「コクリコ坂から」
監督:宮崎吾朗
企画、脚本:宮崎 駿
2011年 日本映画 91分
声の出演:長澤まさみ
岡田准一
竹下景子
石田ゆり子
柊 瑠美
風吹ジュン
1960年代、海の通う高校では、老朽化した文化部室を建て替える問題で
生徒同士の論戦が激化していた。取り壊し反対派を率いているのは、吉野
と風間という男子生徒で、海はその風間に、いつしか思いを寄せていくのだった。
舞台は、東京オリンピックを目前に控え、古いものは壊し、新しいものに替えられて
いた、日本が高度成長期に入り始める頃の物語です。
アニメながら、オート三輪、ミゼット、ローラーで洗濯物を絞った洗濯機、そして
ガリ版印刷など、その時代を象徴する小道具がうまく再現されています。
海は、毎朝、起床すると、ご飯を炊くお釜をかけたガスコンロにマッチで火をつけ、
父親の遺影に水をあげ、庭に出て信号旗を掲げるのです。横浜の高台に建つ
彼女の家からは、海に浮かぶ幾つもの船が目に入って来ます。
海の家に住んでいる様々な人々のことは、さらりとしか描かれず、それは、彼女が
恋する男子生徒の家についても然りです。しかし、それであるがゆえに、ジブリ作品
らしい、どこの国かいつの時代かわからないストーリーのような雰囲気を醸し出して
いると思います。そしていつしか映画の中に引き込まれていきます。
カルチェラタンという伝統ある文化部室の建て替えを巡る生徒同士の論戦は、既に
始まっていた60年安保闘争にのめりこんでいた大学生たちの真似のように、難解な
言葉を駆使して行われています。こういう問題意識が薄れていったのは、いつ頃から
だろう。
そして海は、その建て替え反対派のリーダー格である風間に胸をときめかせるのです。
自転車に二人乗りして、それも今風ではない横座りで、坂道を走りおりていくシーンは
胸キュンものです。
ところが海の家で、風間が、海の父親ら3人が写った写真を見た途端に、表情が硬く
なり、そしてよそよそしくなってしまうのです。戦後の混乱が残る時代であったからこそ
起こり得た出来事であり、結構ありきたりな展開なのですが、なぜかすんなり受け入れ
られます。
重大な事実を知ってもなお、路面電車の停留所で、本心を打明けあう海と風間。やだ、
すごく胸が傷んじゃう。既に頭の中の記憶に鍵をかけ、その場所すら忘れていたものが
あっという間に飛び出してきたような感じを受けます。甘酸っぱい感情です。
「いい男」。海の母親は、朝鮮戦争で亡くなった船乗りの父親のことをそう言います。そんな
「いい男」は、現在では絶滅衣危惧種になっているのではないでしょうか。
シーン毎に変わるBGMと手嶌葵の歌が耳触りの良いものとなっています。
<マープルの採点>
お勧め星 ☆☆☆☆
茶々、昨日無事に避妊手術終了。これで大人しくなる...かな。