ブラジルー消えゆく民主主義

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JUGEMテーマ:洋画

 

ブラジル

出典:IMDb

 

「ブラジルー消えゆく民主主義」

原題:Democracia em Vertigem

         The Edge of Democracy

2019年 ブラジル映画 121分

監督:ペドロ・コスタ

 

2002年、労働者党のルーラ・ダ・シルヴァが

大統領に当選し、ブラジルは21年続いた軍事独裁政権

に終止符を打つ。彼とその後継者であった

ジウマ・ルセフ大統領の盛衰を、監督自身の家族の

歴史も踏まえて描いていく..。


<お勧め星>☆☆☆☆☆ これは絶対に見てほしい映画

です。ブラジルの民主主義が崩壊していくのを見ている

のに、違うものを見ているかのように思います。


民主主義が機能している時、資本家は怯えている


ブラジルについて持っている知識といえば、日系移民が

多いんだろうな、とか、サッカーワールドカップや

リオデジャネイロ五輪が開催されたな、程度で、以前に

観た「チリの闘い」同様に全く知らなかったことばかりが

映像として目の前に現れます。
2000年代以降「BRICs」と呼ばれ、インド、ロシア、

中国と共に著しい経済成長を遂げた来たこのブラジルの

国内で何が起きていたのか。本当に最初から最後まで一気に

見られます。そして弱った民主制がどこに向かうのか、

この目ではっきり見て取れるのです。
映画はペドロ・コスタ監督のナレーションやインタビューで

構成されており、その時々の社会や政治家の姿を映しつつ、

彼女の家族も映されます。コスタ自身、祖父がブラジル有数の

大会社の経営者でありつつ、彼女の両親は、軍事独裁政権への

反体制活動家で、投獄された体験の持ち主です。コスタの

考えも両親に近いけれど、どちらにも存在する「闇」を覆

い隠すことなく語っているのが特徴です。
2018年4月7日、元大統領ルーラ・ダ・シルヴァが逮捕

されます。この逮捕までの経緯の前に、ブランコ将軍から

始まった軍事独裁政権下で、貧困にあえぎ、逮捕、拷問、

虐殺におびえる民衆の姿が描かれます。そしてその中で

労働者の星として政界入りを表明したのがルーラです。
「階級も人種も性別も信教も関係なく、人という粘土で結びつこう」
当時のブラジル議会443名のうち労働者階級が2名という

数字を知らされると驚愕します。後に登場しますが、ブラジルの

司法制度は、検察官=裁判官という歪なもので、これが近代国家の

姿なのだろうかと思ってしまう。長らく続いた軍事独裁政権は

「司法」の存在など必要としなかったのでしょう。
ルーラが大統領に当選し、歓喜の雄たけびを上げ、街中を行進

する民衆の笑顔をよそに、ルーラ自身は、議会を動かすために

「ブラジル民主労働党」と手を組むわけです。これが労働党とは

思想が大きく異なる反共、極右政党だったとしても、多くの

政党が乱立するブラジル議会の中で持論を通すためには、

「ある程度の数」が必要だったわけです。これが「失敗」の

始まりだったとしてもそれ以外の方法を選ぶ時間はなかった

とも思われます。
そしてルーラは「ボルサ・ファミリア」という政策で極貧家庭を

救済し、アフリカ系住民の進学率を上げ、失業率を最小にすることに

成功します。さらに経済力も世界で7位という驚異的な伸び率を
示すのです。民衆にとって生活水準が上がることは、目の前の

喜びであるけれど、国家単位で見ると、その国の経済力の上昇

こそが重要で、そこに世界最大の海底油田が発見されるということが

起きます。

 

ブラジル
出典:IMDb

 

一方ルーラの後継者として指名されたジウマ・ルセフはブラジル初

の女性大統領であり(すごいね、アメリカだってできていないのに)

かつての軍事政権時代ゲリラとして戦った人物でもあったのです。
ここまでが成功して行く状況で、ここからその転落が始まります。
まずはエジプトで起こった「アラブの春」に触発された民衆のデモで、

彼らは「再び民主主義を!」と求めるのです。これは当時、圧政下

でもなかった国民が、自分たちの生活水準のさらなる向上を願って
大きな意味を唱えたわけではないのだと思っています。しかしそれを

利用する政敵が現れるのです。ただ、ルーラ、ジウマ路線が全く

クリーンであったというわけではありません。今までずっと続いていた

企業と政治家の繋がりを、違法な盗聴行為をしてまで告発するのが、

メディアを活用するモロ判事で、この告発を逃れるために、裏で

様々な人々が駆け引きを繰り広げるのです。この件で

「ブラジル民主労働党」から追放されたクナ議員は、労働党入りを

求め、それを拒否されたことから、後のジウマ大統領弾劾の時に、

根拠のない弾劾裁判を承認するんです。思想信条など関係ない、

自らの地位に恋々としがみつくというのはこのようなことを言うん

だろうな。
ジウマ大統領の最大の失敗(といえるのでしょうか)は、金利を下げ、

連立を組んでいた「ブラジル民主労働党」を政権から排除したことに

尽きると思います。富裕層、銀行を敵に回すことは、弱った民主制を
さらに弱体化させ、機能しなくさせてしまう威力を持っています。
終盤に議会前の広場で、ジウマ弾劾賛成派と反対派が赤と青に分かれて

勢ぞろいします。どう見ても弾劾反対の赤色の方が多いのに誰でも

気づくでしょう。「国民の分断」が何を招くか、それは「民主制の死」
しかありえないと感じます。
結局ジウマは弾劾され、ルーラは確固たる証拠もないまま逮捕され、

テメル(ジウマ時代の副大統領)が大統領に就任した後に就任したのは、

かつての軍政を称賛した軍人ボルソナーロです。彼の発言は
ミニトランプと言われるほど過激であり、

「無能な者には暴力で対抗する」

という人物なのです。これが民衆の望んだ未来だったのでしょうか。

国民のためでなく、政治家のため、外国企業のため、市場を維持し、

それは国家機関が都合よく操作できるということを本当に望んでいた

のでしょうか。「ボルサ・ファミリア」の功罪も考えてしまいます。
少しだけ頭をよぎったのは、東西ドイツ統一後、旧東ドイツ出身者が

「オスタルギー」という思いに浸っている老人が存在するという話

でした。あまり関係ないけれど。

 

 

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