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- 2023.01.12 Thursday
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JUGEMテーマ:洋画
「サラエヴォの銃声」
原題:Smrt u Sarajevu
監督:ダニス・タノビッチ
2016年 フランス=ボスニア・ヘルツェゴビナ映画
85分
キャスト:ジャック・ウェバー
スネジャナ・ビドビッチ
イスディン・バイロビッチ
ベドラナ・セクナン
ムハメド・ハジョビッチ
サラエヴォ事件から100年の記念式典が開催される
会場のホテルヨーロッパには要人が訪れ始める。
しかしホテルの従業員は賃金の未払いに対するストライキ
をその当日に計画していた。
<お勧め星>☆☆☆ この監督ならではの静かでかつメ
ッセージ性の強い内容です。
銃声がもたらしたもの
監督は「鉄くず拾いの物語」(2013)
「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」(2014)の
ダニス・タノビッチ。「鉄くず拾いの物語」では、
実際の出来事を当事者が再現した「ドキュドラマ」方式で、
ボスニアに暮らし、政府から何の保護も受けていない
「ロマ族」の一家の暮らしを淡々と描いていました。
また「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」では、
多国籍企業に立ち向かった勇敢な一人の男性の姿を、
地味ながら丁寧に映しています。どちらの映画においても
戦争や社会構造が変化しても何も変わらず、取り残された
ままの人々の存在を世間に知らしめる役割を果たしている
気がします。
そんな監督が製作した「サラエヴォの銃声」は、2014年
6月28日というサラエヴォ事件から100年経ったことへ
の記念式典が開催されるホテルでの様子を様々な視点から
見せていくのです。
「サラエヴォ事件」・・・第一次世界大戦の引き金になった
事件として世界史で習いましたよね。
1914年オーストリアの皇太子夫妻がサラエヴォで暗殺
された事件です。この背景は習った当時は深く考えず、
なんせ受験用の世界史用語集の☆5つだから絶対に年号と
名前と事件の概要を丸暗記する、という程度の勉強であり、
実は当時はオーストリア=ハンガリー帝国だったこととか、
サラエヴォが当時はオーストリア=ハンガリー領だったこと、
またその日がセルビア人にとっては遡ることオスマン帝国の
時代、セルビア軍が敗北した「コソボの戦い」の日だった
ことなど深い意味を考えることもなかったのです。
なので少しこの辺りを調べてから鑑賞した方がいいと読んで、
ほんの少しだけメモを取って鑑賞すると、映画内で語られる
いくつかの事件や出来事の意味が、これまたほんの少しだけ
わかるというもの。西洋の火薬庫と呼ばれたバルカン半島の
歴史は本当に多くの血が流され物が破壊され、ジェノサイドも
行われていたことを知ると言葉を失います。
映画はこの式典が開かれるホテルの屋上で、サラエヴォ事件
について歴史学者などにインタビューするレポーターの姿と、
準備に追われるホテルが実は資金繰りが悪化していて、給与が
2か月未払いのため従業員がストライキを計画している姿、
さらにそれを無視してあれこれ手配する支配人オメル、従順な
フロント係ラミヤなどの姿が混在して映ります。
屋上ではサラエヴォ事件の真犯人プリンツィプがテロリストか
否か、またオーストリアの皇太子が犠牲者か占領者かと激しく
語る学者や若者がいるのに、階下では、とにかくこの式典を
終了させ、資金を得て銀行への支払いを終えたい支配人、
コツコツとヒールの音を響かせ颯爽と動き回るラニヤ、要人の
護衛にあたる男(なぜかドラッグ中毒だし、嫁からの電話に
イラついている)、労働者の権利を訴える従業員たちなどが
いるわけで、この相いれない内容がどこで結びつくかと言うと、
それはやはり「銃声」なのです。しかしその銃声で世界が
一気に大戦へと向かった100年前とは異なり、これで何かが
変わったのだろうか。いや何も変わらない。変わるために
必要なことすら分からなくなっているのではないかという
事実を突きつけられるのがラストの静寂でした。
やはりこの監督の映画は素晴らしい。もっと勉強しないといけない。