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- 2023.01.12 Thursday
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JUGEMテーマ:洋画
出典:IMDb
「存在のない子供たち」
原題:Capharnaun/Caphaynaum/Capernaum
監督:ナディーン・ラバキー
2018年 フランス=レバノン映画 126分
PG12
キャスト:シドラ・イザーム
ゼイン・アル=ラフィーア
ボルワティフ・トレシャーバンコレ
実の妹の夫を刺した罪で服役中の12歳のゼインは、実の
両親を「自分を生んだ罪」で訴える。彼はレバノンの
スラムに暮し、身分証どころか出生証明書すらない身の上で、
生活のために一日中働いているのだ。そして妹サハルが大家
アサードと強制結婚させられたことに怒った彼は、家を飛び
出すのだが...。
<お勧め星>☆☆☆☆半 貧困、児童虐待、児童婚、不法移民、
難民など多くの課題を描き出しながら最後に見せるゼインの
笑顔に少しだけ心が救われます。
世話ができないなら生むな
この映画ではほとんどのキャラクターがそのままの環境に存在
しているそうで、主人公のゼイン役の少年は、4歳の時に
シリアからの難民としてレバノンに入り、文字も読めない状況下で
生活のために働いていたと言います。またゼインの母親役の女性は
実際に自分の子供に氷をまぶした砂糖を与え、映画の中盤に登場
するアフリカからの出稼ぎの女性で不法就労のラヒル役は、撮影中に
不法移民として逮捕され、監督が保証人となって釈放され、また
その子供ヨナスは、実の両親が撮影中に逮捕されているというの
です。唯一ゼインの弁護士役の監督自身のみそのような環境に
なかったわけです。したがって、彼らの怒りや悲しみや絶望に
満ちた瞳は全てが真実を物語っているとも言えます。
仲間たちと煙草をくゆらし、廃墟に張り込んで、模造銃を使って
戦闘する遊びに興じる少年たちは、どの子供も服は薄汚れ、髪の
毛もいつ洗ったのかわからないほどの雰囲気。その中のゼインは
家に戻ると妹サハルの下に数人の弟妹がいる超貧困家庭で、両親の
指示で朝から晩まで働かされているのです。ゼインが学校に行く
バスを見て少しだけうらやましそうな顔をしますが、それは絶対に
かなわない夢なのです。
出典:IMDb
このゼインは多分12歳くらいと本人も語り、大人の状況も少し
ずつ分かり始める年ごろで、大家のアサードが妹で11歳の
サハルを狙っていることをとても嫌っています。サハルはまだ幼稚
であり、彼がくれるラーメンやグミを楽しみに待っているし、自分
に初潮が訪れても全く気づかないのです。それにいち早く気づいた
ゼインがアサードの店でナプキンを万引きし、それをあてたサハルの
後ろ姿がとても奇妙で、また彼女もそれをかなり意識している辺りも
まだまだ子供だという事が伺えます。
ところがそれは親に知られてはいけないんです。つまり大人の女性に
なった証があれば、大家のアサードの妻にならなければなりません。
レバノンという国はゴーンが逃亡した国で一躍有名になりましたが、
人口の3割が貧困層であり、150万人が1日4ドル、そのうちの
30万人は2ドル半で暮らしているそうです。また長年の失策と
縁故主義の癒着による政治の腐敗から債務超過国であり、いわゆる
国家破産まで秒読みの状態にあるのです。そこにシリア等からの難民が
100万人以上押し寄せています。映画内でもシリア人への配給は
あるのに、自国つまりレバノン人への補助はなく、ゼインがシリア人に
なりすまして救援物資を受け取るシーンがありました。
そしてある日サハルはアサードのもとに強制的に嫁がされ、ゼインは
そのまま家を出るのです。彼が行く当てもなくバスに乗って、そこで
隣に座った老人の後を追って遊園地のそばで下車し、一人で観覧車に
乗ると、目の前には今まで見たことがなかったであろう「美しい海」が
広がります。しかしそれも一瞬ですぐに地上に降りてしまいます。
ゼインはいろいろな仕事を求めますが、この少年に与えられる仕事など
なく、遊園地の掃除婦として働いていたラヒルのあとをついていきます。
「何か食べ物はない?」
出典:IMDb
ラヒルはラヒルで、エチオピアから出稼ぎにきたものの、恋人の
子供を身ごもったことでメイドの職をクビになり、いまは不法就労
している身の上なのです。さらにヨナスという赤ん坊もいます。
このラヒルはおそらくは、現地で悪徳業者に騙され、借金をした上で、
この地にやってきた模様で、実家には仕送りをしないといけないと
いうさらなる試練を抱えているのです。
彼女の家はゼインの家よりもさらにバラックに近い建物です。上から
見るとこんな感じ。
出典:IMDb
それでもゼインがヨナスの子守になるので、彼女としては少し負担が
減るわけなのですが、そこに立ちはだかるのが「滞在許可証」です。
メイドでの就労でなければこの国には滞在できず、(自国民の仕事
すらろくにない)市場のアスプロという男に偽造してもらうために
金を支払わなければなりません。金を支払うか、ヨナスを養子に
出すかを迫られます。どこを向いても厳しい現実ばかりです。
出典:IMDb
ゼインは親の元にいたころは、生活のために力仕事をし、弟妹の
世話から路上でのジュース販売も行っていました。そしてラヒルが
ある日帰って来なくなると、今度はヨナスのために、砂糖をつけた
氷を与え、シリア人に扮して配給物資をもらい、違法に薬を入手
して水で薄めて販売し、金を貯めていきます。それは市場で逢った
メイスーンという少女に聞いた「違う国」に移住するための資金
なのです。
ラヒルの家の水道から水が出なくなると「この国は最低だな」と
ゼインは吐き捨てるように言います。本当に最低の生活すらできない
国なのです。
そしてラヒルの家が鎖でとじられ、金が出せなくなると、遂にゼインは
アスプロにヨナスを渡すのですよ。この時彼が流す涙が最も切ないです。
自分は今まで愛されたことがあったのか、そして愛した者はどうして
すべて手放さなくてはいけないのか。その気持ちはサハルの死を知った
後に起こすアサードへの凶行、さらには次の妊娠を告げる母親への
吐き捨てるような言葉につながります。
出典:IMDb
しかしゼインの両親が極悪人というわけではなく、貧困が全ての原因で
あることは明白で、綺麗ごとですが、世界にはこういう状況の人々が
数えきれないほど存在することを知る努力に時間を費やしてほしいと
思うばかりです。
JUGEMテーマ:洋画
出典:IMDb
「僕たちは希望という名の列車に乗った」
原題:Das Schweigende Klassenzimmer
監督:ラース・クラウメ
2018年 ドイツ映画 111分 PG12
キャスト:レオナルド・シャイヒャー
トム・クラメンツ
レナ・クレンク
ヨナス・ダスラー
イザイア・ミカルスキ
1956年、東ドイツの高校生テオとクルトは、
西ドイツの映画館でハンガリーの民衆蜂起のニュース
映像を目にする。彼らはそれをクラスメイトに話し、
その暴動で多くの死者が出たことを知って、授業中
2分間の黙とうを決行する。しかしそれは国家への
反逆行為とみなされ、大問題へと発展していくのだった。
<お勧め星>☆☆☆☆半 若者が息苦しさを感じ、そこ
から苦悩しながら抜け出す道を考え出す希望のある
ラストでした。
自分で決めろ
※ネタバレしているかもしれません
監督は「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」
(2015)のラース・クラウメ。1950年代後半の
西ドイツでナチスの戦犯アイヒマンを追うユダヤ人の
バウアー検事長の姿を描いた映画です。そこには捜査機関、
司法機関、そして政権の中枢にナチスの戦犯が存在し続け、
ヒトラーによって作り上げられた「負の歴史」から復興の
光がさしていることに水を差そうとする行為として、バウアーが
あらゆる面で邪魔をされ、裏切られ、私生活までも暴かれて
いく姿が映し出されています。
「ヒトラー」という悪魔とそれに利用されたお人よしの
ドイツ国民という構図は、結局は西ドイツの再ナチ化を
進ませていったと言われ、それをバウアーが阻止しようと
奔走するしかなかったのです。
(『ヒトラーを支持したドイツ国民』ロバート・ジェラテリーより)
この映画は東ドイツの同時期を描いており、東側から見る
西ドイツの姿を垣間見ることができます。もちろん情報はねつ造
されており、真実は一切報道されません。そこでテオとクルトが
映画館で見たニュース映像に大変驚くわけです。自分たちの町には
ソ連兵が駐留していて「ナチスめ!」と明らかに東ドイツの人々を
憎んでいる。この閉塞感はなんだろう。
ハンガリーでの民衆蜂起映像を見た二人はクラスメイトにそれを話し、
唯一西側のラジオが聞ける場所でその先のニュースを聞くと、
かなりの数の民衆が亡くなったことを知るのです。そこには有名な
サッカー選手もいる。そこでクルトが提案し授業開始後2分間
黙とうをすることに「多数決」で決めます。黙とうといってもただ
黙っていただけで、エリックの発した言葉が無かったら、それほど
問題にならなかったかもしれないし、また丸く収めようとした校長を
無視して「密告」する教員がいなければ、大問題になったはずも
ないのです。彼らにとって、本当に悲しんで黙とうしたというより、
少しだけ「反抗」したにすぎなかったはず。
出典:youtube
ところが国家教育局の役人が登場し、一人ずつ尋問されていきます。
この女性がまことに怖い。体も大きければ態度も声もでかいのです。
役人の知りたいのは「首謀者は誰か」で、一週間以内に首謀者を
知らせるように言って帰ります。
出典:IMDb
ハンガリーの民衆蜂起は東ドイツにとっては「反体制行為」で
あり絶対に見過ごせないことだということに生徒たちが気づいた
時どうするか。そこでも彼らは多数決で「自然にそうなった」と
口をそろえて言うことにします。しかしそんな甘いことで済ます
ような役人ではありません。なんせ東ドイツには秘密警察
シュタージが存在し、生徒たちの身辺の情報は全て把握していた
のです。もちろん生徒自身が知らないことまでもです。もう一方で
「卒業」を切り札に半ば脅迫のように真相を話すように迫ります。
出典:IMDb
典型的な労働者階級の家庭であるテオは、父親の過酷な労働状況を
知っているし、父が市の名士であるクルトは、母方の祖父がナチスの
戦犯だったことを知っています。さらにはエリックは、ドイツ共産党軍
として戦死した父を尊敬し、聖職者と再婚した母を避けています。
これらの事実の裏に隠された事柄を、まことにいやらしく役人が
暴いていくのです。それは絶対に知られたくなかった過去を誰もが
背負っていたことを示しているし、今や権力をふるっている役人たち
にも必ずやそれらの事柄が存在していたはずなのです。なのにだよ!
出典:IMDb
終盤には両隣の女性が涙をしきりにぬぐっていましたが、私は全く
泣けませんでした。むしろ若くてまっすぐに育ったテオたちに必死で
パワーを送り続けました。どうやったかって?
それはちょっと言われへん。
親世代は決して変化を受け入れないけれど、若い世代は、過去を
受け止め新しい道を進む力を持っていると思います。それを後押し
するのが愛情なのだと実感しました。
この後西側への人々の流出が激増し、ベルリンの壁ができ、そして
その壁が崩壊し、ドイツが統一されたのが1989年です。それから
30年経って今の状況はどうなのでしょうか。旧東ドイツの人々の間では
「オスタルギー」という懐古趣味が幅を利かせているとのこと。そこに
移民問題も絡み先行きに不安を感じざるをえません。