スポンサーサイト

0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    • 2023.01.12 Thursday
    • -
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    ベイビー・ブローカー

    0

      JUGEMテーマ:韓国映画全般

       

      ベイビーブローカー

      出典:IMDb

       

      「ベイビー・ブローカー」

      原題:Broker

      監督:是枝裕和

      2022年 韓国映画 129分

      キャスト:ソン・ガンホ

           カン・ドンウォン

           ペ・ドゥナ

                     IU

           イ・ジュヨン

       

      古びたクリーニング店を営むサンヒョンと児童養護施設出身で

      教会で働くドンスは裏で「赤ちゃんポスト」に入っていた

      赤ん坊を売っている。そして一人の若い女性が「赤ちゃんポスト」

      の前に赤ん坊を置いていく。彼らを張り込んでいた刑事の手で

      その子は「赤ちゃんポスト」に入れられ、2人は早速買い手を

      探し始める。しかし翌日赤ん坊を引き取りにソヨンが現れた

      ことで事態は変わっていくのだった。

       

      <お勧め星>☆☆☆☆ 世の中の底辺に暮らす人々への優しさが

      感じられる映画です。

       

      生まれてきてくれてありがとう

      (これを棒読みするのがいい)

       

       

       


      <ネタバレしています>

       

       

       

      土砂降りの雨の日に足のきれいな若い女性が何かもごもご動く

      ものを抱えて傘もささずにある場所へ向かいます。そこは教会で

      「赤ちゃんポスト」が設けてあるのです。しかし彼女はそこに

      赤ちゃんを入れず、その前に置いていくのです。遠くで張り

      込んでいたペ・ドゥナ演じるスジンチーム長は、人身売買実態を

      追っているらしく、その赤ん坊をポストに入れます。彼女の

      部下イ役は「野球少女」「梨泰院クラス」のイ・ジュヨン。
      一方教会の中では赤ちゃんポストの映像を見てソン・ガンホ

      演じるサンヒョンとカン・ドンウォン演じるドンスが、その

      赤ん坊を連れてきます。監視カメラ映像は消し、いつも通りその

      赤ん坊を売買しようと準備し始めるのです。この流れが大そう

      スムーズであることからわかるように彼らは何度も同じことを

      しており、それに気づいた警察が実態解明をしようとしています。

      ところがスジン達の上司の言うような大規模な人身売買シンジケート

      が存在するわけでもなく、借金返済と小遣い稼ぎのような目的で

      2人が個人的に行っているわけです。だから買い手探しも自分

      たちの手で行います。
      ところが翌日、母親のソヨンが赤ん坊を取り返しに来ます。

      もちろん本当の赤ちゃんポストに入っていません。ここであたふた

      するサンヒョンは、根っからの悪い人間ではないことがわかります。
      ソヨンに「養子縁組」を勧め、それで得た金を分けようと提案する

      のです。

      そもそもソヨンはなぜ赤ん坊ウソンを捨てなければならなかったのか?

       

      <サンヒョン>
      クリーニング店を営んでいるが全く儲かっておらず、一人娘を

      もうけた妻とは離婚し、ギャンブルでの借金がある。赤ん坊の扱いに

      慣れているのは恐らく自分の娘の世話もしたからで、いつかは妻と

      よりを戻し家族3人で暮らしたいと願っている。


      <ドンス>
      児童養護施設出身で、親の顔は知らず、道端に捨てられていたと

      いう。「いつか迎えに来るからね」というメモが残してあったが

      もちろん迎えは来ないまま成長した。


      <ソヨン>
      親に捨てられたのか家出したのか路上にいるところを売春組織の

      女に拾われ、そこで売春させられていたが、客の男の子供を

      身籠っってしまう。さらにはその子供を生んだことで組織の女には
      見捨てられ、父親である男に責められて彼を殺害してしまう。

      それが雨の日の行動に出たらしい。


      <スジン>
      青少年福祉課の刑事で人身売買斡旋を追っている。部下のイと

      共に赤ちゃんポスト前で張り込んでいたが、

      「望まれずに生まれる方が不幸」と言い切り、

      「捨てるなら生むな」とも吐き捨てるように言う。部下のイが

      捨てる側の心情を訴えても一切受け付けない。主夫をしていて

      張り込み中差し入れをする優しい夫がいるが、子供ができない

      状況にあるらしい。


      <へジン>
      児童養護施設に暮らす8歳の少年で、養子に行ける年齢は

      とっくに過ぎているサッカー好き少年。ドンスが大好きである。

       

      サンヒョン、ドンス、ソヨンで里親希望者に面会するも、赤ん坊を

      値切り、挙句の果ては分割払いを提案する相手にソヨンは悪態の

      限りをつきます。「お客様ファーストで」となだめるサンヒョン
      の言葉に聞く耳を持ちません。もしかしたらこのウソンへの

      愛情があるのではないでしょうか。この後、養護施設のへジンが

      加わり、サンヒョンのボロボロ車で里親探しの旅に出るわけです。
      ボロボロ車を自動洗車機に通した時、ヘジンが窓を開けたため

      全員がびしょ濡れになりますが、この時なぜか車内に和やかな

      雰囲気が沸き起こります。

      ボロ車=「リトルミスサンシャイン」(2006)
      を彷彿とさせる瞬間です。あれは本当の家族でしたが。
      一方刑事と接触したソヨンは

      「産んで殺すより産む前に殺す方が罪が軽いのか?」

      と尋ねるのです。一つ一つの言葉が胸に突き刺さります。
      また観覧車の中でドンスはソヨンに

      「自分を捨てた母を許す代わりにソヨンを許す」

      と語ります。

      「すべて一から始まればいいのに」

      涙を流すソヨンの目を大きな手のひらが覆うのです。犯した
      罪をなかったことにはできないことをソヨン自身が深く理解して

      いるのです。
      5人で過ごす最終日、ヘジンの頼みでソヨンはみんなに

      「生んでくれてありがとう」

      と語り掛けます。この言葉はよく使われるし、一見綺麗な内容に

      思えますが、薄っぺらく、個人的には居心地の悪さしか

      感じません。その居心地に悪さは、生きづらさを感じている

      多くの人たちの存在があるからかもしれません。
      結局サンヒョンは、妻子とは二度と会えないことを知り、ソヨンを

      守るためにウソンを狙うテホを殺害、逃走したのでしょう。それは

      ドンスがこれ以上罪を重ねないためでもあったと考えられます。

      ドンスは里親希望夫妻とともに検挙され、ソヨンはウソンをスジンに

      託し、自首という選択を取ります。

      そして彼女の刑期が終わった日の姿が映ります。
      かつて5人で撮ったプリクラをルームミラーにぶら下げた車は

      サンヒョンが運転しているのでしょう。しかし恐らくは二度と

      ソヨンたちの前に現れないはずです。
      「万引き家族」(2018)同様に疑似家族の繋がり方を描いて

      いましたが、それぞれの胸の内が映像だけで静かに伝わり、

      何が正しいのか?と選択させるのではなく、そうせざるを

      得なかった人々の気持ちを見る側がどう理解するのか試して

      いるように感じました

       

      ブログランキング・にほんブログ村へ
      にほんブログ村  人気ブログランキングへ

       

       


      コーダ あいのうた

      0

        JUGEMテーマ:洋画

         

        コーダ

        出典:IMDb

         

        「コーダ あいのうた」

        原題:CODA

        監督:シアン・ヘダー

        2021年 アメリカ=フランス=カナダ映画 

        112分

        キャスト:エミリア・ジョーンズ

             トロイ・コッツァー

             マーリー・マトリン

             ダニエル・デュラント

         

        聴覚障がいを持つ両親、兄の中で唯一耳が聞こえる

        ルビーは、幼い頃から家族の通訳として動いていた。

        家族は仲良くという父の教えの元、ルビーは毎日漁師の

        仕事を手伝ってから高校へ通学していたが、合唱クラブ

        のヴェルナルド先生に彼女の歌の才能を見出される。

        音楽大学への入学を勧める先生の言葉に心を動かされた

        ものの、一家にはルビーの存在は欠かせないもので、

        彼女は夢を諦めようとするが..。


        <お勧め星>☆☆☆☆半 オリジナルと同じくらい感動

        します。


        歌で何か伝えられるか


        本当に不勉強で、2014年映画「エール!」も見ている

        のに、手話が国によってだけでなく、日本でも地域によって

        異なることを思い出しました。それほど手話は身近な存在

        でないことに気づきます。
        「エール!」では酪農を営む一家が舞台でしたが、こちらは

        漁業を営む一家に変わっています。またオリジナルでは弟の

        存在が、今作では兄となっています。それ以外はストーリー

        はほぼ同じで、とても仲のいい両親が皮膚の病気にかかり、

        その通院にルビーが通訳として付き添うシーンは全く同じ

        展開でした。それでも大笑いします。
        またこの映画の素晴らしい点は一家で唯一耳が聞こえる

        ルビー役のエミリア・ジョーンズ以外はすべて聴覚障がいを

        持っている俳優であることです。それは映画のクライマックス

        でもあるルビーが所属する合唱団のコンサートの時の表情に

        すべて現れています。

        その時に晩御飯のおかずを手話で話す両親は、周りの聴衆が

        歌に聞き入っていることに全く気付きません。そしてルビーが

        マイルズという少年とデュエットする時は音がすべて消えるの

        です。

        これが聴覚障がいを持つ人たちの世界なのだと観客に強く

        印象付けます。舞台の上の二人がどういう歌を歌っているのか、

        彼らの表情や動きでは全く分かりません。このシーンの挿入の

        仕方は息をのみました。
        そしてオリジナルでもあったように、コンサートの後、自宅の

        庭で(オリジナルは玄関だったかな)父はルビーに今日の歌を

        歌わせます。もちろん声は聞こえません。必死で歌うルビーの

        喉に手を当ててその振動を感じ取るのです。

        ここはやっぱり涙が出ます。ルビーの喉の振動で彼女の歌を

        知ろうとし、コンサートで聴衆が涙を流すほど感動していたのを

        共有するのです。
        家業の話と並行して進むルビーの音楽大学進学の話、そして

        合唱クラブのマイルズとの恋も同じくらいの深さで描かれ、

        ストーリーのテンポも良く、見終わってとても気分が良く

        なりました。父、母、兄のルビーへの思いも強く伝わりました。
        母ジャッキー役のマーリー・マトリンの雰囲気が「エール!」

        での母ジジ役カリン・ビアールとそっくりでとても美しく

        お茶目です。

         

        ブログランキング・にほんブログ村へ
        にほんブログ村  人気ブログランキングへ


        素晴らしき眺め

        0

          JUGEMテーマ:洋画

           

          素晴らしき眺め

          出典:IMDb​

           

          「素晴らしき眺め」

          原題:Nice View

          監督:ウェン・ムーイエ

          2022年 中国映画 106分

          キャスト:ジャクソン・イー

               ティエン・ユイ

               チェン・ハーリン

               チー・シー

               コン・レイ

           

          2013年、中国、深圳。重い心臓病を患う妹タンタン

          と二人暮らしの兄ハオは、スマホの修理の仕事で生計を

          立てているが、家賃すら滞納する状況である。しかし

          6歳のタンタンは8歳までに手術が必要でその費用を

          工面するため、彼は友人ジーヨンから旧式スマホの不良品

          を大量に仕入れ、再生する仕事で儲けようと考える。

          折しも再生スマホが違法として摘発され始め、彼は窮地に
          立たされるのだった...。


          <お勧め星>☆☆☆☆ 頑張れば報われるという姿を描き

          つつ、その頑張りは並大抵ではないことを示し、貧しさ

          に苦しむ人々の姿を目に焼き付けていきます。


          必死で頑張ればできないことなどない


          監督は「薬の神じゃない!」(2019)の

          ウェン・ムーイエで、あの映画でも貧しさゆえに

          違法ビジネスに手を染め、それが次第に貧しい人々を救う

          道へと導くという、ポジティブな内容を笑いを混ぜて

          描いていました。今の中国の状況でとてもソフトに国の

          状況を外部に伝えていると思います。
          さて、今作も同じように映画の最初に毛沢東の肖像画が

          映されるというシーンを経て映画が進んでいきます。
          2013年、深圳。とっても可愛いタンタン(本当に可愛い)

          という妹と二人暮らしのハオは20歳で、「好景スマホ修理」

          というスマホの修理をする仕事で生計を立てているのですが、

          とりあえず貧乏なのです。

          父に捨てられ、母を病で亡くし、遺伝性の重い心臓病を患う

          タンタンのために、ハオは必死で働きますが、タンタンの

          手術費用50万元など到底用意できません。そもそも家賃

          すら滞納している状況です。そんな時友人ジーヨンが

          上手い話を持って来るのですよ。旧式スマホの不良品を再生

          すれば大儲けできると言います。

          「そいつに貸した金返してもらってないでしょう?」
          いやいや、ハオはとにかく早く大金が必要なのです。

          そのためその話に乗り、半月は大儲けします。しかし

          再生スマホが違法であるということで次々に摘発されていき、

          ハオの商売は立ち行かなくなります。

          ハオは、果敢にも深寧電子に乗り込み、1週間で完ぺきな

          再生スマホを作ることで、新しいビジネスモデルを採用して

          もらえるようにアピールするのです。この時応対するの

          がリー経理で、なんでもアメリカでMBAを取っているエリート

          らしい。この会社のCEOジャオは再生ではなく「新作発表」に

          目が向いています。ハオは約束通り検査に合格する完ぺきな

          再生スマホを作ったのに、軽くあしらわれ、CEOの後を追って、

          バイクで転倒し、車にもはねられ、まさに満身創痍で、

          直談判に出るのです。つまりそんじょそこらの根性では貧しさ

          から抜け出せないことを物語っています。
          さらにCEOから手付金はもらえず

          「完ぺきな再生スマホをすべて完成させてから連絡する」

          とだけ言われるのです。あの大量の不良品を完ぺきなものに

          作り直すためには一人では無理で、彼は自分の店とバイクを

          売り、高いビルの窓ふきというWワークをして工場を立ち

          上げる金を準備します。で、誰を従業員にするのか?
          まず彼の身の上を知っているヨンチョン、そして労働環境の

          悪さで聴覚障害を起こし係争中の女性チュンメイ、暴力沙汰

          で刑務所に入っていたロンハオ、ネカフェの神、ホンジー、

          その連れのチャオ、ヨンチョンが勤務している老人ホームの

          入居者、ジョンなどが加わります。しかしまさに玉石混交

          (玉はあるのか?)ですが、ここがミソで これが終盤とても

          役に立つのです。
          「好景パーツ」という名前で設立された工場は皆が脛に傷が

          あり、それゆえに団結力が生まれます。告訴の関係で

          チュンメイに絡む男たちにはハオがキックをすると大騒動に

          なり、双方入り乱れての格闘が起こりますが、好景パーツ側

          には元ボクサーのロンハオがいます。

          一網打尽...いやこれは警察沙汰になります。
          またネカフェの神で「オタク」そのものと思っていたホンジー

          が何と結婚すると話します。仲間に加えてタンタンの笑顔と

          共に迎えた結婚式の後には、やはり絶望が待っているのです。

          この緩急のつけ具合が、お涙頂戴やドタバタコメディで

          なくなっている大きな原因だと言えます。

          本当に上手く作ってあります。
          家賃滞納で家に入れなくなったハオとタンタンは工場で

          寝泊まりするようになると、こんどは工場で完成した製品を

          夜中に盗み出そうする悪い奴ら(この人再生スマホを買い

          取っていた人じゃなかったかしら)がいて、急発進した

          トラックにしがみついたハオは、なんとかその製品を回収

          できます。しかしそのせいで指を2本骨折してしまうのです。

          これはWワークにしていた高層ビルの窓ふき作業ができない

          ことを意味し、つまりは工場の賃貸料、人件費等すら払え

          なくなるのです。そもそも高層ビルの窓ふきは、給料は高いが

          危険と隣り合わせという仕事なので、手っ取り早く金が欲しい

          人たちが携わっているし、そこで命を落としても仕方がないと

          いう作業です。

          土砂降りの中あれこれ奔走し、すべて失敗するハオを例える

          かのように、雨に溺れる蟻が大映しになります。
          ここにいる貧しい人々は1匹の蟻並みの存在で、少しの

          雨でも流されてしまうし、大雨が降ったらひとたまりもない

          ということです。その一方で近代的な高層ビルの中で快適に

          仕事をしている人々もいるのに。

          この格差社会の描き方も婉曲的で本当に上手い。
          ラスト付近は見ていて気分が良くなるシーンの連続で

          「薬の神じゃない!」はその後に期待を持たせるものでしたが、

          この映画はその後まで描いていてスカッとすること間違い

          なしです。
          「必死で頑張ればできないことなどない」

          と言うものの、その必死さはどの程度なのか、またそもそもの

          出発点が違う者たちとの格差は埋まるのか、日本人としても

          考えさせられる内容です。

           

           

          ブログランキング・にほんブログ村へ
          にほんブログ村  人気ブログランキングへ


          友情にSOS/EMERGENCY

          0

            JUGEMテーマ:洋画

             

            emergency

            出典:IMDb​

             

            「友情にSOS/EMERGENCY」

            原題:Emergency

            監督:キャリー・ウィエイアムズ

            2022年 アメリカ映画 105分 R18+

            キャスト:RJ・サイラー

                 ドナルド・ワトキンス

                 セバスチャン・チャコン

                 サブリナ・カーペンター

             

            大学で親友のクンレとショーンは、卒業を前に7つの

            パーティーを1晩で制覇するという計画を立てる。

            しかしその途中ドアが開いたままの自宅を見つけ、もう

            一人のルームメイト、カルロスの元に行こうとしたところ、

            床に一人の白人女性が倒れているのを見つける。警察に

            通報することを主張するクンレに対し、ショーンは自分

            たちの身を案じ、何とか彼女を安全な場所に移すことで

            話はまとまるのだったが...。


            <お勧め星>☆☆☆☆ セリフの端々に根深い差別を感じ、

            何度でも見直したい映画です。


            肌の色で決められる

             

             

            <ほぼネタバレ>


            冒頭に大学の講義で「ヘイトスピーチ」について取り上げた

            シーンが映ります。白人の女性教師が「nigger」という

            言葉を口にし、「これをなぜ使ってほしくないのか」と

            生徒に尋ねるのです。この時に誰もが居心地の悪そうな表情を

            します。これは「なぜ」ではなく絶対に使うべき言葉では

            ないと刷り込まれているのですが、使わないからと言って

            差別心がないという証にならないということがこれからの

            展開でわかってきます。

            まあ、そもそも平気で使っているアホもいるわけで、それが

            強さの象徴という大きな勘違いに気づかない哀れな人々だと

            思っています。
            さて大学で優秀な成績を収めプリンストン大学への道が

            決まっているクレンは、黒人であるものの、医者の家系で

            裕福な生い立ちらしい。だから「黒人への差別」を現実に

            味わったことがないまま生きてきたのです。一方ショーンは

            典型的な黒人貧困層に育ち、後でわかるけれど兄は仮釈放の

            身であり、その友人たちも何かあれば一発で警察の拘束される

            人たちばかりなのです。さらにもう一人のルームメイト、
            カルロスはヒスパニック系で、これまたアメリカにおける

            マイノリティーに属します。ところが途中で登場する彼の

            従兄は白人と容貌がそっくりなのです。それだけで人々の

            対応が違うことをリアルに描いていきます。
            ショーンが計画した1晩に7つのパーティー制覇は、まず

            クントがラボの冷蔵庫の鍵を閉め忘れたことから躓きます。

            鍵を閉めないと冷蔵庫が開いて研究中のバクテリアが死んで

            しまう!

            ということで大学の戻ろうとすると、たまたま通りかかった

            自宅の玄関が開いています。そして家にいるはずのゲーム

            オタクのカルロスに注意しようと二人が家に入ると、床に

            見知らぬ若い白人女性がぶっ倒れているのです。ここから

            「911に通報」主張のクントと「絶対に警察に疑われる」

            主張のショーンとで対立が始まります。クントの言い分は

            一見正しく思えるのです。
            「家に見知らぬ白人女性が泥酔して倒れていた。それを

            保護してほしい」
            しかし実際のそれが通用するか否かはこの後の展開で十分に

            分かります。とりあえずパーティー会場に置いて来ようと

            話が決まったものの、そこで酔った白人男性たちに差別言葉

            を投げつけられ、嘔吐しかけた女性を車を止めて介抱して

            いると「白人監視地域」であるがために、住民に録画され

            通報される。病院に連れて行こうにも警察の検問に遭遇するし、

            おまけに車のテールランプが1つ割れている。
            どんどん事は悪い方に転がっていきます。車を借りようと

            したショーンの兄の家で、この女性が高3と知ると悪そうな

            やつらは全部逃げていくし、一方でこの女性エマの姉マディ

            たちがエマの携帯のGPSを使って場所を割り出し後を追って

            きます。この時は逆にショーンの兄が住む黒人貧困層地域で

            あるがために、そこの住民に通報されています。この人種間の

            深い分断は、身近な人たちとは交流できても見知らぬ人への

            警戒は決して消えないことを表している気がします。
            エマを巡って二転三転するうちに、エマの容体は悪化し、

            クントが救命措置を始めるのですが、その時遂にパトカーに

            追尾され始めます。これが白人だったら話せばすむこと

            でしょう。病院前でパトカーに挟まれ、さらには救命措置を

            しているクントは警官に銃を突き付けられ、地面に

            押し倒されるのです。これは恐怖以上に屈辱以外のなにもの

            でもありません。今まで知らなかった世界を自分が初めて
            思い知った瞬間でしょう。

            ラストに仲間とパーティーを開いている時、マディとエマが

            お礼にやって来ます。その顔を見た時のクントの表情や

            その後に鳴り響くパトカーのサイレン音に対する怯え方を

            見ると、彼がいかに辛い体験をしたのかを実感するのです。

            そしてそれは決して白人にはわからないことであり、冒頭の

            講義のデリカシーのなさにも怒りを覚えます。
            せめて有色人種であるならば、白人優位の主張に同調する

            ことだけはやめてほしい。特にアジア系への差別も大きい

            ことにも気づいてほしい。映画内では「アジア系に対しては

            中立」というセリフでしたが、それはかなり違うと思う。

            さらには強い白人などというものに憧れる単純な思考は

            捨て去ってほしい。肌の色で強弱は決まらない。

            またこの映画内で未成年の女子が飲んで倒れていることが

            事件の発端になっていますが、これは日本でも同じことで

            女子が酒を飲み酩酊していたら、そこで起きたことは全て

            隙がある女子のせいと思わないでほしい。そんな社会も皮肉

            っている気がします。軽い雰囲気の映画なのでぜひ多くの

            人に見てほしいです。

             

             

            ブログランキング・にほんブログ村へ
            にほんブログ村  人気ブログランキングへ

             


            モーリタニアン 黒塗りの記録

            0

              JUGEMテーマ:洋画

               

              モーリタニアン

              出典:IMDb​

               

              「モーリタニアン 黒塗りの記録」

              原題:The Mauritanian

              監督:ケヴィン・マクドカルド

              2021年 イギリス=アメリカ映画 129分

              キャスト:ジョディ・フォスター

                   ベネディクト・カンバーバッチ

                   タハール・ラヒム

                   シャイリーン・ウッドリー​​

               

              9.11テロから2か月後モーリタニアに住むスラヒは

              突然、テロの主防犯の一人として拘束される。2005年、

              アルバカーキの弁護士ナンシーは、裁判もなく長期間

              拘束されているスラヒの弁護を引き受けるが、スラヒの

              所在すらすぐに確認できない。一方米軍から「正義の鉄槌」

              を下すように命令されたスチュワート中佐は、スラヒを

              死刑にする証拠を調査し始めるが、明確なものはなく、
              逆にグアンタナモ基地における特殊尋問の存在が明らかに

              なるのだった...。


              <お勧め星>☆☆☆☆ 国民の怒りを鎮めるために悪人を

              作り上げていたことへの恐怖が伝わります。


              忘れちゃいけないグアンタナモ基地の存在


              9.11テロ事件によってアメリカでは3000名近い

              死者と25000名以上の負傷者を出しました。あの映像は

              二度と見たくないし、日本における津波の映像同様に、

              当事者でなくとも恐怖や怒り、悲しみを呼び覚ますもので

              あり、安易にテレビで流すべきではないと思っています。
              さて主人公のスラヒはモーリタニアに住む青年ですが、

              ドイツに留学経験があり、その際にアルカイダと接触した

              ことがあったのです。しかし当時のアルカイダは、一方的に

              アフガニスタン侵攻を進めたソビエト連邦に抵抗する組織で、

              アメリカが水面下で支持していたはずです。それが、

              9.11テロ犯にアルカイダが関係していると結論付けた

              のは、既にアメリカとアルカイダの対立関係が大きくなって

              いたことに起因していると思います。そしてスラヒも何の

              証拠もないまま、テロ犯のリクルーターとして拘留されて

              しまうのです。
              一方、2005年、ニューメキシコ州、アルバカーキで

              弁護士をしているナンシーは、明確な証拠がなく連行され、

              裁判も受けずに拘留され続けるスラヒの存在を知ります。

              ナンシー役はジョディ・フォスター。
              彼女は同じ事務所のテリーと共に、スラヒの所在確認から

              調査し始めるのです。そもそも連行されたきり、どこに

              いるのか、生きているのかすらわからないのですから。
              そして海軍の弁護士スチュアート中佐は、9.11テロを

              戦犯法で裁き、「正義の鉄槌」を下す命令を受けます。

              つまり、9.11で愛する人々を失い、悲嘆し、怒って

              いる国民に報いるため、とにかく犯人を「死刑」にしたい

              ということらしい。これが大統領令だというから、もちろん

              テロに対する怒りはあるけれど、敵を徹底的に打ち砕くと

              いう姿勢が垣間見えるものです。
              スラヒがキューバのグアンタナモ基地にいるとわかっても、

              ナンシーとテリーの面会には多くの障害が立ちはだかります。
              それはスチュアートも同じで、MFRという超機密事項を

              知るまで、本当に苦労するのです。
              スラヒがグアンタナモ基地でどんな扱いを受けていたのかは、

              この悪名高い収容施設での残虐行為が後々に露呈している

              ので多くの人々が知っているはずです。

              「特殊尋問」と呼ばれるその尋問は人権など1ミリも

              感じられないもので、「自白の強要」のためにありとあらゆる

              手段が用いられます。この映画の原作者がスラヒ自身で、

              実際にいた独房を再現するのに立ち会ったそうですが、同じ

              出来事が起き始めると、PTSDにより耐えられなくなったと

              いう記事を読みました。人間を破壊してまでも、やって

              いないことを話させることが「正義」なのかどうかは一目瞭然

              です。
              ただ映画の終盤にナンシーが

              「なぜキューバのグアンタナモ基地でそれが行われたか」

              ということの理由を語ると納得します。それは、容疑者を

              隠すためではなく、看守などの証人を隠すためだった
              のです。実際に基地で収容者を監視した軍人は、大した

              知識も訓練も受けず、ただ金銭目的で入隊した軍人が多く

              いたと聞いています。彼らの責任で行われたことにできる、

              という側面もあったのでしょう。
              「特殊尋問」により「自白」したとスラヒは、ナンシーに

              よって、その人身保護請求裁判を受けることができ勝訴

              します。しかしその後、政府の控訴でさらに拘留され、結局

              14年間収容された後に2016年、解放されます。
              ナンシーの勧めで書いた手記は本となり、ベストセラーに

              なりました。しかしその一方で、無実のまま拷問を受け命を

              落としていった人々がどのくらいいたのか、また今もいる

              のではないかという疑念が沸き上がるのです。
              殺人犯の弁護人、レイプ犯の弁護人は「弁護人」と呼ばれる

              のに、テロリストの弁護人は「テロリスト」と呼ばれる

              不条理さは、「正義」を見誤ることの恐ろしさを実感させます。

               

              ブログランキング・にほんブログ村へ
              にほんブログ村  人気ブログランキングへ

               


              17歳の瞳に映る世界

              0

                JUGEMテーマ:洋画

                 

                17

                出典:IMDb​

                 

                「17歳の瞳に映る世界」

                原題:Never Rarely Sometimes Always

                監督:エリザ・ヒットマン

                2020年 イギリス=アメリカ映画 101分

                キャスト:シドニー・フラニガン

                     タリア・ライダー

                     セオドア・ペレリン

                     ライアン・エッゴールド

                 

                ペンシルバニア州の片田舎の高校に通う17歳の

                オータムは、望まない妊娠をしてしまう。彼女の住む州

                では未成年の中絶には親の同意が必要なため、彼女は

                スーパーのバイト仲間で従妹のスカイラーとニューヨーク

                に向かうのだった。


                <お勧め星>☆☆☆☆  原題が何を意味するのかそれを

                知ることでオータムの状況が深くわかってきます。

                 

                オータムの涙の意味


                映画の終盤にすべてを終えた二人が帰路についている時

                「男だったらよかったと思ったことはない?」

                と尋ねるオータムと

                「いつもよ」

                と答えるスカイラーの会話があります。これが今アメリカで
                普通に話されていることだと思うと、それより遥かに下を行く

                であろう日本ではどうなんだろうと絶望的な気持ちになるの

                です。
                ペンシルバニア州の田舎の高校の学園祭で生徒がいろいろ

                発表する姿から始まります。一人の少女がギターを持って

                弾き語りをはじめ、家族が(父親以外)嬉々として見つめる中、

                突然客席の男子生徒が
                「尻軽女」

                とヤジを飛ばすのです。そんな言葉普通に使っただけでも下品

                なのにヤジとして人前で使って、それを誰も(少女の家族すら)

                非難しない環境にあることが象徴されています。そしてその後

                家族で食事をしている時、父親はその少女オータムに大そう

                冷たく振る舞い、オータムは思わず席を立ってその場を立ち去る

                時に、例の男子生徒にコップの水をかけるのです。これは気分が

                いい。それ以上の行為をしているのだから。
                さて、このオータムはどうやら望まない妊娠(予期せぬ妊娠)を

                しているらしく、妊娠チェック施設の向かうと、まず市販薬で

                妊娠チェックをさせられます。おそらくそんなことはとっくに

                済ませているはずで、もしも妊娠していたとしたら、中絶が

                できない状況にまで進んでしまう可能性があるのです。
                また、スーパーで従妹のスカイラーとレジのバイトをしている

                けれど、そこの店長は仕事終わりにお金を渡す際、スカイラーの

                手にキスしまくります。これすごく気持ち悪い。それでも二人は

                拒否せず次の日も仕事に向かうのです。
                さらにオータムの自宅では父親が、飼っている雌の犬に対し、

                例の差別言葉をかけ、

                「女は素直でないとな」

                的な発言をするわけです。父親はオータムの下の妹同様に、朝の

                支度さえ一人でしません。それを許してきた妻の責任?いやそう

                いう土地柄なのだと考えるのが普通でしょう。
                オータムが次にエコー検査を受けると、妊娠10週であり、その

                心音を聞かせてくれます。「中絶」を望んでいることを知らせると、

                堕胎の恐ろしさ、罪深さを延々と伝えるビデオを見せられるのです。
                この州では中絶するためには未成年は親の承諾が必要であり、

                まず出産させるサポート、養子縁組を勧めているのです。

                最近テキサス州で妊娠6週以降の中絶禁止法案が可決されました。

                そこには近親相姦、レイプによる妊娠も含まれ、お腹の胎児は

                一人の人間であり、生きる権利を奪うことは犯罪であるという

                考えに基づいているのです。
                オータムはつわりがひどく、バイト中にも嘔吐し、それを見た従妹の

                スカイラーは、彼女の妊娠を知り、そしてそれが決して望んでいない

                ものであることを悟ります。そうして二人は長距離バスに乗り込み、

                中絶手術が比較的受けやすいニューヨークに向かうのです。
                スカイラーはバスの中でジャスパーという男性に声を掛けられます。

                スカイラーのルックスが可愛いのと、はっきり嫌だという表情が

                できないことは「隙がある」ということに繋がるのでしょうか。
                右も左もわからない大都会ニューヨークで、妊娠検査のクリニックに

                向かうと、オータムは既に18週に入っており、手術のために2日

                かける必要があることを告げられます。ペンシルバニア州では
                10週だったのに、同じエコー検査を受けてこれほど違うんだろうか。
                中絶手術専門のクリニックの前では中絶反対派がデモをしている。

                しかしそこのスタッフは本当に親身になって話を聞いてくれるのです。

                その時にカウンセリングの項目への答えの選択肢に
                「Never Rarely Sometimes Always」
                があります。この答えを言う時にオータムが次第に涙を流し始める

                のです。

                彼女はどうして妊娠してしまったのか、

                なぜ生むことを望まないのか、

                それについて親に話せない状況がどんなに辛かったか
                が伝わる映像です。
                しかしニューヨーク滞在が1日増えたことと、中絶手術代の前金を

                払ってしまい、二人はお金が無くなるのです。その時バスで会った

                ジャスパーにスカイラーはメールの返信をします。それは何の
                ためかわかると、それも辛い。

                ニューヨークの夜は眠らない街そのもので、きらびやかなネオンが

                輝き、多くの人々が行き交っています。その片隅で起きている

                ことに誰も気づくことはないのです。
                無事に手術を終え、二人でファストフード店に向かうと、思わず

                同時に大あくびをします。これまでの緊張や不安がすべて取り

                除かれたことを意味しているかのよう。再び長距離バスで帰路に

                就く二人は、バス内で熟睡します。
                とてもデリケートな問題なので何が善で何が悪かはっきり言う

                ことはできませんが、「望まない妊娠」「予期せぬ妊娠」で心や体を

                傷めるのは女性だけであり、妊娠したことについて責められるのも

                女性だけというのはあまりに不公平だと思います。また育てる

                自信がなければまず出産をした後に「養子」に出す選択をし、その

                子供の命を守るべきという主張には全く共感できません。

                 

                 

                 

                 

                ブログランキング・にほんブログ村へ
                にほんブログ村  人気ブログランキングへ


                ステージ・マザー

                0

                  JUGEMテーマ:洋画

                   

                  ステージ・マザー

                  出典:IMDb

                   

                  「ステージ・マザー」

                  原題:Stage Mother

                  監督:トム・フィッツジェラルド

                  2020年 カナダ映画 93分

                  キャスト:ジャッキー・ウィーヴァー

                       ルーシー・リュー

                       エイドリアン・グレニアー

                       マイヤ・テイラー

                   

                  テキサスに住むメイベリンは、教会の聖歌隊に歌を教える

                  だけの平凡な日々を送っている。そんな彼女の元に長らく

                  疎遠だった息子リッキーの訃報が入る。夫ジェブの反対を

                  押し切り彼が住んでいたサンフランシスコでの葬儀に

                  向かうと、彼女はリッキーがドラァグクイーンでゲイバーを

                  経営していたことを知るのだった。


                  <お勧め星>☆☆☆☆ ステージ・マザーでもこういう形

                  ならものすごく素敵だと思う。


                  ハーモニーを教えただけ


                  映画内でしばしば出てくる言葉「ドラァグクイーン」は女装で

                  行うパフォーマンスの一種だそうです。多くの場合、ゲイの

                  パフォーマーが派手なメイクと「女装」でステージで踊ったり

                  口パクをしたりするパフォーマンスが定番とのこと。

                  (Job Rainbowより)確かに映画内のゲイバー

                  「パンドラボックス」で踊ったり口パクで歌唱する男性たちは、

                  独特の派手なメイクと衣装、そして高いヒールの靴を身に

                  つけています。

                   

                  ステージ・マザー

                  出典:IMDb

                   

                  わたしがコロナ流行前にしばしば見に行っていた星屑スキャット

                  のコンサートでバックで踊っている人たちとそっくりです。

                  ドラァグクイーンは

                  「誇張した女性のステレオタイプ」

                  を敢えて演じているらしい。この辺りはしっかり調べていない

                  のでわかりません。
                  冒頭にそのゲイバー「パンドラボックス」でドラッグを使用した

                  後にステージに上がったリッキーがそこで倒れてしまうシーンが

                  映ります。

                  そして場所は変わって、テキサス州の片田舎の町で教会の聖歌隊に

                  歌を教える女性のが映し出されます。漂う空気が全く異なる場所を

                  つないだのは1本の電話であり、それは長年疎遠だった

                  息子リッキーの訃報だったのです。テキサス州の片田舎の町の男で

                  あるジェブは息子リッキーとは絶縁しており、メイベリンは彼の

                  反対を押し切って葬儀に向かいます。

                  そりゃそうだよね。超保守的な場所で大事な一人息子が「ゲイ」

                  であることをカミングアウトしたら、ロデオや家畜ショーを楽しみ、

                  ビール片手に野球やアメフトを見るのが男の嗜みと思う父が認める

                  はずもない。今でもこんな感じなんでしょうか。

                  女性は家庭を守り、子育てを終えたら教会でボランティア活動

                  したり、なんだたったら刺繍や料理をひたすら楽しむのみ、

                  もちろんお酒なんて男性たちが大騒ぎする時に出されるもの...。

                  ああ、いやだ。

                   

                  ステージ・マザー
                  出典:youtube

                   

                  さてサンフランシスコに到着したメイベリンは、リッキーの

                  葬儀に向かうのですが、そこにいる人たちを見て思わずあっと

                  驚く為五郎です。恐らく、いや絶対に今まで見たことのない人

                  たちばかりだったのでしょう。思わずその場を立ち去るメ

                  イベリンは、リッキーの親友だったシエナという女性と会う

                  のです。

                   

                  ステージ・マザー

                  出典:youtube

                   

                  シエナ役は「キル・ビル」(2003)で強く印象に残った

                  ルーシー・リュー。一方メイベリン役は「アニマル・キングダム」

                  (2010)の母親役を演じたジャッキー・ウィーヴァーです。

                  あの映画では超チンピラのだらけの家族をこよなく愛する姿は

                  恐怖すら覚えました。

                   

                  ステージ・マザー
                  出典:IMDb

                   

                  シエナの話からリッキーにはネイサンという恋人がいたことが

                  わかるのですが、彼がとても警戒心が強く(当たり前だけど)、

                  リッキーと共同経営だったゲイバーを奪いに来たと思います。
                  メイベリンはいわゆる「箱入り娘」だからそんなこと微塵も

                  考えていないのですが、彼らが置かれている状況を少しずつ

                  知ると、狭かった世界が一挙に広がるのです。
                  テキサス州の片田舎の町から出ずに高校でのアメフトのスター選手

                  と結婚した典型的な南部の婦人が、様々な人種や境遇や

                  マノリティーである人々の存在をこの目で見るわけです。さらに

                  リッキーの店を宣伝しようと訪れたホテルのコンシェルジェ長も

                  テキサス出身のオーガスタという人物で、彼女の身の上を十分

                  理解してくれます。これって同じ環境に育っていなかったら理解

                  できないし、そこから出たことがなければますます共感しない

                  でしょうね。ある意味、世間が狭いことは幸せなのかもしれません。
                  メイベリンは店を立て直すため、口パクでなく本当に歌わせる

                  指導をするのです。だいたい超下手くそな田舎の聖歌隊より

                  ずっとスキルがあるはず。それだけ苦労してきたのだから。
                  また一方では、リッキーの親友だったシエナの子供の世話をしつつ、

                  彼女が交際相手に殴られるのを身をもって制するのです。

                  この時の言葉が一番好き。
                  「女を殴る男を殺すのがわたしの夢」

                  そのほかにも店で働くドラァグクイーンたちの私生活の問題を

                  解決する手助けをしていきます。でも彼女にはテキサスに残した

                  夫ジェブがいるんですよ。ジェブの言葉で一度はテキサスに戻ると

                  決めたメイベリンもそこで相変わらずビールを飲みながら

                  男たちがアメフトを見て楽しみ、その世話をするのが妻だけと

                  いうことと、リッキーの生前のステージのビデオを見ていると

                  ジェブに急に消される出来事を体験すると、いかにここが狭い

                  世界で男中心で枠からはみ出したものにとことん冷たいことを

                  実感します。これって日本でもそう。
                  ラストシーンは本当に感動ものです。この映画は多くの人に

                  見てほしい。あらゆる偏見を超えて繋がった人々がいかに

                  優しいかを知ってほしいと思います。

                   

                  ブログランキング・にほんブログ村へ
                  にほんブログ村  人気ブログランキングへ

                   


                  少年の君

                  0

                    JUGEMテーマ:洋画

                     

                    少年の君

                    出典:IMDb

                     

                    「少年の君」

                    原題:Better Days

                    監督:デレク・ツァン

                    2019年 中国=香港映画 135分

                    キャスト:チョウ・ドンユイ

                         イー・ヤンチェンシー

                         イン・ファン

                         ホァン・ジュエ

                         ウー・ユエ

                     

                    全国大学統一入試直前、進学校に通うニェンの友人が

                    いじめを苦に校内で飛び降り自殺をする。彼女の遺体に

                    上着をかけてあげたニェンは、警察の尋問を受け、

                    それがきっかけでいじめのターゲットになってしまう。

                    そして路上で殴られているシャオベイを救ったことから、

                    彼女とシャオベイの不思議なつながりが始まる。しかし

                    ニェンの母親はインチキ化粧品を売り歩く仕事をして

                    おり、その情報が拡散されて、ニェンはさらに学校で

                    窮地に陥るのだった...。


                    <お勧め星>☆☆☆☆ 二人の頬をつたう涙を見ると、

                    誰もが持っている悲しみと希望を感じます。


                    「君は世界を守れ 俺はキミを守る」


                    ヒロイン、チェン・ニェン役のチョウ・ドンユイは、

                    わたしの大好きな映画「僕らの先にある道」(2019)

                    「サンザシの樹の下で」(2010)の主役を演じて

                    います。実年齢は30歳らしいけれど、高校生役も十分

                    こなせます。なんといっても泣くときの表情が秀逸です。

                    必死でこらえ、こらえきれずにすっと瞳から零れ落ちる

                    涙が、その時の苦しさ、悲しさを全て伝えてくれるのです。

                     

                    少年の君
                    出典:IMDb

                     

                    一方相手のチンピラ、シャオベイ役は「TFBOYS」という人気

                    アイドルグループに属するイー・ヤンチェンシー。でもこの

                    グループ知らない。ただ、ズタボロになる姿がぴったりの野性的

                    な青年です。

                     

                    少年の君
                    出典:IMDb

                     

                    日本のアイドルグループの一人が主役になって不良を演じて

                    殴られても顔だけは「きれい」なままということがよくある

                    けれど、この映画では容赦ないのです。
                    さて、2011年、アンチャオ市。
                    ある進学校で一人の少女が飛び降り自殺をします。それは音と

                    それに気づいた生徒たちの反応だけで描かれ、誰一人その現場

                    に駆け付けないのです。皆スマホでそれを撮影し、さっそく

                    ネットに拡散し、他人事のように騒ぎ立てます。その中で一人

                    ニェンだけがそっと遺体に近づき、自分の上着をかけるのです。

                    その結果、唯一警察からの事情聴取を受けることになるのですが。

                    直前まで彼女と一緒に牛乳を運んでいたニェンはその理由を

                    知っているものの、何も語りません。「入試が大事」とだけ言う

                    のです。
                    ところが教室では、彼女の椅子に赤い液体がかけられていて、

                    彼女はそれに気づきそのまま座るのです。これがいじめの

                    ターゲットになった証です。担任も一応注意はするけれど

                    「試験が大事」

                    とばかり語るのです。そういえば進学校に在籍していた時代、

                    教師はとにかく自分のクラスの進学率だけを気にしていたことを

                    思い出します。高3くらいだとあからさまな態度に生徒は

                    とっくに気づいているんだけれど。

                     

                    少年の君
                    出典:IMDb

                     

                    ニェンに対するウェイ・ライたちのいじめはエスカレートする

                    一方で、またこの子が結構可愛いんです。そしてある晩、帰宅

                    する途中、3人に殴られている男子を発見し、思わず通報して

                    しまうのです。すると3人はニェンを捕まえ、

                    「こいつにキスしろ」

                    と命じます。ニェンが涙をこぼしがら血まみれの男子にキスを

                    すると、それをスマホで撮影し、さっそく拡散します。

                    なんでも拡散だよ。
                    この男子はシャオベイといい、明らかにチンピラだし、絶対に

                    接点を持ってはいけないタイプの人間なのに、母がインチキ

                    化粧品を販売し、生計を立てつつ、借金取りや多くの人の苦情を

                    受けている身としては、なぜか同じ位置にいるように思えて

                    しまったのでしょうか。

                    また生まれながら教育は受ける機会がなかったシャオベイは、

                    ニェンの状況を瞬時に把握し、彼女を家に(おんぼろ)呼んで
                    二人でカップラーメンをすすります。中盤にウェイ・ライの家が

                    出てくると、そこは高台にある明るく瀟洒な豪邸なのに、

                    ニェンの家もシャオベイの家もじめじめした空間に物が散乱して

                    いる狭い場所で、それだけで格差を感じてしまいます。ニェンの

                    母はこの状況から脱するために、インチキ商売をしてニェンを

                    いい大学に入れることを強く望んでいるわけです。
                    そして遂にニェンがウェイ・ライに階段から突き落とされる事件

                    が起きます。この階段も冒頭の自殺シーン、そして終盤のある

                    シーンでも上から下に落下することに使われ、それが人生の

                    転落を象徴しているかのようです。ニェンは最初に事情聴取を

                    受けた刑事に連絡をし、いじめた3人は警察に呼ばれますが、

                    それについてもほかの生徒は無関心です。またその結果はと

                    いうと、3人は停学になったものの、受験はさせる。

                    「若いからチャンスを与えたい」

                    ということで担任の責任となり、彼が移動していくのです。

                    ここも不条理感を覚えます。
                    ある時シャオベイが警察に事情聴取を受けている時に、停学中の

                    3人に呼び出されます。警察に電話をしても忙しく対応して

                    もらえない。これは当たり前かもしれないけれど、命にに関わる

                    問題になっているんですよね。
                    「受験さえ終われば夜明け」

                    そう思いつつ、集合写真で一人だけ笑っていないニェンが不憫で

                    たまりません。3人のうちの一人によって見逃してもらえた

                    ニェンはシャオベイに「ボディガード」を依頼するのです。

                    そしてシャオベイのバイクに二人乗りし、シャオベイの家で

                    勉強します。帰宅するシャオベイの傷はそのたびに増えています。
                    「痛くないの?」
                    「痛いなんて初めて聞かれた」
                    シャオベイの言葉は胸に突き刺さります。不遇な生い立ちで

                    ストリート生活をし、チンピラのようにふるまうしかない一人の

                    青年の本音です。
                    しかしニェンに対するいじめはさらにエスカレートし、

                    ウェイ・ライの仲間たちにボコられ、髪の毛を着られ、衣服を

                    はがれ、それを撮影されてしまいます。いじめ問題が発覚すると、

                    必ずこの手の行動がセットで露呈します。

                    「それを自分がされたかどう思うか」

                    という想像力の欠如と

                    「仲間に加わらないと自分がターゲットになる」

                    という恐怖の両方に支配されているのでしょうか。
                    ズタボロになってシャオベイの家に向かったニェンを見て

                    すべてを理解するシャオベイは、彼女の髪の毛を刈り、自分の

                    髪の毛も刈ります。この時に二人が静かに流す涙も胸を打ちます。
                    ラスト付近は、そんなことが起きたのか?と驚きましたが、

                    シャオベイの
                    「君は世界を守れ 俺は君を守る」
                    という言葉でニェンはまた静かに涙を流します。泣きのシーンが

                    多いけれど、それがあまりに自然なので感情移入してしまいます。

                     

                    少年の君
                    出典:IMDb

                     

                    ガラス越しの二人の面会は、互いのアップの時には相手の顔が

                    映ったガラスが重なります。それぞれを映しつつ、相手の表情も

                    わかるのです。
                    2015年、ニェンは学校で教師をしています。あの

                    ラストシーンは事実なのかどうか判断しづらいですが、いつも

                    彼女はシャオベイに守られているという強い気持ちを持っている

                    ことは確かです。

                     

                     

                     

                    ブログランキング・にほんブログ村へ
                    にほんブログ村  人気ブログランキングへ

                     

                     


                    瀑布

                    0

                      JUGEMテーマ:洋画

                       

                      瀑布

                      出典:IMDb

                       

                      「瀑布」

                      原題:Pu bu/The Falls

                      監督:チョン・モンホン

                      2021年 台湾映画 129分

                      キャスト:アリッサ・チア

                           ワン・ジン

                           リー・リーレン

                       

                      新型コロナ感染者が増え続ける今、外資系の会社に

                      勤務するピンウェンは給与減額を提示される。そして

                      娘シャオジンの後ろの席の生徒が陽性であることが

                      判明し、彼女は急遽自宅に戻って来る。ピンウェンは

                      早退の理由を会社に正直に話したことをシャオジンは

                      怒り、一人部屋にこもるが、折しもマンションの外壁

                      工事で一帯が大きな布に覆われており、その中で母子

                      2人の生活は陰鬱なものになっていくのだった。


                      <お勧め星>☆☆☆☆ 単調で終始暗い内容でしたが、

                      ラストはやっと光が差した気がします。


                      大丈夫か?と聞かないで


                      「ひとつの太陽」(2019)のチョン・モンホン監督

                      映画で、やはり主人公の周りの人々の心が丁寧に描かれて

                      います。それがストレートではなく、見る側がその映像を

                      見て察するというものです。
                      2020年、3月、外資系企業で結構いい地位にいる

                      ピンウェンは、会社から給与減額提示を受けるのです。

                      一方絶賛反抗期中の娘シャオジンは、学校で陽性者が出て

                      急遽早退してきます。その電話を受けたピンウェンは

                      そのまま会社に理由を伝えるわけです。これ、今とても

                      デリケートな問題で、娘シャオジンは席が後ろの生徒が

                      陽性者だから「濃厚接触者」になるけれど、無症状です。

                      そして母ピンウェンは娘の濃厚接触者であるけれど、

                      それを会社に伝える必要があったのか、わたしには

                      わかりません。それによって彼女の職場での地位が危うく

                      なることは間違いないからです。

                       

                      瀑布
                      出典:IMDb

                       

                      家の中で自主隔離生活を始めたシャオジンとピンウェンは、

                      なんと家の中でスマホで会話をするのです。また何とも暗い

                      室内だと思えば、今マンションの外壁工事のため建物全体が

                      大きな布で覆われているらしい。家の中はますます陰気に

                      なっていきます。
                      さてピンウェンは、3年前に離婚しており、ある雨の晩、

                      シャオジンが家を飛び出したと思い、傘もささずに外に出て

                      行くのです。この辺りの描写から、ピンウェンの心が少し

                      壊れていることに気づきます。
                      なぜなら、病院からピンウェンがERにいると連絡を受けた

                      シャオジンは、ちゃんと家にいるのですから。さらに自宅

                      隔離中のため、彼女は父親に連絡を取るのです。父親は既に

                      違う家庭を持っており、そこには結構大きな息子がいます。
                      「この子供は誰の子供?」
                      「お父さんの子供だよ」

                      3年前に離婚したはずなのに、この子供フランクは明らかに

                      小学生くらいの年齢です。これにはシャオジンはショックを

                      受けるし、いくら「大人の理由」と言われても受け入れる

                      ことができません。

                       

                      瀑布
                      出典:IMDb

                       

                      ここからシャオジンに母、ピンウェンを守ろうという自覚が

                      芽生えるのです。オープニングは仕事から帰ったピンウェンが、

                      急いでシャオジンのために食事の支度をしていましたが、

                      今度は全く逆の構図です。病院から戻ったピンウェンのための

                      シャオジンが食事の支度をするのです。
                      また、家の財政状況もわかってきます。お手伝いさんへの給料

                      未納、マンションの管理費滞納。そしてシャオジンの友達が

                      家に来ると大はしゃぎするのは、母ピンウェンで、皆が帰った後
                      「わたしのこと言ったの?」
                      というように最初に娘に言われた質問と同じことを娘に言います。

                      ピンウェンの心がどんどん壊れていくのは、あの理知的な

                      美しさを持っていた彼女の風貌が、明らかに無表情になっていく

                      ことからも伺えるのです。
                      二言目には
                      「パパが戻って来る」
                      そして決定的な出来事が起きます。自宅からボヤを出してしまう

                      のです。遠くからそれを見つけ現場に向かうシャオジンは、

                      自分の家が出火元で母が病院に搬送されたことを知らされます。
                      会社に行っているはずのピンウェンは既に解雇されており、それ

                      でも毎日会社に通っていたと言う。さらには会社の駐車場で車を

                      ぶつけているとも言われます。これ全部高校生のシャオジンが

                      一人で受け止めるんですよ。

                      父にはどうしても頼りたくないんだろうな。きっと頼れば助けて

                      くれるだろうけれど、シャオジンにとって父の裏切りはどうしても

                      許せないものだったんだろうか。いや、ここで父に頼ったら、

                      母ピンウェンが「パパが戻ってきた」と思ってしまうからかも

                      しれないな。
                      精神科に入院した母の姿を見て、シャオジンは大きな涙を

                      こぼします。そこには自分の知っている母に姿はなく、また

                      周りは明らかにおかしな人ばかりなのです。
                      しかしマンションの覆いが少しずつ外されていくと、退院した

                      ピンウェンの心の闇も少しずつ消えていくかのように感じられ

                      ます。新しい職場、新しい出会い。
                      「もう我慢したくない」

                      このピンウェンの言葉は彼女の立ち直りを示唆するかのよう

                      でした。戻ってくると信じていた夫の存在は、彼女の中では

                      あまりに大きく、それを失ったことへの喪失感はあまりに深すぎた

                      のかもしれません。
                      「大丈夫か?と聞かないで」
                      ピンウェンの言葉に素直に頷くシャオジンは川にBBQへと

                      出かけます。ああ、絶対に何かが起こる!!
                      ラストに映ったシャオジンのTシャツの文字を見て本当にホッと

                      しました。この直前の川に水が増量するシーンと鍋の湯が溢れる

                      シーンを交互に映すのは、さらにハラハラ度をアップさせる

                      ものでした。マンションを覆っていたあの大きな布は、ピンウェン

                      の心に広がっていた深い闇を象徴していたのでしょうか。

                       

                       

                      ブログランキング・にほんブログ村へ
                      にほんブログ村  人気ブログランキングへ

                       


                      ブータン 山の教室

                      0

                        JUGEMテーマ:洋画

                         

                        ブータン 山の教室

                        出典:IMDb

                         

                        「ブータン 山の教室」

                        原題:Lunana A Yak in the Classroom

                        監督:パオ・チョニン・ドルジ

                        2019年 ブータン映画 110分

                        キャスト:シェラップ・ドルジ

                             ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ

                             ケルドン・ハモ・グルン

                             ペム・ザム

                         

                        教員になったものの全くやる気のないウゲンは、

                        ある日、国で最もへき地にあるルナナ村に赴任する

                        ことになる。オーストラリアに行ってミュージシャン

                        になる夢を持つ彼は、命じられた期間だけその村に

                        行くことにするが、その村まで行くのに一週間かかるし、

                        到着後、何もない部屋に案内される。速攻町に戻りたい

                        ウゲンの前に「勉強したい」と瞳を輝かせる子供たちの

                        姿があった。


                        <お勧め星>☆☆☆☆半 子供たちの表情と大自然に

                        響く「ヤクに捧げる歌」が素晴らしかったです。


                        いい先生かどうかは生徒が決める


                        ブータンと聞けばすぐに頭に浮かぶのが

                        「国民の幸福度が世界一高い」国です。この「幸福度」と

                        いうのは当たり前のことですが、物理的なもので測るの

                        ではなく、国民一人一人の心が「幸福」を感じているか

                        どうかという極めて主観的なものなのです。
                        冒頭に全くやる気のない教員ウゲンの姿が映ります。

                        夜な夜なバーに出かけては友人、恋人と酒を飲み、そこで

                        歌を歌い、夢はオーストラリアに行ってミュージシャンと

                        して成功すること。
                        そんなウゲンは突然、ブータン一へき地のルナナ村へ赴任

                        することを命じられます。家族や友人に見送られ、おんぼろ

                        バスでルナナ村に向かうものの、まず、ガサという町に

                        村長代理のミチェンが迎えに来ています。彼がいろいろ説明

                        していても、ウゲンはメールをひたすらメールを打っている

                        という失礼な態度なんですが、ミチェンは

                        「先生はそれが得意なんですね」

                        と純粋に褒めてくれます。なぜならルナナ村は、携帯電話の

                        電波が届かないし、電気もソーラー発電、またトイレット

                        ペーパーはなく、葉っぱで処理しているという場所なのです。

                         

                        ブータン 山の教室

                        出典:IMDb

                         

                        さあ、その村までの過酷な道のりが始まります。1週間歩き

                        続け、ようやくたどり着いた場所には村人全員(56人)が

                        出迎えに来ています。しかしここから2時間も歩くのです。

                        また、途中、最後の峠、カチュン峠で、ミチェンたちは守護者に

                        祈りを捧げお供えもをするのですが、当然ウゲンはしません。

                        これが帰る時にどう変わっているのかぜひ見てほしい。
                        到着した村の学校は、建物はあるものの、土埃にまみれた

                        机のみ並んでいるだけで黒板すらありません。ウゲンは村長に

                        「すぐにでも町に帰りたい」

                        と訴えます。村長はそれを止めることもなく、案内人やラバを

                        休ませたら出発しましょうと答えるのです。この村人たちは

                        決して他人に強制することはなく、あるがままを受け入れ、

                        日々の生活に感謝し、相手を敬うことを絶対に忘れません。
                        これってすごく大事なことなのに、とても難しいことですよね。
                        ウゲンは町では「最もやる気のない教員」だったのに、ここでは

                        「未来に触れることができる存在」と言われます。

                         

                        ブータン 山の教室

                        出典:IMDb

                         

                        そして何より寝坊したウゲンを呼びに来た生徒ペムザムも含め

                        子供たちのキラキラした瞳に胸を打たれます。

                        「世界の果ての通学路」(2014)では学習意欲が高いのに、

                        家庭環境や通学距離の長さから、困難な状況に置かれている

                        子供たちが描かれていました。
                        村長が

                        「ここにいたらヤクを飼うか、農作業するしか職業の選択肢が

                        なくなる。子供たちの未来を広げてあげたい」

                        と語る言葉はとても重いです。しかしウゲンは、なかなかそれが

                        理解できません。

                         

                        ブータン 山の教室
                        出典:IMDb

                         

                        そのウゲンが少しずつ村に馴染み、セデュという「ヤクに捧げる歌」

                        がとても上手な女性と知り合い、その歌を教えてもらっていく姿が

                        授業風景とともに描かれ、あのやる気になかった青年が一気に
                        成長したもんだ!と驚くこと間違いなし。でもそこには村人たちの

                        優しい心遣いと子供たちの純真な姿の存在が影響していたことは

                        確かです。

                         

                        ブータン 山の教室
                        出典:IMDb

                         

                        アルファベットを教えていると、cで「car」では理解できないの

                        です。なぜなら村には車がないし、走る姿はおろかその存在すら

                        知らないのですから。だから「cow」に変えるのです。

                        そして友人から送ってもらった荷物から、教材、ボール、ギター、

                        歯磨きなどを取りだし、それを使って子供たちだけでなく村人

                        たちにも、知らない世界を教えていきます。ウゲン弾くギターに

                        合わせて生徒も村人もものすごく楽しそうに歌うのが印象的です。

                        背後に広がるのは数々の山と草原で、その大自然の中では人間が

                        いかに小さな存在であるか再認識させられます。
                        この自然も最初に村に向かう時、ミチェンが

                        「かつてはここはいつも雪に覆われていた。しかし今はそれが

                        減っている。雪の獅子の住み家はとても重要な場所」

                        と語ります。ウゲンは

                        「地球温暖化のせいだね」

                        とさらりと答えますが、地球温暖化を促進させている場所と最も

                        かけ離れた場所で、その影響を被っている事は、本当に不条理

                        でもあります。
                        村に魅せられ、セデュの「ヤクに捧げる歌」に魅せられ、ipodが

                        突然充電できたことにも気づかなかったウゲンは、

                        「冬が近づいている」

                        ことを村長に知らされるのです。それは町に戻ることを意味し、
                        彼も山を下り、オーストラリアに行くことを再確認します。

                        「世界一幸せな国から外国に行くのか」

                        村長は語ります。
                        出発の日、村人全員が見送り、その中で目に涙をいっぱいため

                        たペムザムが彼に手紙を渡すのです。セデュは白いマフラーを

                        贈り、村長は「ヤクに捧げる歌」をどこまでも届くような美しい

                        声で歌います。
                        ウゲンは結局雪が解けた時に、この村に戻るのかはっきり描いて

                        いませんが、ラストに彼が歌う「ヤクに捧げる歌」がどちらで

                        あるかを物語っているのではないでしょうか。

                         

                        ブログランキング・にほんブログ村へ
                        にほんブログ村  人気ブログランキングへ



                        PR

                        カレンダー

                        S M T W T F S
                             12
                        3456789
                        10111213141516
                        17181920212223
                        24252627282930
                        31      
                        << March 2024 >>

                        ブログランキング

                        今日のわんこ

                        powered by 撮影スタジオ.jp

                        アマゾン

                        遊びにきてくれてありがとう!

                        カウンター

                        死語レッスン

                        最新記事

                        categories

                        過去の記事

                        コメントありがとうございます!

                        トラックバックありがとうございます!

                        recommend

                        お友達

                        ミス・マープルについて

                        書いた記事数:3431 最後に更新した日:2023/01/12

                        あの映画を探そう!

                        others

                        mobile

                        qrcode

                        powered

                        無料ブログ作成サービス JUGEM