読まれなかった小説

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読まれなかった小説

出典:IMDb

 

「読まれなかった小説」

原題:Ahlat Agaci/The Wild Pear Tree

監督:ヌリ・ビルゲ・デミルコル

2018年 トルコ=フランス=ドイツ=スウェーデン

=ブルガリア=マケドニア=ボスニア・ヘルツェゴビナ

=カタール映画 189分

キャスト:アイドゥン・ドウ・デミルコル

     ムラト・ジェムジル

     ベンヌ・ユドゥルムラー

     ハザール・エーギュチル

 

大学を卒業し故郷の村へ戻ってきたシナンは、父イドリスが

競馬で借金を重ねていることを知る。かつては町の名士で

今も教員をしている父の落ちぶれた姿に嫌悪感を抱くが、

彼はとりあえず教員試験を受験する。その一方で彼は自ら

書いた小説を出版し、いつかは小説家として有名になろうと

考えるのだったが..。


<お勧め星>☆☆☆半 歪なはみ出し者の血筋は脈々と受け

継がれていくのだけれど、それもまたいいんじゃないかと

思える内容でした。


楽しくやれればどこでも生きていける


監督は「雪の轍」(2014)で第67回カンヌ国際映画祭

パルム・ドール大賞を受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイランです。

あの映画は196分という長さで、美しいピアノの音色と雪に

包まれたカッパドキアの景色が印象的でした。しかしその内容は

実にセリフが多く、そのセリフも「議論」という形のものが

しばしば見られ、理屈っぽいなと少し思ってしまいました。

それでも見終わった時には心に深く余韻を残すから不思議です。
今回の映画も189分という長さ。心を決めて鑑賞し始めました。
トルコのトロイ遺跡のそばにあるチャナッカレという町に大学を

卒業して戻ってきたシナンは、町の人に「お帰り」という言葉と

共に「お前の父親に貸した金貨を返すように言ってくれ」と

言われまずムッとするのです。

 

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出典:INDb

 

教員をしている父はおそらくかつては、かなり町でも名士だった

人物なのに、競馬にはまり、あちこちに借金をしまくっている

らしい。実家に戻ると狭い家に両親と妹がおり、母と妹は

大音量でテレビを見ています。彼らの話を総合すると、

父イドリスは借金を重ね、家も車も名誉もなくなり、今も続けて

いる教員の給料も家にろくに入れないのです。生活費は母親が

子守で稼いだ金でまかなっている模様。

 

読まれなかった小説
出典:IMDb

 

それなのにイドリスはヘラヘラしながら、祖父の家の井戸掘りを

手伝うようにシナンに言うのです。井戸掘りといっても、そこから

水は絶対に出ないという場所を掘っているという、限りなく夢に

終わる夢を追いかけているのに過ぎない行為です。それでも父と

祖父はせっせと掘りますが、祖父は飛び出したカエルを逃がそう

として、「仕事に集中せんかい!」と父に叱られる始末です。

シナンは父にイドリスは祖父には厳しく接するのです。
一方大学は卒業したものの、シナンは実は私小説を書いており、

それをなんとか出版したいとあちこちに掛け合います。

彼が住む町は第一次大戦中、オスマン帝国軍が連合国を相手に

激しい戦いを展開したのちに勝利を収めたガリポリ戦争跡地でも

あり、それについての内容の話であれば出版はとんとん拍子に

進むはずでした。しかしシナンはちょっとインテリぶっていて、

それではなくそこにいる人々の気持ちを内側から描いたとか

小難しい話をするのです。まず町長に断られ、次に書店で見かけた

有名な作家スレイマンの怒りも買ってしまいます。

シナンの態度はどう見ても赤の他人かつベストセラー作家スレイマン
への尊敬の気持ちはなく、ただ挑発しているだけのように思えて

しまう。海辺の美しい街並みの中で繰り広げられるシナンの大量の

言葉攻撃にはかなり呆れ果てます。

 

読まれなかった小説
出典:IMDb

 

またハティジェという元カノらしき女性ともいい雰囲気になりそう

ですが、彼女は金持ちと婚礼が決まっていると言います。この時の

木の葉の間をぬって上から映す2人のキスシーンは、なんとも
魅惑的であり、秘密の花園にいるかのような気分になります。

しかしなぜか彼女はシナンの唇を噛むのです。
映画全体に流れる美しい音楽としばしば聞こえる鳥の囀る声、

木の葉が風でこすれる音、水の音など様々な音が、まるでこの地に

自分が行ったことがあるかのような気分にさせます。行ったこと

ないし、多分絶対に行かないだろうけど。
さらにシナンはハティジェと交際していたルザとも殴り合いと

なります。シナンは自分は他の人物とは違うと思っているのか、

それとも単に人づきあいが下手くそなだけなのか。
町長に紹介された採石業者のイルハミに対しても知識をひけらかすか

のような発言をし、「変化への対応で生き抜いてきた」と言われて

しまいます。もちろん出版資金など出してくれるはずもありません。

 

読まれなかった小説
出典:IMDb

 

議論と言えば、シナンとヴィセル導師と新任のナズミ導師の3人が、

町の細い道を延々と論戦を繰り広げていくシーンは、宗教観から

始まって、最後まで結論が出ない話をし続けています。ただこの姿を
遠くから映すとまるで絵画のように見えるのです。
終盤には遂にシナンの家は電気を止められます。それでも父は

平気で空っぽの冷蔵庫を開け「何で物が入っていないんだ?」と

尋ねるのです。「物を入れて置いたら腐るでしょう」「そうだね」
暖簾に腕押し、とはこういうことを言うのでしょうか。とはいえ

母は父を憎んでいるわけではありません。若い頃、金に興味がなく、

自然を愛し、話が上手かった父とは、次に出会っても結婚すると

まで言うのです。ふーん。シナンには1ミリも理解できないですね。

農家(祖父の家)、貧乏、無職の身に嫁など来るはずもない!

とイドリスに怒りますが、イドリスはそれも聞き流します。

イドリスが愛するのは自然であり、飼い犬で、それらは自分を一切

責めないからだと語るのです。
時折夢のようなシーンが入り込むのは、シナンが現実と直面して

いないことを示唆しているのかしら。
兵役を終え実家に戻ってきたシナンはやはり父と祖父の元に向かい

ます。金が一切入っていない父の財布から出てきたのは...。
失業率が高く、物価上昇というトルコの世情を幾度となく描きつつ、

最後は暖かな人間ドラマで締めくくられていました。

 

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オリーブの樹は呼んでいる

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オリーブの樹は呼んでいる

出典:IMDb

 

「オリーブの樹は呼んでいる」

原題:El olive/The Olive Tree

監督:イシアル・ボリャン

2016年 スペイン映画 99分

キャスト:アンナ・カスティーリョ

     ハビエル・グティエレス

     ペップ・アンブロス

 

アルマは大のおじいちゃん子だったが、その祖父は

認知症を患い、しばしばどこかに出かけてしまう。

実はかつて祖父とアルマが大好きだった樹齢2000年

のオリーブの樹を父ルイスが生活のために売ってしまった

ことで親子の確執が生まれているのだ。アルマは祖父を

元気づけるためにそのオリーブの樹の行方を探し始めるが...。


<お勧め星>☆☆☆半 オリーブの樹を巡ってなくすものと

再生されるものが同時に映ります。静かに感動できる映画です。


オリーブの接ぎ木は難しい


養鶏業を営むらしいアルマが、鶏がひしめき合う中を、

ふてくされたような様子で進んでいき、死んでいる鶏をかごに

ぽいぽい入れていきます。そして生きているものも出荷する

かごに入れ、さらにひよこへの餌やりをするのです。何となく

鶏への愛情が感じられないけれど、このような鶏がわたしたち

食卓に上るわけですね。1羽1羽愛情をかけていたら、出荷する

ときいたたまれない気持ちになるだろうし、そもそも食べる

ための鶏を育てるのが仕事なのです。
一方、表情のない老人が、木々の間をうろうろ歩き、石を積んで

いきます。家では「おじいちゃんがいなくなった」とアルマに

連絡があり、彼女がこの老人、つまり祖父を探し始めるのです。

そして見つけた祖父を抱きしめるアルマ。

 

オリーブの樹は呼んでいる

出典:IMDb

 

ここから回想シーンとなり、アルマと祖父がかつてとても仲が

良かった姿が映ります。何と樹齢2000年のオリーブの樹を

守り、オリーブオイルを作る仕事を代々受け継いできたらしい。

その古木に隠れたり、上ったり、そして「あれは人間の顔に

見える」などと言ってはしゃぐアルマとその姿を目を細めて見て

いる祖父は、まるでまる子と友蔵のようです。(ちょっと違う)

そしてオリーブの接ぎ木の方法を祖父は丁寧に教えます。
シーンは変わってアルマがクラブに出かけ、行きずりの男と密接

しながらダンスをしている姿になります。それを見て止めようと

するのが、彼女の農場に資料を運んでいるラファです。

あ〜止めてあげないからこうなっちゃうんだ。

いや、そもそもアルマはどうしてこうも自暴自棄な生活を送って

いるのでしょう。誰に対しても喧嘩腰の話し方をします。
そして再び回想シーンとなり、父ルイスが生活のために、例の

オリーブの樹を売ろうという話を始めています。もちろんアルマは

大反対です。しかしそれは突然実行されるのです。

 

オリーブの樹は呼んでいる

出典:IMDb

 

重機が登場し、オリーブの枝を次々に切り落とし、そして遂には

ショベルカーで根っこのついたままの大木を引っこ抜きます。

樹の悲鳴が聞こえてくるようです。どうしても抵抗したいアルマは

木に登りますが、それを祖父がそっと下すのです。

 

オリーブの樹は呼んでいる
出典:IMDb

 

現在、祖父は冒頭のように認知症を患っており、言葉を発しないし、

人の区別もつかない状況です。家族はこれが限界と老人ホームへ

入れる話をしていますが、やはりアルマは大反対をし、悪態を
つきまくるのです。彼女は叔父であるアルカとだけは仲がいい

ようで、「なぜオリーブの樹を売ったのか」と尋ねます。すると

彼はその経緯を話すのです。オリーブの樹を3万ユーロで売ったのは
生活のためではなく、既に経営を失敗した飲食店を出すための

市長へのわいろを贈るためだった。アルマ激おこプンプン。

さらに父への怒りを募らせます。
そこからアルマは祖父が元気になると信じて、例のオリーブの樹を

探し始めるのです。この時代、インターネットがあるので大体の

ことは探せます。もちろん間違っている情報もあるので要注意

だけれど。
例の樹はドイツ、デュッセルドルフにある大会社のシンボルツリーと

なって飾られており、それは会社のロゴにも使われていると

わかります。さあアルマはどうするか。
アルマはものすごい作り話をして、その樹を返還できると町の人を

信じさせます。そして一路ドイツに向けて出発するのです。

スペインからフランスを経てドイツに向かうトラックの車窓からは
それぞれの特徴ある街並みが見え、その間にアルマはsnsを通じて

仲間を増やしていきます。

アルカが抱くドイツ人のイメージ=英語が上手い。長身。そうか、

ヨーロッパの中でも国同士で人へのイメージがいろいろあるんですね。

アルカが途中で金をだまし取られた男の豪邸から自由の女神像を

パクッて来たので彼らのトラックは誰もが振り返る仕様になって

しまいました。

 

オリーブの樹は呼んでいる
出典:IMDb

 

遂に到着したドイツ、デュッセルドルフでは、アルマの嘘がバレ、

そして立派な会社の受付前にそびえたつ例のオリーブの樹を見つけ

ます。どう見てもこれを引っこ抜いてスペインまで運べないだろう
と思います。それでもアルマは祖父がこの樹を持ち帰れば絶対に

元気になると信じているんです。さらに環境保護団体も集まって

来てシュプレヒコールを上げ始めます。

ここ、問題が変わっていますよ。
話はそれますが、環境保護団体や動物愛護団体は、本来の目的を

達成するために過激になるものも存在し、かつて同じ目的である

はずなのに、分裂したり、他者を攻撃することが多くあります。
わたしが経験したのは、人里に現れて畑を荒らすクマを射殺した

ことに対する動物愛護団体の人の投稿で、その時同時に、海外で

インフラ整備などの活動をしていた人々がテロで亡くなる事件が

起きました。それに対し、政府が「痛恨の極み」と談話を発表した

ことに対し、「クマには言わないのか」と言い始めたのです。

そもそも全く違う話で、それを同じレベルで話すのはおかしいと

反論したところ、その団体関係者から猛烈な非難を浴びました。

はい、二度と関わりません。
さて、アルマたちが行動している時に1本の電話がアルカにかかり

ます。ちょうどオフィスになだれ込んで、そのオリーブの樹の上に

アルマが上っている時です。それはこの樹を引っこ抜くときに

彼女が取った行動と全く同じなのです。このシーンは最初のシーン

と被って本当に涙がこぼれます。
そしてラストは祖父が教えてくれたオリーブの接ぎ木をアルマと

父ルイスが共同で行います。2000年後の姿を誰も見ることが

できないけれど、このオリーブの枝で、家族が再び繋がれたことは、

この一族にとって最も大事なことだったと思っています。

あーちょっと泣けちゃった。

 

 

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ベロニカとの記憶

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ベロニカとの記憶

出典:IMDb

 

「ベロニカとの記憶」

原題:The Sense od An Ending

監督:リテーシュ・バトラ

2015年 イギリス映画 108分

キャスト:ジム・ブロードベント

     シャーロット・ランプリング

     ミシェル・ドッガー

     ハリエット・ウォルター

 

中古カメラ店を営むトニーは、元妻マーガレットとの

間にもうけた一人娘スージーの出産を控えている。

そんな彼に学生時代の恋人ベロニカの母が亡くなり、

彼女がトニー宛に日記を遺したことを知る。しかし

遺品はベロニカの手元にあり、彼女はそれを渡そうと

しないのだった。


<お勧め星>☆☆☆ 記憶はいとも簡単に美しく書き

換えられてしまうのだと実感します。


事実は本人のみぞ知る


「めぐり逢わせのお弁当」(2013)の

リテーシュ・バトラ監督の2作目の映画です。あの映画では、

インドのお弁当箱の形状やそれを配達する人たちの存在

など初めて知ることに驚きつつ、誤配されたお弁当から

繋がる初々しい文通そして淡い恋が、カラフルなお弁当の

具材と楽しい音楽と共に描かれていました。

 

ベロニカとの記憶
出典:IMDb

 

今作では、リタイアし、中古カメラ店を営むトニーが主人公です。

彼は弁護士である妻マーガレットと離婚し、悠々自適の生活を送り、

マーガレットや一人娘スージーとも良好な関係を築いている模様。
夫婦は離婚しているし、娘は37歳の出産で最初から

シングルマザーと決めて臨んでいます。日本ではまず離婚した

夫婦が普通の友人でいられることが難しいし、子供と自由に交流

することもなかなかままならない。

 

ベロニカとの記憶

出典:IMDb

 

さらにシングルマザーで出産できる環境、PR会社勤務と言って

いたけれど、産休、育休が取れる環境がうらやましい限りです。

もちろんこのスージーのように恵まれた立場にいる人はそれほど

多くないかもしれません。
さてそんなトニーに弁護士事務所から、学生時代に付き合った

ことのあるベロニカの母セーラが亡くなり、彼女の遺言で

「ある日記」をトニーに渡す、という手紙が届くのです。しかし

その日記はベロニカが手元に持っていて渡さないと言われて

しまう。

 

ベロニカとの記憶
出典:IMDb

 

ベロニカ..という名前を聞いて蘇る甘酸っぱい記憶は、懐かしい

学生時代のもので、小悪魔のようなベロニカに翻弄されつ

青春を謳歌したものだったのですが、結局は親友エイドリアンに

彼女を奪われ、それを祝福する手紙を送って終わったと彼の頭には

残っています。

ところが学生時代の友人と再会すると(みんな丸くなって毛が薄く

なっておじいさんになっちゃって!)彼の記憶が少しずつ違って

いることに気づくのです。エイドリアンがこっそりベロニカを

奪ったのではなく、トニーがみんなにベロニカを紹介してから、

二人が接近したと言う。あれ?

さらにエイドリアンは自殺したことも思い出すのです。

 

ベロニカとの記憶

出典:IMDb

 

またようやくベロニカに会っても彼女はとても冷たく、

(シャーロット・ランプリングはこういう何か深い思いを隠して

いる役がよく似合う)日記は「エイドリアンの日記」で、それは

燃やしてしまったと言うのです。
トニーの手元に届いたかつてトニーがベロニカとエイドリアンに

送った手紙を見て、頭の隅に隠してあった「黒い記憶」が蘇って

きます。ああ、こういう記憶は忘れてしまうかもしれない。つまり

深く考えて行動したことは、頭に残っているけれど、一時の衝動で

やってしまった行為は、もしかしたら浅い記憶としてすぐに忘れて

しまうのかもしれないな。忘れる側と忘れない側の温度差が

大きすぎるのかもしれない。
さらに考えてみれば、昔の思い出は大体美しく演出されてしまい

「昔はよかったなあ」と言う人たちだって、当時に戻れば、

「早く時代が進んでほしい」「こんな苦しい時期は終わってほしい」

と思っていたかもしれない。
トニーのようにすっぽり抜け落ちている人は、そのことが多分人生に

それほど大きく関わって来なかったからだろうけれど、普通は、

時折「あの時ああしていれば」と後悔にかられる出来事が山ほど

あるはずなのです。トニーにしてみると結婚生活は確実だな。
映画内でトニーの腕時計が終始出て来ますが、それが完全に壊れて

しまって動かなくなった時、スージーが新調してくれます。ここから

トニーは新しい時を刻んでいくのだと実感するのです。

 

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ヒトラーへの285枚の葉書

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ヒトラーへの285枚の葉書

出典:IMDb

 

「ヒトラーへの285枚の葉書」

原題:Alone in Berlin

監督:ヴァンサン・ペレーズ

原作:ハンス・ファラダ「ベルリンに死す」

2016年 イギリス=ドイツ=フランス映画

103分

キャスト:エマ・トンプソン

     ブレンダン・グリーン

     ダニエル・ブリュール

 

1940年ベルリンに住む工員オットーは息子ハンスの

死の報せを受け取り、妻アンナと共に悲しみにくれる。

そして2人は息子の死を招いたヒトラーを告発する内容の

カードを書き、街のあちこちに置き始めるのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 見終わってこんなにも心が暗くなる

のは、同じような息苦しさを今感じているからかもしれません。


思考力を奪われてはいけない


この映画の登場人物はたくさんいるのですが、名前と顔が

はっきりわかるのは、主人公のクヴァンゲル夫妻オットーと

アンナ、そして同じアパートの住民のフロム判事、映画開始

早々に自殺を遂げるユダヤ人のローゼンタール夫人、それと

エッシャルヒ警部です。郵便配達人やその夫も幾度か登場する

ものの、名前を1,2度聞くのみだし、他にも多くのドイツ人や

SS将校、警察官が出てきても、姿が映るだけで、その名前

どころか彼らについてはほとんど情報を与えられません。

足元しか映らない人もいます。

 

ヒトラーへの285枚の葉書
出典:IMDb

 

「顔のないヒトラーたち」(2014)で描かれたように、

ヒトラーや親衛隊のみが第二次世界大戦中に「悪事」を行った

わけではないのです。もちろん指示等はあったものの、積極的に

彼らに協力をし、密告をし、時には略奪行為、暴力行為を行った

のは、名も知れない数多くの平凡な人々です。そして彼らのうち

そのほとんどが告発されることはなく、一般市民として戦後を

生き抜いていったのです。

 

ヒトラーへの285枚の葉書
出典:IMDb

 

息子ハンスが戦死したクヴァンゲル夫妻は、その悲しみをヒトラー

総統への憎しみに転換します。決して息子の死を「英雄」として

受け入れたり、「正当化」しなかったのです。オットーは筆跡を

変えてヒトラー体制への批判のメッセージカードを書き、街の

あちこちに置き始めます。その頃には新聞は真実を報道しておらず、

ドイツはフランスの降伏後すぐにイギリスも占領下におけるなどと

いう偽のプロパガンダに喜ぶ市民が大多数でした。
工場長であるオットーは、徴兵逃れのためにわざと怪我をする

工員を見たり、同じアパートで昔から親しくしてきたユダヤ人女性

ローゼンタール夫人へのドイツ人親子の略奪行為やその後自死した

ことも知ってしまいます。

この戦争のせいで皆がまともな感情を持たなくなってしまったこと

にも気づくのです。
一方アンナは、国家社会主義女性同盟として活動していても、

親衛隊幹部の妻がメイド付きの豪邸で優雅に暮らしているのを

見てしまいます。国民全員が働いているわけではないのです。つまり

ある特定の人々だけの富のために、市井の人々が命を落としたり、

貧しい暮らしを強いられていることに疑問を持つのです。

それは怒りにも変わります。
オットーがカードを書き、夫妻の見事な連係プレイで、街中のあちこち

にカードは置かれていくのです。それを読んだ人々の反応を期待して

いたのでしょうか。いえ、それを実行することで

「自分が解放された」
とい思いが最も強かったと思います。監視の目が光り、同じアパート

にも密告者、略奪者がいて、本音も言えず、情報も限られたものしか

得られないという、閉塞感に満ちたベルリンの街が、灰色で暗く

よどんでいるかように映り続けます。

 

ヒトラーへの285枚の葉書
出典:IMDb

 

また捜査を行うエッシャリヒ警部も一向に見つからない犯人と

増え続けるカードを前にして、自慢の頭脳使うものの、親衛隊の

幹部からは「犯人逮捕」を要求され、激しい暴行を受けるのです。

理不尽な行為が平気で行われる時代は、人々の心も薄汚れ、善悪の

判断すら正しく(誰にとって?)できなくなるのかもしれません。
285枚の葉書のうち警察の届けられたのは267枚。18枚は

行方が分かりません。しかし監督が話している通り、それらの

多くは届けるのすら恐れて破棄してしまったのでしょう。
1940年〜43年の間にハンペル夫妻によって実際に行われた

行為を、ゲシュタポの記録文章をハンス・ファラダが

「ベルリンに死す」という小説として発表したものを映画化した

作品です。

 

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ガザの美容室

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ガザの美容室

出典:IMDb

 

「ガザの美容室」

原題:Degrade

監督:タルザン・ナザール

   アララブ・ナザール

2015年 パレスチナ=カタール=フランス映画 

85分

キャスト:ヒアム・アッパス

     ヴィクトリア・パリツカ

     マイサ・アブドゥ・エルハディ

 

ガザにある一軒の美容室に数名の女性客が順番を

待っている。ごく日常の会話をかわす女性たちだったが、

店の外で銃撃や爆撃が始まり、店から出られなくなって

しまう。


<お勧め星>☆☆☆半 パレスチナ地区内での抗争に

飽き飽きした女性たちの姿を鮮明に描いています。


外の男たちと中の女たち


1994年オスロ合意により、パレスチナ暫定自治協定が

結ばれ、パレスチナ解放機構(PLO)の主流派「ファタハ」

主導でパレスチナ自治が始まったものの、2006年選挙で、

イスラム組織「ハマス」が勝利を収めると、2007年には、

ガザでハマスがファタハを排除し始めます。その時から

イスラエルによる封鎖が始まったのです。

(ニュースウィーク日本版より)
新聞でパレスチナへのイスラエル軍の空爆の理由が

「ハマスによるイスラエル人への危害」

と書かれているのを目にするのは、このハマスが軍事面で

強力であり、それに対抗するためにさらに大きな武力を

用いているわけです。これに今はアメリカが大きな関心を

持ち始めてしまい、混迷の一途をたどっています。
「ガザ」地区というと「もう一人の息子」(2012)では、

イスラエルで暮らす青年が、実は湾岸戦争中の出生時に、

今は高い壁で隔てられているパレスチナ地区の子供と取り

違えられていたことを知らされ、宗教、紛争、壁のせいで、

多くの苦悩を抱え込んでしまうという姿が描かれていました。

その時のイスラエルが、近代的な街並みであったのに比べ、

壁を隔てたパレスチナ地区は、破壊された建物や整備されて

いない道路、そしてその中でかなり貧しく暮らす人々が映って

いたと思います。
しかしこの映画では、そんな街並みは全く映らず、1軒の

美容室の内部がほぼ舞台です。実はガザ地区も富裕層がおり、

彼らは高級な店で買い物をし、豊かな暮らしをしているらしい。

この美容室に来ている女性たちも、貧困にあえぐという姿とは

少し違う感じがします。ガザ=仕事なし、紛争ばかり、貧しい

暮らしと決めつけるのではなく、その中でも人々は日々の

暮らしを送っているのです。

 

ガザの美容室
出典:IMDb

 

美容室にいる女性たちは、全く個性的な人々ばかりで、女主人は

ロシア人、手伝いの美容師は、マフィアのダメ男と別れられず

にいて、電話ばかりしています。ちょっと言わせてもらうと、

本当に仕事がノロい。物資が十分でないことを考慮しても、

手がさっさと動きません。「これが私のやり方よ」

はい、わかりました。

 

ガザの美容室
出典:youtube

 

ドラッグをしゃぶるおしゃべり女は、夫が戦争で負傷しているし、

隣には人一倍信仰心が厚いヒジャブ姿の女がいます。しかし

この女の夫は浪費癖があり、さらに強権的らしい。

 

ガザの美容室

出典:youtube

 

鏡の前できれいにメイクしてもらう結婚式を控えた女性は、

後ろで待つ姑と実母の正反対の指示に泣きべそをかいているし、

突然入ってきた身重の客は産気づいてしまう。さらに離婚話

を進めている派手な中年女性は、始終イラつき、たばこを吸い、

文句ばかり言っています。なんで下着姿かと思ったら、脱毛

処理しているんですね。

なんだ、この喧騒は。
いやこの喧騒には流血や破壊はない。それがあるのは、今まさに

外で起きている、イスラム系警察とマフィアとの戦いなのです。

銃撃、ロケット砲の音が鳴り響き、美容室は揺れ、停電して

しまいます。
それでも彼女たちにとってはこれが日常であり、ひとたび

争いごとが起きたら、女は家の中に入って静かにしている(いや

のぞき見しているか)ことに慣れきっているのです。
ドラッグの飴をなめている女性が「女は有能よ」と言いながら、

ファタハもハマスも敵であり、この客たちにそれぞれ国の重要

ポストを決めていくシーンは、なかなか興味深いです。

同じパレスチナ人同士の争いにとことん嫌気がさしていることが

伺えるのです。

イスラエルの病院に行こうと思っても、強力なコネがなければ

不可能で、ハマスの検問、ファタハの検問をくぐれたとしても

行き着く先はイスラエルの刑務所という話には絶望を感じて

しまいました。
実際にはイスラエル軍の大規模な空爆で多くの命が奪われ、

建物が破壊されているけれど、そこに住む人々にとって、最も

厄介な問題はパレスチナ人同士の争いだということに尽きると

思います。

 

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サンセット

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サンセット

出典:IMDb

 

「サンセット」

原題:Napszallta/Sunse

t監督:ネメシュ・ヤカブ

2018年 ハンガリー=フランス映画 142分

キャスト:ユリ・ヤカブ

     プラド・イバノフ

     エベリンド・ボシュ

     マルチン・ツァルニク

 

1913年、ブダペスト。イリスは他界した両親が

遺した高級帽子店を訪れる。彼女はそこで職人として

働くことを願ったが、オーナーのブリルに断られ、

さらに彼女には兄がいたことを知るのだった。


<お勧め星>☆☆☆ 結構長く感じられる映画で、ラスト

もモヤモヤしますが、帽子の美しさにその華やかな時代

を見て取ることができます。


大混乱への予兆


監督は「サウルの息子」(2015)でデビューした

ネメシュ・ラースロー。ユダヤ人強制収容所で同胞の

死体処理に従事したゾンダーコマンドの存在を初めて

知った映画です。この後で同じ題材を扱った
「灰の記憶」(2001)を鑑賞しましたが、全く違う

衝撃を受けました。前者は絶望と罪の意識を払しょくする

ために「葬儀」にこだわったのに対し、後者は「生存」

させることにこだわりました。
ただどちらもその先に希望があるわけもなく、特に

「灰の記憶」では序盤から高い煙突が映され、そこから

空に吐き出されていく煙が意味するものを一瞬たりとも

忘れさせない内容になっています。
「サウルの息子」は、サウルを中心に映されることが多く、

背後で行われる残酷なシーンはピンボケになっていることが

多かったです。そのカメラワークの切り替わり方が特徴的

でした。
さて、この映画では、1910年代の

オーストリア=ハンガリー帝国、ブダペストが舞台です。

それを聞いてピンと来るのは、第一次世界大戦開戦の

きっかけとなった1914年のサラエヴォ事件で、
その際に殺害されたオーストリア=ハンガリー帝国皇太子夫妻

が映画内にも登場します。まさに戦争開始前夜の混とんと

した時代であったわけです。

 

サンセット
出典:IMDb

 

ヒロインのイリスは、亡き両親が遺したブダペストの高級帽子店

レイターを訪れ、そこで職人として働くことを希望すると、

現オーナーのブリルは表情を曇らせ、

「一晩泊まったらここを出ていきなさい」
と言うのです。

 

サンセット

出典:IMDb

 

序盤から映る色とりどりの華やかな帽子の数々は、時代が

栄華を極めていたことを象徴しています。
ところがその晩、店に侵入してきた一人の御者の男に「兄の存在」

を告げられるのです。その兄はカルマンという名前であり、

さらに伯爵を殺害し、店の評判を落としてしまったらしい。

なるほどそれでイリスを追い払おうとしたわけか。いえいえ

そんなに単純な話ではないんですよ。この帽子店の華やかさの

裏側に隠された秘密...それははっきり説明されないけれど、

「闇」でもあり、また兄の所在を執拗にイリスが追い求めると、

出会う人ごとに「小出し」に情報を教えたり、教えかけると

何かで遮られたりの連続で、かなりストレスが溜まります。

 

サンセット
出典:IMDb

 

映像は「サウルの息子」の時同様にイリス視点で映し出され、

背景がぼやけたままだったり、ハンディカメラでイリスを

追うものが多く、見ているとかなり疲れます。遠くで誰かが

動いているなあ、それは誰かがわからないなあ。暗い上に

シーンの展開が早くて何が起きたのかなあ。そんなシーンも

たくさんありました。そもそもイリスが存在すら知らなかった

兄をここまで追い続ける「理由」の説明がないのです。

混乱した世界を象徴的に描いていたのだと納得しているけれど、

かなり難しい内容でした。

 

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息子のしたこと

4

JUGEMテーマ:洋画

 

息子のしたこと

出典:IMDb

 

「息子のしたこと」

原題:Tuhijo/Your Son

監督:ミゲル・アンヘル・ビバス

2018年 スペイン=フランス映画 103分

キャスト:ホセ・コロナド

     アナ・ワヘネル

     アシア・オルテガ

     ポル・モネン

     エステル・エスポシト

 

外科医ハイメの息子マルコスはある晩凄惨な暴行を受け、

病院に担ぎ込まれる。ハイメはその犯人を突き止めようと

息子の友人たちに話を聞くが、誰もがはっきりと答えない。

彼は次第に狂気に満ちた行動をとり始めるのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆ 自分に置き換えた時どうなるかを深く

考えさせられる映画です。


父親の愛

 

 

<たぶんネタバレ>


父親が娘を愛するあまり、猛烈に強くなった映画は言わず

もがな「96時間」(2008)です。誘拐された娘の

ために、パパが誘拐犯たちをどこまでも追い詰めるという

ストーリーでした。リーアム・ニーソンが本当に強くて

かっこよくて、それでいて娘に向ける眼差しは、まさしく

「溺愛」そのものでした。
さてこの映画の主人公で外科医ハイメも息子マルコスと

娘サラがいるものの、マルコスとは特に気が合い、マルコスも

父を慕ってくれるというある意味相思相愛なのです。

かなり裕福なのでしょう。息子の通学のためにプリウスを

買ってやろうとか言っていました。あきれ顔で受け流し、

息子と娘を学校へ送る妻カルメンこそが常識のある親と

思ってしまうのは他人だからかな。
この映画には他に2通りの父子の姿があり、ハイメが主治医を

務める少年サルバと父ホアン、マルコスが暴行を受けた

場所にあるクラブのオーナー、マヌエルと息子ラウル

です。それらはいずれも第三者から見ると明らかに歪なもの

なのに、当事者は全く実感を持っていません。それはハイメ

も同じことなのです。人の親子関係は客観視できても、

自分のそれになると必ず偏ってしまうのと同じだと思います。
映画は誰に肩入れすることなく淡々と映像が進み、見ている

側に判断を委ねているようにも思えます。意識不明に

なるほどの重傷を負ったマルコスの姿はぼんやりとしか映らず、

その姿を見て絶句し、嗚咽をもらすハイメ、カルメン、

サラの姿でそれを推測するのです。
そしてハイメはマルコスが暴行された現場を見て、さらに

そこに居合わせた彼の友人に話を聞きます。恋人だった

アンドレアとは別れていたようだけれど、それも気づかない

ハイメは執拗に彼女を追うし、彼女は逃げるようにハイメ

から遠ざかるのです。この理由はなぜか。ここでアンドレアの

顔に見覚えがあると思ったら、先日見た「天使が眠りにつくとき」

(2018)でヒロイン、シルビアを演じたエステル・エスポシト
じゃありませんか。やっぱり可愛い。そしてハイメの娘サラ役も

同じ映画でグロリアを演じたアシア・オルテガです。

だいぶん雰囲気が違うな。
ハイメの必死のパッチの追求にマルコスの友人ペドロが

暴行犯の1人を教えます。

 

息子のしたこと

出典:IMDb

 

するとハイメはもう彼をストーカーのように追い続けるし、

遂にはその少年ラウルのスマホを強奪し、息子が映っている動画を
見てしまいます。これはさらにハイメの復讐心を焚きつけるもので、

彼の頭から「正常」というネジがどんどん外れていくのが手に

とるようにわかります。娘や妻が彼を非難する目で見ていることさえ
気づかなくなってしまう。究極の親ばかと言ってしまうのは簡単

だけれど、もしも同じ立場になったらこういう考えを持つ人は

少なくないと思う。実行するかは別として。
復讐のために利用するホアンも、ハイメが父子の関係を逆手に

とって脅したようなものだし、それがバレて逆にハイメを襲う

マヌエル(ラウルの父親)も常軌を逸しているとしか思えない行動を

とります。
どいつもこいつも親ばかなんです。自分の子供だけが可愛いのです。
ラスト付近にわかる真相すらも受け入れず「愛情表現だ」と

切り捨てるハイメの姿に納得する人はいるでしょうか。そして

納得しなかった人は自分の息子が、ラストにだけ映る見る影もない

マルコスの姿のようになった時に、同じように考えられるでしょうか。

多くの質問を投げかける映画でした。

 

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マウントハウゼンの写真家

3

JUGEMテーマ:洋画

 

マウントハウゼンの写真家

出典:IMDb

 

「マウントハウゼンの写真家」

原題:El fotografo de Maunthausen

         The Photographer of Maunthausen

監督:マル・タルガローナ

2018年 スペイン映画 110分

キャスト:マリオ・カサス

     リシャルト・ファン・ヴァイデン

     アラン・ヘルナンデス

 

第二次世界大戦中、マウントハウゼン収容所。

スペイン人捕虜のボシュはドイツ軍のリッケンの

下で記録管理係をしていた。彼はそこでナチス

ドイツの残虐の行為を写したネガを発見する。
そして敗色が濃くなり書類等の焼却を命じる

ドイツ軍の目を盗んで外に持ち出すことを計画

するが...。


<お勧め星>☆☆☆半 ナチスドイツのユダヤ人以外

への残酷な行為を知ることができます。


指示に従っただけ


マウントハウゼン収容所は、オーストリアの花崗岩

採石場のある町に建設された再教育の見込みのない

囚人に強制労働を課すためのものです。但し絶滅収容所

ではないので、ユダヤ人という人種だけでなく、ソ連軍

の捕虜や反体制分子、病人、労働できなくなった者が

ガス殺されていました。映画内のスペイン人捕虜たちは

ヒトラーの参戦の求めに応じなかったフランコ政権に

より国籍をはく奪されており、いわば祖国に見捨てられた

人々だったのです。
多くの収容所と同じで、囚人たちは身に着けたものを

すべて没収され、髪をそられ、全裸で雪の上に整列された

上で、何らかの選別をされていきます。これは

「労働できるか否か」

という単純なもので、囚人たちは収容中何度もこの行為

をさせられ、労働できないと判断されると即ガス殺送りに

なっていたのです。冒頭にハモニカを持った父と息子が映り、

その父は片足が無く、最初の選別で違う収容所へと送られます。

これが何を意味するのかその時点でわかってしまうだけに

辛いです。

 

マウントハウゼンの写真家
出典:IMDb

 

そしてマウントハウゼン収容所の記録管理部門に配属された

ボシュは、ドイツ軍兵士リッケンの下で写真撮影や現像作業

を行っていきます。リッケンはある意味芸術として写真を

とらえており、修正、演出してこそ素晴らしい写真が出来

上がると考えているのですが、その演出が、事実を伝える

はずの写真の価値を一気に下げるもので、1枚の写真で

「事実」を知った気になるのがとても危険であると実感します。
逆に事実を伝えている写真を、様々な解釈によって全く違う

真実へと導いてしまうのも恐ろしいと思うのです。ここは

しっかり調査しつくして理解すべきところだと思います。
ナチスドイツによって行われてホロコーストは、このように

持ち出されたネガや辛うじて残っていた記録、生存者の証言

などで、確固たる事実として伝えられることができています。

しかし「否定と肯定」(2016)のようにホロコースト

否定論者の考えをいかにして「否定するか」は、あの裁判映像

を見てもわかるように並大抵の労力では行えません。最も

有力である生存者の証言を侮辱をもって否定していくからです。

「同じ土俵に乗らない」これは他の話でも言えることでは

ないでしょうか。
ボシュがナチスドイツが破棄しろと命令したネガをいかにして

隠し持っていたか、それは収容所での残酷な処刑や残忍な

所長の行為、さらには囚人頭と呼ばれたカポの強権的な行動

などを含め描かれていきます。
ボシュがホームレスとして脱走しようと準備するシーンと

ドイツ兵を集めておくために収容所内で行われる演芸の舞台、

そしてカポが中座して「死の階段」から囚人を突き落とし、

演芸のステップ「ダン」という音と共に落ちた囚人を踏みつける。

これらの映像が入れ替わり映り込み、ネガを持ち出すことが

できるのかどうかハラハラします。そしてドイツ兵でもない

ただの囚人であるはずのカポの残忍さにも思わず息をのむのです。
「死の階段」だけでなく「人体実験」「脱走者への見せしめ処刑」

なども映され、戦争というものが呼び起こす人間の狂気を

この目で見ると、やはり恐怖を感じざるを得ないのです。

 

マウントハウゼンの写真家

出典:IMDb

 

映画内で同じスペイン人捕虜の女性が、囚人へのご褒美と

しての慰みもの扱いされていたのも、やはり人間性を奪う

のが戦争だと実感しています。

指示に従っただけ、という理屈では納得のできない行為を平

気で行ってしまうのだと肝に銘じておきたいです。

 

 

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ナチスの犬

4

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ナチスの犬

出典:IMDb

 

「ナチスの犬」

原題:Suskind

監督:ルドルフ・バン・デン・ベルグ

2012年 オランダ映画 118分

キャスト:ユルン・スピッツエンベルハー

     カール・マルコビクス

 

1942年、ドイツ占領下のオランダで、ドイツ系

ユダヤ人、ズスキンドは、家族のためにユダヤ人移送の

指揮官の任務に就く。しかし同胞の移送が「労働」の

ためではないことを知った時、子供たちを救うため

様々な方法を試みるのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 ナチスドイツ支配下でのユダヤ人の

姿をまた違った角度から描いています。


悪の凡庸さ


ナチスドイツによるユダヤ人迫害を描いた映画は

数えきれないほど作られているし、その視点がナチスドイツ側、

ユダヤ人側の両方からこれまた幾つも、そして様々な国の

人々の立場で描かれてきましたが、この映画のように

ナチスドイツに利用されるユダヤ人の姿を映したものは

本当に恐ろしくて悲しい。
「灰の記憶」(2001)「サウルの息子」(2015)は

強制収容所内で自らが生き残るために、同胞の死体処理を行う

ゾンダーコマンドの姿を描いていました。

「もしかしたら自分だけはガス室送りにならないかも」
「少しでも長く生きて終戦を迎えたい」

など、淡い期待を抱かせつつ、自らの手を汚さないナチスドイツの

残虐さには言葉を失います。その仕事は断ることはできず、

引き受けるか自殺するかしか選択肢がなかったことや、彼らが

3か月から1年程度でガス室送りになったことを知ると、

これほど残酷な行為が人間にできるものかと驚いてしまうのです。

ガス室内に転がる自分の家族を見つけた時の気持ちはどのように

表現できるのだろう。

 

ナチスの犬
出典:IMDb

 

この「ナチスの犬」では主人公のズスキンドは、オランダに

住むドイツ系のユダヤ人で、同じユダヤ人を「労働力」と

してドイツに移送するために一旦収容する施設の管理を

任せらるわけです。
まず自分たち家族が収容される名簿から外すために、その仕事を

引き受けたはずが、実は「労働」のための移送ではなく、

「粛清」のためであったと知ると、彼は、その仕事に加担して

いたことに驚くと同時に、自分の地位を利用して、子供たちを

逃がす計画を立てていきます。

 

ナチスの犬

出典:IMDb

 

それにはSSの大尉フュンフテンに取り入ることから始まります。

そもそも移送免除を出すのがユダヤ人評議会で、彼らはナチスドイツ

から言われた人数を名簿に載せるという流れ作業を、これまた

他人事のように行っているのです。ユダヤ人であっても立場が

これほど異なるわけです。ズスキンドが親しくなる

(親しくなりやすいと察した)フュンフテンは、実は孤独で酒好き

であり、自らの弟が戦争で大けがを負っているという状況で、

映画内でも少佐に叱責されるように、極めて人間味あふれる人物

だったことは確かです。

それは彼がズスキンドを信頼し、自らの誕生日会にも招待した

時に「平時なら親友になれた」と語るように、戦争がなければ、

自分で思考し、自分で行動できたはず。それが戦争が起き、組織の

中に取り込まれると、「正義」というのは、指示に従うことに

ほかならなくなるのです。
その点はズスキンドも同じであり、たとえ知らなかったとはいえ、

同胞を移送列車に乗せる任務を請け負ったことは、邦題にあるように

「ナチスの犬」になっていたと誰が見ても思うでしょう。自らの
家族を優先して、他人を犠牲にしてしまったとも言えます。

それでもズスキンドは、危険を冒しながら子供たちを逃がすわけ

です。すべてがバレるのは時間の問題だったとはいえ、移動列車に

乗せられたら、その先にあるのは「灰」になることで、何十万の

犠牲の中の数百人の救済だったとしても、彼の行為は勇敢なもので

あったと思います。しかし彼が移動列車に乗った時には、同胞に

唾をかけられるのです。それもとてもよくわかる。
ユダヤ人は被害者であったけれど、その姿は様々なもので、

命のために売春婦になったり、同胞を売ったり、ユダヤ人親衛隊と

なったものもいました。一方、ナチスドイツは完全に加害者で

あるけれど、一人一人が完全な悪人であったとは思えないのです。

もちろんそれが行った罪を許す理由にはならないし、必ず

裁かれるべきことなのに、終戦間際に逃亡を開始した者や、無関係を

装った者たちがかなりいたことは確かで、戦争によって

引き起こされる人間性の破壊の恐ろしさを、しっかり目に焼き付けて

おきたいです。

 

 

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コレクターー暴かれたナチスの真実ー

5

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コレクター

出典:IMDb

 

「コレクターー暴かれたナチスの真実ー」

原題:De Zaak Menten

監督:ティム・オリウーク

2016年 オランダ映画 130分

キャスト:ガイ・クレメンス

     アゥス・グライダヌス

 

1976年、アムステルダムの記者クノープの

もとに、美術収集家で大富豪のメンテンが、

第二次世界大戦中にナチスドイツとともに住民を

大量虐殺し、その美術品を強奪していたという情報が
寄せられる。クノープは事実を確認するため、

メンテンに面会を申し入れるのだったが...。


<お勧め星>☆☆☆半 戦争犯罪に時効はないという

思いを強く抱きます。


三つ編みにされた髪の毛


第二次世界大戦中、ポーランドにおいて、ナチスドイツと

組んで、ユダヤ人やソビエト共産党員などを虐殺し、

美術品等を略奪したオランダ人富豪ピーター・メンテンが、

1976年にオランダで起訴された事件をオランダにて

映画化したものです。

起きた場所はポーランド(裁判当時はソ連領)、犠牲者は

ユダヤ人にとどまらない、そして一度は戦争裁判で服役を

した人物への30年を経ての裁判であり、その人物は

オランダの実力者、一方の原告は一人のユダヤ人新聞記者と

いう極めて特異な構図になっています。

 

コレクター

出典:IMDb

 

メンテンは金の力で、最初の裁判の判決を下した判事等に

逆提訴を行っており、彼の言い分としては「ユダヤ人の

資産を買い取って、逃亡の手助けをした」。

そして没収された美術品を再び自分にもとに取り戻して

いたのです。
アクセス誌という雑誌の編集長クノープは、自らがユダヤ人で

あるということもあって、ナチスの犯罪には目をつぶれなかった

と思う。しかし親会社の新聞社のグループ会社からの抗議や
「新聞は両側に立って記事を書かないといけない」
というちょっと聞いただけなら正論のように思えるまやかしを

言われ、他の記者にメンテン擁護の記事を書かれてしまいます。

それでもクノープが調査すればするほど、メンテンの疑惑は

確信へと変わっていくばかりなのです。

 

コレクター
出典:IMDb

 

序盤から入り込む1930年代のポーランドののどかな村での

楽し気な人々の姿が、ある時急に、恐ろしい状況に変わった

とき、なぜメンテンがこのような行動をとったのか?という

大きな疑問を覚えます。メンテンはかなり裕福な生まれで、

たまたまポーランドのその村にいた時、ソビエト共産党軍の

襲撃を受け、辛うじて命拾いをしますが、その時から彼は、

権力を大変うまく活用し、自分の立場を固めたうえで、美術品

を獲得していったのです。それはナチスドイツの将校の機嫌取り

のために、ユダヤ系絵画商から高価な絵をタダ同然で買い上げる

という姿を映し、彼がいかにずる賢い人物であったかを

知らしめます。戦時中だったからこのような行動になった、

としてもそれがどうして、つい先日まで仲良く暮らしていた

隣人たちを虐殺したのか、という理由にはなっていません。

ここがどうしても引っかかるんですよね。これは彼が罪を

認めないまま亡くなってしまったので、二度とわからないでしょう。
起訴されてからの裁判風景も、一審は有罪判決を受けたものの

控訴審では、なんと無罪になってしまいます。それから上告して

どうなるのか。結果はわかっているけれど、金の力で人が操れる

という人間がいかにクズであるかと、お金がない自分は思って

しまう。そしてオランダというナチスドイツの侵略を受けた国で、

その国民の戦争犯罪を自国で映画化したことは大変価値がある

ことだと思うのです。でもメンテンがユダヤ人であるなしに

関わらず1000名以上殺害して禁錮10年、それもかなり早めの

仮釈放を受けたという話を聞くと、その軽さに驚くばかりです。

自ら掘らされた穴に横たわる血にまみれた人々の姿を見ると、

戦争が生み出したであろう人間の残忍性に言葉を失います。

 

 

 

 

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