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    • 2023.01.12 Thursday
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    ベルファスト

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      JUGEMテーマ:洋画

       

      ベルファスト

      出典:IMDb

       

      「ベルファスト」

      原題:Belfast

      監督:ケネス・プラナー

      2021年 イギリス映画 98分

      キャスト:カトリーナ・パルフ

           ジュディ・デンチ

           ジェイミー・ドーナン

           キアラン・ハインズ

           ジュード・ヒル

       

      ベルファストに両親、兄と暮らすバディは父方の祖父母や

      近所の人たちと仲睦まじく平穏な日々を送っていた。

      しかし1969年、8月、プロテスタントの武装集団が

      カトリック系住民への攻撃を始める。その日を境にバディ

      たちは暴力におびえ、父は移住を提案するのだった...。


      <お勧め星>☆☆☆☆ モノクロ映像が当時のベルファストの

      日常をリアルに物語っています。


      答えが一つなら紛争は起きない


      かつてIRA(アイルランド共和国軍)によるテロ行為の映像を

      ニュースでいくつも見たものです。なぜこんなテロ行為を

      起こすのか、民間人を犠牲にしてまで列車や橋を爆破する必要

      があるのか、など考えつつ深く知ろうとは思いませんでした。
      今回この映画を見終わって、当時のベルファストの状況を

      ざっと調べてみました。1920年にイギリスのアイルランド

      統治法によって北アイルランドがアイルランドから分離されて

      以来、多数派のプロテスタント信者と少数派のカトリック信者

      との間で起きていた対立が、1960年代に入って暴力的な

      ものに発展していったようです。


      ●プロテスタント(英国教会信者)=イギリスへの統合を願う

      ユニオニスト、英国崇拝主義者であるロイヤリスト
      ●カトリック(ローマ教会信者)=民族第一主義を掲げる

      ナショナリスト、英国との武力闘争を辞さない共和派(過激派)


      が対立し、カトリック側には北アイルランドのアイルランド共和国

      への併合を目指すIRA(北アイルランド共和国軍)が生まれた

      わけです。一方プロテスタント側にもロイヤリストとい過激派が

      存在し、さらにそこに英国軍が暴力的に関与したことで、

      北アイルランドは血の歴史を刻み始めるのです。(世界史の窓より)

      特に1979年に誕生した保守党のサッチャー政権はテロに

      対して厳しく対処したため緊張が最も高まった時期だったようです。

      この問題は1998年のベルファスト合意で一応の終結となって

      います。
      さて映画はベルファストの小さな町の日常を淡々と描きながら

      始まります。町のあちこちに集う老若男女はみな顔見知りで、

      ビールを飲むもの、ダンスを踊るもの、ご近所同士で世間話を

      するものなどが映り、その中でバディという9歳の少年が町の

      みんなに声を掛けられながら帰宅していきます。サッカー大好き

      少年の夢はプロサッカー選手になること。
      そのごく普通の日常が突然若者のデモ隊によって破壊されるの

      です。彼らが何を訴えているのか最初はわかりません。ただ

      彼らは火炎瓶を投げ、投石をし、無防備な住民を襲ってくるの

      です。そして最終的に車に火をつけ爆発させます。

      先ほどまで笑いがあふれていた人々が一気に恐怖におびえ自宅

      に入り、テーブルの下に隠れると、そこにまで石が投げつけられる

      のです。

      デモ隊のシュプレヒコールから、プロテスタント住民が多数の

      地区に暮らす少数のカトリック教徒を追い出そうとしていること

      がわかります。このデモは警察だけでなく軍隊も導入され、静か

      だった人々の生活は一変するのです。住民は過激派かどうか

      いちいちチェックされ、さらには町内の移動さえ、ご近所の人が

      「誰に会うのか。それはどこにあるのか」

      などと検問します。お互いに顔を知っているし、行く先だって

      誰もが知っている家なのにです。小さなコミュニティを暴力と

      恐怖が破壊していくのが目前で繰り広げられていきます。
      バディの父も仕事はこの場所にはなく、どこかに大工として

      出稼ぎに行っており、帰宅するのは2週間に1度です。生活は

      困窮しているものの、ここで生まれ育ったフランキーと妻は、

      フランキーの両親の存在もあってできる限りこの地のとどまり

      たかったのです。しかし事態はどんどん悪化していきます。
      一方でバディは、学校に好きな子がキャサリンがいて、その子

      と席が隣同士になるために、祖父に成績アップ方法を尋ねる

      んです。この答えは大笑い。

      祖父役のキアラン・ハインズがいい味を出しています。
      「裏切りのサーカス」(2011)と全く違う穏やかな雰囲気

      です。でもキャサリンはカトリック教徒なんですよね。
      さらに過激派の行動に合わせてティーンも不良行為を始めます。

      またフランキーは友人から過激派に加わるか否かの答えを

      求められるんです。白か黒か、味方か敵か、は戦争以外の何物

      でもありません。
      既に仕事も見つかり移住を考えるフランキーに対し、妻は

      あくまでもこの地にとどまることを主張しますが、それを覆す

      事件が起こります。それもまたバディが誘われた万引き作戦です。

      ここはとても緊迫するシーンですが、バディの盗んだものが

      「バイオ洗剤」で「自然に優しいから」が盗んだ理由という

      ところが子供の純粋さを物語ります。
      結局その事件により過激派の報復を恐れた一家は移住を決断します。
      病気だった祖父が亡くなった日に、にぎやかに仲間たちと

      見送る人々の中でフランキーの歌とそれに合わせて踊りだす妻

      の姿はもう胸キュンものです。いつかは戻ってくるかもしれない

      けれど、戻ることはないかもしれないベルファストの町での

      最後の晩がどれほど素晴らしいか、この映像を何回も見直したい。
      バスに乗る一家4人を見送る祖母が(ジュディ・デンチ)

      「振り返らずに」と言ったのは、あらゆる面で振り返ることなく

      未来を切り開いて行ってほしいということだったのでしょう。
      ラストだけカラーになり、残ったもの、去って行ったもの、

      命を落としたものに捧ぐ、というクレジットも印象的でした。
      なお映画をモノクロにした理由は、監督自身が暮らした

      ベルファストの街の色合いが雨が多く、灰色だった記憶からだ

      と聞くと、とても上手に再現していたと感じます。

       

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      アナザーラウンド

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        JUGEMテーマ:洋画

         

        アナザーラウンド

        出典:IMDb

         

        「アナザーラウンド」

        原題:Druk/Another Round

        監督:トマス・ヴィンターベア

        2020年 スウェーデン=デンマーク=オランダ映画 

        117分

        キャスト:マッツ・ミケルセン

             トマス・ボー・ラーセン

             マグナス・ミラン

             ラース・ランゼ

             マリア・ボネヴィー

         

        高校で歴史を教えるマーティンは授業について保護者から

        苦情を受け、家では妻とすれ違いの生活を送っている。

        同じような境遇の同僚3人とともに、ノルウェーの哲学者の

        「血中アルコール濃度を適度に保つと自信と活気にみなぎる」

        という理論の検証実験を開始する。飲酒によって急激に意欲が

        現れた4人だったが、さらに上を目指すうちに収拾がつかなく

        なるのだった。


        <お勧め星>☆☆☆☆ ラストのマッツ・ミケルセンのダンスが

        最高です。


        俺たちはコントロールできる


        デンマークでは16歳から飲酒ができるようで、映画内の

        高校生は冒頭から、飲んで飲んで飲みまくり、チームで湖の

        周りをリレーして、リバース回数も踏まえた上での勝負を

        しています。
        人種が黒人、白人、黄色人種に分岐した後、モンゴロイド

        (蒙古系人種=黄色人種)の中に突然変異的に「ALDH2」の

        活性をなくした人が出現し、時代を経るにつれ、モンゴロイド系

        にはお酒に弱い人種が増えていきました。 ちなみに黒人、

        白人には「ALDH2」不活性型は見られません。

        (東京国税局酒税課資料より)

        確かに日本人では下戸の人が多く存在するし、逆に欧米人で

        お酒を飲まない人というのを見かけることはほぼない気がします。
        さてこの乱痴気騒ぎのあと、学生たちは街に繰り出し、ありと

        あらゆるはしゃぎ方をするのです。あれは日本なら捕まるレベル。

        いや日本では飲酒は20歳からでした。だからそもそも未成年が

        飲酒した時点でアウトなわけです。
        翌日彼らの通う高校の職員会でそれを問題視するものの、何の

        お咎めもなし。逆に歴史教師のマーティンの授業では成績が

        上がらないと保護者が苦情を言ってくる始末です。

        マーティンは家でも夜勤続きの妻アニカとすれ違い生活だし、

        息子たちもほとんど父に関心を示しません。まったくくたびれた

        中年オヤジの典型になっているのです。

         

        アナザーラウンド
        出典:IMDb

         

        そんな時同僚ニコライの誕生日会が開かれ、音楽教師ピーター、

        体育教師トミーとともに参加しますが、それぞれが現状に不満を

        抱えています。ニコライは、毎晩オネショをする息子や3人の

        子供の世話にかかりきりの妻に不満を持っているし、トミーは

        老犬だけが家族の寂しい日々、ピーターに至っては彼女すらおらず

        ペットもおらず孤独な毎日を送っています。そして心理学を

        教えるニコライがある提案をするのです。
        「血中アルコール濃度0.05%であると人間はリラックス

        した状態で、力と勇気、自信とやる気にあふれてくるという

        ノルウェー人の哲学者の仮説の検証実験をしよう。」
        マーティンはその場でウォッカを飲みながら「何もない毎日だ」

        と涙をこぼすのです。仲間は彼がかつて教授を目指し意欲に

        あふれた日々を送っていたことを知っています。4人で久しぶりに

        バカ騒ぎをし、翌日から仮説の実践にうつるのです。
        生徒の誰もが耳を傾けなかったマーティンの授業は急に活気

        づきます。それはマーティンがほろ酔いで楽しそうに話をする

        からなのです。また生徒の好奇心をくすぐるというシラフでは

        できないような行動も起こします。
        子育てに疲弊している妻やおねしょ癖の直らない息子に対し

        いつもストレスを感じているニコライも、率先して家族の手伝い

        ができる気分になります。
        サッカーチームでいじめられっ子を見つけたトミーは、彼に

        寄り添って彼に自信を持たせることができます。
        それを心理学の仮説の検証にまとめているピーターも、自分の

        思った通りの進むことに喜びを隠せません。
        さて、だいたい「お酒は適量で」と言われる理由がお酒飲みの

        人なら誰でもわかるはずで、いい気分はずっと続くわけでは

        ないし、「限度」は人それぞれです。しかしその「限度」は誰が

        決めるのでしょう。気分が揚がってきたマーティンたちは
        「俺たちはコントロールできる」
        と血中アルコール濃度の高さを変更します。朝から飲酒した

        マーティンは千鳥足で学校に行くけれど、授業は生徒と一緒に

        楽しみ、週末にはものすごく久しぶりに家族旅行をし、キャンプ中

        のテントの中でアニカとの壁も取っ払うことができます。

         

        アナザーラウンド

        出典:IMDb

         

        おおすごいぞ。
        真似をしたニコライも上々だし、トミーは気持ちがますますアップ

        していきます。そしてサッカーチームのいじめられっ子も見事な

        プレーができるのです。言うことなしじゃないですか。
        こうなると「血中濃度限界を試そう」という考えが浮かぶのは

        当然の流れです。彼らが飲みまくって、その後でしでかす様々な

        行為は、冒頭の無謀な高校生たちの行動と全く同じです。

         

        アナザーラウンド

        出典:IMDb

         

        あれは子供だから許されたことで、分別ある大人が同じことを

        したらどうなるかは見ていて痛々しいほど。
        ここから変貌していく4人の生活、特にマーティンとトミーに

        ついては目も当てられません。

         

        アナザーラウンド
        出典:youtube

         

        ラストにマーティンを演じるマッツ・ミケルセンが踊る姿は

        ものすごく色気があり、そして自由で、活気にあふれています。

        このシーンだけ切り取っておきたいくらいです。あの瞬間が

        味わいたくてお酒を口にすると言っても過言ではないでしょう。

        その時は先のことは考えていないのです。

         

         

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        その瞳に映るのは

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          JUGEMテーマ:洋画

           

          その瞳に映るのは

          出典:IMDb

           

          「その瞳に映るのは」

          原題:Skyggen i mit oje/The Shadow in My Eyes

          監督:オーレ・ボールネダル

          2021年 デンマーク映画 107分

          キャスト:アレックス・アンダーセン

               ダニカ・クルチッチ

               オーラフ・ヨハネッセン

               スーセ・ウォルド

           

          1945年、第二次世界大戦下のデンマークはナチスドイツの

          支配の元、それに協力する者、レジスタンス活動を行なう者、

          恐怖におびえながら日々の暮らしを送る者などがいた。目の前

          で車が爆撃されるのを見たヘンリーは言葉を発せなくなり、

          予備警察HIPOに入っているフレデリックは父親から縁を切られ、

          ユダヤ人虐殺行為を恥じるシスターテレサは自分に鞭を打って

          いる。そんな時「カルタゴ作戦」でゲシュタポ司令部を爆撃する

          ことになるが、爆撃機は目標を誤り、近くの学校を攻撃し始める...。


          <お勧め星>☆☆☆☆ 同じことを何度繰り返せば人間は学習する

          のだろうか


          大勢を救うために多少の犠牲は仕方ない


          「200人の死は20年の安定」という方針で実行された

          天安門事件が今歴史から消されようとしている時、ロシアによる

          ウクライナ侵攻が実行されました。体制の安定のために犠牲になる

          のは何の武器も持たないごく普通の民衆が大多数なのです。
          デンマークは1940年、4月にナチスドイツ占領下に置かれ、

          その統治を進めるためにデンマーク予備警察(HIPO)という

          親ドイツのデンマーク人が組織されました。しかし他国同様に

          レジスタンス活動も行われており、「デンマーク自由評議会」は

          抵抗を続けたのですが、遂にイギリスのレジスタンス組織SOEに

          協力を求めます。これによってイギリスをはじめとする連合軍が

          デンマークにあるゲシュタポ司令部(シェルハウス)を攻撃目標

          としたのが「カルタゴ作戦」です。
          この映画では、冒頭にその作戦に至るまでの状況が簡単に説明

          され、そこに「人間の盾」(多くはレジスタンス活動で拘禁されて

          いる者)がいるものの、その犠牲はいとわないと決定されます。
          そしてのどかな田舎道を自転車に乗って卵を運ぶ少年が映ります。

          真っ青な空、周辺には青々とした草や美しい花が咲き乱れているの

          です。また、どこかに向かう少女3人を乗せたタクシーも映ります。
          突然この平穏な日常が破られたのは、空から飛来した数機の爆撃機

          です。それらはタクシーを機銃掃射で襲い、タクシー内の少女や

          運転手はハチの巣状態となります。その一部始終を見ていたのが
          卵を運んでいたヘンリーです。煙を上げ路肩に止まったタクシーを

          のぞき込むヘンリーの瞳に映ったのは..。自転車は倒れ荷台の卵は

          ほとんど割れて中身が流れ出て行きます。
          また、コペンハーゲンでは、HIPOに入っているフレデリックの

          もとに友人スヴェンが助けを求めに来ます。スヴェンはレジスタンス

          活動を行っており、フレデリックとは友人であったでしょうが、
          受け入れるはずもありません。そして家族の中で特に父に「恥を知れ」

          と言われるフレデリック。

          その後、先の機銃掃射を行った連合軍の兵士たちは上官に目標を

          間違ったことを指摘されるのです。「次からは気をつけろよ」

           

          その瞳に映るのは
          出典:IMDb

           

          そしてスヴェンが街中で白昼堂々射殺されるのを、幼い少女エヴァは

          目撃してしまいます。エヴァの同級生クレタはSSの幹部の娘であり、

          そんな遺体よりそこにいるエヴァに気づいてほしくて手を振るのです。

          ここまでのシーンで、戦争において人が簡単に殺されていく日常を

          体験した者の心の傷の深さを感じずにはいられません。また幼いが

          ゆえに大人の言うことが全て正しいと信じてしまう恐怖も覚えます。
          空を見ると強い恐怖に襲われ、また言葉を失ったヘンリー。ユダヤ人

          虐殺を神が止めないことに絶望して自らに鞭打つシスターテレサ。

          自分の信念が揺らぎ始めているフレデリック。彼らを中心にこの後

          映画は進みます。

           

          その瞳に映るのは
          出典:IMDb

           

          コペンハーゲンの叔母の家に預けられたヘンリーは、従妹の

          リーモアとその友達エヴァとともにシスターテレサなどが働く

          学校へ向かいます。この間にフレデリックはシスターテレサの

          元を訪れ「祈り方」を訊ねるのです。
          またシスターテレサは、鉛筆を落とした瞬間は

          「神がよそ見している」

          と子供たちにユーモアをこめて教えます。これが終盤のとても

          辛いシーンの会話に出てきます。

          「神はよそ見しすぎじゃないのか」
          人間の盾の存在を知りつつ「カルタゴ作戦」を実行することが、

          デンマークを救う、いや、戦況を有利にすると考えたSOEは

          連合軍による爆撃を認めるわけですが、その目標がまさか違って

          いたと誰が気づくのでしょう。それも一旦落とした後に30秒後に

          大爆発するという時限式の爆弾です。次々に空から飛来する

          爆撃機の爆弾から地下へと逃げるシスターや教員、多くの子供

          たちは、その途中で大爆発に遭い、さらには無事に地下に逃げ込み、

          涙をこらえる人たちにさらに爆撃が行われるのです。

           

          その瞳に映るのは
          出典:IMDb

           

          「あら、けがをしたのね。大丈夫、また指ははえてくるのよ」
          とことん優しいシスターは次の瞬間にがれきの中に埋もれてしまい

          ます。その中にシスターテレサ、リーモアもいたのです。
          たまたまトイレに行っていて地下に向かえなかったエヴァと

          ヘンリーは、やはり空から飛来するいくつもの爆撃機を見つめます。

          次に瞬間には二人とも土と埃だらけの真っ白な姿に変わるのです。
          シスターテレサとリーモアの絶望的な会話と子供を探す親たちの

          悲痛な姿、そして「伝令」として見つかった子供の情報を親たちが

          集まっている劇場に行って、女優にメモを渡すヘンリー。どれも
          極限状態の人々を描いています。

           

          その瞳に映るのは

          出典:IMDb

           

          あれほどスパルタな治療を受けても話せなかったヘンリーはこの

          状況になって言葉を発するのです。そしてがれきをかき分けて

          地下に入っていくフレデリックとシスターテレサの再会は、お互い

          の瞳に浮かんだ絶望が全てを物語ります。
          ラストに映るエヴァの姿は、惨い体験をした子供たちが人間として

          の心を失ってしまうのをまさに目撃した気持ちになりました。

          そういう子供たちが世界に今どのくらいいるのでしょう。そして
          それをサポートする人々はどのくらいいるのでしょう。
          そもそも戦争に「大義」などないのです。敵と味方しかなく、そこ

          には数多くの無駄な命の喪失があるだけです。自分は行かないが、

          遠くで祈るなら戦地に行って戦え、などという極めて無責任な発言を

          する人が存在することが信じられません。

           

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          ファーザー

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            JUGEMテーマ:洋画

             

            ファーザー

            出典:IMDb

             

            「ファーザー」

            原題:The Father

            監督:フローリアン・ゼレール

            2020年 イギリス=フランス映画 97分

            キャスト:オリヴィア・コールマン

                 アンソニー・ホプキンス

                 ルーファス・シーウェル

                 イモージェン・プーツ

             

            81歳の父、アンソニーの認知症が進み、娘アンが

            手配した介護人がどんどん辞めてしまう。アンソニー

            はアンが自分のフラットと財産を狙っているのでは

            ないかと悪態をつくが、アンは父のために常に全力を

            尽くしているのだった。しかしアンソニーの病状は

            どんどん進んでいき...。


            <お勧め星>☆☆☆☆ 認知症の方の視点で描かれた

            秀逸な映画です。


            すべての葉を失ってしまう。


            自分の母が最期は認知症を患っていたのでこの映画を

            見るのをためらっていましたが、amazonで配信レンタル

            になり鑑賞しました。一言で言うと、まずアカデミー賞

            主演男優賞を獲得したアンソニー・ホプキンスの演技が

            素晴らしいのと彼の視点で描かれた内容に目を見張ります。
            時系列とか登場人物の顔があれこれ変わり、

            今の時間はいつ?

            この人が娘アンじゃないの?

            介護人はアンの妹にそっくりなの?

            アンは結局結婚しているの?

            ところでアンソニーは今どこにいるの?
            など疑問だらけで話が進みます。

             

            ファーザー
            出典:IMDb

             

            冒頭に父アンソニーのフラットに駆けつけるアンは、父に

            罵倒されて介護人が辞めたことに驚いているのですが、実は

            何人も辞めているらしい。なぜならアンソニーは自分は極めて

            正常で、知的でどこも悪くないと信じているから、介護人の

            指示に従わず、その人を盗人呼ばわりするのです。

             

            ファーザー

            出典:IMDb

             

            アンソニーにとって一番大事なものは彼の腕時計、壁に飾って

            ある娘ルーシーが描いた絵、そして唯一の財産であるフラットで、

            それが幾度となく彼の口から飛び出します。
            冒頭のアンは「彼ができてロンドンからパリへ引っ越す予定」

            と語ります。それを鼻で笑うアンソニーは、次のシーンでは

            全く知らない男性が「ポール」と名乗り、アンと10年結婚

            しているという話を聞かされ大そう困惑するのです。そして

            帰宅したアンの顔は冒頭のアンとは異なります。
            また違うシーンに変わると、ポールという人物は存在せず、

            顔の違うアンが「離婚して5年よ」などと言うのでますます

            混乱するのです。この映画の優れているところは、同じシーンを

            何度も繰り返し映すものの、人の顔や言動が少しずつ異なって

            いるところで、さて実際はどうだったのかを知る由がない

            ところです。

            そもそもアンソニーは今自分のフラットにいるんでしょうか?
            そして新しい介護人ローラがやって来ますが、その顔は若くて

            まるで自分の下の娘ルーシーにそっくりであり、アンソニーは

            ご機嫌になって、タップダンスを披露します。彼は過去に

            ダンサーだったとかサーカスでマジシャンをしていたとか

            語りますが、それこそ「作話」の典型で、彼の頭の中がいかに

            混乱しているかを物語るものです。
            一方のアンも愛する父の変貌ぶりに困惑し、彼の相手をし、

            世話をする事に疲れ切っており、映画内で寝ている彼の首を

            絞めるシーンが映ります。それは妄想ですが、どんなに

            愛していても、追いつめられるとそういう気持ちになってしまう

            のも十分わかるのです。彼女が自分の時間を割いて父のもとに

            駆け付けても感謝するどころか悪態をつき、自由にできる時間を

            どんどん削られていく...。

            彼女がマグカップを落とし、その破片を拾いながら、また

            それが滑り落ちる時、涙にくれます。壊れてしまったものは

            いくら拾い集めてももとに戻ることはないのです。
            アンソニーは病院にかかっているのですが、そこのサライ医師

            にも

            「自分はいたって健康で、娘があれこれ指図して困る」

            などと語ります。もちろん生年月日は生まれた時間も含めて

            スラスラ言えます。ところが少し前の記憶が全く残らないのです。

            彼が大事にしている腕時計は、いつも腕にはまっておらず、

            いつもその行方を捜しています。それはアンによると

            「洗面台の隣の棚にしまってあるでしょ」
            とのこと。大事なものはそこにしまっておく癖すら忘れている

            のです。
            アンソニーの状況がさらに悪くなっていると気づくのは、寝て

            起きるたびに自分が今どこにいるのかわからないことと、幻聴や

            妄想があり、深夜徘徊をし始めることを示すシーンからです。

            これもいつのことかは定かではありません。感情の起伏が

            激しいのも彼の病のせいなのです。
            ラスト付近のシーンでは、あの時のアンの顔、あの時のポール

            の顔の人物が登場し、見ている側は全てはアンソニーの頭の中を

            ずっと映像として見せられていたのだと気づくのです。
            Who exactly am I?
            ラストシーンは介護施設で働いていた時に、認知症の進んだ

            高齢者が見せる姿とそっくりで、本当によくできた映画だと

            思いました。そしてアンソニー役のアンソニー・ホプキンスの

            演技には拍手を送りたいです。

             

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            靴ひも

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              JUGEMテーマ:洋画

               

              靴ひも

              出典:IMDb

               

              「靴ひも」

              原題:LACES

              監督:ヤコブ・ゴールドヴァッサー

              2018年 イスラエル映画 103分

              キャスト:ネボ・キムヒ

                   ドヴ・グリックマン

                   エヴァリオン・ハゴエル

                   ヤフィット・アスリン

               

              自動車整備工場を営むルーベンは、別れた妻が事故死し、

              36年間会っていなかった息子ガディと暮らすことになる。

              ガディは特別な支援が必要であったが、その純粋さゆえに

              多くの人に愛されていく。何度か衝突しつつも打ち解けて

              いく二人だったが、ルーベンの腎臓病が悪化し、医師から

              腎臓移植の必要性を告げられる...。


              <お勧め星>☆☆☆☆半 とても優しい気持ちになれる映画

              です。


              頭が変じゃない、サポートが必要なだけ


              発達障がいの息子を持つゴールドヴァッサー監督が、

              イスラエルで報道された実在の父子の臓器移植にまつわる

              エピソードを基に描いた映画です。監督自身がインタビューで

              語っている通り父と息子のラブストーリーそのものだと

              感じます。
              自動車整備工場を経営し、忙しく働くルーベンの元に1本の

              電話が入ります。それは36年前に離婚した妻の死を告げる

              もので、二人の間には一人息子ガディがいたのです。

              墓石の前でユダヤ教の聖書の文言をもつれるように口にし、

              少年のように大泣きするガディの姿を見ると、彼が特別な

              支援が必要な人間であるとわかります。30年間、母のもとで、

              母の両親やソーシャルワーカーなどの手助けを受けて、育って

              きたガディは純粋そのものです。したがって受け入れ先が

              決まるまで、唯一の肉親であるルーベンの家に滞在することに

              なっても、自分の生活パターンは変えません。

               

              靴ひも
              出典:IMDb

               

              「母さんはいつもこう言った」
              「母さんはいつもこうしてくれた」
              30年間離れて暮らし、金銭的な援助は怠らなかったものの、

              ほとんど面会してこなかったルーベンにとって、ガディは

              自分の生活のペースを乱すし、そもそも接し方そのものが

              わからないのです。
              それでもルーベンの工場の従業員デデも、いつも昼食を食べに

              行くお店のオーナー、リタも、ウェイトレスのアデラも、

              誰一人として彼を馬鹿にするような扱いをしません。ガディの

              洗車が遅いことに文句を言う客にはルーベンは「二度と来るな」

              と言うし、ガディもリタの店で彼を嘲笑した客には

              「僕の頭は変じゃない、サポートが必要なだけだ」としっかり

              主張できるのです。
              ところがルーベンは実は腎臓が悪く、透析を受けなければ

              ならない状態にあることがわかります。そうなるとガディの

              世話ができない時間ができてしまう。そこでソーシャルワーカー

              のイラナの紹介である施設に入所させようとするのですが、

              そこでの入所者への職員の対応を見て一発でやめてしまいます。

              36年間世話をせず、ただ自分の仕事のことだけ考えてきた

              ルーベンが、父親としての自覚を持ち始めた証でしょうか。

              最初は気難しかったルーベンの表情が少しずつ和らいでいる

              ことにも気づきます。
              特別給付金をもらうために、面接官の前で

              「何もできないふりをしろ」

              とルーベンに言われたガディは、その通りにふるまうのですが、

              普段は結べる靴ひもも結べないふりをします。映画の題名にも
              なっている「靴ひも」を結ぶシーンはこの後2回出てきますが、

              2回目は結べないのです。結べないふりではなく結ぶことが

              できない精神状況なのです。そして3回目は...。
              特別給付金をもらえることになり、さらにスペシャルニーズの

              状況の人たちばかりが自由に暮らす「村」にガディが入れる

              ことになります。ルーベンはガディの身を案じつつもイラナと

              ディナーを楽しんでいると、彼はまた体調を崩すのです。

              一方ガディも「村」でイタズラをされ、「自殺したい」と

              言って父の元に戻ってきます。

               

              靴ひも

              出典:IMDb

               

              気が合いそうだったミハルは、演劇の練習で他の男性入所者に

              「愛してる」なんて言っているのを真に受けてしまうのです。

              ガディの純粋さの中には、相手を思いやる気持ちも同時に存在

              します。だから父が「腎臓移植」が必要であることを知った時、

              自分の腎臓をどうしても提供したいと願うのです。しかし

              ルーベンは「36年間無視した挙句、臓器まで奪うのか」と

              ガディからの提供ではなく、自分と疎遠だった弟から提供を

              受けようと考えますが、これがまた感じの悪い欲深い男でして、

              金の話しかしません。
              自分がドナーにしてもらえないのは「自分が欠陥品だからだ」

              とルーベンの気持ちを察しきれないガディは

              薬を飲まない&ハンガーストライキに入るのです。この時も

              ルーベンは彼の意思を尊重し無理やり部屋に入りませんし、

              イラナも同様です。何かを押し付けるのではなく、その人の

              考えを尊重し、その人が納得できる答えを導きだしていくと

              いう姿勢は、この映画を通して本当に重要なことだと実感します。
              とはいえガディは薬を飲まなかったことで発作を起こしてしまう

              のです。そして腎臓移植のドナーとして適格かどうかを判断する

              面談で、特別給付金を申請した時のガディの様子が裏目に

              出てしまいます。
              つまり正常な判断力がない人から臓器提供を受けることは

              できないということです。本当は結べたはずの靴ひもが、

              ガディの焦りもあって結べません。そして提供することは却下

              されてしまいます。
              その晩、自宅でガディの自作の歌を聞き、本当に愛しそうに

              息子を見つめるルーベンの表情は、最高に輝いています。

              これこそ監督の言う親子のラブストーリーのクライマックスかも

              しれません。
              遂にドナーとして認められたガディが、ルーベンと二つの

              ストレッチャーの並んで横たわっている時、

              「わが友」「僕の相棒」

              と言い合うんですよ。ここは涙腺が緩むシーンです。二人の表情

              がシンクロしてとても優しい気持ちにさせてくれるのです。
              ラストはまた「靴ひも」を結ぶシーンが出てきます。それは

              彼自身の希望ある未来を描いているような気がしました。

               

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              燃ゆる女の肖像

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                JUGEMテーマ:洋画

                 

                燃ゆる女の肖像

                出典:IMDb

                 

                「燃ゆる女の肖像」

                原題:Portrait de la jeune fille en feu

                監督:セリーヌ・シアマ

                2019年 フランス映画 120分 PG12

                キャスト:ノエミ・メルラン

                     アデル・エネル

                     ルアナ・バイラミ

                     ヴァレリア・ゴリノ

                 

                フランス、ブルターニュ地方の富豪夫人から、画家の

                マリアンヌは彼女の娘の肖像画を描く仕事を依頼される。

                肖像画は娘の縁談のためのもので、その縁談を彼女が

                拒んでおり、マリアンヌは画家であることを偽って、

                彼女の屋敷に住み込み、彼女と親しくなっていくが..。


                <お勧め星>☆☆☆☆ 圧巻のラストシーンです。それに

                すべてが集約されていました。


                悔やむより思い出して


                一人の女性が男だらけの舟に揺られ、どこかに向かおうと

                しています。そして波で揺れた舟から彼女のキャンバスが

                海に落ちてしまっても誰一人拾おうとせず、彼女自身が海に

                飛び込んでそれを回収するのです。

                彼女、マリアンヌが向かったのはフランス、ブルターニュ

                地方にある孤島で、そこのお屋敷に暮らす富豪夫人から、

                娘エロイーズの結婚用の肖像画を描くことを頼まれたのです。
                肖像画=見合い写真であり、夫人の上の娘は縁談を嫌い崖

                から身を投げたと言います。したがって次女であるエロイーズ

                は今度こそ顔も知らないミラノの男性との縁談を成功させ

                なければならないのです。もちろんエロイーズ自身はその縁談

                に怒り、幾人もの画家(男性)が肖像画を描くことを諦めて

                帰ってしまったと言います。そこで当時としては大そう珍しい

                女性画家であるマリアンヌに白羽の矢が立ったわけです。

                もちろんマリアンヌも単身で画家になれたわけではなく、

                有名な画家の父親を持ったことで今の地位にいるのです。

                とはいえ彼女の名前で作品を出すことは少なく、また画題も

                限られていると映画内で語ります。女性にとって不自由極まり

                ない時代の中で、さらに名家の娘ともなると、エロイーズの

                ように修道院生活の方が楽しかったと語るほど束縛された生活を

                送っていたのです。

                 

                燃ゆる女の肖像
                出典:IMDb

                 

                限られた期間に完成させなければならない肖像画のために、

                マリアンヌは身分を偽って、エロイーズに接近し、その瞳や

                髪の毛、そして指などを記憶や隠し持ったメモに収めて

                キャンバスに向かいます。
                「海へ入りたい」

                というエロイーズに

                「泳げるの?」

                とマリアンヌが尋ねると

                「泳いだことがない」と彼女は答えます。

                 

                燃ゆる女の肖像
                出典:IMDb

                 

                この家には3年ほど勤めているメイド、ソフィがおり、マリアンヌ

                は彼女に

                「エロイーズは笑わないのよ」

                と話すと、ソフィは

                「お互いさまでは?」

                と答えるのです。そうなんです。この二人はいつも難しい顔を

                しているのです。エロイーズは結婚に怒っているのは明らか

                ですが、マリアンヌは何に怒っているのでしょう。
                ミラノに行ったことがあるマリアンヌは、エロイーズにミラノの

                良さを語ります。しかしエロイーズは

                「修道院はみんなが平等」「選べる人にはわからない」と答える

                のです。エロイーズの立場からすると、自分の好きな絵を描き、

                好きな場所に移動でき、たばこを嗜み、結婚すらしない可能性を

                示唆するマリアンヌの「自由」がうらやましくてたまらなかった

                のです。
                映画内でヴィヴァルディの「夏」が流れる箇所は2つ。1つ目が

                マリアンヌがうろ覚えの譜面でオルガンを奏でた時とラストシーン

                です。この1つ目の演奏が二人の心がつながり始めた瞬間だった
                はずです。そして

                「絵を描きに来た」

                と真実を告げたマリアンヌに対し、その肖像画を見たエロイーズは

                「この絵はわたしに似ていません。あなた自身とも違う」

                と言い、自らモデルとなることを宣言するのです。
                マリアンヌがつぎはぎに見た記憶の再現ではなく、モデルとして

                エロイーズを見た上で肖像画を描いてほしいということなのです。

                「お嬢様」と「画家」という立場の違いに加え、ここに二人の

                お世話をするソフィが加わります。ソフィはなんと妊娠している

                と言うのです。ソフィの堕胎のため、あれこれ奮闘する

                エロイーズとマリアンヌですが、エロイーズはここで気づくのです。
                「あなたも経験したことあるの?」

                マリアンヌは中絶も経験しているということは、男性と愛し合った

                ことがあるということで、エロイーズはますます自分の知らない

                世界を知っているマリアンヌに興味を惹かれていきます。

                 

                燃ゆる女の肖像

                出典:IMDb

                 

                マリアンヌが濃いブラウンの髪色で肌もやや浅黒いのに対し、

                エロイーズは金髪で肌は真っ白です。そして二人の着ている

                ドレスは、マリアンヌは濃いオレンジで、エロイーズは緑色。

                それが真っ青な海を背にするとさらに印象的に映るのです。
                奥様が本土に行っている5日間、マリアンヌ、エロイーズ、

                ソフィにとっては特別な日々となります。3人でカードゲームを

                楽しみ、ソフィが刺繍、マリアンヌはワインの用意、エロイーズ

                は食事の支度と普段とは全く違う行動をするのです。そして

                マリアンヌの持っていたギリシャ神話の「オルフェウス」の

                一節を読み、それぞれが意見を交わすのです。

                振り返ったオルフェウスのせいで妻が生の世界に戻れなかった

                のは、約束を守らないオルフェウスのせい、

                いや、オルフェウスは知っていて振り返った、

                いや、オルフェウスは心配で振り返った、と三者三様の主張を

                ぶつけます。
                この別れのシーンは終盤のマリアンヌとエロイーズにも重なる

                ので、この時の会話を思い出すと二人の心が手に取るように

                わかるのです。
                そして村に出ていくと何かの祭りなのか、村の女たちが火を

                囲んで歌い始めます。その時に青いドレス姿のエロイーズは裾に

                火が燃え移るのです。まさに燃ゆる女ですが、それは彼女の心

                に火がついてしまったことを映像として表しているかのようです。

                いつの間にかひかれあっていたマリアンヌとエロイーズ。

                しかしそれは5日間という限られた日々に許されたものであり、

                また未来があるものではないことはお互いにわかっていたはず。

                「あなたを知ったから」

                「わたしも変わった」

                怒りに満ちていた二人が強い愛情に包まれていきます。あまりに

                刹那的なもので、抑えた映像ながら、唇から糸を引く唾を見る

                だけでエロティックな印象を強く受けます。

                 

                燃ゆる女の肖像
                出典:youtube

                 

                ラストにオーケストラで演奏される「夏」を聞きながら、一切

                視線を向けずマリアンヌに見られることに徹したエロイーズは、

                大きな喪失を抱えつつ、あの5日間の思い出とともに生きていく

                のでしょう。
                その前のカットで、エロイーズと娘の肖像画があり、その中で

                エロイーズが持っている本のページが「28ぺージ」という

                ところも、マリアンヌへの思いは一生持ち続けるという証のような

                気がしました。

                 

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                ファヒム パリが見た奇跡

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                  JUGEMテーマ:洋画

                   

                  ファヒム

                  出典:IMDb

                   

                  「ファヒム パリが見た奇跡」

                  原題:Fahim

                  監督:ピエール=フランソワ・マーティン=ラヴァル

                  2019年 フランス映画 107分

                  キャスト:ジェラール・ドパルデュー

                       アサド・アーメッド

                       ミザヌル・ラマハン

                       イザベル・ナンティ

                   

                  バングラデシュ、ダッカに暮らすタラは、親族がデモが

                  反政府活動をしていることと、チェス大会で勝ち続ける

                  息子ファヒムへの妬みから、身の危険を感じ、インド経由

                  でパリに向かう。難民センターに暮らし、難民認定を待つ

                  タラはチェスクラブでシルヴァンの厳しい指導を受ける

                  ファヒムがみるみる実力をつけていくことを喜ぶのだったが..。


                  <お勧め星>☆☆☆☆ フランスは人権の国という言葉が

                  とても重いけれど、ラストがハッピーなので気分よく見終わる

                  ことができました。


                  勝ちを狙わず引き分けで勝利する


                  始まりはバングラデシュ、ダッカの警官隊とデモ隊との激しい

                  衝突映像です。アジアの最貧国に位置するバングラデシュでは、

                  政治的対立からこのようなデモがしばしば起きてきました。

                  最近ではこの映画の主人公が移住を希望したフランスに対する

                  大規模デモも起きています。これは宗教的な問題ですが、

                  他にも最低賃金の引き上げを巡る労働者の暴動も頻発しています。
                  さて2011年、5月、人ごみの中の路上の一角でチェスをして

                  いる大人と子供が映ります。どうやら賭けチェスらしく、見事に

                  子供が勝利すると、胴元は金をせしめていくのです。
                  「僕が買ったんだよ。僕にもくれよ」
                  少年は胴元から1枚紙幣を受け取ると急いで家路を急ぐのです。

                  この少年、ファヒムはチェス大会で幾度も勝利を収めており、

                  トロフィーが家の棚に並んでいます。とはいえ家と言っても

                  路地の奥の奥に位置した掘立小屋のようなもので、ファヒムは

                  両親と姉と弟の5人で暮らしているのです。時折入り込む映像

                  から、ファヒムの父ヌラはデモに参加したことで当局から目を

                  つけられており、さらにチェスの実力があるファヒムを利用

                  して儲けようとする大人たちが彼を誘拐しようとします。

                  そしてヌラはファヒムと

                  「チェスのGMに会うためにフランスに行く」

                  ということを決意するのです。本当の目的は現地で仕事を探し、

                  家を見つけ、家族を呼び寄せる。妻マハムダと何度も約束をし、

                  二人はインド経由でフランスに向かいます。インドでの列車の

                  ギューギュー具合は半端ではないけれど、それでも列車の
                  屋根に乗った二人は希望に満ち溢れたほほ笑みを浮かべます。

                  飛行機でフランスに向かい、あこがれの花の都パリの

                  エッフェル塔を前に、再び二人はほほ笑み合います。

                   

                  あふぁ

                  出典:IMDb

                   

                  しかし言葉が一切わからない二人、特にヌラは仕事にありつける

                  はずもなく、簡易ホテルの宿泊費は3日分しかなく、遂に

                  路上生活を送り始めます。それを救うのが赤十字で彼らを

                  難民センターに連れて行ってくれるのです。
                  難民センターはヨーロッパではこんな感じなんだろうか。日本の

                  入国管理事務所での劣悪な待遇について耳にするたびに、故郷を

                  捨てざるを得なかった、もしくは故郷に戻れない事情のある

                  人々を数か月から数年単位で拘束するのは人権侵害も甚だしいと

                  実感します。「武装難民」「そうだ、難民しよう!」などという

                  全く想像力のかけらも感じられない言葉は決して口にするべき

                  ではありません。

                   

                  ファヒム
                  出典:IMDb

                   

                  ヌラはファヒムのためにチェスクラブを紹介してもらうのです。

                  そこにはマチルドという受付の女性と大そう怖いシルヴァン先生

                  がいます。このチェスクラブのメンバーが彼にとても優しいの

                  です。
                  また難民センターからは学校に通うこともでき、ファヒムは

                  数学が得意だし、そこでフランス語をあっという間に身につけて

                  いきます。職探しに苦労するヌラが一向にフランス語を習得

                  できないのと対照的です。
                  さらに難民申請を行うヌラの通訳をするインド人男性が、担当の

                  フランス人に全く違う内容を伝えあいます。言葉の異なる

                  者たちの懸け橋になるはずが、どう考えてもヌラを強制送還

                  させる方向へと持って行こうとするのです。これは終盤に

                  フランス語を習得したファヒムによって「嘘」が暴かれ、その

                  理由が「自分の出身国インド人を難民として受け入れたかった」

                  と知ると、インドとバングラデシュの国間の歴史や軋轢も関係

                  していることに気づきます。
                  しかしヌラとファヒムの最大の欠点は「時間を守らないこと」

                  なんですよ。約束の時間を守るという生活を送っていない

                  バングラデシュでは、「誰も待たない。来た人から始める」と

                  ヌラは語ります。まあ、これは日本の地方に住む人だったら

                  ピンと来ることもあるはず。「待ち合わせ時間は家を出る時間」

                  という人たちがたくさん存在します。

                  それだけ大らかなんでしょうか。
                  ファヒムはその後もチェスの腕を磨き、フランス語も覚え、

                  フランスという国に同化していくのですが、肝心の父ヌラは

                  仕事が見つからず、難民としての滞在許可が下りないという

                  現実に直面します。
                  エッフェル塔の周りでキラキラ光るエッフェル塔のおもちゃや

                  花を買ってはいけないとパリを旅行した人なら添乗員さんや

                  旅行会社から注意されたはずです。でもあれを売っている

                  人たちがアフリカ系だったり、パリのデパートの前で子連れで

                  休んでいるのが中東系の親子だったりするのを見ると、彼らが

                  なぜここにいるのか考えてしまうのです。
                  ヌラは光るエッフェル塔売りを始めます。あれは誰か元締めが

                  いるんでしょうか。そしてあれを買う人がいるんでしょうか。

                  また買ってもらえたとしてもいくら手元に渡るのでしょうか。
                  一方のファヒムはイルドでのフランスチェス大会に参加しますが、

                  案の定遅刻をし、さらに鼻持ちならない少年に負けてしまいます。

                  その相手は、シルヴァンの永遠のライバルが教えた子供なのです。
                  この相手の少年の言葉が、おそらくは差別心がないと言っている

                  一部の大人の言葉を代弁しているかもしれません。
                  ヌラは、夜に仕事をすると言って、ファヒムをチェスクラブの

                  シルヴァや仲間の家の泊らせるようになります。ファヒムは

                  そこでフランス語の同音異義語も教えてもらったり、食生活や

                  テーブルマナーも知っていくのですが、ヌラは実は2か月前に

                  国外退去命令が出されているのです。この場合、ヌラは

                  バングラデシュに強制送還、ファヒムはフランスで里親を探すと

                  いう手続きになるようです。日本のように実親優先ではなく、

                  子供の幸せをまず優先するのです。

                  映画の最初の方でファヒムの頭を叩くヌラに、チェスクラブの

                  マチルドが「子供を叩かないで」とすぐに言います。この辺りの

                  感覚がかなり違うんでしょうね。
                  そしてファヒムは2012年、チェスの全国大会に出場します。

                  いつものクラブのメンバーとともにシルヴァンとマチルドと

                  小型のバンで出かけるのです。そこでファヒムが見たのは

                  初めての海です。地図では海に面しているけれど、ファヒムは

                  ダッカに住んでいて貧しかったファヒムは海に行ったことが

                  なかったんですね。だから海で大はしゃぎします。

                  またシルヴァとマチルドも何となくいい雰囲気になるんですよ。

                  どっちも結構年齢を重ねているけれど、勇気を持って一歩が

                  踏み出せないのはシルヴァンです。やれやれだぜ。
                  いや、のんびりしている場合じゃない。ヌラは不法滞在で警察に

                  捕まり、まさに危機一髪なのです。
                  肝心のチェスの全国大会でファヒムは見事に勝ち進んでいます。

                  さあ、様々な問題をどのように解決していくのでしょう。

                  この映画に関しては心配はいりません。マチルドの機転と

                  ファヒムの実力とそれを支えたシルヴァンの力でハッピーな

                  方向に進みます。しかしこのような人々がどれだけ存在し、

                  どれだけ強制退去になったり、劣悪な環境で不法滞在している

                  のかと思うと心が暗くなります。
                  実話ではこの少年はチェス大会で優勝したことで滞在許可が

                  フランス政府から下り、家族を呼び寄せたものの、プロの

                  チェスプレーヤーになることは望まず、商業高校で学んでいる

                  とのこと。自分の進みたい道の選択肢を与えられることは人生に

                  とってとても重要なことかもしれません。

                   

                   

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                  鉄道運転士の花束

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                    JUGEMテーマ:洋画

                     

                    鉄道運転士の花束

                    出典:IMDb

                     

                    「鉄道運転士の花束」

                    原題:Dnevnik masinovodje/Train Driver's Diary

                    監督:ミロシュ・ラドヴィッチ

                    2016年 セルビア=クロアチア映画 85分

                    キャスト:ラザル・リストフスキー

                         ペータル・コラッチ

                         ミリャナ・カラノヴィッチ

                         ヤスナ・ジュリチッチ

                     

                    60才近い鉄道運転士のイリヤは代々その仕事をして

                    いる家系で祖父、父、自分で66人もの人間をひき殺して

                    いる。ある時施設を脱走し自殺願望で線路を歩いていた

                    シーマをひき殺す寸前で助け、彼を養子に迎える。成長

                    した彼が鉄道機関士の道に進むことを頑なに拒否した

                    イリヤに従い、列車の洗浄係になったシーマは列車の

                    運転への願望が捨てきれず..。


                    <お勧め星>☆☆☆☆ 鉄道運転士が必然的に体験すること

                    に気づいていなかったこと自分に驚きました。


                    いつも花に水を与えている


                    冒頭に鉄道機関士のイリヤは臨床心理士2人の面談を

                    受けています。それはつい最近彼が起こした人身事故の

                    件で、彼自身の心の傷を和らげようというものらしいの

                    ですが、事故の様子を事細かに話すイリヤに対し、

                    それを聞いた2人は途中で気分が悪くなり席を外します。

                    いたって冷静にそしてやや滑稽な雰囲気で酷い事故の

                    様子を語るイリヤは、その事故が「無実の殺人」であり、

                    それに慣れることが鉄道機関士の宿命と受け入れている

                    わけです。彼の口から「自分は28人、父は..人、

                    おじいさんも..人、全部で66人轢いた」と語られた時、

                    この職業に就いている人にとって避けられない出来事

                    なのだと初めて知るのです。毎日のように鉄道人身事故が

                    起き、それが報道されても、まず気になるのは轢かれた人

                    のことで、その事故を起こした運転士についてはおそらく

                    ほとんど考えないんじゃないかしら。

                    いや、一切考えないと思う。しかし彼らは不可抗力とは

                    いえ、「無実の殺人」を起こした張本人であることは間違い

                    ないのです。
                    イリヤなど鉄道関係者が暮らす列車を改装した居宅のような

                    場所には、常に花をたくさん栽培していて、それを何に使う

                    のかは一目瞭然です。映画が始まって早々に、イリヤが轢き

                    殺したロマ族の楽隊員のお墓にそれをいくつも束にして持って

                    行っていましたから。
                    で、イリヤはある理由からずっと独身なんですが、ヤゴダと

                    いう臨床心理士の女性の家に(近所の列車内)行っては、

                    ちょっとワインを飲んだり、ダンスをしたりするのが心の

                    癒しになっているんです。ヤゴダは「もう泣いてもいいん

                    じゃないの?30年も我慢しているんだから」と言います。
                    一方シーンは変わり、シーマという養護施設の少年が、

                    新しい里親と面会しています。シーマはとても不機嫌だし、

                    里親もどうも不愛想だし、ただ一人施設の職員が大はしゃぎ

                    なんです。さらにシーマは自分の生い立ちを知ってしまい、

                    絶望して施設を出て線路を歩き始めるのです。そこへ向かって

                    きたのがイリヤの運転する貨物列車です。

                     

                    鉄道運転士の花束
                    出典:youtube

                     

                    「死のうと思った」10歳の少年の言葉にイリヤは驚き、

                    とりあえず自分の家に連れ帰りますが、特に彼を育てようと

                    いう意思を持ったようには思えませんでした。しかし二人で

                    1つのベッドに横になっているシーンが次にはシーマが青年

                    になっています。つまりそのままシーマを養子にしたことが

                    わかります。

                     

                    鉄道運転士の花束
                    出典:IMDb

                     

                    イリヤの隣の家の夫妻、ドラガンとシーダは、イリヤと親友では

                    あるけれど、彼の息子を轢いたのがイリヤで、またドラガンは

                    自分の父親を轢いています。彼らにとって、生活のための仕事が、

                    身近な人の生死と関わっていることがよくわかる話です。だから

                    イリヤは成績優秀で鉄道学校を卒業したシーマを機関士には

                    したくなかったのです。
                    イリヤはシーマをピロトに行かせ、そこで発車係に就かせようと

                    します。実際には洗車係でしたが。厳しい家庭に居候し、孤独に

                    さいなまれるシーマと同じく、やけに広くなったベッドに一人で

                    眠ることができないイリヤは、ドラガンの家に入り込んでソファ

                    で眠るです。

                     

                    鉄道運転士の花束
                    出典:IMDb

                     

                    さて、その頃シーマは、リューバという不良機関士の誘いで、

                    見よう見まねで貨物列車の運転をすることになります。

                    シーマ大喜び!でも加速が止まらず、赤信号でも減速できず、

                    おまけに目の前にトラクターが現れます。イリヤに電話を

                    かけて、ブレーキを引くように指示されてもパニックになった

                    彼は、遂に列車から飛び降りてしまうのです。

                    つまり逃げ出したわけです。
                    怪我をしたシーマを迎えに行ったイリヤのしかめっ面は、

                    怒りではなく、わが子への心配という初めての感情だったの

                    でしょう。ドラガンとリューバをボコボコにした後で、

                    イリヤはシーマに「巨人の星」の星一徹並みの運転士養成特訓

                    を開始します。「親に捨てられた子供、要らない子供、

                    自殺未遂した子供がなんだ!」そしてようやく鉄道機関士に

                    なったシーマは一人で暮らし始めます。

                    するとイリヤにはかつての恋人ダニツァが見えるようになるの

                    です。一方のシーマは念願が叶ったはずなのに、今度は

                    「いつ人を轢くか」という恐怖におびえる毎日になるのです。

                     

                    鉄道運転士の花束

                    出典:IMDb

                     

                    彼は曲がり角のたびに減速するので、いつも運行時間が遅延

                    します。二人は188日離れて暮らしていたのです。どちらも

                    はたから見ればイカれているけれど、イリヤにはなぜダニツァ

                    が見えるのか、その原因を考えると、彼とシーマとの強い

                    つながりに気づきます。もうとっくに強くつながっていたん

                    ですね。
                    イリヤは自殺志望の男性に「轢かれ役」を頼みますが、断られ

                    てしまい、最終手段にでるのです。一張羅を着込んでダニツァ

                    に見送られて(誰もいないけれど)シーマが走らせている

                    貨物列車の線路の上にゆっくり寝ころびます。

                    カタコトカタコト...列車が少しずつ近づいてきます。しかし

                    その前にある出来事が起きかけていたのです。ここは人の命が

                    かかっているけれど、彼にふさわしい役だったかもしれません。
                    ラストはシーマの運転する客車でくつろぐドラガン、シーダ夫妻

                    とイリヤ、ヤコダが映ります。

                    この姿を見るとキャッチフレーズ通り、

                    「列車は幸せを運んでくる、ごくたまに」

                    と思うのです。

                     

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                    恐竜が教えてくれたこと

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                      JUGEMテーマ:洋画

                       

                      恐竜が教えてくれたこと

                      出典:IMDb

                       

                      「恐竜が教えてくれたこと」

                      原題:My Extraordinary Summer with Tess

                      原作:アンナ・ウォルツ「僕とテスの秘密の7日間」

                      監督:ステフェン・ワウテルロウト

                      2019年 オランダ=ドイツ映画 82分

                      キャスト:ジィゼフィーン・アレンドセン

                           ジェニファー・ホフマンリアン

                           ジュリアン・テス

                       

                      オランダのテルスヘリング島に両親、兄とバカンスに

                      やって来たサムは、「最後の恐竜は自分が最後の一頭だと

                      知っていたのか」など「一人きりになった時のこと」が

                      気になって仕方がない。兄ヨーレが怪我をし、母は

                      片頭痛で寝込むけれど、「サルサを踊りましょ」と声を

                      かけてきたテスと知り合い、楽しい日々に変わっていく。

                      ところがテスの父親についての秘密を知った彼は彼女の

                      計画に力を貸すことにするのだが...。


                      <お勧め星>☆☆☆☆ 少年がたった数日で多くのことを

                      体験をし、少しだけ成長していくのがわかります。


                      未来は思い出でいっぱい


                      美し砂浜に穴を掘り、そこを棺桶のようにしつらえてサムは

                      考えています。「パパもママもヨーレ(兄)もみんないつか

                      死ぬ」周りではバカンスを満喫している人々がはしゃいで

                      いるのに、この少年はなぜにこんな陰気なことを考えている

                      のでしょう。少年の心は「死」というものに向いており、

                      自分が一番年下だから、最後に死ぬので、一人になった時の

                      準備をしておかないといけない、とまで考えるのです。ここで

                      大人なら「いやいや順番通りでないこともある」などと縁起

                      でもないことを言ったり「その年で何考えてるの?」と言って

                      しまったりするんでしょうね。振り返ってみると「死」と

                      いうものが現実的なものに感じられたのはかなり大きくなって

                      からで、わたしの場合、2歳で祖父が亡くなったことは一切

                      記憶になく、ただ電車で遠くまで行ったことだけ覚えているの

                      です。小学生の時に友人の父親が病死し、その子が数日学校を

                      休んでから登校した時に、デリカシーのない男子が

                      「ねえねえ泣けた?」などと尋ね、それだけは言っちゃ

                      いけない言葉だと思ったくらいです。
                      サムは名前を呼ぶ父のもとに向かい、兄ヨーレとともに

                      サッカー?に興じるのですが、なんとヨーレは例の穴に落ちて

                      足を怪我してしまうのです。そして町の診療所に行き、結局

                      本土に戻ってレントゲンを撮ることになります。骨折かなあ。

                       

                      恐竜が教えてくれたこと
                      出典:IMDb

                       

                      その診療所のそばの家に奇妙な女子がいて「サルサを踊らない?」

                      と声をかけてくるのです。テスと名乗る少女は診療所の医師

                      イダの娘で「男は手がかかる」だの「女は謝りすぎ」だの

                      大人びた言葉を発します。サムよりも少し年上だけれど、この

                      くらいの年齢だと女子がとてもマセているのが普通。サムは

                      ちょっと気に入ったテスをすぐに友人だと思うのに、テスは

                      気まぐれで、急に彼を置いてきぼりにしたりします。

                       

                      恐竜が教えてくれたこと
                      出典:IMDb

                       

                      テスの家で持っている貸別荘にエリーセとヒューネという

                      カップルがやって来るとなぜかテスは大慌てなんです。二人は

                      懸賞に当選してこの別荘に来たと言い、そのことはテスのみが

                      知っている模様。
                      さらにテスはどうもヒューネにご執心で、サムはここから

                      「一人でいる訓練」を開始するのです。なぜって父は兄に

                      付き添って本土に行ったし、母は片頭痛で休んでいるし、

                      テスは彼を置いてきぼりにするし、孤独に耐える訓練を

                      しないといけないと確信するのですね。でもあらかじめ決めた

                      訓練時間が終わるとにっこりします。自分に厳しくしよう

                      と思ってもそこはまだまだ幼稚な頭なので、少しのことでも

                      ビクビクしてしまします。干潟のそばの一軒家のおじいさんは

                      とても怖そうだし...。
                      しかしテスがヒューネに執着した理由が、実は彼が実父で

                      あろうということを知らされると、サムはがぜんテスの力に

                      なろうと思い始めます。「一人でいる訓練」はすぐに終了です。

                      なぜヒューホがテスの父だとわかったかは、イダが残して

                      いた12年前のアルゼンチン旅行の思い出の品々からで、そこに

                      あった名前をfacebookで調べたら10分でヒットしたというから

                      まさにsnsすごい!です。ヒューホとエリーセをゲームに

                      誘い(二人は嫌だっただろうなあ)テスとサムで遊んでいると、

                      ヒューホは腕にけがを負ってしまいます。

                      でも診療所に言ったらイダがいるからまずいんですよ。イダを
                      そこから出させるためにサムがついた嘘は

                      「テスは具合がとても悪い。妊娠している」マジか。

                      いいやすぐにバレますね。
                      テスは何とかヒューホに自力で真相を打ち明けようとしますが、

                      そのタイミングが悪く「子供がいなくてよかった」という彼の

                      言葉を聞いてしまいます。テスは傷つきその場を離れ、サムは

                      大きな孤独を味わうのです。「テスはヒューホも僕もいらない。

                      僕は一人なんだ」

                       

                      恐竜が教えてくれたこと
                      出典:IMDb

                       

                      バカンスの最終日、サムは家族との約束を破り再び「一人でいる

                      訓練」を実施します。しかしそこは干潟で、みるみるうちに潮が

                      満ちてくると、彼の足は砂から抜けなくなるのです。まさに

                      「一人きり」だし「まさか自分が一番先に死に近づくなんて」

                      と思ったはずです。「助けて〜!」その声に反応したのは、前に

                      怖いと思ったおじいさんで、彼はヒレと言い、妻を亡くしてから

                      一人暮らしをしていると言います。「一人でいて寂しくないの?」

                      と尋ねると、ヒレはとてもいいことを言うのです。
                      「人生の思い出は頭の中にあっていつも一緒にいるんだ。だから

                      お前もできるだけ思い出を集めるんだよ」
                      この言葉を聞いてサムは行動します。テスの思い出の中になかった

                      父の存在を掘り起こす手伝いです。

                       

                      恐竜が教えてくれたこと
                      出典:IMDb

                       

                      ラストは全員が集まりサルサを踊って大はしゃぎします。隅っこ

                      では足を骨折したヨーレが売店のお姉さんとキスしちゃってるし、

                      途中で誘ったヒレも満面の笑みをたたえています。
                      誰一人として悪い人が出てこなかったこの映画は見終わって

                      とてもいい気分になるし、未来が思い出でいっぱいの年頃に

                      戻りたくなりました。

                       

                       

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                      オフィシャル・シークレット

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                        JUGEMテーマ:洋画

                         

                        オフィシャル・シークレット

                        出典:IMDb

                         

                        「オフィシャル・シークレット」

                        原題:Official Secrets

                        監督:ギャヴィン・フッド

                        2018年 イギリス映画 112分

                        キャスト:キーラ・ナイトレイ

                             マット・スミス

                             マシュー・グード

                             レイフ・ファインズ

                             アダム・バクリ

                         

                        2003年、英国政府通信部(GCHQ)に勤務する

                        キャサリンは、アメリカNSAの幹部が国連の

                        非常任理事国の安保理代表の盗聴を命じるメールを

                        見て驚愕する。彼女はイラク戦争を回避するため、

                        そのメールをある人物に送り、それはやがて

                        オブザーバー紙に掲載されるが、GCHQ内部では

                        リーク犯探しが開始され、名乗り出たキャサリンは

                        拘束されてしまう..。


                        <お勧め星>☆☆☆☆ 重厚な作品で大国の思惑を

                        まさに体感する内容に仕上がっています。


                        見せしめのため


                        2004年2月、キャサリンは、イギリスの最高

                        機密情報を故意に開示したことで起訴され裁判を

                        受けることになります。彼女の夫はヤシャルという

                        クルド人系トルコ人の移民であり、難民申請が
                        受理されず、決まった時期に警察で署名を行って

                        いるのです。

                         

                         

                        オフィシャル・シークレット
                        出典:youtube

                         

                        そして時はさかのぼり2003年、1月、GCHQに勤務する

                        キャサリンは、NSA(アメリカ国家安全保障局)の

                        フランク・コーザが国連の安保理代表の盗聴を求める文書を

                        目にします。当時アメリカは、フセイン政権下のイラクに

                        大量破壊兵器が隠されていると主張し、国連の査察団を

                        送ったもののその真偽は不確かで、国内ではブッシュ政権が

                        イラクへの攻撃準備を開始していた時期です。
                        アメリカが国連の非常任理事国である小国の監視を強化し、

                        フセインとアルカイダを結びつける国連決議を下そうと

                        企てているというそのメールにキャサリンは思わず手が

                        止まるのです。彼女の仕事は翻訳であり、諜報機関に勤務

                        しているがゆえ、ただその自分の仕事をこなせばいいし、

                        そこに私情を挟むことは許されません。とはいえ、この

                        行為は、情報操作により無意味な戦争を引き起こす
                        メッセージを示唆するものです。彼女は唐突にもこのメ

                        ールをコピーし、かつての友人であり戦争反対運動家に

                        それを渡すのです。
                        キーラ・ナイトレイがすべての感情を押し殺した表情で

                        これらの行為を進めていくシーンはまさに固唾を飲む

                        気持ちになります。

                         

                        オフィシャル・シークレット

                        出典:IMDb

                         

                        しかし彼女の夫は、待遇的には不法移民のままで、何かあれば

                        本国に強制送還される身です。その危険を冒しても正義を

                        果たしたいというキャサリンの気持ちは、自分が

                        「国民に仕えている」という意識の元だったと考えらます。

                        それでも、何の反応のないまま日々が過ぎると
                        「やはりあれは撤回すべきだった」と思い直すのですが。

                        一時の感情だったのでしょうか。いや、このメールによって

                        イラクの何も罪のない人々が殺戮されていくであろうことを

                        憂いていたに違いありません。

                         

                        オフィシャル・シークレット
                        出典:IMDb

                         

                        そしてその情報が遂にイギリスのオブザーバー紙記者

                        マーティンによって記事にされると米英は大騒ぎになります。

                        ところが、アメリカ国内では、そのメールが捏造であると

                        いう情報に変わるんですね。その原因は「校正」です。

                        アメリカ式スペルを校正の女性がイギリス式スペルに変えた

                        ため、文書の真偽を問う話に変わってしまいます。
                        とはいえGCHQ内ではリーク犯探しが開始され、キャサリンは

                        自らの仕業であると名乗り出ます。

                         

                        オフィシャル・シークレット

                        出典:IMDb

                         

                        この時の唐突な収監や家宅捜索は、国家に仕えるものの反逆

                        への厳しい対応をこの目ではっきり知ることができるのです。

                        外出するにも常に監視され、電話は盗聴され、あげくには、

                        定期的に警察での署名を行っていた夫ヤシャルの拘束です。
                        この間に国連の安保理の決議を経ずにイラク戦争は開始され、

                        彼女が止めたかった戦争は米英主導で始まり、多くの民間人の

                        犠牲者を出し始めるのです。
                        そしてキャサリンの弁護を引き受けたリバティ弁護士事務所

                        では、様々な証拠集めに奔走し始めます。つまりキャサリンが

                        メールをリークする前は反戦姿勢だったイギリスが、突然

                        アメリカに賛成して開戦に参加を決めたのはいつだったのか

                        ということです、調査を進めると、もう胡散臭い内容が

                        どんどん出てくるんですね。今となっては誰もが知って

                        いますが、イラクには大量破壊兵器は存在しておらず、
                        アメリカの利害によって開始された戦争かもしれません。

                        (もっと多くの要因があります)
                        しかしイギリスはアメリカと同時に参戦し、イラクへの攻撃を

                        進めます。その間にエリザべスへの裁判が始まるのですが、

                        それはあまりにも簡単に終わってしまうのです。

                         

                        オフィシャル・シークレット

                        出典:IMDb

                         

                        キャサリンの弁護を担当したベンと検事は友人であったのに、

                        最後の会話で
                        「なぜ起訴まで時間をかけたんだ?」
                        の問いに
                        「見せしめだよ」
                        という答えを聞いた途端、ベンは表情を硬くします。その

                        気持ちが手に取るようにわかるし、「正義」とか「真実」

                        とかはどこにいってしまったのかという絶望感にもとらわれる

                        のです。

                         

                         

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