スポンサーサイト

0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    • 2023.01.12 Thursday
    • -
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    存在のない子供たち

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    存在のない子供たち

    出典:IMDb

     

    「存在のない子供たち」

    原題:Capharnaun/Caphaynaum/Capernaum

    監督:ナディーン・ラバキー

    2018年 フランス=レバノン映画 126分 

    PG12

    キャスト:シドラ・イザーム

         ゼイン・アル=ラフィーア

         ボルワティフ・トレシャーバンコレ

     

    実の妹の夫を刺した罪で服役中の12歳のゼインは、実の

    両親を「自分を生んだ罪」で訴える。彼はレバノンの

    スラムに暮し、身分証どころか出生証明書すらない身の上で、

    生活のために一日中働いているのだ。そして妹サハルが大家

    アサードと強制結婚させられたことに怒った彼は、家を飛び

    出すのだが...。


    <お勧め星>☆☆☆☆半 貧困、児童虐待、児童婚、不法移民、

    難民など多くの課題を描き出しながら最後に見せるゼインの

    笑顔に少しだけ心が救われます。


    世話ができないなら生むな


    この映画ではほとんどのキャラクターがそのままの環境に存在

    しているそうで、主人公のゼイン役の少年は、4歳の時に

    シリアからの難民としてレバノンに入り、文字も読めない状況下で

    生活のために働いていたと言います。またゼインの母親役の女性は

    実際に自分の子供に氷をまぶした砂糖を与え、映画の中盤に登場

    するアフリカからの出稼ぎの女性で不法就労のラヒル役は、撮影中に

    不法移民として逮捕され、監督が保証人となって釈放され、また

    その子供ヨナスは、実の両親が撮影中に逮捕されているというの

    です。唯一ゼインの弁護士役の監督自身のみそのような環境に

    なかったわけです。したがって、彼らの怒りや悲しみや絶望に

    満ちた瞳は全てが真実を物語っているとも言えます。
    仲間たちと煙草をくゆらし、廃墟に張り込んで、模造銃を使って

    戦闘する遊びに興じる少年たちは、どの子供も服は薄汚れ、髪の

    毛もいつ洗ったのかわからないほどの雰囲気。その中のゼインは

    家に戻ると妹サハルの下に数人の弟妹がいる超貧困家庭で、両親の

    指示で朝から晩まで働かされているのです。ゼインが学校に行く

    バスを見て少しだけうらやましそうな顔をしますが、それは絶対に

    かなわない夢なのです。

     

    存在のない子供たち
    出典:IMDb

     

    このゼインは多分12歳くらいと本人も語り、大人の状況も少し

    ずつ分かり始める年ごろで、大家のアサードが妹で11歳の

    サハルを狙っていることをとても嫌っています。サハルはまだ幼稚

    であり、彼がくれるラーメンやグミを楽しみに待っているし、自分

    に初潮が訪れても全く気づかないのです。それにいち早く気づいた

    ゼインがアサードの店でナプキンを万引きし、それをあてたサハルの

    後ろ姿がとても奇妙で、また彼女もそれをかなり意識している辺りも

    まだまだ子供だという事が伺えます。

    ところがそれは親に知られてはいけないんです。つまり大人の女性に

    なった証があれば、大家のアサードの妻にならなければなりません。
    レバノンという国はゴーンが逃亡した国で一躍有名になりましたが、

    人口の3割が貧困層であり、150万人が1日4ドル、そのうちの

    30万人は2ドル半で暮らしているそうです。また長年の失策と
    縁故主義の癒着による政治の腐敗から債務超過国であり、いわゆる

    国家破産まで秒読みの状態にあるのです。そこにシリア等からの難民が

    100万人以上押し寄せています。映画内でもシリア人への配給は

    あるのに、自国つまりレバノン人への補助はなく、ゼインがシリア人に

    なりすまして救援物資を受け取るシーンがありました。
    そしてある日サハルはアサードのもとに強制的に嫁がされ、ゼインは

    そのまま家を出るのです。彼が行く当てもなくバスに乗って、そこで

    隣に座った老人の後を追って遊園地のそばで下車し、一人で観覧車に
    乗ると、目の前には今まで見たことがなかったであろう「美しい海」が

    広がります。しかしそれも一瞬ですぐに地上に降りてしまいます。
    ゼインはいろいろな仕事を求めますが、この少年に与えられる仕事など

    なく、遊園地の掃除婦として働いていたラヒルのあとをついていきます。

    「何か食べ物はない?」

     

    存在のない子供たち

    出典:IMDb

     

    ラヒルはラヒルで、エチオピアから出稼ぎにきたものの、恋人の

    子供を身ごもったことでメイドの職をクビになり、いまは不法就労

    している身の上なのです。さらにヨナスという赤ん坊もいます。

    このラヒルはおそらくは、現地で悪徳業者に騙され、借金をした上で、

    この地にやってきた模様で、実家には仕送りをしないといけないと

    いうさらなる試練を抱えているのです。

    彼女の家はゼインの家よりもさらにバラックに近い建物です。上から

    見るとこんな感じ。

     

    存在のない子供たち
    出典:IMDb

     

    それでもゼインがヨナスの子守になるので、彼女としては少し負担が

    減るわけなのですが、そこに立ちはだかるのが「滞在許可証」です。

    メイドでの就労でなければこの国には滞在できず、(自国民の仕事

    すらろくにない)市場のアスプロという男に偽造してもらうために

    金を支払わなければなりません。金を支払うか、ヨナスを養子に

    出すかを迫られます。どこを向いても厳しい現実ばかりです。

     

    存在のない子供たち

    出典:IMDb

     

    ゼインは親の元にいたころは、生活のために力仕事をし、弟妹の

    世話から路上でのジュース販売も行っていました。そしてラヒルが

    ある日帰って来なくなると、今度はヨナスのために、砂糖をつけた
    氷を与え、シリア人に扮して配給物資をもらい、違法に薬を入手

    して水で薄めて販売し、金を貯めていきます。それは市場で逢った

    メイスーンという少女に聞いた「違う国」に移住するための資金

    なのです。
    ラヒルの家の水道から水が出なくなると「この国は最低だな」と

    ゼインは吐き捨てるように言います。本当に最低の生活すらできない

    国なのです。
    そしてラヒルの家が鎖でとじられ、金が出せなくなると、遂にゼインは

    アスプロにヨナスを渡すのですよ。この時彼が流す涙が最も切ないです。

    自分は今まで愛されたことがあったのか、そして愛した者はどうして

    すべて手放さなくてはいけないのか。その気持ちはサハルの死を知った

    後に起こすアサードへの凶行、さらには次の妊娠を告げる母親への

    吐き捨てるような言葉につながります。

     

    存在のない子供たち
    出典:IMDb

     

    しかしゼインの両親が極悪人というわけではなく、貧困が全ての原因で

    あることは明白で、綺麗ごとですが、世界にはこういう状況の人々が

    数えきれないほど存在することを知る努力に時間を費やしてほしいと

    思うばかりです。

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ
    にほんブログ村  人気ブログランキングへ

     

     


    僕たちは希望という名の列車に乗った

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    僕たちは希望という名の列車

    出典:IMDb

     

    「僕たちは希望という名の列車に乗った」

    原題:Das Schweigende Klassenzimmer

    監督:ラース・クラウメ

    2018年 ドイツ映画 111分 PG12

    キャスト:レオナルド・シャイヒャー

         トム・クラメンツ

         レナ・クレンク

         ヨナス・ダスラー

         イザイア・ミカルスキ

     

    1956年、東ドイツの高校生テオとクルトは、

    西ドイツの映画館でハンガリーの民衆蜂起のニュース

    映像を目にする。彼らはそれをクラスメイトに話し、

    その暴動で多くの死者が出たことを知って、授業中

    2分間の黙とうを決行する。しかしそれは国家への

    反逆行為とみなされ、大問題へと発展していくのだった。


    <お勧め星>☆☆☆☆半 若者が息苦しさを感じ、そこ

    から苦悩しながら抜け出す道を考え出す希望のある

    ラストでした。


    自分で決めろ

     

     

     

    ※ネタバレしているかもしれません


    監督は「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」

    (2015)のラース・クラウメ。1950年代後半の

    西ドイツでナチスの戦犯アイヒマンを追うユダヤ人の

    バウアー検事長の姿を描いた映画です。そこには捜査機関、

    司法機関、そして政権の中枢にナチスの戦犯が存在し続け、

    ヒトラーによって作り上げられた「負の歴史」から復興の

    光がさしていることに水を差そうとする行為として、バウアーが
    あらゆる面で邪魔をされ、裏切られ、私生活までも暴かれて

    いく姿が映し出されています。

    「ヒトラー」という悪魔とそれに利用されたお人よしの

    ドイツ国民という構図は、結局は西ドイツの再ナチ化を

    進ませていったと言われ、それをバウアーが阻止しようと

    奔走するしかなかったのです。

    (『ヒトラーを支持したドイツ国民』ロバート・ジェラテリーより)
    この映画は東ドイツの同時期を描いており、東側から見る

    西ドイツの姿を垣間見ることができます。もちろん情報はねつ造

    されており、真実は一切報道されません。そこでテオとクルトが

    映画館で見たニュース映像に大変驚くわけです。自分たちの町には

    ソ連兵が駐留していて「ナチスめ!」と明らかに東ドイツの人々を

    憎んでいる。この閉塞感はなんだろう。

    ハンガリーでの民衆蜂起映像を見た二人はクラスメイトにそれを話し、

    唯一西側のラジオが聞ける場所でその先のニュースを聞くと、

    かなりの数の民衆が亡くなったことを知るのです。そこには有名な

    サッカー選手もいる。そこでクルトが提案し授業開始後2分間

    黙とうをすることに「多数決」で決めます。黙とうといってもただ

    黙っていただけで、エリックの発した言葉が無かったら、それほど

    問題にならなかったかもしれないし、また丸く収めようとした校長を

    無視して「密告」する教員がいなければ、大問題になったはずも

    ないのです。彼らにとって、本当に悲しんで黙とうしたというより、

    少しだけ「反抗」したにすぎなかったはず。

     

    僕たちは希望という名の列車
    出典:youtube

     

    ところが国家教育局の役人が登場し、一人ずつ尋問されていきます。

    この女性がまことに怖い。体も大きければ態度も声もでかいのです。

    役人の知りたいのは「首謀者は誰か」で、一週間以内に首謀者を

    知らせるように言って帰ります。

     

    僕たちは希望という名の列車

    出典:IMDb

     

    ハンガリーの民衆蜂起は東ドイツにとっては「反体制行為」で

    あり絶対に見過ごせないことだということに生徒たちが気づいた

    時どうするか。そこでも彼らは多数決で「自然にそうなった」と

    口をそろえて言うことにします。しかしそんな甘いことで済ます

    ような役人ではありません。なんせ東ドイツには秘密警察

    シュタージが存在し、生徒たちの身辺の情報は全て把握していた

    のです。もちろん生徒自身が知らないことまでもです。もう一方で

    「卒業」を切り札に半ば脅迫のように真相を話すように迫ります。

     

    僕たちは希望という名の列車
    出典:IMDb

     

    典型的な労働者階級の家庭であるテオは、父親の過酷な労働状況を

    知っているし、父が市の名士であるクルトは、母方の祖父がナチスの

    戦犯だったことを知っています。さらにはエリックは、ドイツ共産党軍
    として戦死した父を尊敬し、聖職者と再婚した母を避けています。

    これらの事実の裏に隠された事柄を、まことにいやらしく役人が

    暴いていくのです。それは絶対に知られたくなかった過去を誰もが
    背負っていたことを示しているし、今や権力をふるっている役人たち

    にも必ずやそれらの事柄が存在していたはずなのです。なのにだよ!

     

    僕たちは希望という名の列車
    出典:IMDb

     

    終盤には両隣の女性が涙をしきりにぬぐっていましたが、私は全く

    泣けませんでした。むしろ若くてまっすぐに育ったテオたちに必死で

    パワーを送り続けました。どうやったかって?

    それはちょっと言われへん。
    親世代は決して変化を受け入れないけれど、若い世代は、過去を

    受け止め新しい道を進む力を持っていると思います。それを後押し

    するのが愛情なのだと実感しました。
    この後西側への人々の流出が激増し、ベルリンの壁ができ、そして

    その壁が崩壊し、ドイツが統一されたのが1989年です。それから

    30年経って今の状況はどうなのでしょうか。旧東ドイツの人々の間では
    「オスタルギー」という懐古趣味が幅を利かせているとのこと。そこに

    移民問題も絡み先行きに不安を感じざるをえません。

     

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ
    にほんブログ村  人気ブログランキングへ

     

     


    グランド・ブダペスト・ホテル

    2
    JUGEMテーマ:洋画

    グランドブダペストホテル

    「グランド・ブダペスト・ホテル」
    原題:The Grand Budapest Hotel
    監督:ウェス・アンダーソン
    2013年 イギリス=ドイツ映画 100分
    キャスト:レイフ・ファインズ
         トニー・レヴォロリ
         F・マーレイ・エイブラハム
         マチュー・アマルリック
         エイドリアン・ブロディ
         ウィレム・デフォー
         ジュード・ロウ

    1985年、年老いた作家は、若い頃滞在した
    グランド・ブダペスト・ホテルで出会った、そこの
    オーナー、ムスタファー氏から聞いた話を語り始める。
    ホテルの最初のコンシェルジェ、ムスタファー氏は
    マダムDの遺産のうち有名な絵画を相続したことから
    ある事件に巻き込まれていくのだった。

    <お勧め星>☆☆☆☆☆ 独特の世界観とおなじみの
    色調が楽しくもあり、悲しさも表現した映画です。


    ストーリーは実は恐ろしい事件ととても悲しいものなの
    ですが、ウェス・アンダーソン監督のおとぎ話のような
    色調の映像と軽やかな音楽、ウィットに富んだセリフで
    全くそれを感じさせないものになっています。
    始まりはある少女が、ある作家の彫像の前で、彼の小説
    を持って立ち尽くすシーンです。時は遡り、1985年、
    年老いた作家が、若い頃滞在した、あるホテルの様子を
    語り始めます。そのグランド・ブダペスト・ホテルは
    かつての賑わいはなく、朽ちた古いホテルになっていた
    のですが、彼はそこでホテルのオーナー、ムスタファー氏
    と話す機会が訪れるのです。

    ここで登場するヨーロッパの東端にあるズブロフ共和国は
    もちろん仮想の国です。しかしすべてがどこかに当てはまる
    設定になっているのです。つまり1930年代の戦争の足音が
    近づくヨーロッパの暗い時代を痛烈に皮肉っていると感じ
    させます。それでいてストーリーはサスペンス調であり、
    コミカルなもの。
    ムスタファー氏の口からは、このホテルがにぎやかだった1932年
    ホテルの最初のコンシェルジェ、ムッシュ・グスタヴ氏と
    ロビー・ボーイ見習いのゼロがある事件に巻き込まれていく
    話を時折涙を流しながら、ゆっくり、時系列がやや崩れながら
    語るのです。


    グランドブダペストホテル

    グスタヴ氏が富豪のマダムDと楽しい夜を過ごした後、彼女は
    突然死亡するのです。葬儀に向かうと、そこには多くの縁戚者
    がいて、遺言状によりグスタヴ氏が有名な絵画を贈られることに
    なると、孫のドミトリーが猛反発します。エイドリアン・ブロディ
    がいつになく強い役。とはいえ、配下にウィレム・デフォー演じる
    凄腕の殺し屋を抱えているから、まあ虎の威を借りる狐状態。


    グランドブダペストホテル

    そこからグスタヴ氏はマダムDの殺人犯として逮捕され、刑務所に
    収監されるは、そこから脱獄するは、追っ手を振り切るために
    山の上の教会へ行くは、そりで大滑走するは、などの大冒険を
    ゼロと共に開始します。ゼロの恋物語も素敵。
    全てがアニメのような作りで、それが美しく、また恐怖を和らげ
    ているのです。実はドミトリーはとっても残酷。
    そしてラスト付近は、ある国の戦争下の暴挙に対する痛烈な批判を
    さらりと言ってのけ、作家の話も終わるのです。
    とにかく悲しさと楽しさが共存する不思議な世界観を感じました。



      ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    グッバイ、レーニン

    4
    JUGEMテーマ:洋画

    グッバイ、レーニン

    「グッバイ、レーニン」
    原題:Good Bye Lenin!
    監督:ヴェルフガング・ベッカー
    2003年 ドイツ映画 121分
    キャスト:ダニエル・ブリュール
         カトリーン・ザース
         チュルパン・ハマートヴァ
         マリア・シモン

    東ベルリンに暮らすアレックスは、父が西ドイツに
    亡命した後、社会主義に傾倒した母と、離婚し子連れ
    で居候する姉を持っている。しかし心臓発作で倒れた
    母が8か月の昏睡状態から目覚めた時、ベルリンの壁は
    崩壊していた。次のショックは命取りになると医師に
    告げられたアレックスは以前と変わらない体制であるか
    のように繕うのだったが...。

    <お勧め星>☆☆☆☆☆ 最近見た映画ではダントツ1番。
    コメディタッチでありながら様々なメッセージが伝わり
    ます。


    「オスタルギー」 聞きなれない言葉ですが、東西ドイツ
    統一後に旧東側出身者の「昔だってそんなに悪くなかった」
    という感情を表すそうです。映画内でも、東側だった老人が
    幾度となくベルリンの壁の崩壊をボヤく言葉を発しています。
    映画はややもすると重くなりがちな内容を、軽快に描き、
    時にコミカルに時にしんみりといった緩急織り交ぜたストーリー
    になっています。


    グッバイ、レーニン

    アレックス役は「ラッシュ/プライドと友情」(2013)で
    ニキ・ラウダを演じたダニエル・ブリュール。まだ幼さの
    残る若者の顔立ちです。彼の父ローベルトは、西ドイツへ
    亡命し、残された母クリスティアーヌはその後急速に社会主義
    に傾倒し、熱心な愛国主義者としての活動を開始します。それは
    建国記念40周年には祝賀パーティーに呼ばれるほどの活躍ぶり
    なのです。一方のアレックスは、子供の頃、ソユーズに乗って
    宇宙に行ったイェーンにあこがれ、宇宙飛行士を目指すも、
    10年後の今はしがないテレビの修理工。姉アリアネは子連れで
    出戻ってきています。

    そして建国40周年パレードの際、デモに参加したアレックスは
    逮捕され、その姿を見た母は心臓発作で倒れてしまうのです。
    そこから昏睡状態が8か月続き、その間にベルリンの壁は崩壊、
    あっという間に東西の行き来が簡単にできるようになります。
    この辺りは、実際の映像も含めてテンポよく描かれ、東側の
    急速な変化が手に取るように伝わるのです。こんな変化に
    ついていけたのは、きっとごくわずかな人々であり、価値観や
    今まで信じていたものを一切否定することができなかった人も
    いたはず。それでもアレックス達若者はあっという間に順応して
    いくのです。社会主義の象徴だった「赤」がコカ・コーラの
    「赤」に変わっていきます。

    かつてデモで出会ったララが看護師として働いていていて、母の
    担当だという偶然から、急速に接近していると、なんと母が奇跡的
    に目を覚まします。しかし医師からは「次のショックは命取りに
    なる」と宣告されてしまう。社会主義と再婚した母が現状を知った
    らどうなることか。アレックスの奮闘が始まるのです。その行動は
    極めてコミカルであり、骨董市で東ドイツ時代の物資を買ったり、
    親友に偽のニュース映像を作らせたりします。


    グッバイ、レーニン

    ニュースでは西側の難民を東側が受け入れている、という内容に
    なっているのですが、このアナウンサー役は親友であり、背広の
    下はパンツ一丁という姿。
    母が欲しがる東ドイツ時代のピクルスは既に存在せず、必死で
    空き瓶を探し、中身を入れ替えるという涙ぐましい努力もします。
    ここまで母に献身的なのは単なるマザコンか。いや、それは、
    あまりに急速な西側思想の流入に戸惑い、格差を嘆いた東側の人々
    の気持ちを代弁しているのではないでしょうか。

    姉の娘ポーラにわざわざビニールのおむつをはかせる努力も空しく
    ある時、奇跡的に歩けるようになった母が外で見たのは、壊れた
    レーニン像がヘリコプターで運ばれていく姿です。


    グッバイ、レーニン

    それでもアレックスは偽のニュース映像を見せ続けます。そして
    姉は西側出身のライナーという恋人の子供を妊娠してしまう。

    「僕たち家族も統一した」
    自虐的なアレックスの言葉が流れます。
    そして家族全員で「統一ピクニック」に行った時、母の口から
    聞かされた父ローベルトの真実。
    母クリスティアーヌはいつの頃か真実に気づいていたのでは
    ないでしょうか。それを息子に悟られまいと、気づかないふりを
    して、偽のニュース映像を見続けていたのでは?
    死の迫った母のために作られた最後のニュース映像は、真実とは
    全く異なる内容でしたが、それこそ母のみならず、多くの人々が
    理想と描いていたものだったと思います。


      ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    ライフ・イズ・ビューティフル

    5
    JUGEMテーマ:洋画

    ライフイズビューティフル

    「ライフ・イズ・ビューティフル」
    原題:La Vita e Bella/Life is Beautiful
    監督:ロベルト・ベニーニ
    1998年 イタリア映画 117分
    キャスト:ロベルト・ベニーニ
         ニコレッタ・ブラスキ
         ジョルジオ・カンタリーニ
         ジュスティーノ・デュラーノ

    1939年、ユダヤ系イタリア人、グイドは、友人と
    共に叔父の経営するホテルで働き始める。そして
    彼は名家の娘ドーラと駆け落ち同然に結婚し、一人息子
    ジョズエを授かるが、ナチス・ドイツによって収容所へ
    送られてしまうのだった。

    <お勧め星>☆☆☆☆☆ ユダヤ人迫害の悲劇をユーモア
    を混じえながら描いた秀逸な作品です。


    冒頭から意味は字幕でしかわかりませんが、めちゃくちゃ
    陽気な青年グイドとその友人フェルッチョの会話が続き、
    イタリア人の底抜けに明るい面をこれでもかと見せつけます。
    しかしこの陽気さが、この後の彼の人生に大きく影響して
    くるのです。

    1939年という年からすぐにわかるように、第2次世界大戦は
    目の前に迫っており、ユダヤ系イタリア人であるグイドが、
    仕事を求めて訪れた叔父の家も、暴徒によって攻撃され始めて
    いるのです。
    「無言も叫びだ」
    叔父のこの言葉は重いです。
    グイドのうるさいほど明るい口調も、次第に楽しく感じられ
    るのは、その内容がウィットに富んでいるからでしょう。
    駆け落ち同然に結婚したドーラと一人息子ジョズエと共に
    小さな書店を営む彼の周りにもナチスの力が及んできます。


    ライフイズビューティフル

    突然呼び出され、列車に押し込められる時も
    「列車に乗るんだ。うれしいだろう。行き先がわからないから
    余計に楽しい。」
    グイドは息子に言い続けます。
    そして到着した収容所には、やせ細ったユダヤ人たちが、粗末な
    部屋に押し込められているのです。家に帰りたい、おやつがほしい
    と語る息子に、グイドは
    「これはゲームだ。1000点獲ったら戦車で家に帰れるんだ。
    おやつが欲しがったり、ママを恋しがったり、泣いたら減点、失格
    してしまう。」
    と言い聞かせると、息子は目を丸くしながら信じ込むのです。


    ライフイズビューティフル

    このジョズエ役の少年がとても可愛い。表情も豊かで、心を和ませ
    てくれます。
    グイドは笑いながら、心の底からこの子に生きてほしい。生きて
    3人で暮らしたいと願っていたことでしょう。彼の考え付くアイデア
    はその時々に合わせて、危険を回避したり、収容所内の妻への
    自分と息子が生きているというメッセージを送ったりと、笑い泣き
    のような気持ちを起こさせます。
    そして終戦になった時にジョズエに

    「もしパパが戻るのがすごく遅くても、隠れ続けないと1等になれない」
    とグイドは言い、彼を箱に隠し、妻を捜すのです。
    この姿も女装したり、壁に張り付いたりと、ユーモアに富んだもの
    です。周りが静かになった時、箱から出てきたジョズエが見たのは
    本物の戦車。でも出てきた兵士は英語を話します。でもジョズエは
    「本当だ!」
    と大喜びするのです。その直前の厳しい映像(音だけですが)を
    覚えているだけにここは切ないです。
    最後まで息子を守り抜いたグイドの大きな愛を感じる映画でした。


      ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    コーラス

    4
    JUGEMテーマ:洋画

    コーラス

    「コーラス」
    原題:Les Choristes
    監督:クリストフ・バラティエ
    2004年 フランス映画 97分
    キャスト:ジェラール・ジュニョ
         ジャン=バティスト・モニエ
         ジャック・ペラン
         フランソワ・ベルレアン

    1949年、孤児や問題児を集めた「池の底」と呼ばれる
    寄宿学校へマチューという音楽教師が赴任する。彼は生徒
    に厳しく対応する校長らに戸惑いながら、音楽で生徒の
    心をつかもうと考えるのだった。

    <お勧め星>☆☆☆☆☆ 少年たちの美しい歌声と心が
    ほっこりするラストに静かに感動しました。


    映画内で問題児でありつつ美声の持ち主、モランジュ役を
    演じたのは、実際にサン・マルク少年少女合唱団のソリスト
    だった当時13歳のジャン=バティスト・モニエです。
    まさしく美少年かつ天使の歌声の持ち主で3000名の中
    から選ばれたとのこと。この声は絶対に聞いた方がいい。


    コーラス

    映画は指揮者である老人の元へこれまた1人の老人が訪ねて
    くるところから始まります。


    コーラス

    「池の底」と呼ばれる、第二次世界大戦による孤児や問題児
    を収容する寄宿学校で一緒に過ごした2人は、マチューという
    舎監が書いた日記を読みながら、当時を思い出していくのです。
    マチューは音楽家の夢に破れ、一介の音楽教師としてたまたま
    この「池の底」へ赴任します。ここがまた問題児だらけの学校
    であり、前任者は生徒に腕を切られたことで辞めたと話します。
    この教師役を日本なら、熱血先生的な人物が演じるに決まって
    いるのですが、このマチューはそんなタイプとは正反対の

    小太りで中年、頭髪も薄くなった独身のおっさんです。もちろん
    何かに熱くなることもなければ、暴力などふるうこともない。
    それだからこそ、この映画の本題に感情移入できるのですよ。
    赴任早々に用務員マクサンスは生徒のいたずらで大けがを負うし、
    それに対して校長は厳罰主義で対処します。それは体罰、反省
    部屋への監禁、1人掃除など。そういう形で抑圧された子供は
    見えないところでそれを発散させるに決まっているのです。
    マチューは生徒のいたずらに戸惑いながら、彼らがハミングする
    声を聞いて、コーラスをやらせることを思い立つのです。
    マチューは校長の嫌味にも特に反抗せず、ただ自分の教えたい
    コーラスを毎日練習させます。どうしてもオンチな子は譜面台
    だし、幼いペピノはメトロノーム係。その中で問題児でありながら
    耳を疑うような美声の持ち主モランジュを発見するのです。
    彼らがこのコーラスによって少しずつ人間性を取り戻していく姿
    は気分がいいし、そのまま大感動シーンとならないところもいい。
    ある事件から校長にクビを言い渡されたマチューは、生徒が誰も
    見送ってくれないことに少しだけ落胆していると、彼の頭上には
    ある物がどんどん飛来します。これは映画の中盤で使われた小道具
    であり、うまく活用したなと感激。


    コーラス

    そしてバス停まで追いかけてきたのは...。
    指揮者がペピノという名前であることがわかると、マチューの
    ごく平凡な行為が、子供たちの未来を変えていったのだと気づか
    され、再び感動します。


      ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    アンコール

    4
    JUGEMテーマ:洋画

    アンコール

    「アンコール」
    原題:Song for Marion/Unfinished song
    監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
    2012年 イギリス映画 94分
    キャスト:テレンス・スタンプ
         バレッサ・レッドグレーブ
         ジェマ・アータートン
         クリストファー・エクルストン

    気難しいアーサーの妻マリオンは、周りの誰からも愛される
    明るい女性である。彼女は老人たちの合唱団に参加していたが、
    ある日ガンが再発し、余命が残りわずかであるとわかってしまう。
    息子ともうまくいかないアーサーは、妻のために必死で世話を
    するのだが...。

    <お勧め星>☆☆☆☆☆ 文句なく素晴らしい映画です。涙が
    自然と流れます。


    主役のアーサー役は「アジャストメント」(2011)の
    テレンス・スタンプ。そして彼の妻で、誰からも好かれる朗らかな
    マリオン役はバネッサ・レッドグレーブです。彼女に関しては
    政治的な活動の方が印象深く、知らないうちに老人になっていたな
    という感じがしました。


    アンコール

    オープニングは楽しそうに公民館で合唱の練習をする老人たちと
    それをよそに外でタバコを吸っている不機嫌そうなアーサーが
    映ります。このアーサーは妻マリオンを心から愛し、彼女が日々の
    生きがいとなっている生活を送っているのです。なんかこういう
    老人っているよね。大した趣味もなく、心を許す相手は妻しか
    いない。息子ジェームズに対しても辛辣な言葉しかかけられない
    のです。その姿を孫娘にまで心配される始末。


    アンコール

    全てマリオンが取り持ち、この家族は成立してきたのです。
    しかし彼女のガンが再発し、余命もわずかであるとわかってしまう。
    マリオンは、残りわずかな期間を合唱に打ち込みたいと言い、雨の
    中、彼女のために歌いに来てくれたメンバーを怒鳴り散らした夫に
    「言うとおりにするまで口をきかない」
    とだんまり戦術に入るのです。この辺りもガンコじいさんが負ける
    姿が、コミカルに描かれ、こんな夫婦はどこにでもいそうだな、と
    思います。

    そしてマリオンの代わりに練習に行ったり、外で彼女を待つうちに
    なぜかアーサーの口からも自然と歌がこぼれ始めるのです。歌って
    すごい力を持っているんですね。
    合唱団の先生エリザベス役は「アリス・クリードの失踪」の
    ジェマ・アータートン。


    アンコール

    彼女の豊かな演技力も素晴らしいです。様々な表情が極めて自然に
    演じられています。
    そして合唱コンクールの予選大会で、マリオンがソロで歌う時、
    まず涙がホロリ。なぜ彼女がソロなのか。それはもしも本大会に
    行けたとしても、この世にいるかどうかわからないから。歌の歌詞
    にも泣かされます。
    シンディー・ローパーの「トゥルー・カラーズ」。

    そこにいる誰もが感動し、アーサーも心を揺さぶられるのですが、
    やはり素直になれないのです。ガンコおやじ、偏屈おやじ。
    この涙シーンの前には、エアギターに興じ、終わった後、仲間に
    助け起こされるメンバーや過激な歌詞のヒップホップで笑わせて
    いるので余計に心に響くのです。
    I don't want you to go,please.
    アーサーが懇願しても、ある夜マリオンは旅立ちます。駆けつけた
    息子がドア越しに聞く父親の慟哭は、本当に胸が締め付けられます。
    マリオンの死後、一層息子との溝が深まったアーサーをエリザベス
    が合唱に誘うのです。「Enjoy!」

    息子に拒絶され続けても、素直になってみると、アーサー自身の
    本当の心が自分でわかり始めます。
    合唱コンクールでのアーサーのソロ曲はビリー・ジョエルの
    「ララバイ」。これも涙が出ます。なかなか歌いだせなかった祖父
    に声をかける孫娘。家族の力や友人の力、そして歌の力は素晴らしい
    と感じます。ラストはうまくいきすぎた感もありますが、素直に
    幸せな気分になれる映画です。


      


      ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

    さあ帰ろう、ペダルをこいで

    5
    JUGEMテーマ:洋画
     
    さあ帰ろう、ペダルをこいで

    「さあ帰ろう、ペダルをこいで」
    原題:sevetat e golyam i/spasenie de bne/otnsyakade
    監督:ステファン・コマンダレフ
    2008年   ブルガリア=ドイツ=ハンガリー=セルビア=スロベニア映画
            105分
    キャスト:ミキ・マノイロビッチ
         カルロ・リューベック
         フリスト・ムタフチエフ
         アナ・パパドブル

    サシコは父親の運転する車で事故に遭い、両親を亡くし、一人
    生き残る。しかし彼は事故前の記憶を全て失い、面会に来た祖父
    ダンさえ覚えていない。そんな孫を見て、ダンは記憶を取り戻す旅
    と称して自転車旅行に連れ出すのだった。

    さあ帰ろう、ペダルをこいで

    最近見た映画の中では最も心に残る作品の一つです。
    映画の序盤に何やらシリアスな表情の夫婦と陰気な息子の姿が
    映ります。彼らは無言で1台の車に乗っているのです。
    その前に1975年の一家の姿が映り、主人公サシコの誕生から、
    祖父母、両親の紹介がさらっと描かれます。そして突然起きた自動車
    事故でサシコだけが生き残るシーンになるのです。ここはいったいどこ
    なのか、なぜ両親は憂鬱そうだったのか、それらは、サシコの幼少期、
    両親の亡命前後の苦悩、現在の祖父とサシコの様子が、かわるがわる
    映るうちに次第に理解できてきます。この描き方も「その先は?」と関心
    をひきつけるものであり、全く飽きることがありません。
    1975年、ブルガリアの田舎町で生まれたアレクサンダルことサシコは
    サイコロ名人の祖父バン・ダンとお菓子作りが得意な祖母、そして落ち着き
    のない父ヴァスコ、静かで穏やかな母ヤナの5人でつつましくも幸せに
    暮らしていたのです。

    さあ帰ろう、ペダルをこいで

    ダンのバックギャモンの腕前は超一流で、金は賭けない名誉の戦いを
    し続けていました。しかし共産党政権下の1983年、ダンの過去の行為や
    娘婿ヴァスコの経歴詐称で、ヴァスコ、ヤナ、サシコはドイツへの亡命を
    試みます。
    「おじいちゃんと話したい時は、空の雲に話しかけるといい。」
    ダンの言葉に頷くサシコ。しかし彼らにはイタリアの難民収容所での過酷な
    生活が待っていました。それらも深く掘り下げすぎることなく、見る者に淡々と
    訴えていきます。

    さあ帰ろう、ペダルをこいで

    ブルガリアといえば琴欧州、ヨーグルトぐらいしか知識のなかった私は
    この映画で、この国がソ連の衛星国家であった時代の存在を知りました。
    それはほんの30年ほど前のことなのです。そして今も決して裕福な国では
    ないのです。
    そして冒頭の陰気な親子3人は自動車事故に遭い、サシコだけ生き残ります。
    ところが彼には事故前の記憶が一切ないのです。そこから面会に来た祖父と
    タンデム自転車に乗って記憶を取り戻す旅に出かけることになります。
    風力発電の風車が回り、どこまでも広がる真っ青な空、辺り一面緑の草原、
    のどかな音楽やダンスと心のなごむものと接するうちに、サシコは記憶を
    取り戻していきます。途中で、マリアという女性とも出会い、彼は再生した自分と
    心を実感するのです。もちろんダンの後押しもあったのですが。

    さあ帰ろう、ペダルをこいで

    途中でダンはサシコを置いて列車でブルガリアへ戻っていきます。その後の
    サシコのふっきれたような表情は、人生は自分で切り開くものであり、それは
    「サイコロの振り方次第」
    というダンの言葉をそのまま描いているようでした。
    雨上がりの空に浮かぶ虹もうまく使われています。

    <マープルの採点>
    お勧め星   ☆☆☆☆☆


    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

    明日は花散らしの雨らしい。今日はいい天気。

    灼熱の魂

    5
    JUGEMテーマ:洋画

    灼熱の魂

    「灼熱の魂」
    原題:incedies
    監督:ドゥニ・ビルヌーブ
    2010年   フランス=カナダ映画   131分
    キャスト:ルブナ・アザバル
         メリッサ・デゾルモー=プーラン
         マキシム・ゴーデッド

    中東出身の女性ナワルは、双子のジャンヌとシモンに謎の遺言と
    2通の手紙を残して息を引き取る。彼らは各々存在すら知らなかった
    父と兄を見つけるため、母の祖国へ向かうのだった。

    灼熱の魂

    原題名は「焼き尽くされた魂」。見終わるとその意味を実感します。
    冒頭、まだ幼い少年達の髪の毛を兵士がバリカンで刈り上げるシーンが
    映ります。少年の足元に落ちる髪の毛と、その暗い瞳には希望は見えません。

    灼熱の魂

    そして一人の少年の右足のかかとには3つのドットのタトゥがあるのです。
    舞台は変わって、双子のジャンヌとシモンが公証人ジャン・ルベルから
    彼らの母親ナワルの遺言を聞かされるシーンになります。その遺言は極めて
    奇妙なもので、ジャンヌは父親を見つけ、シモンは兄を見つけ、各々1通の
    手紙を手渡し、その後もう1通の手紙を開けた後、墓石にナワルの名前を
    刻んでほしい、というものなのです。
    「こんな遺言は無視して、ふつうに葬儀しようぜ。」
    ドライなシモンは主張しますが、ジャンヌは今まで一切語られなかった母ナワル
    の過去を調べるため、故郷レバノンへと渡るのです。2人はカナダ育ちで、ナワル
    のことはほとんど知らなかったことに気づきます。母の過去に何があったのか。
    そして父は生きているのか。
    途中に入り込む、プールで突然表情を失う母ナワルの意味はラスト付近にわか
    ります。
    ナワルの過去のシーンとその軌跡を追うジャンヌが交互に映り、ナワルの過酷
    と一言で片づけてはあまりにも簡単すぎる半生が少しずつ紐解かれていくのです。

    灼熱の魂

    母の故郷の村では、ジャンヌを歓迎してくれた婦人たちが、ナワルの写真を見た
    途端に急に「帰ってくれ」と騒ぎ始まます。レバノンという国の宗教が入り乱れ、
    大国に翻弄され続けた混乱と内戦の歴史、そしてそれによる人間の心の崩壊が
    全て画面に映し出されていくのです。そこには目を背けたくなるような現実ばかり
    が映っています。今なおこんな状況の国々はいくつも存在しているのです。

    灼熱の魂

    そしてジャンヌから
    「次はあなたが兄を見つなさい。」
    と託されたシモンは渋々現地に向かうのですが、そこで知った驚愕の事実。
    「報復の連鎖は膨らみ続ける」
    それはいつ断ち切られるのか。
    「沈黙は守られ、そして約束は果たされた」
    母のこの言葉に2人だけでなく見ている者も打ちのめされるはずです。

    <マープルの採点>
    お勧め星   ☆☆☆☆☆



      ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

    寒かったら厚着すればいい?いや、寒いものは寒い。

    サラの鍵

    2
    JUGEMテーマ:洋画
     
    サラの鍵

    「サラの鍵」
    原題:Elle s'appelait Sarah
    監督:ジル・パケ=ブランネール
    2010年   フランス映画   111分
    キャスト:クリスティン・スコット・トーマス
         メリュジーヌ・マヤンス
         ニエル・アレストラップ

    1942年、パリに住むユダヤ人のサラは、両親とともにフランス警察によって
    収容所へ連行される。その際、サラは、弟ミシェルを納戸に隠し、鍵をかけて
    きた。一方2009年、ジュリアは、夫の祖母が所有するパリのアパートへ移り
    住む過程で、過去の悲惨な事件について知るのだった。

    サラの鍵

    「黄色い星の子供たち」(2010)と同じ、ナチスによる「ヴェルディヴの悲劇」について
    描いています。
    1942年7月16日、ベッドの上でふざけ合うサラとミシェル姉弟。この無邪気な笑顔は
    これ以降二度と見られなくなります。
    その日、フランス警察によってパリ在住のユダヤ人が一斉検挙されます。サラと彼女
    の両親もヴェルディヴにある冬期競技場に収容されてしまうのです。サラはミシェルを
    納戸に隠し、「すぐに迎えに来るからね。」と鍵をかけて家を出ます。

    サラの鍵

    ヴェルディヴでの悲惨な状況は、おそらくこの映画の方がリアルに描いていると
    思います。水、食料はなく、トイレもない不衛生な環境に、大量のユダヤ人がひしめき
    合っているのです。

    サラの鍵

    一方、2009年、パリのマレ地区のアパートを訪れたジュリアは、夫ベルトランと
    娘ゾーイで、この部屋に引っ越しをしようと考えています。ところがジャーナリスト
    という仕事柄、かつてマレ地区のユダヤ人がヴェルディヴの悲劇に遭っていること
    を知り、このアパートはもしかしたら...とその過去を探り始めるのです。
    サラとジュリアのシーンが交互に映り、そして真実へと近づいていきます。
    サラの瞳の奥にとてつもない悲しみを見て取ったサラの夫の言葉。それは弟
    ミシェルを連れて出なかったこと、そして納戸に鍵をかけたこと、その後両親と
    引き裂かれた収容所生活、そして一緒に脱走した友人の病死。

    サラの鍵

    これでもかというほどの悲しみを全て見てきた瞳だったのですね。

    サラの鍵

    45歳にして妊娠したジュリアとそれを喜ばない夫との確執も含めて、夫の家族が
    隠してきた過去の事実が露呈していくと、サラについてもだんだんわかっていきます。
    こんな悲劇は後世に語り継いでいかないといけません。
    映画のラストは希望を持ったものとなっており、この映画に未来を託した気がしています。

    <マープルの採点>
    お勧め星   ☆☆☆☆☆



    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

    今日は雨降り。少し涼しいくらい。


    PR

    カレンダー

    S M T W T F S
         12
    3456789
    10111213141516
    17181920212223
    24252627282930
    31      
    << March 2024 >>

    ブログランキング

    今日のわんこ

    powered by 撮影スタジオ.jp

    アマゾン

    遊びにきてくれてありがとう!

    カウンター

    死語レッスン

    最新記事

    categories

    過去の記事

    コメントありがとうございます!

    トラックバックありがとうございます!

    recommend

    お友達

    ミス・マープルについて

    書いた記事数:3431 最後に更新した日:2023/01/12

    あの映画を探そう!

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM