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- 2023.01.12 Thursday
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JUGEMテーマ:邦画
「散歩する侵略者」
監督:黒沢 清
2017年 日本映画 129分
キャスト:長澤まさみ
松田龍平
高杉真宙
恒松祐里
長谷川博己
前田敦子
鳴海は失踪して戻ってきた夫真治が全く別人の
ようにふるまい「地球を侵略に来た宇宙人なんだ」
と発する言葉に驚く。。一方町では一家惨殺事件が起き、
それをきっかけに人格がすっかり変わってしまう人々
が続出するのだった。
<お勧め星>☆☆☆ 黒沢清監督の映画の中では、一番
好きな内容かもしれません。
最も価値のある概念
少しネタバレ
黒沢清監督の映画とは本当に相性が悪く「ドッペルゲンカー」
(2003)「LOFT ロフト」(2006)「Seventh Code」
(2014)と見ましたが、すみません、どれも眠くなり
ました。映画全体が静かなのと、映像がモノクロームに近い
ようなものが多く、催眠療法にかかったようになるのです。
なので今作も期待値0にて鑑賞。確か、昨年のカンヌ国際
映画祭に出品されていましたよね。前田敦子さんが他の俳優
さん達と一緒に赤絨毯を歩いていたような覚えがあります。
しかし、映画内での登場シーンはごくわずかであり、時間に
して5,6分かなあ。あ、敦ちゃんだ!と思ったら涙を
一筋こぼして去っていく...。
内容的には血しぶき満載なはずなのに、冒頭の一家惨殺事件
以外では、ほとんど血が流れません。銃で撃たれようと、
車ではねられようと、爆発に遭おうともです。そして題名
通り静かに侵略されていく町の人々の姿を、この監督らしく
淡々と描いています。
宇宙人の侵略物といえばいの一番に上がるのが
「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(1956)です。
これは「SF/ボディ・スナッチャー」(1978)、
「ボディ・スナッチャーズ」(1994)、「インベージョン」
(2007)と何度もリメイクされるほどの名作であり、
この中で実際に見たことがあるのは3作目以外すべてですが、
1作目の不気味な雰囲気が一番ゾクリとしました。さらに侵略?
挨拶?なのか突然世界のあちこちに出現する宇宙船を描いた
「メッセージ」(2016)はその目的よりも映画の内容が
秀逸で、ああそういうことかと理解すると自然と涙が流れて
しまうものです。登場する宇宙人は姿を見せるものの少しも
怖くないし、逆にそれへの対応で世界各国の輪が崩れてしまう
恐怖を体感します。そして最終的には「人生」について深く
考えさせられる内容になっていました。
しかしこの映画は宇宙人の目的が「地球侵略」と早々に真治の
口から語られます。真治役の松田龍平が、本当に飄々として
いて、悪く言うと無表情で、いったい何を考えているのか全然
わかりません。その彼の浮気をののしり、病院に連れていき、
訳の分からないことを口走る夫にイラつく妻鳴海役は長澤まさみ。
二人が全く対照的なのが印象的です。表情豊かで、怒り、焦り、
嘆き、あきれる、そんな姿を見せ続けた鳴海には、実は心の
奥底にマグマのように強く燃える「愛情」が隠されていると
気づくのは、本当に映画の終盤なんです。もう、鈍感で
すみません。
冒頭の血まみれ女子高生あきら、彼女と同じ能力を持つ天野、
そして彼らに「ガイド」=信頼できるパートナーとして力を
貸す、ジャーナリストの桜井の関係と、真治とそのガイドと
なる鳴海との関係は明らかに本質が異なるのです。信頼できる
パートナーであっても愛情が存在しない、するはずがない、
前者と、かつては愛情で結ばれていた(今も?)後者では
関わり方が異なるのは当然なのでしょう。
真治が中盤「愛」の概念を集めようとして、教会の牧師のもとへ
向かうのですが、あまりに大きすぎて概念がまとまらず、
それを抜き取ることを断念します。
ちなみに抜き取る時は、相手にその概念をしっかり頭の中で
まとめさせておいて、その額に人差し指を当てると、スルっと
入手でき、その途端、相手は一筋の涙を流し、倒れこんで
しまうのです。敦ちゃん、「所有」を抜き取られちゃったよ。
「愛なんてイメージできるはずないじゃない!」ときつく答える
鳴海の言葉はまっとうなこと。「仕事」「邪魔」などは
それぞれの頭ですぐにイメージできても、あまりに大きくて
漠然としている「愛」は実は最も強い力を持つ存在なのかも
しれません。これはとてもありきたりだな。でもそれが
すんなり理解できるのは、愛の概念を受け取った真治が
「全部違って見える」と言い、抜き取られた鳴海が
「何も変わらない」と無表情で答えた時です。
何も変わらないのではなく、何もなくなって抜け殻のように
なってしまったかもしれませんね。
あらゆることを一から考え直す「タイミング」はいつだって
あるし、そうしないと世の中が本当に崩壊していく道をたどる
のだと思ってしまいます。