてしまうのだった...。


<お勧め星>☆☆☆☆ 笑いの中に優しさがいっぱい

詰まった映画です。


優しさと優しさはぶつからない


27年は長いですよね。でも世の中には30年、

50年と連れ添う夫婦がたくさんいるわけで、その中

でお互いを知り尽くし、お互いをいたわり合っている

人たちはどれだけいるのかを考えると少し気持ちが

暗くなります。いや所詮他人である配偶者のことなど

全て知ることなど無理かもしれません。人は自分自身

についてすら理解できないことが多いのですから。
それでも2人でいて穏やかな時間が持てるなら、それは

夫婦でいる大きな理由になると思うのです。
てなことを考えながら映画を見ていると、夫婦あるあるが

いっぱい出てきます。ファミレスでメニューが決められ

ない夫。もうさ、こっちはお腹が減っているから早く

食べたいんですよ。だからさっさと決めたらいいのに、

なぜに迷う?そして結局日替わりランチってどういうこと?

そしていざ食べ物が提供されると「そっちの方が良かったな」

 

恋妻家宮本
 

映画内ではデニーズのウェイトレスさんを柳ゆり菜さんが

演じているので、こんな可愛い子なら何回もブザーを押しそう

だと思ってしまう。

 

恋妻家宮本
 

結婚27年、それもできちゃった婚(今は授かり婚だっけ)の

宮本夫妻は、一人息子が独立し、さあ新しい生活を始めると

思っていたら、「暗夜行路」の本の中から一枚の離婚届が

出てくるのです。ガーン!俺は妻に何か悪いことをしていたのか。

俺のことを嫌いになったのか。妻に男ができたのか。これらを

陽平が勤務する中学校の生徒たちとの関りと、彼が通う料理教室

のメンバーの姿と共に描いていきます。

男性の料理って大事ですよ。(ここ強調)
夫妻が主役ながら、おもに夫陽平の心の内が映像化されている

ので、観ている側では、美代子の気持ちがよくわからないの

です。そして頻繁に笑いが取り入れてあるので、話が重くなり

すぎません。

 

恋妻家宮本

 

美代子のこのシーンでは映画「犬神家の一族」のBGMが

流れました。なるほどね...。さらにセリフの1つ1つが心に

響くものばかりです。「不満」はないけれど「不安」がある。

よくわからないように思えて、ラストにはその意味がパッと

わかります。吉田拓郎の「今日までそして明日から」も

良かった。拓郎の歌はやっぱり好きだなあと思ってしまいました。

 

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Fly Me To Minami 恋するミナミ

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恋するミナミ

 

「Fly Me To Minami 恋するミナミ」

監督:リム・カーワイ

製作総指揮:加藤順彦

2013年 日本=シンガポール映画 103分

キャスト:シェリーン・ウォン

     小橋賢児

     ペク・ソルア

     竹財輝之助

     藤真美穂

 

香港のファッション雑誌の編集者シェリーンは出張で

訪れた大阪で通訳のナオミの弟タツヤをカメラマンと

して雇う。一方韓国人CAソルアは、大阪の在日韓国人

の恋人シンスケとしばしの逢瀬を楽しむが、彼には

妻子がいるのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 大人のラブストーリーが重すぎず、

そして心にホワッと残る形で描かれていてとても好きな

映画です。


無国籍な空間が心地よい


前から見たかったのですが、今回劇場にて初鑑賞する機会

に恵まれました。
大阪ミナミを舞台に2つの恋が終わりと始まりを告げる

物語と言ってしまうと簡単すぎますね。始まる側はもちろん

のこと終わった側もなぜか未来に希望を感じられるのです。

そして日本、香港、韓国という3つの国が、言葉の違う

登場人物たちによってつながり、2つの恋の当事者たちも

少しだけ同じ場所にいる時間を持つという丁寧なストーリー

になっています。
じゃーん!まず目に入るのは、ナオミの弟タツヤ役の

小橋賢児さん。「ちゅらさん」の文也くんです。ああ、

ちゅらさんも今や一児の母親だし、おばあもスーちゃんも

亡くなったんだ。月日はあっという間に過ぎてしまう..などと

感傷に浸っている場合でなく、映画はこのタツヤが、急遽

シェリーンの仕事のカメラマンとして仕事を担うことに

なってしまう所まで一気に映ります。カメラマンとしての

スキルが乏しいタツヤをシェリーンは気に入らないんだけれど、

少しずつ彼に心惹かれていくのが、彼女の小さな表情の変化や

仕草でわかるのです。終盤のラピートに乗るシェリーンを

追いかけるタツヤは自転車を必死でこぎます。そこは

イルミネーションが輝く御堂筋。バックには何の音楽も

流れず、観客は「間に合うのか、間に合わないのか」

それだけが気がかりでたまらなくなります。
一方只今絶賛不倫中のソルアとシンスケの姿は、傍から見ると

ソルアはめっちゃ都合のいい女だと思うんです。ここはソルア

だってわかっているんですよね。逆に不倫を知ったシンスケの

妻の怒りなど当然のごとく理解できます。ソルアのけじめの

つけ方も妻の何もなかったような対応も大変小気味よく感じられ、

この絶妙な匙加減で話が重すぎなくなっていると後から実感

するのです。(シンスケはイケメンだからまたしでかしそう。)
わたしはテレビなどで見ることがほとんどの道頓堀川や戎橋、

三角公園、ラピート、関西国際空港など大阪を代表するもの

ばかり映し出され、そして夜のネオンや建物、人並み、

大阪ことばと共に美しいピアノの音色が流れると、どこか

郷愁を感じてしまいます。不思議な空間ができあがるんです。
監督のリムさんのスマホの液晶画面が傷だらけで、それを

愛しそうになでながら「これがいい感じ」とおっしゃるので、

実際に触らせてもらいましたが、ギザギザの感触を覚えるだけで、

そこに魅力を感じるのが才能なんだろうなあと思ったりもしました。
とてもお勧めの映画です。主題歌「Fly Me To Minami」が

流れるエンディングには少しだけ気分が明るくなっているはず。

 

 

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永い言い訳

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永い言い訳

 

「永い言い訳」

監督:西川美和

2016年 日本映画 124分 PG12

キャスト:本木雅弘

     竹原ピストル

     藤田健心

     深津絵里

     池松壮亮

 

作家の幸夫は、不倫相手と逢瀬を楽しんでいる時、

妻夏子の事故死の知らせを受ける。彼女の死に涙が

出ない幸夫のもとに、同じ事故で妻を失った夏子の

親友の夫陽一が連絡してくるのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 男性の視点から人間の心を

描いた秀逸な映画です。


泣けない理由は自分が弱いから


西川美和監督作品で鑑賞したものは「ゆれる」(2006)、

「夢売るふたり」(2012)。個人的には「ゆれる」の

まさに兄弟のゆれる心を描いた方が、静かで

かつ残酷であり、そして希望のあるラストで好みです。
監督自身が、絶対条件としていた「二枚目の主人公」

衣笠幸夫(この名前もググると監督の思いが伝わります)役

は本木雅弘。二枚目という外見のせいで逆に不幸になって

しまう男を、時折大げさすぎるほどの表情を見せながら

演じています。イメージは冷静で物静かな、CMのように

日本茶を飲んでいる感じなので、このギャップには驚かされる

のです。一方事故死した妻夏子の親友の夫、大宮陽一役は

竹原ピストルで、これがまたはまり役。思いが全て顔に

出るし、行動にも出てしまう。そんな単純な男なのです。
20年連れ添い、子供を作らず優雅な高級マンション暮らしの

衣笠家は、室内が殺伐としており、家庭ではなく単なる「箱」

であるのに対し、2人の子供がいて狭い団地に住む大宮家は

生活感丸出し。洗濯物はカーテンレールにかかっているし、

食卓も物であふれかえっています。それでもこれが「家庭」

なんだろうなと実感します。
妻に全く関心がなかった幸夫がなぜ大宮の子供の世話をするのか。

そこには3年ほどろくに物が書けずにいた幸夫にとって小説の

ネタになると考えたのは至極当然なことなのです。わたしも

幸夫の行動のきっかけはそれだと思うのですが、大宮家の子供、

特に長男真平の冷静な姿に自分を重ね合わせたのではないかと

考え始めたのは、映画の終盤です。
妻の死に泣けず、おまけに妻の「もう愛していない ひとかけらも」

という保存してある未送信メールを見てしまった幸夫の喪失感と、

母ではなく父が死んでいればよかったと思い続けたいた真平の心が、

ある部分でシンクロしたのではないか。
あれこれ言葉を並び立てても、その中身は空洞なままであり、

その言葉に息を吹き込むのは、そばに寄り添う人や寄り添いたいと

思う人に存在なのだなあと実感します。

 

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海よりもまだ深く

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海よりもまだ深く

 

「海よりもまだ深く」

監督:是枝裕和

2016年 日本映画 117分

キャスト:阿部 寛

     真木よう子

     小林聡美

     樹木希林

     リリー・フランキー

     池松壮亮

 

バツイチの良多は、売れない作家で探偵事務所に

勤めているものの、息子の養育費すら払えない。

ある台風の日、この親子3人が、良多の母、淑子の

家に泊まることになってしまうが...。

 

<お勧め星>☆☆☆☆ 是枝監督らしさが随所に

表れている秀作です。

 

題名の「海よりもまだ深く」は、テレサテンの「別れの予感」

の歌詞であり、映画内で淑子が一度だけ聴いています。

この歌が頭から離れなくなります。

 

〇見どころ

探偵事務所での仕事はあくまでも仮のもので、そこで次の

小説のネタを探しているという良多は、探偵の仕事でも

インチキをし、それで得た金をギャンブルにつぎ込んで

すってんてん。

 

海よりもまだ深く

 

阿部寛がこのダメダメ男にすごく似合っているんだなあ。

イケメンだからこそあらゆる役をこなして、そしていい俳優に

なるのだと実感。今更だけど。

 

海よりもまだ深く

 

樹木希林演じる母淑子の住む古い団地は、とても狭く、物が多く、

生活感があふれていて、このあたりの演出も素晴らしいです。

大きな体の大の大人である良多をこよなく愛する淑子の姿には、

母親はいつまでたっても母親なのだと感じさせるシーンが

たくさん出てきます。亡き夫の悪口はどれだけでも言うけれど、

このろくでもない息子のことは一切けなさない。

一方、姉千奈津を演じる小林聡美は、ちゃっかり、しっかり娘と

いう感じ。どうやら亡くなった父親も良多のように甲斐性なしで、

家族に苦労をかけたらしいとわかると、この家族のイメージが

リアルに思い浮かぶのです。

 

海よりもまだ深く

 

また一人息子で今は別れた妻響子と暮らす真悟も、おそらくは父親に

似ており、ガツガツした性格ではないのです。少年野球でもヒーローに

なるより、フォアボールで出塁する方を選ぶ。なんとなくわかるなあ。

そうなるとこの真悟の将来を不安に思いつつ、「優しい」「愛情深い」

というとても良いところも父親から受け継いでいて、好感が持てます。

台風の後、この元夫婦の交わす会話が、まさに海よりも深い。

「こんなはずじゃなかった」

「決めたから前に進ませてよ」

「わかってる、わかってた」

涙は出ないけれど、胸にぐっとくるものがあります。

 

●惜しいところはありません。

 

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殿、利息でござる!

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殿、利息でござる!

 

「殿、利息でござる!」

監督:中村義洋

2016年 日本映画 129分

キャスト:阿部サダヲ

     瑛太

     妻夫木聡

     竹内結子

     寺脇康文

 

江戸中期、藩の重税に苦しむ吉岡宿では、穀田屋の

当主十三郎が、町のために藩に大金を貸し付けることを

思いつくが...。

 

<お勧め星>☆☆☆☆ 実話に基づいているだけに、

違和感のない話で、笑いと涙の両方を楽しめます。

 

ナレーターは一言話せばすぐにわかってしまう濱田岳。

今この声を聞くとauのCMに見えてしまう。監督は

「ちょんまげぷりん」「ポテチ」などどれも心に残る作品を

手掛けている中村義洋。だから絶対に面白いと確信します。

 

〇見どころ

軽快なリズムに乗ってテンポよくストーリーが進みます。

貧しい宿場町吉岡が、いかにして町を再建していったか、

様々な人間模様を絡めながら描いています。

 

殿、利息でござる!

 

穀田屋十三郎役の阿部サダヲと飲み屋のとき役の竹内結子を

見ると「なくもんか」(2009)を思い出してつい笑って

しまう。しかしこの映画では彼のハイテンションぶりは封印

されています。十三郎の弟で浅野屋甚内役の妻夫木聡も、

感情をかなり抑えているので、今回は好印象です。

それと伊達藩の出入司、萱場役の松田龍平は相変わらず飄々と

していて素敵です。

 

殿、利息でござる!

 

なんか意地悪をしそうに思えましたが、今回はなし。

 

●惜しいところ

大肝煎り、千坂仲内を演じるのが千葉雄大。

 

殿、利息でござる!

 

ちょいちょい、この童顔甘いマスクに、この役は厳しいん

じゃない?肝煎りが寺脇康文ですよ。親子じゃん。

 

貨幣価値をその場で説明する文字が入るので、1両がどの

くらいの価値だったのかとか、金と銭の違いなどに戸惑う

こともありません。丁寧に作っています。エンドロールに

流れるRCサクセションが歌う「上を向いて歩こう」がすごく

心地良く感じられました。

 

殿、利息でござる!

 

それと伊達藩七代目藩主伊達重村役は羽生結弦くん。お殿様

より王子様という雰囲気だけれど、よく似あっています。

 

 

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駆込み女と駆出し男

5

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駆け込み女と駆け出し男

 

「駈込み女と駆出し男」

監督:原田眞人

原案:井上ひさし 「東慶寺花だより」

2015年 日本映画 143分

キャスト:大泉 洋

     戸田恵梨香

     満島ひかり

     内山理名

     キムラ緑子

     樹木希林

     山崎 努

 

江戸時代、幕府公認の縁切り寺、東慶寺に

お吟とじょごが同時に駈込む。2人は聞き取り

調査の後、寺に匿われるが、そこには信次郎と

いう戯作家見習いの男がいて...。

 

<お勧め星>☆☆☆☆ 笑いと涙がうまく組み

合わさった映画です。

 

原案となった井上ひさしの「東慶寺花だより」という

小説の名前通り、この映画には、東慶寺を取り巻く

山々や、その庭を彩る四季折々の花がとても美しいです。

春は桜が咲き乱れ、緑深い新緑の時期を経て、蝉が鳴き、

風鈴の音が響く夏。そして山を真っ赤に染める紅葉の後

には、椿の花の上に雪が積もっていく冬が訪れます。

それだけを見ていても心に深く残る映像です。

監督、脚本共に「わが母の記」などの原田眞人。まず脚本

が楽しいのです。大泉洋演じる信次郎の口八丁手八丁は、

予想通りのものですが、彼とキミラ緑子のセリフの掛け合い

はまるで夫婦漫才のようで、絶妙な「間」が秀逸です。

ストーリーは、江戸後期、天保十二年。江戸四大飢饉の一つ

天保の飢饉の後、町には「質素倹約令」が出され、民衆の

娯楽を取り締まる一方、地方では農民一揆や打ちこわしが続く

不安定な時代の話なのです。

堀切屋の妾、お吟と浜鉄屋の妻じょごは、各々の理由で東慶寺

に駈込んできます。

 

駆け込み女と駆け出し男

 

キップのいいセリフの言い回しをするお吟役は、満島ひかり。

飲んだくれ働かない夫(武田真治)に見切りをつけ、いつもの

低い声で強い意志を秘めた表情を見せるじょご役は戸田恵梨香。

駈込むとまず柏屋で聞き取り調査がされ、その後格付けされて

寺に住まうことになるわけです。柏屋源兵衛役は樹木希林で、

彼女の甥で戯作家志望の男が大泉洋演じる信次郎。一応医者の

見習いでもあるようで、男子禁制の寺での診察にも向かいます。

 

駆け込み女と駆け出し男

 

結構蘭学も勉強し、医師としての知識も高いようです。患者の

目を見てはいけないので、天井を見ながら診察したり、浣腸

したりともう大変。

たくさんの笑いの中に、この寺に駈込まざるを得なかった女性

たちの悲しい過去の話も盛り込まれ、日々学問に武術に修行する

姿が映し出されていきます。女侍ゆうも入山。彼女の駆け込み

理由はあまりに悲惨であり、それがラスト付近の大立ち回りに

関係してくるのです。内山理名がキリっとしていてかっこいいの。

 

駆け込み女と駆け出し男

 

一方で東慶寺をつぶす画策をする奉行鳥居の姿も映るのですが、

それほど印象に残るものではなく、彼が寺にスパイとして送り

込んだ女も、かなりあっさり転向。まあその理由には納得します。

曲亭馬琴が節目節目に、本人だけではなく、作品も登場する辺り

も良かったです。ラストにあそこに行くなんてね。

見終わって気分がほっこりします。

 

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あん

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JUGEMテーマ:邦画

 

あん

 

「あん」

監督:河瀬直美

原作:ドリアン助川

2015年 日本映画 113分

キャスト:樹木希林

     永瀬正敏

     内田伽羅

     市原悦子

     水野美紀

     浅田美代子

 

前科持ちの千太郎はどら焼き屋の雇われ店長を

している。ある日徳江という老女がアルバイト

に応募してくるが、彼は全く相手にしない。しかし

翌日徳江が持ってきたあんを食べた千太郎は、その

味に魅せられてしまうのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆☆ 美しい日本の自然と人間の

心の機微が細やかに描かれています。

 

らい予防法廃止は、日本では1996年。ほんの

20年前なのです。1945年には既にその病が遺伝性

を持っておらず、感染することもほとんどないとわかって

いたのに、多くの患者が隔離され、子供を持つことを

許されず、一般の人々との交流もないまま、この世を去って

行ったと知ると胸が締め付けられます。

「どら春」の雇われ店長千太郎役は、やさぐれ感あふれる

永瀬正敏。

 

あん

 

彼は前科持ちであり、慰謝料を肩代わりしてもらった先輩夫婦の

どら焼き屋の雇われ店長をしているらしい。寂しそうでやる気の

なさそうな1日の始まりが、彼の孤独を物語ります。それでも

手際よく粉を混ぜ、卵を割り、熱々の鉄板できれいにどら焼きの

皮を焼いていきます。まるでここまでおいしい匂いがしてきそう。

この映画の素晴らしいのは、食べ物をとてもおいしそうに映すことと、

日本らしい四季の風景を花や木や鳥、風の音などを使ってまことに

上手に描いている点で、優しい日差しも含めて、それらが後に

現れる徳江がこよなく愛したものばかりだと感じるのです。

「光が当たる社会で生きたい」

 

あん

 

そんなごく当たり前のことが出来なかった彼女は、「どら春」で

働くことで、生きる喜びを見出します。もちろん彼女の作る「あん」

は絶品で、あっという間に行列のできる店になってしまう。ところが

誰かが、彼女の病のことを噂し始めるとあっという間に、店は閑古鳥

になるのです。悪い噂は本当に早く広まるものです。毎日遊びに

来ていた中学生も来なくなってしまう。

母親のネグレクトを受けているワカナ役は樹木希林の孫娘、という

ことはもっくんの子供ってことね。なんとなく似ているかな。徳江が

彼女を見るまなざしが、ひときわ優しく感じられるのも頷けます。

また演技がものすごく自然体で初々しく感じます。

千太郎と徳江とワカナの交流が、再び訪れたソメイヨシノの季節に

開花したような気分になりました。

 

 

 

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