サンセット

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JUGEMテーマ:洋画

 

サンセット

出典:IMDb

 

「サンセット」

原題:Napszallta/Sunse

t監督:ネメシュ・ヤカブ

2018年 ハンガリー=フランス映画 142分

キャスト:ユリ・ヤカブ

     プラド・イバノフ

     エベリンド・ボシュ

     マルチン・ツァルニク

 

1913年、ブダペスト。イリスは他界した両親が

遺した高級帽子店を訪れる。彼女はそこで職人として

働くことを願ったが、オーナーのブリルに断られ、

さらに彼女には兄がいたことを知るのだった。


<お勧め星>☆☆☆ 結構長く感じられる映画で、ラスト

もモヤモヤしますが、帽子の美しさにその華やかな時代

を見て取ることができます。


大混乱への予兆


監督は「サウルの息子」(2015)でデビューした

ネメシュ・ラースロー。ユダヤ人強制収容所で同胞の

死体処理に従事したゾンダーコマンドの存在を初めて

知った映画です。この後で同じ題材を扱った
「灰の記憶」(2001)を鑑賞しましたが、全く違う

衝撃を受けました。前者は絶望と罪の意識を払しょくする

ために「葬儀」にこだわったのに対し、後者は「生存」

させることにこだわりました。
ただどちらもその先に希望があるわけもなく、特に

「灰の記憶」では序盤から高い煙突が映され、そこから

空に吐き出されていく煙が意味するものを一瞬たりとも

忘れさせない内容になっています。
「サウルの息子」は、サウルを中心に映されることが多く、

背後で行われる残酷なシーンはピンボケになっていることが

多かったです。そのカメラワークの切り替わり方が特徴的

でした。
さて、この映画では、1910年代の

オーストリア=ハンガリー帝国、ブダペストが舞台です。

それを聞いてピンと来るのは、第一次世界大戦開戦の

きっかけとなった1914年のサラエヴォ事件で、
その際に殺害されたオーストリア=ハンガリー帝国皇太子夫妻

が映画内にも登場します。まさに戦争開始前夜の混とんと

した時代であったわけです。

 

サンセット
出典:IMDb

 

ヒロインのイリスは、亡き両親が遺したブダペストの高級帽子店

レイターを訪れ、そこで職人として働くことを希望すると、

現オーナーのブリルは表情を曇らせ、

「一晩泊まったらここを出ていきなさい」
と言うのです。

 

サンセット

出典:IMDb

 

序盤から映る色とりどりの華やかな帽子の数々は、時代が

栄華を極めていたことを象徴しています。
ところがその晩、店に侵入してきた一人の御者の男に「兄の存在」

を告げられるのです。その兄はカルマンという名前であり、

さらに伯爵を殺害し、店の評判を落としてしまったらしい。

なるほどそれでイリスを追い払おうとしたわけか。いえいえ

そんなに単純な話ではないんですよ。この帽子店の華やかさの

裏側に隠された秘密...それははっきり説明されないけれど、

「闇」でもあり、また兄の所在を執拗にイリスが追い求めると、

出会う人ごとに「小出し」に情報を教えたり、教えかけると

何かで遮られたりの連続で、かなりストレスが溜まります。

 

サンセット
出典:IMDb

 

映像は「サウルの息子」の時同様にイリス視点で映し出され、

背景がぼやけたままだったり、ハンディカメラでイリスを

追うものが多く、見ているとかなり疲れます。遠くで誰かが

動いているなあ、それは誰かがわからないなあ。暗い上に

シーンの展開が早くて何が起きたのかなあ。そんなシーンも

たくさんありました。そもそもイリスが存在すら知らなかった

兄をここまで追い続ける「理由」の説明がないのです。

混乱した世界を象徴的に描いていたのだと納得しているけれど、

かなり難しい内容でした。

 

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息子のしたこと

4

JUGEMテーマ:洋画

 

息子のしたこと

出典:IMDb

 

「息子のしたこと」

原題:Tuhijo/Your Son

監督:ミゲル・アンヘル・ビバス

2018年 スペイン=フランス映画 103分

キャスト:ホセ・コロナド

     アナ・ワヘネル

     アシア・オルテガ

     ポル・モネン

     エステル・エスポシト

 

外科医ハイメの息子マルコスはある晩凄惨な暴行を受け、

病院に担ぎ込まれる。ハイメはその犯人を突き止めようと

息子の友人たちに話を聞くが、誰もがはっきりと答えない。

彼は次第に狂気に満ちた行動をとり始めるのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆ 自分に置き換えた時どうなるかを深く

考えさせられる映画です。


父親の愛

 

 

<たぶんネタバレ>


父親が娘を愛するあまり、猛烈に強くなった映画は言わず

もがな「96時間」(2008)です。誘拐された娘の

ために、パパが誘拐犯たちをどこまでも追い詰めるという

ストーリーでした。リーアム・ニーソンが本当に強くて

かっこよくて、それでいて娘に向ける眼差しは、まさしく

「溺愛」そのものでした。
さてこの映画の主人公で外科医ハイメも息子マルコスと

娘サラがいるものの、マルコスとは特に気が合い、マルコスも

父を慕ってくれるというある意味相思相愛なのです。

かなり裕福なのでしょう。息子の通学のためにプリウスを

買ってやろうとか言っていました。あきれ顔で受け流し、

息子と娘を学校へ送る妻カルメンこそが常識のある親と

思ってしまうのは他人だからかな。
この映画には他に2通りの父子の姿があり、ハイメが主治医を

務める少年サルバと父ホアン、マルコスが暴行を受けた

場所にあるクラブのオーナー、マヌエルと息子ラウル

です。それらはいずれも第三者から見ると明らかに歪なもの

なのに、当事者は全く実感を持っていません。それはハイメ

も同じことなのです。人の親子関係は客観視できても、

自分のそれになると必ず偏ってしまうのと同じだと思います。
映画は誰に肩入れすることなく淡々と映像が進み、見ている

側に判断を委ねているようにも思えます。意識不明に

なるほどの重傷を負ったマルコスの姿はぼんやりとしか映らず、

その姿を見て絶句し、嗚咽をもらすハイメ、カルメン、

サラの姿でそれを推測するのです。
そしてハイメはマルコスが暴行された現場を見て、さらに

そこに居合わせた彼の友人に話を聞きます。恋人だった

アンドレアとは別れていたようだけれど、それも気づかない

ハイメは執拗に彼女を追うし、彼女は逃げるようにハイメ

から遠ざかるのです。この理由はなぜか。ここでアンドレアの

顔に見覚えがあると思ったら、先日見た「天使が眠りにつくとき」

(2018)でヒロイン、シルビアを演じたエステル・エスポシト
じゃありませんか。やっぱり可愛い。そしてハイメの娘サラ役も

同じ映画でグロリアを演じたアシア・オルテガです。

だいぶん雰囲気が違うな。
ハイメの必死のパッチの追求にマルコスの友人ペドロが

暴行犯の1人を教えます。

 

息子のしたこと

出典:IMDb

 

するとハイメはもう彼をストーカーのように追い続けるし、

遂にはその少年ラウルのスマホを強奪し、息子が映っている動画を
見てしまいます。これはさらにハイメの復讐心を焚きつけるもので、

彼の頭から「正常」というネジがどんどん外れていくのが手に

とるようにわかります。娘や妻が彼を非難する目で見ていることさえ
気づかなくなってしまう。究極の親ばかと言ってしまうのは簡単

だけれど、もしも同じ立場になったらこういう考えを持つ人は

少なくないと思う。実行するかは別として。
復讐のために利用するホアンも、ハイメが父子の関係を逆手に

とって脅したようなものだし、それがバレて逆にハイメを襲う

マヌエル(ラウルの父親)も常軌を逸しているとしか思えない行動を

とります。
どいつもこいつも親ばかなんです。自分の子供だけが可愛いのです。
ラスト付近にわかる真相すらも受け入れず「愛情表現だ」と

切り捨てるハイメの姿に納得する人はいるでしょうか。そして

納得しなかった人は自分の息子が、ラストにだけ映る見る影もない

マルコスの姿のようになった時に、同じように考えられるでしょうか。

多くの質問を投げかける映画でした。

 

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マウントハウゼンの写真家

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マウントハウゼンの写真家

出典:IMDb

 

「マウントハウゼンの写真家」

原題:El fotografo de Maunthausen

         The Photographer of Maunthausen

監督:マル・タルガローナ

2018年 スペイン映画 110分

キャスト:マリオ・カサス

     リシャルト・ファン・ヴァイデン

     アラン・ヘルナンデス

 

第二次世界大戦中、マウントハウゼン収容所。

スペイン人捕虜のボシュはドイツ軍のリッケンの

下で記録管理係をしていた。彼はそこでナチス

ドイツの残虐の行為を写したネガを発見する。
そして敗色が濃くなり書類等の焼却を命じる

ドイツ軍の目を盗んで外に持ち出すことを計画

するが...。


<お勧め星>☆☆☆半 ナチスドイツのユダヤ人以外

への残酷な行為を知ることができます。


指示に従っただけ


マウントハウゼン収容所は、オーストリアの花崗岩

採石場のある町に建設された再教育の見込みのない

囚人に強制労働を課すためのものです。但し絶滅収容所

ではないので、ユダヤ人という人種だけでなく、ソ連軍

の捕虜や反体制分子、病人、労働できなくなった者が

ガス殺されていました。映画内のスペイン人捕虜たちは

ヒトラーの参戦の求めに応じなかったフランコ政権に

より国籍をはく奪されており、いわば祖国に見捨てられた

人々だったのです。
多くの収容所と同じで、囚人たちは身に着けたものを

すべて没収され、髪をそられ、全裸で雪の上に整列された

上で、何らかの選別をされていきます。これは

「労働できるか否か」

という単純なもので、囚人たちは収容中何度もこの行為

をさせられ、労働できないと判断されると即ガス殺送りに

なっていたのです。冒頭にハモニカを持った父と息子が映り、

その父は片足が無く、最初の選別で違う収容所へと送られます。

これが何を意味するのかその時点でわかってしまうだけに

辛いです。

 

マウントハウゼンの写真家
出典:IMDb

 

そしてマウントハウゼン収容所の記録管理部門に配属された

ボシュは、ドイツ軍兵士リッケンの下で写真撮影や現像作業

を行っていきます。リッケンはある意味芸術として写真を

とらえており、修正、演出してこそ素晴らしい写真が出来

上がると考えているのですが、その演出が、事実を伝える

はずの写真の価値を一気に下げるもので、1枚の写真で

「事実」を知った気になるのがとても危険であると実感します。
逆に事実を伝えている写真を、様々な解釈によって全く違う

真実へと導いてしまうのも恐ろしいと思うのです。ここは

しっかり調査しつくして理解すべきところだと思います。
ナチスドイツによって行われてホロコーストは、このように

持ち出されたネガや辛うじて残っていた記録、生存者の証言

などで、確固たる事実として伝えられることができています。

しかし「否定と肯定」(2016)のようにホロコースト

否定論者の考えをいかにして「否定するか」は、あの裁判映像

を見てもわかるように並大抵の労力では行えません。最も

有力である生存者の証言を侮辱をもって否定していくからです。

「同じ土俵に乗らない」これは他の話でも言えることでは

ないでしょうか。
ボシュがナチスドイツが破棄しろと命令したネガをいかにして

隠し持っていたか、それは収容所での残酷な処刑や残忍な

所長の行為、さらには囚人頭と呼ばれたカポの強権的な行動

などを含め描かれていきます。
ボシュがホームレスとして脱走しようと準備するシーンと

ドイツ兵を集めておくために収容所内で行われる演芸の舞台、

そしてカポが中座して「死の階段」から囚人を突き落とし、

演芸のステップ「ダン」という音と共に落ちた囚人を踏みつける。

これらの映像が入れ替わり映り込み、ネガを持ち出すことが

できるのかどうかハラハラします。そしてドイツ兵でもない

ただの囚人であるはずのカポの残忍さにも思わず息をのむのです。
「死の階段」だけでなく「人体実験」「脱走者への見せしめ処刑」

なども映され、戦争というものが呼び起こす人間の狂気を

この目で見ると、やはり恐怖を感じざるを得ないのです。

 

マウントハウゼンの写真家

出典:IMDb

 

映画内で同じスペイン人捕虜の女性が、囚人へのご褒美と

しての慰みもの扱いされていたのも、やはり人間性を奪う

のが戦争だと実感しています。

指示に従っただけ、という理屈では納得のできない行為を平

気で行ってしまうのだと肝に銘じておきたいです。

 

 

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ナチスの犬

4

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ナチスの犬

出典:IMDb

 

「ナチスの犬」

原題:Suskind

監督:ルドルフ・バン・デン・ベルグ

2012年 オランダ映画 118分

キャスト:ユルン・スピッツエンベルハー

     カール・マルコビクス

 

1942年、ドイツ占領下のオランダで、ドイツ系

ユダヤ人、ズスキンドは、家族のためにユダヤ人移送の

指揮官の任務に就く。しかし同胞の移送が「労働」の

ためではないことを知った時、子供たちを救うため

様々な方法を試みるのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 ナチスドイツ支配下でのユダヤ人の

姿をまた違った角度から描いています。


悪の凡庸さ


ナチスドイツによるユダヤ人迫害を描いた映画は

数えきれないほど作られているし、その視点がナチスドイツ側、

ユダヤ人側の両方からこれまた幾つも、そして様々な国の

人々の立場で描かれてきましたが、この映画のように

ナチスドイツに利用されるユダヤ人の姿を映したものは

本当に恐ろしくて悲しい。
「灰の記憶」(2001)「サウルの息子」(2015)は

強制収容所内で自らが生き残るために、同胞の死体処理を行う

ゾンダーコマンドの姿を描いていました。

「もしかしたら自分だけはガス室送りにならないかも」
「少しでも長く生きて終戦を迎えたい」

など、淡い期待を抱かせつつ、自らの手を汚さないナチスドイツの

残虐さには言葉を失います。その仕事は断ることはできず、

引き受けるか自殺するかしか選択肢がなかったことや、彼らが

3か月から1年程度でガス室送りになったことを知ると、

これほど残酷な行為が人間にできるものかと驚いてしまうのです。

ガス室内に転がる自分の家族を見つけた時の気持ちはどのように

表現できるのだろう。

 

ナチスの犬
出典:IMDb

 

この「ナチスの犬」では主人公のズスキンドは、オランダに

住むドイツ系のユダヤ人で、同じユダヤ人を「労働力」と

してドイツに移送するために一旦収容する施設の管理を

任せらるわけです。
まず自分たち家族が収容される名簿から外すために、その仕事を

引き受けたはずが、実は「労働」のための移送ではなく、

「粛清」のためであったと知ると、彼は、その仕事に加担して

いたことに驚くと同時に、自分の地位を利用して、子供たちを

逃がす計画を立てていきます。

 

ナチスの犬

出典:IMDb

 

それにはSSの大尉フュンフテンに取り入ることから始まります。

そもそも移送免除を出すのがユダヤ人評議会で、彼らはナチスドイツ

から言われた人数を名簿に載せるという流れ作業を、これまた

他人事のように行っているのです。ユダヤ人であっても立場が

これほど異なるわけです。ズスキンドが親しくなる

(親しくなりやすいと察した)フュンフテンは、実は孤独で酒好き

であり、自らの弟が戦争で大けがを負っているという状況で、

映画内でも少佐に叱責されるように、極めて人間味あふれる人物

だったことは確かです。

それは彼がズスキンドを信頼し、自らの誕生日会にも招待した

時に「平時なら親友になれた」と語るように、戦争がなければ、

自分で思考し、自分で行動できたはず。それが戦争が起き、組織の

中に取り込まれると、「正義」というのは、指示に従うことに

ほかならなくなるのです。
その点はズスキンドも同じであり、たとえ知らなかったとはいえ、

同胞を移送列車に乗せる任務を請け負ったことは、邦題にあるように

「ナチスの犬」になっていたと誰が見ても思うでしょう。自らの
家族を優先して、他人を犠牲にしてしまったとも言えます。

それでもズスキンドは、危険を冒しながら子供たちを逃がすわけ

です。すべてがバレるのは時間の問題だったとはいえ、移動列車に

乗せられたら、その先にあるのは「灰」になることで、何十万の

犠牲の中の数百人の救済だったとしても、彼の行為は勇敢なもので

あったと思います。しかし彼が移動列車に乗った時には、同胞に

唾をかけられるのです。それもとてもよくわかる。
ユダヤ人は被害者であったけれど、その姿は様々なもので、

命のために売春婦になったり、同胞を売ったり、ユダヤ人親衛隊と

なったものもいました。一方、ナチスドイツは完全に加害者で

あるけれど、一人一人が完全な悪人であったとは思えないのです。

もちろんそれが行った罪を許す理由にはならないし、必ず

裁かれるべきことなのに、終戦間際に逃亡を開始した者や、無関係を

装った者たちがかなりいたことは確かで、戦争によって

引き起こされる人間性の破壊の恐ろしさを、しっかり目に焼き付けて

おきたいです。

 

 

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コレクターー暴かれたナチスの真実ー

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コレクター

出典:IMDb

 

「コレクターー暴かれたナチスの真実ー」

原題:De Zaak Menten

監督:ティム・オリウーク

2016年 オランダ映画 130分

キャスト:ガイ・クレメンス

     アゥス・グライダヌス

 

1976年、アムステルダムの記者クノープの

もとに、美術収集家で大富豪のメンテンが、

第二次世界大戦中にナチスドイツとともに住民を

大量虐殺し、その美術品を強奪していたという情報が
寄せられる。クノープは事実を確認するため、

メンテンに面会を申し入れるのだったが...。


<お勧め星>☆☆☆半 戦争犯罪に時効はないという

思いを強く抱きます。


三つ編みにされた髪の毛


第二次世界大戦中、ポーランドにおいて、ナチスドイツと

組んで、ユダヤ人やソビエト共産党員などを虐殺し、

美術品等を略奪したオランダ人富豪ピーター・メンテンが、

1976年にオランダで起訴された事件をオランダにて

映画化したものです。

起きた場所はポーランド(裁判当時はソ連領)、犠牲者は

ユダヤ人にとどまらない、そして一度は戦争裁判で服役を

した人物への30年を経ての裁判であり、その人物は

オランダの実力者、一方の原告は一人のユダヤ人新聞記者と

いう極めて特異な構図になっています。

 

コレクター

出典:IMDb

 

メンテンは金の力で、最初の裁判の判決を下した判事等に

逆提訴を行っており、彼の言い分としては「ユダヤ人の

資産を買い取って、逃亡の手助けをした」。

そして没収された美術品を再び自分にもとに取り戻して

いたのです。
アクセス誌という雑誌の編集長クノープは、自らがユダヤ人で

あるということもあって、ナチスの犯罪には目をつぶれなかった

と思う。しかし親会社の新聞社のグループ会社からの抗議や
「新聞は両側に立って記事を書かないといけない」
というちょっと聞いただけなら正論のように思えるまやかしを

言われ、他の記者にメンテン擁護の記事を書かれてしまいます。

それでもクノープが調査すればするほど、メンテンの疑惑は

確信へと変わっていくばかりなのです。

 

コレクター
出典:IMDb

 

序盤から入り込む1930年代のポーランドののどかな村での

楽し気な人々の姿が、ある時急に、恐ろしい状況に変わった

とき、なぜメンテンがこのような行動をとったのか?という

大きな疑問を覚えます。メンテンはかなり裕福な生まれで、

たまたまポーランドのその村にいた時、ソビエト共産党軍の

襲撃を受け、辛うじて命拾いをしますが、その時から彼は、

権力を大変うまく活用し、自分の立場を固めたうえで、美術品

を獲得していったのです。それはナチスドイツの将校の機嫌取り

のために、ユダヤ系絵画商から高価な絵をタダ同然で買い上げる

という姿を映し、彼がいかにずる賢い人物であったかを

知らしめます。戦時中だったからこのような行動になった、

としてもそれがどうして、つい先日まで仲良く暮らしていた

隣人たちを虐殺したのか、という理由にはなっていません。

ここがどうしても引っかかるんですよね。これは彼が罪を

認めないまま亡くなってしまったので、二度とわからないでしょう。
起訴されてからの裁判風景も、一審は有罪判決を受けたものの

控訴審では、なんと無罪になってしまいます。それから上告して

どうなるのか。結果はわかっているけれど、金の力で人が操れる

という人間がいかにクズであるかと、お金がない自分は思って

しまう。そしてオランダというナチスドイツの侵略を受けた国で、

その国民の戦争犯罪を自国で映画化したことは大変価値がある

ことだと思うのです。でもメンテンがユダヤ人であるなしに

関わらず1000名以上殺害して禁錮10年、それもかなり早めの

仮釈放を受けたという話を聞くと、その軽さに驚くばかりです。

自ら掘らされた穴に横たわる血にまみれた人々の姿を見ると、

戦争が生み出したであろう人間の残忍性に言葉を失います。

 

 

 

 

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検事 フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男

3

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検事フリッツ

出典:IMDb

 

「検事 フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男」

原題:Die Akte General

監督:ステファン・ワグナー

2016年 ドイツ映画 93分 PG12

キャスト:ウルリッヒ・ノエテン

     デビッド・クロス

     ディーター・シャード

     ウーベ・ボーム

 

ナチスの戦犯アイヒマンを追い続ける検事総長バウアーは、

周囲の妨害にも耐え、独自の方法で捜査を進めていた。

そんな彼は若い検事ヘルを部下と共に情報収集に奔走

するが...。


<お勧め星>☆☆☆ かなり地味な映画ですが、

アウシュヴィッツ裁判開廷に向けていかに苦労したかが

伝わります。


「父親世代とは違う道を」


「ナチスの犯罪に関する細部を知らなければ、ヒトラー

体制の凶暴さは理解できない」この姿勢で負の歴史と

対決し続けているからこそドイツは、旧被害者国との

間に一定の信頼を回復できたと数多くの映画で描かれて

きました。しかしその過去にしっかり向き合うまでに、

ドイツ国内において幾多の苦労が重ねられてきたのです。

映画内の主人公、検事総長フリッツ・バウアーは、

ユダヤ人でかつて収容所生活を送った過去持つ人物。

この名前は「顔のないヒトラーたち」(2014)でも

登場しました。あの映画ではアウシュビッツ裁判を起こす

ために、一人の若い検事が上司の制止を振り切って調査を

開始し、そこから次々に明るみに出る悲惨な過去に言葉を

失ったものです。何度見ても酷すぎる。
敗戦国となり、その後十数年を経てようやく復興の兆しを

見せてきた西ドイツにとって、ナチスドイツ時代の

戦争犯罪を暴くことは、その復興に水を差す物であり、

東西冷戦の真っただ中だったこともあって、ソ連を中心

とした共産圏に取り込まれる発端にもなり得たのです。

東西ドイツに分かれていた時期に東ドイツにこの捜査の

主導権を握られるわけにはいかないという思惑も存在

しました。
そもそも戦争が終わりました、はい、ナチス党員だった

国民のすべてがその思想から解放されました。などと

言うわけがない。表面上は新生ドイツのように見えて

いても、ドイツ人の心の中からナチズムが全て消えた

はずもないのです。現に公職に就けないはずのナチスの

幹部が、首相の側近だったり、警察幹部だったり、あげくは

司法の場にもぞろぞろいるわけで、彼らにとってナチスの

戦犯捜しは西ドイツの信用を傷つけるものに他ならなかった

のも理解できます。映画の序盤に裁判風景が映りますが、

決して公平な裁判とは言えないのです。またユダヤ人で

あるバウアーには毎日脅迫状が数十通届くし、脅迫電話も

かかるし、家の塀には差別的な落書きをされてしまう。

これらが全て今のドイツで許されないことになっているのが

ある意味画期的だと思うのです。

 

検事フリッツバウアー
出典:IMDb

 

またバウアーの部下として起用した血気盛んな若い検事ヘルは、

戦後育ちであり、ナチスドイツの行ったことを全て知っている

わけではないことも歯がゆく感じます。「顔のないヒトラーたち」

で、若い検事が真実を知るたびに驚愕の表情を浮かべ、証人の言葉に

タイピストが涙にくれるシーンもありました。大変残虐な行為

だったけれど、それはどこでもいつでも起こり得ると思えて

しまうのが本当に恐ろしい。今でも世界のどこかで起きている

かもしれないのです。
バウアーがアイヒマンをモサドに確保させ、イスラエルは

まるでショーのように裁判を行うわけですが、何度聞いても

怖いのは、彼が

「600万ではなく1080万殺せば胸を張れた。ユダヤ人を亡ぼせた」
と言い切ることです。しかしそれはアイヒマンが一人で考えついた

ことではなく、ハンナ・アーレントが考察した通りかもしれません。

つまりユダヤ人としては、アイヒマンらを真っ向から非難し、

断罪することが当時の常識でしたが、彼女はそれをしなかった。

善悪を考える力もない連中の犯罪だった、と主張したわけです。

それは、単純な正義を振りかざす者に『お前は程度が低いよ』と

言ったようなもの。

 

検事フリッツバウアー
出典:IMDb

 

このあたりは映画では全く描かれておらず、バウアーが

東ドイツやイスラエルの人々と接触するうちに、彼自身が

西ドイツ内でスパイの疑惑を掛けられ、監視対象になって

いたことや、彼自身の性癖が当時のドイツでは刑法の抵触

するものであったことなど映されていきます。ヘル検事が

いかにも典型的なドイツ人の妻を持ち、かなり裕福に

暮らしているのも対照的に映るのです。
アイヒマンが証言すると立場が危うくなる公人が多くいた

けれど、それを暴かないで、つまり過去の悲劇と真摯に

向き合うことなくして、学び前進することはあり得ないと

いうことは確信できます。
そしてそれを行えたことこそが、ドイツが法治国家である

ことの証でもあると思うのです。
人間の基本的権利を守ること=司法の責務だとこれからも

ずっと信じられる国でいたいものです。

 

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幸福の罪

4

JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

幸福の罪

出典:IMDB

 

「幸福の罪」

原題:Nevinnost

監督:ヤン・フジェベイク

2011年 チェコ映画 102分

キャスト:オンドジェイ・ベトヒー

     アニヤ・ガイスレロバ

     ヒネク・チェルマク

 

リハビリ医をしているトマシュは、患者だった少女への

児童虐待の疑いで警察に通報され逮捕される。捜査を

担当するのは、トマシュの妻ミラダの前夫ラダであり、

彼女はラダへ憎悪の気持ちを募らせる。一方ミラダの

妹リダはトマシュや姉を信じ、父の介護をしながら

明るく振舞うのだったが..。


<お勧め星>☆☆☆半 表面上の幸福に隠された秘密が

1つの出来事をきっかけに露呈していく様が美しい音楽、

景色と共に描かれています。


「愛し合う」の意味


とても意味深なオープニングです。10代前半の下着姿の

少女を横たわらせ、腰から足にかけて触り、その動きを

確認する中年男性。よく見ると背後に看護師が映りこんで

いることから、この男性トマシュがリハビリ医であることが

わかるのです。ふむ、これは治療の一環だから何の問題も

ないよね。

 

幸福の罪

出典:IMDb
 

そして裕福そうな大家族が映り、彼らの人間関係を知ろうと、

まず必死になります。とりあえずは、認知症気味の老人は、

一家の主で、ミラダとリダ姉妹の父親らしい。ミラダには

息子ダニーと娘テレザがいるけれど、トマシュとの実子は

テレザで、ダニーは前夫ラダとの間の子供らしい。同じような

名前ばかりで混乱しますよね。映像を見ていると容貌がかなり

個性的な人たちばかりなのですぐに覚えられます。この一家は

プール付きの邸宅に住んでいて、なかなかよろしい生活を送って

いる模様。ただリダは父の意に反して、歯科医の大学を中退し、

施設や病院を回って、人々を励ます仕事をしているのです。

 

幸福の罪

出典:IMDb

 

この時に扮しているのが「ピエロ」。「ピエロ」というと一番に

思い浮かべるのが「ホラー」ですが、このリダの演じるピエロは、

本来の意味である「道化師」そのものの表情をしているのが

気にかかります。「クラウン」(2014)のように

鼻が取れない!!

なんてことは全くありません。
この表情が意味するものが分かるのは映画のかなり後半であり、

そこで一気に全てが見ている側に伝わります。しかしそれは映画の

中の人々がその時全員知っているわけではないのです。それを

知った時の状況は描かれないので脳内で推測するしかありません。

 

幸福の罪

出典:IMDb
 

そして事件の発端となるのが、オリンカという少女の親からの

通報で、彼女の日記を読むとまるでトマシュがオリンカを

性的虐待したかのように書かれているし、オリンカ自身も肯定

します。これがどう考えても夢見がちな少女の妄想の域を出て

いないのに、事件の担当がミラダの前夫ラダだったことで、

ミラダは怒りを募らせるのです。実はミラダは、ラダと結婚

している時にトマシュと浮気をし、テレザを授かったことから、

離婚、そして再婚しています。

「ラダが今になっても嫌がらせをするんだわ。」

この時に怒りをぶつけるラダの言葉は、ちょっと言い過ぎよ〜と

思うほど。追いつめられると言ってはいけない境界線を越えた

ことを気づかないまま言葉として発してしまうのかしら。

発してしまうな、きっと。
一方誕生日パーティーを自宅で開催し、あんなに盛り上がったのに、

この事件でテレザは友達から後ろ指をさされるわけです。

「患者の少女に性的虐待した医師逮捕」

なんてネットニュースが流れたら当然ですよね。
そんな中でリダだけが皆をなだめ、トマシュを信じ、事件前と

変わらない振る舞いをしています。しかし...。
たった一つの出来事で、表面上は幸せに暮らしていた人々の心が

大きくざわつき、思いもかけない方向へと向かってしまう。

それは地球温暖化の象徴映像としてしばしば使われる南極の

氷山が溶けていく姿を彷彿とさせるものでせす。溶け出した

ものはもう二度と凍ることはない。しかしそれはこの一家だけ

ではなく、ミラダの前夫で警官をしているラダにとっては、

妻を寝取られた15年前から始まっていたことなのかもしれません。

彼は妻を失い、息子(知的障がいのため施設に入っている)の

送迎もしなくていいと言われ、日々、クズや負け犬のような

犯罪者や悲惨な犠牲者ばかり見続ける人生になってしまった。

彼にとっては何もかも気に入らないことばかりだと思う。

希望すらも見えないじゃないか。
ラストは本当にゾクリとするもので、妄想癖は自分だけでなく

相手にも大きな恐怖を与えるのだと実感するのです。

 

 

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ブルーム・オブ・イエスタディ

4

JUGEMテーマ:洋画

 

ブルームオブイエスタデイ

 

「ブルーム・オブ・イエスタディ」

原題:Die Blumen von Gestern

監督:クリス・クラウス

2016年 ドイツ=オーストリア映画 123分 

R15+

キャスト:ラース・アイディンガー

     アデル・エネル

     ヤン・ヨーゼフ・リーファース

     ハンナー・ヘルツシュプルンク

 

ナチスの戦犯を祖父に持つトトは、ホロコースト

研究に力を注いでいる。その彼が務める研究所に

アウシュビッツで祖母を殺されたザジという研修生が

やって来るのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 過去は消し去ることはできない

けれど、未来には希望を持ち続けたいという思いが

伝わる映画です。


カルミアという名前


しょっぱなから2人の男がいがみ合い、遂には殴り合い

の大けんかになるシーンが映ります。口から唾を飛ばす

ような、いや飛んでいるに決まっているほどの罵り合い

の喧嘩ってなかなか日本では見ないよな。そのシーンに

驚いていると一人の老教授がぽっくり亡くなります。

喧嘩をしていたのはバルタザールとトトで、トトが全て

段取りを手配したのに、いざ会議を行うとなったら、
バルタザールが指揮をとることになっていることが原因

らしい。後に、なぜトトでないのか、多分これが理由だと

わかるシーンが出てきます。とにかくこの映画では言葉の

応酬が激しく、研修生としてフランスから来たザジとトトも

車がベンツであったことから、乗る乗らないで喧嘩になって

しまう。なぜベンツに乗らないのかは、ここですぐに

わかってしまうけれど、それが重苦しくなく、
「ガス・トラックの車種はベンツではなくオペル」

などとぶつくさトトが妻に愚痴る辺りで笑いに変わります。

笑っちゃいけないことなのに、何でも知っているつもりで

いるザジへの反論の場がなくてトトが妻に話すあたりは

彼の心の優しさも物語るかのようです。

 

ブルームオブイエスタデイ
 

しかし走行中の車から犬を放り投げるのはいただけません。

あのシーンは必要だったんだろうか。
実はトトの祖父はナチスの将校であり、ザジはユダヤ人の

祖母をアウシュビッツ収容所で殺されたことが、序盤に

わかるんですが、これは偶然ではなく事前にザジが調べ上げて

いたことを知ると、その事実に言葉を失います。ただ

ナチスドイツを描いた幾つもの映画のように、その悲劇的な

状況のみを見せるのではなく、世代を超えても残る憎しみの

連鎖の中に、それを断ち切ろうとする気持ちが芽生える
瞬間、まあそこはベッドの上なんだけど、新しい歴史が

開かれた気が少しだけするのです。ザジ役のアデル・エネルを

どこかで見たなと思っていたら「午後8時の訪問者」の

ヒロインの女性医師役を演じていました。

 

ブルームオブイエスタデイ
 

このザジはかなり奔放で、既婚者であるバルタザールと

恋人関係であるとトトに話すし、逆にトトは性的に不能で、

黒人の養女を育てており、妻は公認の男遊びをしている。

なんともややこしい。

 

ブルームオブイエスタデイ
 

これらの設定と彼らの過去を遡る旅とアウシュビッツ会議開催

に向けての準備が同時に描かれていき、次第に心を惹かれ合う

トトとザジの姿には、何となく胸キュンとなるのです。トトの

脳天の薄毛もここは可愛い...のかな。さらに2人はどちらも

心を病んでおり、特にザジはトトと一緒にいた時、リストカット

をしてしまいます。「5回やったの」さらりと言う彼女の心の闇

はなんでしょうか。
またザジがトトを誘惑すると、トトが「ぼくはエイズなんだ」と

言い、間をあけずに「あたしもエイズよ」とザジが返します。

え?と思うけれどもちろん嘘で、この絶妙な会話の繰り返しで、

ストーリーが重苦しい内容なはずなのに、明るく感じられて

しまうのかもしれません。
「あなたの歴史が好き。わたしの歴史だから。」この言葉は

本当に心に深く深く染み込みます。

「あの時代さえなければ」と思った人々がどれほど多くいたこと

でしょう。そして今逆にその暗黒の時代へ時計の針が戻ろとして

いることを絶対に止めないといけないと思うのです。
ラストのクリスマスの買い物シーンは良かったな。ザジの連れて

いる子供が実は女児で「カルミア」という名前だってすぐに

わかったけどね。

 

 

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僕とカミンスキーの旅

4

JUGEMテーマ:洋画

 

僕とカミンスキーの旅

 

「僕とカミンスキーの旅」

原題:Ich und Kaminski

監督:ボルフガング・ベッカー

2015年 ベルギー=ドイツ映画 123分 

R15+

キャスト:ダニエル・ブリュール

     イェスパー・クリステンセン

     アミラ・カザール

     ドニ・ラバン

 

マティス最後の弟子で盲目の画家カミンスキーの

伝記を執筆するため、自称美術評論家ゼバスティアンは、

彼の住んでいるスイスの山奥に向かう。しかし

カミンスキーを含め、周囲の人物たちに翻弄されつつ、
なんとか彼の元恋人を訪ねる旅に出発するのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 奇想天外なストーリーには

やはり驚かされますが、ラストには心が温かくなります。


何も捨てるものがないなら、それを捨てろ


「グッバイ、レーニン!」(2002)の

ボルフガング・ベッカー監督が同じくダニエル・ブリュール

を主演に製作した映画です。わたしは

「グッバイ、レーニン!」が大好きで、星5つの評価を

つけた記憶があります。
「オスタルギー」東西ドイツ統一後に旧東側出身者の

「昔だってそんなに悪くなかった」という感情を表す言葉を

初めて知ったのがこの映画です。東西ドイツ統一期に

昏睡状態になった母親が、ある時奇跡的に覚醒し、しかし

心臓発作で倒れたことを考慮して、息子が母親のために、

ドイツは分断されたままだと偽ニュース映像を作り続ける

というものでした。この苦労がしばしば水の泡になりかける

のをあの手この手でごまかすのですが、その手法は大笑い

の連続で、だからこそ息子の母親への深い愛情を感じるし、

最後のニュース映像は「多くの人の理想」を語っており、

それを見ると、現実との格差に思わずハッとしてしまうのです。

昔はよかったという思いは、過去の記憶が美しく書き換え

られていることに気づかないことが多いので、要注意。
その期待感を持ちながらこの映画を鑑賞。冒頭から流される

ニュース映像がフェイクであることにいつ気づいたかしら。

 

僕とカミンスキーの旅

 

前半は、自称美術評論家のゼバスティアンが、盲目の

画家カミンスキーの伝記を執筆するため、

「突撃!隣の晩ごはん」もしくは「鶴瓶の家族に乾杯!」の

ようにほぼアポなしで現地に向かい、ぶっつけ本番のような

取材をするのです。そこにはほんわかムードはないですよ。
むしろ胡散臭い、煩わしい、よそ者お断り感でいっぱいです。

徒歩で30分という裏の山を登って汗みどろになっていると、

実はタクシーで家の前まで行ける。嘘ではないんですよ、

宿主のただの意地悪です。

 

僕とカミンスキーの旅

 

カミンスキーの娘ミリアムに冷たくあしらわれても、

図々しくディナーの席に座っていたりするゼバスティアンは、

どんな扱いを受けようとも、とにかく金儲けがしたいという

欲にまみれているのが丸わかりです。この伝記を執筆中に
カミンスキーがぽっくり亡くなれば、本は売れるし、この娘

と結婚し、屋敷も手に入れて...。この妄想が映像として

現れてしまうのです。時々聞こえる心の声も、普通の会話

の声と全く変わらない大きさなんですよ。ああ、こんな風に

言ってしまいたいことってたくさんありますね。この間に

恋人に愛想を尽かされて別れを告げられるし、もうやる

しかないのです。
しかし後半になると、カミンスキーの気をひくために提案した

元恋人テレーゼ話に、彼が飛びつき、なぜかゼバスティアンと

カミンスキーが車で旅を開始することになります。この珍道中には
山あり、谷あり、同乗者あり、追跡者ありと波乱万丈で、

何ならこれを執筆したら面白い小説になるのにと思ってしまう。

そしてようやくたどり着いたテレーゼの家のドアを開けると、

なんとジェラルディン・チャップリン演じるテレーゼが、

それはそれは可愛い姿でちょこんと座っています。

 

僕とカミンスキーの旅

 

ここからはもう笑うしかありません。
映画のラストは、海辺に座ったカミンスキーが次第に絵に

変わり、それは赤い達磨大師のように見えてくるという、

極めて印象深いものになっています。「無功徳」というものを

身をもってゼバスティアンに伝えたのかもしれません。

 

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プラネタリウム

3

JUGEMテーマ:洋画

 

プラネタリウム

 

「プラネタリウム」

原題:Planetarium

監督:レベッカ・ズロトブスキ

2016年 フランス=ベルギー映画 108分 

PG12

キャスト:ナタリー・ポートマン

     リリー=ローズ・デップ

     エマニュエル・サランジェ

     ルイ・ガレル

     アミラ・カサール

 

1930年代のフランス。アメリカ人のローラと

ケイト姉妹は降霊術ショーを行っている。その

ショーに関心を持った映画プロデューサー、コルベンは

彼女たちに私的な降霊会を依頼し、さらには自宅に

住まわせ、映画を製作しようと考えるのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 美しい景色、衣装、音楽を

堪能しつつ、隠された悲劇を感じ取ることができる

映画です。


何も期待せず、希望だけ


ヒロインのバーロウ姉妹のうちローラ役は

ナタリー・ポートマン、ケイト役は、ジョニー・デップの

娘、リリー=ローズ・デップが演じています。

 

プラネタリウム
 

プラネタリウム

 

とにかくこの映画の雰囲気が素敵なのです。冒頭の降霊術

ショーを行うときのローラーのキリっとしたたたずまいには

気品さえ感じ、一方妹ケイトは、内気で純真でかなり幼く

感じられるのです。この対照的な姿が映画内でずっと

見られます。
1930年代のフランスですから、まだ戦争が始まっておらず、

上流階級の人々が優雅に遊び、シャンパンのグラスを傾け、

タバコを吸う。彼ら、彼女たちの衣装やヘアスタイル、

調度品にいたるまでその美しさに目を奪われます。
肝心のストーリーはどうか。実は何を言いたかったのか明確には

理解できていません。そもそも「プラネタリウム」という題名

すらもどういう経緯でつけられたのか、見る側が考えるしか

ないのです。
霊的な能力はないけれど、天性の美貌の持ち主であるローラは、

女優として役をこなし始め、霊的な能力を持つものの存在感の

薄いケイトは、コルベンに重用され、彼女の降霊シーンを映画に

残そうと、あちこちを飛び回る。この才能の違いが、深く

つながっていた姉妹の絆に少しだけ傷をつけてしまったような

気もするのです。そしてそこに戦争が大きく影を落とし始めます。
ただ戦争を主体に描く映画ではないので、あくまでも登場人物の

セリフやわずかなシーンで、時代が変遷したことを知るのみです。

そこがまたいい。
幾つも美しいシーンはありましたが、強いてあげるなら、序盤に

雪が降り始め、パーティーに来ていた客が雪の中はしゃぎまわり、

雪合戦を始めるシーンと、ローラが映画撮影に訪れた南仏の

真っ青な空と明るい陽射しです。

 

プラネタリウム
 

そしてコルベンの願いは理解されることがないまま、彼は

ポーランド系ユダヤ人だったことで拘束され、裁判を受け、

移送されていきます。彼が「あれは中傷ではなく憎悪だ」と

ローラに訴えた時、あの優雅な時代はとっくに終結し、時代は

戦時中になったのだと実感するのです。
降霊術によって他人に見せたものは、その人が見たかった世界で

あり、必ずしも「真実」ではないかもしれない。つまり「本物」

を見ているわけではないのではないか。したがってプラネタリウムの
星と同じなのではないかと思っています。
ちなみにバーロウ姉妹のモデルは19世紀アメリカで

スピリチュアルブームを起こしたフォックス姉妹であり、

コルベンはベルナール・ナタンという伝説の映画プロデューサー

だそうです。

 

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