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    • 2023.01.12 Thursday
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    ボクたちはみんな大人になれなかった

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      JUGEMテーマ:邦画

       

      ボクたちはみんな大人になれなかった

      出典:youtube

       

      「ボクたちはみんな大人になれなかった」

      監督:森 義仁

      原作:燃え殻

      2021年 日本映画 124分 PG12

      キャスト:森山未來

           萩原聖人

           伊藤沙莉

           東出昌大

           大島優子

       

      1995年、お菓子メーカーで働く佐藤は、雑誌の

      文通コーナーで知り合ったかおりと親しくなる。彼女と

      渋谷、円山町のラブホテルで過ごす時間だけが佐藤に

      とって最も楽しい時間だった。テレビ制作会社の下請け

      の仕事についた佐藤はその後彼女と別れ、仕事に忙殺

      されながら様々と人と出会い別れていく...。


      <お勧め星>☆☆☆☆ 一番輝いていた瞬間は時が経って

      からも色あせることがないと実感します。


      どこに行くかじゃなく誰と行くか


      1995年のシーンで映画館が映り、そこの看板が

      ウォン・カーウァイ監督「天使の涙」だったのを見て、

      まさにこのままの世界観だと実感しました。幾つもの心が

      出逢い、繋がり、離れ、またはすれ違ってしまうのが

      人生で、それは単なる通過点にすぎません。またその時は

      とても長く感じた出来事も振り返るとあっという間の

      時間で、あらゆるものは瞬時に変わっていくのだと気づく

      のです。
      冒頭にゴミ置き場に倒れ込む二人は映画のラスト付近に

      繋がります。
      「46歳、つまらない大人になってしまった」
      時系列は現在から遡る形で進みます。
      まず1999年、佐藤がかおりと最後に挨拶を交わした

      場所。あれは円山町のラブホ街の一角かしら。
      そして2015年、30年続いた長寿番組の終了パーティー

      に変わります。東出昌大演じる関口が、なにやら羽振りの

      よさそうな格好で出席しているのに、佐藤はそれほど

      楽しそうでもなくとりあえずその場にいる感じです。
      そしてふとスマホを開いた佐藤は、facebookでかおりを

      見つけるのです。「友達かも?」で出てきたのでしょうか。

      (この推測機能いらないね)かおりは名字が変わり、子供

      との写真をアップするごく「普通」の大人になっています。
      2011年、佐藤は東日本大震災の後の仕事の多さに忙殺

      され、上司に怒鳴られ、ついでに恋人にも去られるのです。

      大島優子の役名は何だったのかわからないまま場面から

      消えました。ただ彼女は結婚を考えていたし、佐藤もその

      気持ちがなかったわけではないのです。
      その後2008年、仕事の依頼主の態度に怒り、相手を

      殴りつける関口、2000年、華やかなパーティーに呼ばれ、

      そこで風俗嬢と知り合う佐藤。佐藤はゲイバーを経営する

      七瀬と旧知の仲なのですが、どこで知り合ったかは、この後で

      明らかになります。
      そして1999年12月31日、いわゆる2000年問題を

      普通に乗り越え、またノストラダムスの大予言も外れて、

      平凡に新年を迎える佐藤とかおりは、円山町のラブホの一室に

      いるのです。
      なぜこれが最後になるのかわかりません。
      また更に時は遡り続け、かおりとの出会いまで描かれていきます。

      その年代に流行ったもの、スマホ→二つ折り携帯→アンテナを

      伸ばすガラケー→ポケベル、電話ボックス、MD→ウォークマン、

      ピンクの公衆電話。すべてがその時代を彩り、そして姿を消して

      しまったものがほとんどなのです。それはそこに生きた人々の

      生活も同じだったかもしれません。
      佐藤とかおりは小沢健二のファンで、映画内で幾度も歌が

      流れるます。かおりが言う

      「学園祭の前日がずっと続くのが夢」

      は、あのわくわく感はそのイベントが来ていないから湧きおこる

      もので、終わってしまったら、すっかり姿を消してしまうものだ

      と思います。
      ただ2020年にふとしたことがきっかけで、ただひたすら

      かけ続けた25年間が走馬灯のように頭を駆け巡る時、佐藤は

      何かに気づくのかもしれません。そしてそれが...なんだろうか。
      森山未來の演技も素晴らしかったけれど、伊藤沙莉がとにかく

      よかった。声も表情もファッションもすべてよかった。

       

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      his

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        JUGEMテーマ:邦画

         

        his

        出典:IMDb

        「his」

        監督:今泉力哉

        2020年 日本映画 127分 

        キャスト:宮沢氷魚

             藤原季節

             松本若菜

             松本穂香

         

        かつて愛し合っていた渚に突然別れを告げられた過去を

        持つ迅は、ゲイであることを隠し、岐阜の山間の村で

        静かに暮らしている。ある日彼のもとに突然渚が娘、風を

        連れて現れ、しばらく家に置いてほしいと言うのだった。

        彼の身勝手さに怒りながらも、迅は再び訪れた幸せな

        日々に浸るのだったが、渚の離婚調停は裁判へと発展し...。

         


        <お勧め星>☆☆☆☆ 何が正義か見失いそうになりますが、

        ラストシーンがすべてを物語っています。


        偏見と差別の裏返し。


        映画の中盤から流れる裁判風景を見ると、親権を主張する

        妻玲奈側の弁護士の言葉がゲイに対して「差別的」で「偏見」

        に満ちていると感じますが、ハッと気づかされるのは、

        これが夫が違う女性の元に去って親権を奪い合う裁判で

        あったら、どうだろうということです。他の女性と不倫

        した末、離婚を主張し、一人娘の親権を奪おうとするのが

        夫の方だとしたら、見ている側は明らかに心情的に妻の側に

        ついたのではないでしょうか。例え、仕事に明け暮れて娘の

        ことを何も知らず、夫が子育て、家事一切を引き受けていた

        としてもです。
        この映画は深夜枠のテレビドラマの映画化で、主人公の

        井川迅と日比野渚のなれそめや交際、そして別れの理由が

        ほとんど省かれています。それは映画の中に挿入される回想

        シーンで少しだけ説明されるのみです。なので最初唐突に

        別れを告げる渚の気持ちが全く分かりません。
        そして岐阜県白川町に移り住み自給自足生活を送る迅の姿に

        変わるのです。宮澤氷魚がとても色白でとにかくガラス細工

        のように壊れそうな雰囲気を持っているのが魅力的です。

        あの美しい指は農作業をしたり、薪割りをしているようには

        思えません。きれいすぎる。
        彼は近所の緒方というおじさんに猪や鹿の肉を分けてもらい

        つつ、庭でとれた野菜と交換するということも行っているの

        です。

         

        his

        出典:IMDb

         

        そんな彼のもとに突然一人の少女がやって来ます。更にその

        少女には「パパ」と呼ぶ男性、そう、渚がついてきているの

        です。突然の別れから10数年後に姿を現し、他の女性を結婚し、

        子供も設けたのに、今離婚調停中だからしばらくここに置いて

        ほしいと言われても、迅としては納得できるものでは

        ありません。しかも渚はかつてのように迅を慕っている雰囲気

        です。
        これについては、迅の場合、社会人になった後も「ゲイ」で

        あることを隠し、後輩にかつて男性と同棲していたことを

        バラされても「ルームシェアしていた」と嘘をつく生活に

        見切りをつけたことが回想映像で描かれます。飲み会での彼の

        表情がすべてを物語るのです。
        一方で渚は、結婚して子供が生まれてようやく一人前の男に

        なれた気がしたが、どうしても自分を偽れず、行きずりの男と

        遊んだもののやはり迅を忘れられず、妻に自分がゲイであると

        打ち明け、離婚が決まった上での親権問題でもめていると話す

        ことで、二人の溝が埋まるのです。

         

        his

        出典:IMDb

         

        これって異性同士だったら、初恋の人が忘れられなかった、と

        いうものすごくピュアな内容になるのに、そこにLGBTQが

        入ってくると、ある種の繊細な問題として扱う必要性を感じて

        しまうのは、やはりその問題への特別な意識が働くのでしょうか。
        渚の妻玲奈は、フリーランスの通訳で、仕事柄時間や休日が

        不規則であり、家事、育児全般を彼が引き受けてきたのです。

        これも男女が逆であれば、何も特別に感じません。

        そして離婚が決まった時に互いが親権を主張するけれど、

        「子育ては女性」という固定観念がどこかに働きつつ、

        見ている側は、この渚と迅のカップルを応援したくなるのです。

        そこに、家を省みず外で働き続ける女性への差別意識があると

        いうことに気づくのは、裁判終了後、渚が弁護士に語る一言に

        集約されています。
        「自分たちが一番弱いんだと思っていた」

        LGBTQというマイノリティーに属していることは、マジョリティー

        によっていろんな面で差別や偏見を受けているのだから、

        自分たちの意思を尊重するために、他者を蹴落としてもいいと

        いう考えになってはいけないのです。
        わたしの一番嫌いな映画の一つが

        「チョコレートドーナッツ」(2012)です。そこでは、

        ゲイのカップルが育児放棄された障がいのある子供を養子に

        迎えようと奔走する姿が描かれ、理不尽な裁判によって子供は

        親の元に返され、さらには..。しかしベースとなった実話は

        「育児放棄された障害を持った子供を、ゲイの男性が育てた」

        であり、裁判もなく子供は元気に育っているというもの。
        これを知ると、なぜに感動ポルノのような内容に仕立て上げた

        のか腹が立って仕方がなく、今は題名すらも大嫌い。
        逆にこの「his」は見ている側の望むラストにはならないけれど、

        誰かを敵にしたり、誰かを悲しませることでつかみ取る幸せを

        描いていないところがとても気に入りました。
        ロケ地の岐阜県白川町の自然豊かな町の風景も心を和ませて

        くれます。
        「誰かと出会って影響を受けるのが人生の醍醐味」

        「ほっといたら大概のことは解決する」

        「この年になったら男も女もない」

        町の人々の優しい声も心に沁みました。そこはそんなに甘くない

        と思いつつも。

         

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        あの頃。

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          JUGEMテーマ:邦画

          あの頃。

          出典:IMDb

           

          「あの頃。」

          監督:今泉力哉

          原作:劔 樹人「あの頃。男子かしまし物語」

          2021年 日本映画 117分

          キャスト:松坂桃李

               仲野太賀

               山中 崇

               若葉竜也

           

          大学受験に失敗し、恋人もおらず金もない劔樹人は、

          友人から松浦亜弥のMVをもらい、それを見た途端

          一気に彼女のファンになる。CD店でハロプロファンの

          イベントのチラシをもらった劔はそれに参加し、

          イベントを主催している西野、コズミン、イトウなどと

          親しくなり「恋愛研究会」というバンドを結成するまでに

          至るが...。


          <お勧め星>☆☆☆☆ 中学10年生という言葉がぴったり

          の若者の姿でした。何かに夢中になれる瞬間はキラキラ

          しています。


          人生の中で今が一番楽しい


          監督は「愛がなんだ」(2018)の今泉力哉さんです。

          彼の映画はこれしか見ていませんが、人をとことん好きに

          なる姿を決して美しく飾ることなく描いていました。どこと

          なく漂う脱力感も魅力的です。
          さて、今回の映画は、ずばり「オタク」の話で、大学受験

          に失敗した劔が、たまたま友人にもらった松浦亜弥のMVを

          見て大感激し、そのファンクラブ関係者のイベントに参加

          することから始まります。
          あややのMVを見ながら、最初は弁当に夢中だった劔が

          次第にテレビ画面に近づいていき、最後は涙をこぼすのです。

          これは大感動したことでの涙なのでしょうが、こんなにも

          アイドルに夢中になった経験が皆無なのでわかりません。

          しかしCD店で紹介されたハロプロファンのイベントに来て

          いる人々は筋金入りのオタクなのです。壇上でハロプロの

          メンバーについて熱く語るのは、西野(若葉竜也)
          コズミン(仲野太賀)ナカウチ、イトウ、ロビの5人で、

          中でもコズミンは藤本美貴押しの結構ひねくれた性格の

          持ち主らしい。太賀って本当に演技が上手くなりました。

          特にどこか心に闇を抱えるタイプの人間を演じさせたら

          最高です。
          その5人の中に劔も入れてもらえることになり、彼は

          「中学10年生気分」で急に人生が楽しくなるのです。

          今までバンドをしていたけれど、ベースが下手くそで仲間に

          怒鳴られてばかりだったのに、ここでは同じ夢を追いかけ、

          自分の推しのメンバーについていくら語っても責められる

          ことはないのです。劔の知り合いの女子大生の大学祭で

          行ったイベントは、もうオタクばかり集まっていて
          はっきり言って普通の(つまりハロプロファンでない人)

          人たちが入る隙間はないし、そもそも入りたくない。

          エンドロールに早稲田ハロプロ研究会とあったので、あそこ

          で観客として完ぺきな振付で踊っていたのは彼らも含まれて

          いるのだろうか、などと考えてしまいました。

          すごいよ、本当にすごい。ほとばしるエネルギーを体感

          できます。見方によってはキモイ。
          今が一番楽しいと感じる劔は、なんと松浦亜弥の握手会に

          当選してしまいます。あれこれ言葉を考えていたけれど、

          ようやく言えたのは二言だけ。でもあややはにっこり笑って

          両手で握手をしてくれるんです。(これは誰があやや役を

          していたんだろう。)ここで丁寧に接してくれるからこそ、

          オタクは胸を射抜かれ、またCDやDVDをいっぱい買って

          くれるんですよね。
          しかし劔は心の奥に物足りなさを感じます。それは大学受験

          に失敗した後に考えていた大好きな音楽で生きていく、と

          いうことが抜けているからです。そうなるとオタク仲間で

          バンドを結成することになるわけです。

          名付けて「恋愛研究会」。

          お揃いの赤い帽子を被り、ハロプロファンのイベントで歌を

          披露します。決して上手くないけれど、強く伝わってくる

          熱情のようなものがあるんです。
          これこそ「オタク愛」でしょうか。

          (決してからかっていません)
          また新入りの佐伯に靖子という彼女がいて、その人がストーカー

          被害に遭っていると知ると、がぜんネット弁慶のコズミンは

          攻撃するわけです。もちろんネット上でね。ネット弁慶の人は

          実際には小心者で文字にしていることの10分の1も面と

          向かって話せないし、最後はプライドも捨てて土下座しちゃう。

          あのネット上でのプライドの高さはどこに行った?

          匿名、顔出し無しの人々の強弁がいかに空虚であるかよく

          わかります。あー、ネットのない時代だったらこんな不自由な

          思いはしなかったでしょうに、ネットという便利なツールを

          得た一方で、数多くの危険も呼び込んでしまったということ

          かしら。
          さらにコズミンはアールの彼女ナオを奪ってしまいます。

          コズミンや西野はバイトで稼いだ金はハロプロと風俗につぎ

          込んでいるんですよ。それとAVビデオ購入か。現実の女性とは

          なかなか縁遠いわけで、コズミンの件は、また例の

          ファンクラブのイベントの舞台上で暴露され、また土下座です。

          そこに登場するのが西野でなぜか着物を着て「夢芝居」を

          歌います。若葉竜也さんは大衆演劇出身だけど、歌は

          梅沢富雄さんには到底及びません。(わざとかな)この唐突さ

          にまた会場は爆笑の渦に包まれるのです。
          しかしこんな時間がいつまでも続くはずもなく、ロビは東京へ

          行き、また劔もその後を追うように東京に向かうのです。

          あの時の熱い思いはどこにいってしまったのか。

          いや、一人変わらない人、コズミンがいました。ただ彼には

          病が見つかります。東京でライブハウスに勤務し仕事をする

          ロビや劔と大阪で病気の治療を受けるコズミンが交互に映り、

          病気になっても相変わらず風俗通いをしているコズミンが

          やや滑稽に思われますが、彼こそ「根っからのオタク」なの

          かもしれません。
          終盤は泣きのシーンとなると思いきや、ずっと笑い通せたことで、

          やはり今泉力哉監督の世界は素晴らしいと再確認しました。

           

           

           

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          宮本から君へ

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            JUGEMテーマ:邦画

             

            宮本から君へ

            出典:IMDb

             

             

            「宮本から君へ」

            監督:真利子哲也

            2019年 日本映画 129分 R15+

            キャスト:池松壮亮

                 蒼井 優

                 井浦 新

                 一ノ瀬ワタル

                 柄本時生

                 ピエール瀧

             

            文具メーカーの営業マン、宮本は仕事に対する情熱だけは

            人一倍ある。そんな彼は先輩から靖子を紹介され、ちょっと

            いい雰囲気になったところで、彼女の元カレ裕二が登場し、

            靖子は裕二に殴られてしまう。その姿を見た宮本は

            「この女は俺が守る」と大声で宣言するのだった...。


            <お勧め星>☆☆☆☆ 池松君と蒼井さんの強烈な演技が

            印象的です。


            お前らまとめて幸せにしてやる


            オープニングシーンが衝撃なんです。殴られて顔を腫らした

            男性がふらふらと歩き、公園のトイレで血の混じった唾を

            吐くと、鏡に映った彼の顔の口には前歯がありません。

            そして自分で自分の頬を何度も殴るのです。これがいつの

            シーンなのかは映画を見ているとき、主人公宮本の

            「歯があるか」

            「手に包帯をしていないか」

            に注目するとわかります。ちなみに歯のない宮本を演じた

            池松壮亮は、本当に歯を抜くことを申し出たそうですが、

            原作者に強く止められ、マウスピースを活用して歯がないよう

            に見せたそうです。このマウスピースで歯なしになった宮本の

            話し方が、まさに前歯がない人のそれと同じでサ行が

            あやふやな発音になっているのも驚きです。前歯がないと

            うどんやソバをすするのに苦労しそうですよね。
            そしてその宮本がなぜこのような姿になったのかは、どうやら

            誰かと喧嘩をしたためで、会社でも問題にならず、先方も

            被害届を出さないということで話がつくのです。

            この経緯は映画を見ていると、これまた十分理解できてきます。
            次のシーンでは宮本が蒼井優演じる靖子を自分の実家に連れて

            行き、両親に「この人と結婚する」と宣言します。さらには

            靖子の妊娠もわかってしまうのです。立て続けに繰り出される

            映像に、原作の漫画を見ていない者としては全然内容が

            わからないですが、「あのこと」を内緒にして二人は結婚する

            話します。「あのこと」?
            そして時間はさかのぼり、宮本がまだ靖子と恋人になって

            いなかった頃に戻ります。公衆電話の中でキスするカップルを

            見て、「若いってすごいね」と言いつつチュっとしてしまう

            二人がなんと初々しいことか。

             

            宮本から君へ
            出典:youtube

             

            しかし靖子の部屋で手料理を食べようとした時に訪ねてきた

            靖子の元カレ、裕二の話で、その初々しさは吹き飛びます。

            裕二役は井浦新。靖子と交際しつつ、多くの女とも付き合って

            いて、靖子は遂に彼と手を切ろうとしたらしいのです。それに

            宮本を利用し「わたしこの人と寝たから」と言うと、裕二は

            靖子に平手打ちします。

             

            宮本から君へ

            出典:youtube

             

            女癖が悪く、暴力をふるうなんて最低な男なんだけど、井浦新
            が演じるとそれでもなかなか手を切れなかった靖子の気持ちも

            少しわかってしまう。いけない、いけない。男は見てくれじゃ

            ないのよ。
            そして二人は関係を持つのですが、これがものすごく熱量が

            あって、そしてほとばしる汗のようなものまで映像から伝わって

            くるほどです。

            一つの嵐が過ぎると「あ、金魚」と靖子が流し台で息絶えている

            金魚を思い出すという静かなシーンと変わります。この動と静の

            組み合わせが見事にはまっています。二人で庭に金魚を埋めながら、

            「俺、靖子を愛してますから」と宮本は言います。
            靖子はどうなんだろう。

             

            宮本から君へ
            出典:youtube

             

            そしてある事件が起こるのです。それは得意先との酒席で宮本が

            酔いつぶれた時、馬淵という男が息子に迎えを頼んだことから

            始まります。得意先のメンバーはラグビーチームを結成しており、

            その馬淵の息子は大学でラグビー選手をしていたというのです。

            すごいいかつい男が迎えに来て、靖子と宮本を送ってくれます。

            そして靖子の部屋のベッドで爆睡してしまった宮本の脇で、

            靖子は、この拓馬に襲われてしまうのです。どんなに大きな声を

            出しても宮本はびくりともしません。さきほど一升瓶を一気飲み

            してましたからね。その酒席での男たちの大セクハラ発言も

            見ていて気分が悪かったけれど、なんかあんな出来事はしょっちゅう

            あったような気がするなあ。今じゃ大アウトなんだろうね。
            翌朝になって、全く記憶のない宮本に対し、靖子はすべてを明かし

            「あんた、もう救いようがないよ」と睨みつけます。昨夜の

            出来事を知った宮本と靖子の食事シーンは、カボチャご飯を

            かきこむ靖子と、炊飯器からしゃもじで直接ご飯を口に入れ、

            溢れる米粒をものともしない怒りに燃えた宮本の姿です。この

            シーンはとにかく怒りだけを描きたかったのでしょうか。宮本

            演じる池松壮亮の口から飛び続けるご飯粒がただただ汚くて、

            見ているのがしんどかったです。この直前に拓馬に復讐しようと

            考えた宮本が実は彼の顔すら覚えていなかったことに気づいて

            います。どこまで自分は情けない奴なんだ。

             

            宮本から君へ
            出典:youtube

             

            ラグビーのゲーム前に拓馬に復讐しようとした宮本は見事に

            パンチをくらい、歯を3本折られてしまいます。だってぬりかべの

            ようにでかい拓馬と普通の成人男性としても小柄な部類に入る宮本
            です。太刀打ちできる相手ではありません。それが冒頭のシーンと

            なるのです。

            拓馬役の一ノ瀬ワタルもこの役のために2か月で33kg増量した

            とのこと。元格闘家とはいえすごいですよね。
            「お前を守る」と豪語した宮本はその言葉を瞬時に破壊されて

            しまったわけで、どうしても拓馬に復讐しないといけない使命に

            燃えるのです。はたから見るとしょうもないトレーニングなん

            だけれど、正直にバカがつくような宮本は極めて真剣です。でも

            あんなことで拓馬に勝てるのかな?
            さらに拓馬の所業を知った拓馬の父、馬淵(ピエール瀧)は、逆に

            息子に大けがを負わされてしまうのです。その病室でも宮本は

            「絶対に勝たなきゃいけない相手との喧嘩をする」と訴えます。

            靖子の職場に行き大声でプロポーズするも「一緒にいても意味が

            ないから」と逆に大声で拒否されてしまう。宮本の怒りはもう

            喧嘩に勝つことでしか解消できないのです。

            熱いけれどかなり単純だし、純粋のようでいて逆に言うと無鉄砲と

            いう感じです。
            さあ、クライマックスは拓馬が訪れていた女の住むマンションの

            非常階段でのタイマンです。あれはスタントもCGもなくすべて

            リアルな映像だそうで、それを知った上で見ると、ぞぞっとします。
            拓馬が「指は3本まで折るのは耐えた奴がいる」などと怪力を

            見せるのに、宮本はどう対抗するか。気持ちいいですよ。
            ラストシーン、自宅で産気づき、出産してしまった靖子が救急搬送

            されるときに「まあ、落ち着いてください」と隊員に言われるほど

            取り乱した宮本はどこまでも愛おしいし、「今になって応えてきた」
            とうれし涙を流す靖子の姿にもちょっと感動してしまいました。
            原作は「愛しアイリーン」(2018)も書いている新井英樹さんで、

            ストレートでないかなり違う角度からの男女間の愛情を描いている

            ような気がします。

             

             

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            浅田家!

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              JUGEMテーマ:邦画

               

              浅田家!

              出典:IMDb

               

              「浅田家!」

              監督:中野量太

              原案:浅田政志「浅田家」「アルバムのチカラ」

              2020年 日本映画 127分

              キャスト:二宮和也

                   黒木 華

                   菅田将暉

                   風吹ジュン

                   妻夫木聡

                   平田 満

               

              写真が大好きな父親からカメラをもらったことで

              政志はカメラマンを目指すようになる。彼は家族

              それぞれがなりたかった職業のコスプレをし、それを

              写真に収めた家族写真がなんと木村伊兵衛賞を受賞

              してしまう。そこから多くの家族に写真撮影の依頼を

              受け始め、仕事が軌道の乗ってきた時、東日本大震災が

              起こってしまう...。


              <お勧め星>☆☆☆☆半 予告編の泣きのシーンは

              限定的で、最後まで楽しくそして明るい気持ちで見る

              ことができました。


              撮る立場の人物は写らない


              監督は「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)

              「長いお別れ」(2019)の中野量太さん。実は

              どちらの映画も予告編を見たのみで未見です。またこの

              「浅田家!」も予告編で震災の後の避難所の人々が

              映されたのと、泣きのシーンが多く、見るのをためらって

              いました。今回は配信レンタルされていることを知り

              ようやく鑑賞です。
              場所は三重県津市。三重県は不思議なもので、天気予報で

              関西地域でも中部地域でも扱われるし、言葉がある地区

              から一気に関西弁に変わる不思議な場所です。

              (それは個人の感想)
              1989年、父、隼、母、順子、兄、幸宏、そして政志と

              いう4人家族が津市に暮らしています。母は看護師をして

              おり、父が主夫として家事全般を行っているという普通の

              家族とは少し違う環境で、兄弟は、伸びやかに育って

              います。とはいえ二言目には「お兄ちゃんなんだから」と

              母に言われる幸宏はとーっても不満らしい。この家族の

              大きなイベントは年賀状撮影で、毎年兄弟の姿を父が写真に
              収めて年賀状にしているのです。そして政志が12才に

              なった時、父はニコンFEを彼に譲ります。

              「被写体を理解してから撮影するんだそ」

              という言葉とともに。
              その後写真の専門学校に通うため家を離れた政志が戻って

              きたのが、2年後で、髪を染め、なんと両腕に見事なタトゥー

              を入れているのです。しかし母は太っ腹で

              「感染症に注意しなさい」

              程度のアドバイスをするのみで、父も何も言いません。

              幸宏はちゃんと会社員として勤めているのが対照的です。

              その政志の卒業制作を何にするかということで、彼は

              「家族に起きたとんでもないできごと」の姿を撮影しようと

              考えます。それはかつて大笑い(笑えないけれど)した

              一家3人が切り傷を負い、看護師の母が治療にあたったと

              いう一家の大事件をそのままコスプレしたもので、その写真

              で政志はなんと学長賞をもらうのです。

              卒業して華々しくカメラマンとして活躍するかと思うと、

              なんと政志はニートとなり、パチスロに明け暮れ(それでも

              もうけているらしい)恐らく彼女だった若奈にフラれ、

              被写体を探して三千里...いや家で相変わらずの生活を送ります。

              そしてある時自分の撮りたいものに気づくのです。それは

              「家族写真」で、家族に様々なコスプレをさせて撮影しようと

              考えつきます。
              父は母の仕事を支えるために主夫となって家事一切を行って

              いますが、実は「消防士」になりたかったと恥ずかしそうに

              言うと、政志はそれを叶るために、幸宏のつてをたどります。

              出来上がった写真は、なぜか父は消防ホースを持たず、

              消防車の運転席には母が座っているというものですが、この

              家族の雰囲気をそのまま醸し出しているのです。母は

              「極道の妻」、幸宏は「レーサー」、それから夢以外にも
              大食い選手権、選挙、サッカー日本代表、バンド、海女、

              酔っ払い、泥棒など多くのアイデアを考えて家族を写して

              いきます。彼はこの写真を出版してカメラマンの道を進もうと

              東京に向かうのですよ。
              「確かにおもしろいね。でもオリジナリティがないよ、だって

              家族写真でしょ?」これがようやく写真を見てくれるまで

              こぎつけた出版社の人の言葉です。たかが家族写真、されど

              家族写真だと気づくのは映画の後半ですね。
              東京で転がり込んだ先の若奈のアパートで、彼は彼女に

              「個展を開けばいい」と言われるのが27歳になった時です。

              この個展を訪れ写真を見てゲラゲラ笑ってくれるのが、

              赤々舎の社長さんで、ようやく彼は「浅田家」という写真集を

              出版できるのです。全然売れないこの写真集でしたが、なんと

              木村伊兵衛賞を獲得します。その時の記念撮影ももちろん

              家族そろって普通に撮るわけではありません。
              さて、彼の写真集に書かれた「家族写真撮ります」の

              メッセージを見て、まず岩手県の家族から依頼を受けます。

              そして全国各地で多くの家族、それも様々な境遇の家族の

              写真を撮っていくのです。それは政志にとって、「家族」と

              いうのはどれ一つをとっても同じものは存在しないという

              ことを目に焼き付ける貴重な体験となります。
              そして2011年、3月11日、東日本大震災が起こるのです。

              彼の頭をすぐによぎったのは、一番最初に撮影した岩手県の

              一家のことでした。彼はそのまま岩手に向かうと、あの

              新しい家が立ち並んでいた海沿いの美しい町はその姿を

              すっかり変え、家屋や家電、車などの残骸のみが残る廃墟と

              なっています。あの家族は大丈夫だったんだろうか。
              そして避難所を捜し歩いていると、千葉から親友の行方を

              捜しに戻っている小野という学生と出会います。彼は自衛隊が

              処分せずに残していった被災者のアルバム写真を洗う作業を

              しているのです。「持ち主に返すべきもの」その作業を手伝い

              ながら、政志は、全く見知らぬ人々の笑顔も写真の中に

              いくつも見つけていきます。中には

              「まだ見つかっていないだよ!」

              と怒り出す家族もいます。しかし娘の遺体が見つかった男性は

              「遺影がないんですよ」と語り、卒業アルバムからその姿を

              見つけると、本当に喜ぶのです。写真は単なる思い出ではなく、

              その人が生きた証でもあるのです。
              一方ずっと家を空けているうちに、父が倒れ、政志はようやく

              実家に戻りますが、その時母は初めて政志を平手打ちします。

              「病気の父を置いて自分の息子を送り出す母の気持ちを考え

              なさい」と。政志が見つけた仕事の重要さを一番わかっていた

              のは母かもしれません。その間に若奈からも逆プロポーズされ、

              政志は責任ある立場としてその仕事に携わるようになります。
              2011年、9月に写真洗浄活動は終了し、2019年には

              例の小野君は故郷で教師となっています。岩手県野津町だけで

              80000枚の写真のうち60000枚が返却された事実は、

              彼らの努力の賜物であり、その小さな作業が大きな意味を

              持っていたと思います。返却できなかった20000枚への

              思いも募ります。
              ラストシーンはやはり涙なのかと思ったら、この浅田家特有の

              「家族写真」撮影風景で大爆笑しました。

              心に残る映画の1つになりました。

               

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              スパイの妻

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                JUGEMテーマ:邦画

                 

                スパイの妻

                出典:IMDb

                 

                「スパイの妻」

                監督:黒沢 清

                2020年 日本映画 115分

                キャスト:蒼井 優

                     高橋一生

                     東出昌大

                     坂東龍汰

                     恒松祐理

                 

                太平洋戦争開戦直前の神戸で、野原聡子は貿易会社を

                経営する夫優作と裕福な暮らしをしている。ある時

                夫は社員である甥と満州へ出張に出かけるが、予定を

                過ぎて帰国した2人の様子は明らかにおかしい。そして

                聡子は夫の秘密を知ってしまい、それを幼馴染で

                憲兵分隊長である津森に通報するのだった。


                <お勧め星>☆☆☆☆ 当時の街並みや衣装がそのまま

                再現されていて異国情緒あふれる中でのサスペンスを十分

                楽しみました。


                狂っていない方が狂っている


                黒沢清監督が第77回ヴェネツィア国際映画祭

                コンペティション部門銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した

                作品です。劇場公開時には満席の回が多く、当時

                「薬の神じゃない」を見に行った時にもこの映画は満席

                でした。とはいえ黒沢清監督は今までいくつも映画を

                見ましたが、どうも肌に合わず、「CURE」(1997)から

                最近では「散歩する侵略者」(2017)までどれもピピっ

                と来ませんでした。
                というか眠い。

                というわけでこの映画も配信まで待って鑑賞しました。

                あれ?何かが違う。
                時は太平洋戦争開戦迫る1940年、国民服令が出され、

                華やかな街から多くの色やファッションが消え去ろうと

                していた時代に、神戸で貿易会社を営む福原優作は妻聡子と

                瀟洒な洋館で西洋風な暮らしをしていたのです。

                 

                スパイの妻

                出典:wikipedia

                 

                この建物は神戸市塩屋にある旧グッゲンハイム邸で、一般に

                公開され結婚式も挙げることができるそうです。聡子の

                服装もほぼ洋装で、途中、幼馴染の憲兵分隊長、津森に
                「日本の物を使用するように」と注意されても

                「え?どうして。だって素敵じゃない」と笑って答えます。
                さて優作は甥で社員の文雄と神戸港から満州に出発します。

                目的は広い世界を見てきたい。優作は常に広い世界を見よう

                と願い続けているのです。そして帰国が予定より2週間遅れた

                ものの2人は無事に神戸に戻ってきます。しかしそこに

                謎の女が一緒にいることに聡子は全く気付かず、優作に

                抱き着いて帰国を喜ぶのです。

                聡子、後ろ見て!
                その日を境に文雄は会社を辞め有馬で小説家を目指すと話し、

                一方優作の行動もどうも解せないものが多くなります。さらに

                謎の女が海で水死体で見つかり、彼女は文雄の宿泊先の仲居を

                しており、そもそも文雄たちと満州から帰ってきた現地で

                看護師をしていた女とわかるのです。

                 

                スパイの妻
                出典:youtube

                 

                この謎を優作に問い詰めると彼は

                「僕は君に嘘をつかない。だから話さない。」と答えます。

                この答えになっていない答えは、この監督の映画ではしばしば

                見られ、それで一気に迷路に入り込んでしまうことが多いのに、

                この映画ではなぜか納得してしまいます。なぜかと言うと

                この戦争を控え、大陸では関東軍が植民地支配していた時代と

                いう背景があり、何が正義か何が幸せか、答えを求めること

                すらできない混乱期であったからだと感じられるからです。
                文雄に託された物を聡子は優作に渡すと、彼はそれを会社の

                倉庫の金庫の中にしまいます。それを持ち出すシーンは、

                優作が文雄と聡子を主人公にして撮影した映画と同じものなん

                ですよね。そしてこれは終盤に「なるほど」と思う時に登場

                します。もしかしてそこまで予見していたのか?

                 

                スパイの妻
                出典:youtube

                 

                聡子は「売国奴になるより自分たちの幸せを」と願い、それを

                津森に渡します。この憲兵部隊の建物は神戸税関です。ただ

                その前に一緒に入っていたビデオテープを聡子は見ているん

                です。その時は聡子の表情、特に見開かれていく瞳しか

                映りません。そこに何が映っていたのかはこのあと少しだけ

                見ることができます。
                先に捕まった文雄への拷問シーンはかなりソフトですし、次に

                捕まった優作はほぼお咎めがありません。

                いや、そんなに甘くなかったはず。
                しかし聡子はすべてを津森に渡したわけではなく、残して

                おいたものを優作に見せ、

                「あなたがスパイならわたしもスパイの妻になる」と言い切る

                のです。無知で一途な聡子を蒼井優がやっぱり上手に演じて

                います。無知だけれど優作への愛情は誰よりも強く、優作も

                それを十分理解しているはずですが、高橋一生の表情がどうも

                読み取り切れません。今言っていることは真実なのかどうか、

                さっぱりわからないのです。
                そして二人はアメリカ行きを決意しますが、既に日米間の

                関係は一触即発状態で、普通に渡航できるはずもありません。

                そこでまた優作がアイデアを持ち出します。まさかのまさかで

                こうなってしまうのか、と思っていると、1945年、

                3月を迎え、いよいよ終戦が近づいてきます。その時精神病院

                に入院させられていた聡子は、面会に来た旧知の大学教授に

                「狂っていない方が狂っているのよ」と答えるのです。
                また大学教授も「病院の中も外も変わらない」と語ります。

                この会話だけで、世の中がどういう状況にあったのかが手に

                取るようにわかるのです。
                大空襲を逃れ、波打ち際で聡子が号泣するのですが、その意味は

                何だったんだろうとずっと考えています。それは戦前に優作が

                語った「万国共通の正義」こそが真実であるということを

                ようやく悟ったということでしょうか。
                とても丁寧に作られた映画で、主人公たちの服装や持ち物、

                また建物や街並みが見事に映画と調和していました。

                劇場で見ればよかった...。

                 

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                許された子どもたち

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                  JUGEMテーマ:邦画

                   

                  許された子どもたち

                  出典:youtube

                   

                  「許された子どもたち」

                  監督:内藤瑛亮

                  2020年 日本映画 131分

                  キャスト:上村 侑

                       黒岩 よし

                       名倉雪乃

                   

                  ある地方都市でいじめを受けていた少年、樹が

                  リーダー格の絆星にボウガンで撃たれ殺されて

                  しまう。絆星は警察の取り調べに犯行を認めるが、

                  母親や弁護士の説得から否認に転じ、少年審判で
                  不処分となる。しかしその決定後世間からの容赦

                  ないバッシングを受けはじめるのだった。


                  <お勧め星>☆☆☆☆ 少年事件においての加害者、

                  被害者の視点と無関係な人々の異様な正義感を客観的

                  に見ることができます。


                  自分の罪に向き合うことが再生への

                  道の始まり


                  監督は2011年映画「先生を流産させる会」を製作

                  した内藤瑛亮です。この映画でも大人と子供のはざまで

                  揺れ動く少女たちがしでかす大変残酷な行為と、

                  一方的に学校側を責め立てるモンスターペアレントの

                  姿が生々しく描かれてしました。当事者のサワコ先生が

                  口にする「バカがバカを生んで」という言葉には大そう

                  納得したものです。
                  冒頭4人組、絆星(キラ)、匠音(ショーン)、

                  香弥憂(カミュ)、緑夢(グリム)が走っていく姿が

                  映ります。そもそもこのキラキラネームにものすごく

                  違和感があるのですが、映画内絆星の母親真理が、この

                  名前を付けた理由を尋ねられた時「多くの人の中から

                  私の子どもとして生まれてきてくれてありがとう、

                  という意味でつけた」と答えると、親にとっては期待と

                  希望を込めてつけたいることがわかります。しかし

                  こんな名前普通読めないですよ。名前という文字に希望を

                  託すよりもどんな人間になってほしいのか親として考える

                  べきだったかもしれません。それは第三者が言っても

                  仕方がないことです。
                  2017年、6月3日という日付の監視カメラ映像に

                  4人の少年が河川敷に向かっていく姿が映ります。

                  そしてLINEで一人の少年を呼び出す文字が次々に飛び

                  出します。5人はグループLINEを作っており、どうやら

                  後から何かを持ってきた少年、樹と緑夢はいわゆる

                  「パシリ」のような存在らしい。樹が持ってきたのは

                  割りばしで作ったボウガンで、それを作らせては、的に

                  発射する遊びを繰り返しているのです。
                  これが「遊び」と感じるのはリーダー格の絆星、匠音、

                  香弥憂のみで、残りの二人はただ命令に従い、

                  従わなければ暴力を受けるという「いじめ」の対象だった

                  にすぎません。そして事件は起こるのです。

                   

                  許された子どもたち
                  出典:youtube

                   

                  緑夢にボウガンを向けた絆星の前に割って入った樹に向けて

                  絆星はゆっくり割りばしを発射します。これがどういう結果に

                  なるのかわかっていたのか、それとも結果まで想像する力が

                  なかったのか分かりません。割りばしは樹の喉に刺さり、

                  大量の血を流しながら彼は倒れこんでいきます。この監督が

                  実際に起きた様々な少年事件を取材し、その時の供述や状況を

                  参考にしていたことが十分分かる映像です。樹を置き去りにし、

                  彼らはボウガンを焼き、それを川に捨て、普通に帰宅するの

                  です。その間生きていた樹が、川の水を血で染めながら

                  息絶えていくことを、完全に頭から消し、絆星は両親と

                  カラオケまで楽しんでいます。善悪の判断という前に、この

                  行為で何が起こるかという想像ができず、また気持ちを

                  コントロールできないのは「今どきの子ども」だけでは

                  済まされない気持ちでいっぱいになります。
                  さて絆星の家に刑事が訪れ、彼はそこで「会っていない」と

                  答えたものの、刑事と二人きりになった時「今認めなくて、

                  あとで事実が分かると少年行き送りになる」という言葉に

                  怯えたのか、罪を認めるのです。これがのちの少年審判で、

                  少年側の弁護士が「警察の脅しのような言葉が怖くて認めて

                  しまった」に繋がる部分です。
                  事件が発覚するとマスコミは必要以上に騒ぎ立て、電話は

                  鳴りっぱなし、ネット上でも実名や住所が流されるという

                  リンチに近い状態に陥ります。しかし絆星の母親はあくまでも

                  息子を守り「かつていじめられていた子がそんな行為を

                  するはずがない」と言い切り、また弁護士グループの面会から、

                  唯一真実を語っていた緑夢が、その発言の撤回する状況まで

                  追い込まれるのです。事実は1つですが、真実は幾つも存在

                  するの典型的な話のように思われます。これらは多くの

                  少年事件でいったんは罪を認めた少年たちが、親や弁護士の

                  接見によって否認に転じていく姿をそのまま描いています。

                   

                  許された子どもたち
                  出典:youtube

                   

                  結局少年審判で絆星は不処分になります。遺影すら持ち込め

                  ない家裁の中で、息子を殺害した当の少年の退出をさせた上

                  での被害者両親の意見陳述など、何の意味があるのかと思う

                  シーンがでてきますが、これが現実なのでしょう。失われた

                  命は戻らないけれど、せめてどういう状況で息子が命を

                  落としたのか、真実を調べる過程がすっぽり抜け落ちている

                  のです。
                  絆星一家にとっては大そう満足のいく結果で、これで前と

                  同じ生活ができると、再び楽しそうにカラオケを楽しみます。

                  しかし樹の両親は「民事訴訟を起こす」という記者会見を

                  開くのです。

                  事件後以前と変わらず通ってた学校で暴力事件を起こした

                  絆星は、校長から「転校」を勧められます。しかし

                  母親は、頑なにそれを拒み、両親で息子の無罪を主張する

                  ビラを学校の前で配るのです。この光景もあるいじめで生徒が

                  自殺した事件での光景と被ります。何が一番怖いかは、

                  ネット上で不確実な情報が瞬時に拡散していくことですね。

                  インターネットのなかった時代は、ワイドショーや週刊誌での
                  執拗な取材による情報で人々は変な義憤に掻き立てられました。

                  しかし今はその過去の事件まで遡って真偽不明の情報を得る

                  ことができる人間がいくらでも存在するのです。
                  結局絆星一家は民事訴訟の訴状を受け取らないために住所を

                  転々とし始めます。半年経ち、絆星はフリースクールのような

                  ところへ名前を変えて通い始めるのですが、そこでもやはり

                  「いじめ」は存在します。

                   

                  許された子どもたち
                  出典:youtube

                   

                  このスクールの授業の一環で行われるグループトークでの

                  「いじめ」に関する生徒たちの意見は、その年頃の子どもたち

                  が抱く思いをリアルに語っていました。
                  いじめられる側にも責任がある。

                  いじめられていることを言えない方が悪い。

                  いやそれはいじめに対する言い訳に過ぎない。
                  そして樹の父が手記を本にして出版すると、絆星の母親は

                  何冊も買い占め、それをゴミに入れてほかろうとします。それで

                  すべてがなかったことにできるかのように。
                  フリースクールでいじめられていた桃子と親しくなった絆星は、

                  互いに何を聞くでもなくただ放課後の遊び相手として付き

                  合います。しかし絆星の過去の事件がバレると、それを同級生

                  に知らせる少年は、まるで「正義の味方」気取りなのです。

                  「人を殺したら死んで当たり前」という言葉すら口にします。

                  この言葉は事件が起こるたびにネット上に拡散するものの

                  1つで、「殺す」とか「死ぬ」とかいう言葉をあまりに軽く

                  扱っていることに一切気づいていません。それは匿名である

                  ということが大きく関係していることは当然のことです。
                  この時期には父親は家を出ていき、母親は仕事をクビに

                  なります。しかし加害者一家だけが非難されているのでは

                  ないのです。桃子と共に向かった樹の家にもひどい張り紙や

                  落書きがしてあります。あまりに無責任に他者を責め立て、

                  そして傷つけ続ける人々がいかに多いことでしょう。

                  その時に樹の母親が「自分の罪と向き合いなさい」と声を

                  掛けます。
                  その後絆星は事件現場に向かい、そこで線香を手向けている

                  緑夢と出会います。「僕にも勇気があれば、樹は14歳に

                  なれたし、友達でいられた」という言葉に絆星は、ひたすら

                  荒れ狂うのです。この時の彼に胸には何があったのでしょう。

                  自分は無事に14歳の誕生日を迎えられた。しかしそれが

                  叶わなかった樹への贖罪の気持ちはあったのでしょうか。
                  ラストに「再生」という言葉を口にする絆星に対し、なんとも

                  言えない表情を浮かべる母親真理の姿が印象的でした。
                  親が子供を守らないで誰が守るのかとうことと、加害者に

                  なった子供を持った親の気持ち、そして被害者の親の気持ち、

                  さらには揺れ動く少年の心が詰め込まれた映画で、深く考え

                  させられます。

                   

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                  アルプススタンドのはしの方

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                    JUGEMテーマ:邦画

                     

                    アルプススタンドのはしの方

                    出典:youtube

                     

                    「アルプススタンドのはしの方」

                    監督:城定秀夫

                    原作:藪 博晶

                    2020年 日本映画 75分

                    キャスト:小野莉奈

                         平井亜門

                         西本まりん

                         黒木ひかり

                         中村守里

                     

                    夏の高校野球一回戦、母校の応援が盛り上がる中で、

                    アルプススタンドのはしの方に演劇部の安田と田宮は

                    座っている。二人は野球のルールもわからず、ただ全員

                    応援参加のため渋々やって来たのだ。近くにいる

                    元野球部の藤野、成績優秀だが友人がいない宮下も含め、

                    厚木先生は「もっと熱く声援を送れ」とげきを飛ばすが、

                    彼らは全くその気にならない...。


                    <お勧め星>☆☆☆☆ みんなが同じ目標に向かっている

                    わけでもなく同じ立場にいるわけでもないけれど、緩い

                    ストーリーの中に青春を少しだけ感じました。


                    しょうがないと言うのは止めて


                    原作は兵庫県立東播磨高校の演劇部顧問、藪博晶さんが

                    書いた戯曲です。同部により2016年に初演され

                    翌2017年の第63回全国高等学校演劇大会にて最優秀賞を

                    受賞しています。映画化にあたって阪神甲子園球場をロケ地と

                    して使用したいという交渉を3か月以上行ったそうですが、

                    結局許可がおりず、神奈川県平塚市の平塚市民球場で撮影

                    されたそうです。一度でも甲子園球場に行ったことがる

                    人ならわかると思いますが、映画内のアルプススタンドが

                    あまりにショボくて、せめてもう少し大きな球場で撮影

                    できなかったものかと感じました。
                    さてものすごく暑い夏の日、母校東入間高校野球部が甲子園に

                    出場したため、生徒は全員応援に駆けつけることを強制

                    されます。相手は甲子園出場常連校で、こちらはどうやら

                    初出場らしい。野球に興味のある人や自分の子どもが出場

                    しているならともかく、野球のルールすらわからない演劇部の

                    安田と田宮にとっては、「しょうがなく」来たに過ぎない

                    応援です。
                    「ねえねえ、今ボールとったよね。でもなんであの人

                    走ったの?」(多分タッチアップ)
                    「ボール落としたじゃないかな」
                    「そうそう見落としたんだよね」

                    「え?でもアウトになってるよ」
                    この会話だけでも笑えるのに、そこへしれ〜と登場した

                    元野球部の藤野が加わるとさらにおかしな会話になるのです。

                     

                    アルプススタンドのはしの方

                    出典:youtube

                     

                    彼は野球部でピッチャーをしていたけれど、園田という絶対的な

                    エースがおり、一試合も出場機会がなく、退部しています。

                    彼は試合に出られなければ意味がないと言うのです。そして

                    同じように補欠でベンチ要員の矢野について、すごく野球が

                    下手と言います。
                    「普通はこうバットを振るだろう。でもあいつはこうなんだよ」
                    外野選手がいる意味すらわからない二人にとって、その

                    スウィングの違いがわかるはずもないし、見ているわたしも

                    わかりませんでした。
                    一方最後部に立っている女生徒は成績が学年トップの宮下で、

                    友人ゼロ。そんな4人に対し、厚木先生は、

                    「もっともっと声を出すんだよ!」

                    と大声を張り上げます。先生が言うにはその気持ちが選手に
                    伝わって勝利へと繋がるらしい。暑いアルプススタンドがさらに

                    暑くなるんです。
                    映画の冒頭に何かを告げられ肩を落とす安田が映りました。

                    その理由は、次第にわかってきますが、彼女が所属していた

                    演劇部の関東大会の日の部員がインフルエンザにかかり、大会

                    出場ができなかったのです。

                    「しょうがない」安田と田宮の間にある微妙な空気がそれと

                    繋がっているのも序盤にはわかりません。
                    また宮下はずっと成績では学年トップだったのに、前回の

                    テストで吹奏楽部長、久住にトップの座を奪われてしまいました。

                    この久住は、はしの方に座っているメンツと比べるとなんでも

                    持っているんです。

                     

                    アルプススタンドのはしの方
                    出典:youtube

                     

                    まず顔が可愛い。今回トップになったように頭もいい。吹奏楽部

                    では部長をするほど人望がある。さらに野球部のエース園田

                    と交際しているというのです。おい、おい、なんで世の中は

                    不公平なんだろうね。
                    部活、勉強、恋愛に充実しているって「進研ゼミ」じゃん。

                    安田と藤野が同時に発した言葉です。
                    しかし宮下は園田と久住が交際している話を聞いて冷や汗を

                    かき始めます。それを助けるのが、安田と藤野で、遠くから

                    「あれ見てよ」と笑うのが久住の所属する吹奏楽部員です。この

                    ヒエラルキーはおそらく社会に出てからもっと広がるんだろうな。
                    そしてもっとわからない攻撃が出てきます。「送りバント」です。
                    「ねえ、なんでアウトになったのに喜んでるの」
                    「あれ?2塁に進んでる。なんで?」
                    これをしっかり説明するのが、練習しても試合に出られなく

                    て野球部をやめた藤野というのも皮肉です。「人生は送りバント」

                    などとセリフで出てきましたが、送りバントばかりさせるある

                    高校野球の監督がいて、得点するチャンスにすら4番に送り

                    バントをさせた時には、「打たせてやって」とつい声に出して

                    しまいました。(これは数年前の春の選抜高校野球大会の時)

                    送りバントは自分がアウトになることで塁にいる選手を進ませる

                    行為ですが、他のスポーツでこういうものあったっけ?
                    試合はもちろん相手チームに負けています。

                    「しょうがないよね」

                    と安田が言い、

                    「そうだね」

                    と答えていた田宮が

                    「しょうがいないと言うの止めて」と言い始めるのは、宮下を

                    介抱している時に久住が放った言葉

                    「真ん中は真ん中でしんどいんだよ」

                    や宮下が園田を好きだとわかったことや、喉から血を出しても

                    応援を続ける厚木先生の姿や、もうあれこれ一気に頭に

                    インプットされたせいかもしれません。
                    そして田宮が突然「がんばって!」と立ち上がって声を出した

                    途端に、代打矢野が送りバントに成功し、その後連打で点数が

                    入るのです。これはすごく気分がいい。自分が応援したことで

                    チームが奮起した気分になるとますます応援に力が入ります。

                    球場の雰囲気はテレビで観戦するのと全く異なり、本当に

                    ドキドキワクワクするんです。
                    さらに吹奏楽部でもほぼ勝利をあきらめている部員に久住は

                    「もっと音を出して!」

                    と叫びます。これが全然暑苦しい感じに描かれていないのが

                    この映画の魅力です。見ているに側はグランドのプレイは
                    一切映らず、ひたすらアルプススタンドの風景、それもほぼ

                    はしの方しかわからないけれど、そのはしの方で蠢いている

                    スクールカーストの底辺付近の生徒が、少しだけ自信を持って

                    いくのが、伝わってきます。
                    球場にサイレンが響き渡った時、

                    「は?何これ?」

                    と語る安田と田宮に

                    「終わったんだよ」

                    と静かに言う藤野。でも「悔しい」という気持ちを持てたことは

                    「ここに来てよかった」という気持ちへと繋がります。つまり

                    やる前からあきらめていたら、人はそこから一歩も前に進めない

                    ということです。
                    大人になってからのこの4人や園田や矢野のことを知ると、

                    気分が上向きになる内容でした。決して部屋の気温を上げる

                    ような暑苦しい映画ではなく、ひたすら緩めのストーリーが

                    楽しいです。

                     

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                    ある船頭の話

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                    JUGEMテーマ:邦画

                     

                    ある船頭の話

                    出典:IMDb

                     

                    「ある船頭の話」

                    監督、脚本:オダギリジョー

                    2019年 日本映画 137分

                    キャスト:柄本 明

                         村上虹郎

                         川島鈴遥

                         伊原剛志

                         浅野忠信

                         細野晴臣

                     

                    村と町を流れる川を渡る人々を乗せる船頭をしている

                    トイチは、彼を慕う源三を話し相手に毎日黙々と船を

                    漕いでいる。もうすぐ出来上がる橋を見ながら彼は

                    様々な客を乗せるが、ある時川を流れてきた一人の

                    少女を救う。トイチは彼女の世話をしながら、自分に

                    ついて人生について考え始めるのだった。


                    <お勧め星>☆☆☆☆ 静かにゆったり流れる川のような

                    時間の中で少しづつ変わっていく人々と変わらないままで

                    いる人の心を描いています。


                    新しいものを求めれば古いものは消える。


                    川に浮かぶあめんぼ、少しの風で揺れる川面、そして

                    その上をすべるように流れていく葉。この葉を見た時に、

                    ああ、幼少期、笹の葉で舟を作り、川に流して遊んだことを

                    思い出しました。その記憶はすっかり抜け落ちていたのです。

                    同じように映画の終盤付近で蛍が見えるシーンがあります。

                    それも夏になると違う川で夜に幾つも光る蛍を見つけていた

                    ことも思い出しました。その川が人工のものに変わった後、

                    蛍は一切見られなくなり、その記憶すらも消えていました。
                    ゆっくり動き、寡黙なトイチと対照的に、橋を作りに来て

                    いる作業員たちは、彼を急かし、蔑み、あざけるような言動を

                    繰り返します。それでもトイチは、村の人々に対するのと

                    同じように全く表情を変えないのです。

                     

                    ある船頭の話
                    出典:youtube

                     

                    そんなトイチを慕うのは源三という若者で、素朴で天真爛漫な性格。

                    彼が持ってきたジャガイモを川のほとりで焼いていると、その日は

                    とても暑い日で、陽炎がたっています。
                    「暑い日に暑いものを食うなんてな」
                    二人は笑いあうのです。川上の方から聞こえる橋を作る音に

                    対し、源三は「うるさくて仕方がない」と怒り、一方のトイチは

                    「そんなに聞こえない」と答えます。橋ができたら、村の人々が

                    町に行くのにとても便利になるけれど、それはトイチに仕事が

                    なくなることを意味します。そのことを知っているはずなのに、

                    彼は何も語りません。
                    早朝の川は水面から霞がかかり、幻想的な様相を見せます。

                    夕方には赤く染まった空を映して、同じように赤く光る水面を見る

                    ことができるのです。そこに人工の灯りの存在はありません。
                    トイチが乗せる客は本当に様々で、若い女性から年配の女性、

                    橋の作業員、町から往診に行く医師、牛を出荷する人々など本当に

                    あらゆる人々なのです。そして彼らがそれぞれ異なった内容の話を
                    していきます。それを淡々と聞きながら、櫓をこぐトイチは、

                    何を考えているのでしょう。
                    草笛光子演じる初老の客が、唯一トイチの身の上を尋ねます。

                    「語るほどのものはありやせん」

                    語ることはないけれど、彼に「孤独」を感じた彼女は、

                    「孤独って狐に似ているのよね」と語ります。
                    そして「年を取ると故郷が懐かしくなるのよね」とも語るのです。

                    故郷は遠きにありて思ふものーと室生犀星は詩に書きました。

                    戻れば親がいて、いつでもそこにいると思って日々を送って

                    いると、親は亡くなり、戻りたいと思う時には、かつての故郷の

                    姿はそこになく、ただ郷愁を感じるだけになっていることに

                    気づきます。
                    ある日、トイチは船にぶつかる何かを見つけ引き上げるのです。

                     

                    ある船頭の話

                    出典:IMDb

                     

                    その袋を開けてみると中から一人の少女が出てきます。少女は

                    傷だらけで、意識はなく、トイチは源三とともに彼女の看病を

                    続けていくのです。
                    ところが、例の作業員が乗船した時に、川上の村で起きた一家

                    殺人事件の話をしているのを耳にしてしまいます。全員惨殺

                    されたけれど、子供が一人姿を消していたというのです。まさか

                    その子供があの少女だろうか。
                    そう思っていると、少女はある時突然意識を取り戻し、赤い服を

                    まとって船をこいでいるトイチの方の歩いてきます。真っ青な

                    空には白い雲が流れていき、蝉の声が響き渡っています。彼ら

                    二人はその自然に見事に調和していて、まるで自然の一部で

                    あるかのように感じられるのです。

                     

                    ある船頭の話
                    出典:youtube

                     

                    しかし少女はある時突然姿を消します。映画の序盤に映った、

                    異様な姿の人物は何でしょうか。それはトイチの心を全て見

                    透かしているようにも思えます。
                    「役に立たないものは皆なくなっていく」

                    トイチの頭の中に浮かぶ恐ろしい光景は、実はそれを彼自身が

                    望んでいたということそのものなのです。毎日穏やかな表情で

                    船をこぎ、人々を運んでいながら、本心は、橋ができることを

                    憎んでいたし、それに関わる人たちも憎んでいたのです。
                    ところが再び少女が戻ってきます。「何を覚えているんだ」と

                    尋ねるトイチに彼女は「おふう」という名前だけ教えるます。

                    おふうを船に乗せた時、突然彼女は水の中に飛び込みます。

                    急いで彼女を救おうと飛び込んだトイチが見たものは、まるで

                    魚のように彼に泳ぐおふうの姿でした。思わず見とれてしまう

                    トイチは、自分と同じ匂いを感じたのかもしれません。いえ、

                    自分など足元にも及ばない純粋な少女の姿にただただ驚いた

                    のでしょう。
                    蛍が少なくなったのは、橋を作り始めてからだ。とトイチが

                    言うと、おふうは、「蛍の方が好き」と答えます。しかし

                    便利さを求めれば、失われていくものが必ず存在するのです。
                    そして土砂降りの晩、マタギの仁平が父の死を告げにトイチの

                    元を訪れます。彼は「森の生き物の命を奪ってきたおやじを、

                    その生き物に返したい」と語り、父の遺体を船で運ばせ、

                    森の中に置いてくるのです。
                    真っ暗な森に降り注ぐ大粒の雨の中で唯一光るのがおふうが

                    持っている橙色の灯りです。すべてが終わった時には月が上り、

                    その月明かりの中で無数の蛍が輝きを放っています。

                    そうそうこんな風に蛍は光っていました。蛍自身はただの黒い

                    小さな虫なのに、光っている時はとても美しいのです。
                    そして雪が積もるころ、橋は完成し、トイチは暇になり、

                    源三はなんだかハイカラな格好をして、トイチに何かを指示

                    しています。二人の立場が変わってしまったことが分かります。

                    いや変わったのは源三だけなんだろうな。
                    橋の上でトイチとすれ違った仁平は

                    「橋ができてから村の人も変わった。みんな急いでいる」と

                    語ります。便利を求めるのは、スピードを求めることと等しく、

                    それは物事の本来あるべき姿を変えていくことかもしれません。
                    ロケは新潟県阿賀町でほぼ行われたそうですが、このような

                    景色にどうしても懐かしさを感じてしまいます。

                    BGMの曲も静かで心を穏やかにさせるものでした。

                     

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                    ひとよ

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                    ひとよ

                    出典:IMDb

                     

                    「ひとよ 一夜」

                    監督:白石和彌

                    2019年 日本映画 123分 PG12

                    キャスト:佐藤 健

                         鈴木亮平

                         松岡茉優

                         田中裕子

                     

                    千葉県の小さな都市でタクシー会社を経営する夫の

                    暴力から子供たちを救うため、妻こはるは大雨の晩、

                    彼をひき殺してしまう。3人の子供がそれぞれの道を

                    歩み始め15年経ったとき、こはるは刑期を終え、

                    約束通り家に戻ってくるのだったが...。


                    <お勧め星>☆☆☆☆ 一つの出来事について誰もが

                    それぞれ違う思いを抱くことを実感します。


                    ただの夜じゃないの


                    監督は「凶悪」(2013)

                    「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017)

                    「凪待ち」(2017)「孤狼の血」(2018)

                    「止められるか、俺たちを」(2018)などすぐれた

                    作品を手掛けている白石和彌。「凶悪」はその題名通り

                    ピエール瀧とリリー・フランキーの凶悪ぶりに背筋が

                    ゾクリとしたものです。

                    「彼女がその名を知らない鳥たち」では蒼井優の演技の

                    ふり幅の大きさに圧倒されたし、
                    「凪待ち」では限りなくクズな男を香取慎吾が好演して

                    いました。

                    どの作品も「汚い食べ方」「下品さ」などが見事に映像化

                    されていて、それに暴力が加わっています。それでも目を

                    そらさずに見続けられるというのは、根本のストーリーが

                    しっかり描かれているからでしょうか。
                    映画は傷だらけの兄妹の姿から始まります。大樹、雄二、

                    園子はみな体に傷を負っているのです。それは予想通り

                    彼らの父親によるもので、その父親を大雨の晩、タクシーで

                    ひき殺す母親も映るのです。酔っ払い、帰宅したら必ずまた

                    暴力をふるうに決まっている夫を、妻はタクシーをバック

                    させてひきます。その鈍い音と大雨の音と妻こはるの汗と雨に

                    まみれた姿が目に焼き付く瞬間です。
                    「もう誰もあなたたちを傷つけない。好きなように生きなさい」
                    こはるはそう言い残して叔父の車で警察に向かうのです。それを

                    無免許の雄二の運転のタクシーで追いかける3人兄妹。ここまで

                    一気に描かれ、シーンは変わって15年後になります。

                     

                    ひとよ
                    出典:youtube

                     

                    小説家希望だった雄二はエロ本の記者をしているし、吃音に

                    悩まされていた大樹は、結婚し娘をもうけたものの、どうも

                    離婚危機にあるらしい。さらに美容師を夢見ていた園子は、

                    スナックのホステスをしていてろくでもない男とばかり

                    付き合っている。
                    「でもさ、あいついい奴だったんだよ。こう殴ろうとする

                    じゃん。そこで顔をかばうと、腹にバーン」
                    松岡茉優さんのセリフの言い回しはとても爽快です。

                    「万引き家族」でもそうでしたが、ただ可愛いだけではなく、

                    心に深い傷を負っていて、それを隠して明るく振舞う姿を

                    とても上手に演じます。時折寂しそうな顔やブチ切れる姿を

                    見せるのもいいタイミングなのです。

                     

                    ひとよ
                    出典:youtube

                     

                    さてそんな家族のもとに、「15年したら帰ってくる」と

                    約束した母こはるが戻ってくるのです。実刑で何年刑務所

                    暮らしをしたのかわかりません。ただ彼女の話から、出所後

                    日本中を転々とし、15年経つのを待って、家に戻ってきた

                    ようです。

                    この時、園子は抱きついて泣いて喜びます。大樹は大そう

                    複雑な顔つきをします。さらに家を出て、東京暮らしの雄二は、

                    その連絡の電話を途中で切ってしまうのです。一つの出来事に

                    ついて、血のつながった兄妹の間でも、受け止め方が全く違う

                    ことを物語るのです。ましてや実の父を殺した実の母との再会

                    です。

                     

                    ひとよ
                    出典:youtube

                     

                    ところがタクシー会社を任せたこはるの甥や従業員は彼女を

                    大歓迎します。タクシー会社も田舎町ですからかなり嫌がらせを

                    受けたでしょうに、全面的にこはるの味方なのです。

                     

                    ひとよ
                    出典:youtube

                     

                    さらにタクシー会社の堂下という新人が入ってきます。

                    佐々木蔵之介演じる堂下は、酒もたばこもギャンブルもやらず、

                    真面目..。いや、絶対に後ろ暗い過去を持っていると思うの

                    ですが、会社の社長も深くは聞きません。この距離感は家族と

                    他人との違いでしょうか。

                     

                    ひとよ

                    出典:youtube

                     

                    筒井真理子演じるタクシー運転手ゆみの姑が徘徊して悩んでいる

                    ことも、仲間はみんな知っているのです。それについても誰も何も

                    聞きません。彼女から相談された時のみ、返答をするのです。

                     

                    ひとよ
                    出典:youtube

                     

                    一方大樹は妻に一方的に離婚を迫られているし、家に戻った

                    雄二はどうやら15年前の事件を再び記事にして自分のキャリア

                    アップに繋げようとしているらしい。園子だけがこはるを慕い、

                    帰ってきたことを手放しで喜んでいるのです。
                    例の事件によって彼らはひどい中傷に遭い、それぞれの抱いていた

                    夢をあきらめざるを得なかったという点はみんな同じなのですが、

                    その事件についてのとらえ方が全く異なるのです。
                    大樹はようやく結婚できた相手との生活を守るために、母の存在を

                    隠していたし、雄二は「親父の暴力を我慢していた方が生きて行く

                    うえで簡単だった」と語ります。

                    それでも母こはるは「自分が正しかった」と信じ切っているのです。

                    人の命を奪うことは絶対に正しくないけれど、それによって地獄の

                    ような生活から解放されるとしたらどちらを選択するのが人間

                    でしょうか。
                    堂下の私生活が明らかになると、彼もまた家族、つまり息子との

                    再会を待ち望んでいたことが分かります。しかしそれは一方的な

                    思いで、彼が「特別な夜」と思った息子との時間は、息子にとっては
                    「金のため」でしかなかったのです。
                    終盤のタクシー同士のカーチェイスは、特にスリルはないけれど、

                    冒頭に3兄妹で乗ったタクシーと同じ雄二の運転で、かつての姿を

                    思い出す瞬間です。そうだ、あの時母を追いかけた気持ちはみんな
                    同じではなかったのか。
                    粉々に砕け散って、二度と戻れないと思った家族が、様々な出来事を

                    経て再生していく姿を描いていて、見終わると気持ちが穏やかに

                    なります。
                    ちなみに雄二役の佐藤健は「だらしない体」にするために体重を

                    増やし、吸わない煙草を始めていたそうです。

                    でも顔がきれいだから何をやっても目立っちゃうな。

                     

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