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- 2023.01.12 Thursday
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JUGEMテーマ:洋画
出典:IMDb
「希望の灯り」
原題:In den Ganden
監督:トーマス・ステューバー
2018年 ドイツ映画 125分
キャスト:フランツ・ロゴフスキ
サンドラ・フラー
ペーター・クルト
巨大スーパーマーケットに勤務することになった
クリスティアンは、飲料品在庫担当として先輩ブルーノ
の指導を受けながら黙々と働く。そして菓子担当の
マリオンに心を惹かれるが、彼女には夫がいると
聞かされるのだった。
<お勧め星>☆☆☆☆ 美しい音楽とそれに合わせるか
のように動いていく人々の姿が静かに目に入ってきます。
波の音に似ている
原題「In den Ganden」は「通路にて」という意味で
まさにそのものずばりです。巨大スーパーマーケット
(Costcoに似ているなあとずっと思っていた)の通路での
人間模様が描かれていきます。
主役のクリスティアンは「未来を乗り換えた男」(2018)
のゲオルクを演じたフランツ・ロゴフスキ。あの映画では
多弁でイケメンな男性と思っていたけれど、今作では
ほとんど話をしない、陰のある男性を演じています。そして
彼が心を惹かれるマリオン役は「ありがとう、トニ・エルドマン」
(2016)で鬱陶しい父親を持った仕事人間の娘を演じた
サンドラ・フラー。とても印象に残る顔立ちなのですぐに
わかります。
出典:IMDb
舞台は東西統一後のドイツ、ライプチヒ。かつては国営運送会社
だったこの場所が、今は巨大スーパーマーケットに変わっており、
クリスティアンを指導するブルーノを始めとして、ユルゲン、
ルディなど多くの男たちが長距離トラック運転手から一気に
電動フォークリフト操縦へと転向させられたらしい。
「ライプチヒの奇跡」と呼ばれて東西ドイツのきっかけとなった
非暴力デモを始めた地域であっても、統一後、かつての東ドイツに
郷愁を感じる人々が既にいたわけで、ブルーノも
「いい時代だったよ。」
とクリスティアンに語ります。労働者階級が支配階級であり、
自分たちが社会を支えているという実感があった時代と異なり、
今は支配され、隅へ隅へと追いやられていく気持ちを抱くのを、
ブルーノの自宅を見てまさに実感しました。
出典:IMDb
しかし映画は個人に深く立ち入り過ぎず描かれていきます。
クリスティアンの上半身に入った大きなタトゥーが何を物語るかは、
誰も詮索しないし、マリオンに夫がいて、実はそれほど幸せで
ない結婚生活を送っているということもさりげなく伝えるのです。
出典:IMDb
さて、この職場はなんせかなり天井が高く、ものすごく上まで
商品を積み上げていかなければなりません。そこでのマスト
アイテムが「電動フォークリフト」です。これを操縦できないと
一人前ではなくクリスティアンもブルーノに指導を受けながら、
さらに会社での講習も受けます。この時に流れるVTR映像は爆
笑物なので、何回でも見たいし、もっと詳しく見たい!
(ぜひご確認を)
クリスティアンが、タトゥーの入った体を覆うように職場の制服を
まとっていく姿と、コーヒーマシーンにスイッチを入れる指や
コーヒーが注がれていくカップのシーンは何度でも映ります。
それは全く同じことを繰り返す日々の中で、人の心や世の中が
少しずつ変化していくことを意味しているのかもしれません。
クリスマスイブに職場のパーティーで、暖かいビーチで日光浴を
するかのように振舞う同僚の姿や、コーヒーマシーンの部屋の壁が
南欧の風景であるのは、彼らが訪れたことはないものの、いつかは
足を踏み入れたいと願っている証でしょうか。
それはまたフォークリフトを一番上まで上げてゆっくり下げる時の
音が「波の音」と感じるところにも表れていると思います。
マリオンの自宅が映画の中盤に映るのですが、そこがあまりに
豪華な屋敷なので、彼女の夫はもしかしたら西ドイツ出身者で、
東ドイツ出身のマリオンを蔑んでいるのではないかと思ったのは
考え過ぎかしら。
スーパーのオープン時に流れる「美しき青きドナウ」と夜勤時に流れる
「G線上のアリア」はただただ耳障りがよく、いつまでも聞いて
いたいくらいでした。
「さあシベリアに行くわよ」は「冷凍室」を意味する言葉なのも
笑えてきます。
この映画のドイツ時代背景や地域性、市民の暮らしは、私、この映画で初め実感したというか、全く知らなかったです。
彼らは、一生南部の避暑地に行けるはずがない、貧しさの中で、それでも、その気分だけ味わってるんですよね。なんか、面白かったです(^^ゞ
それから、
クリスティアンが、体のタトゥを隠すため長袖制服ジャンパーの袖をパンと伸ばして着るシーン。
日没まじかの薄明るい空とアウトバーン。帰路のバスの中。タイムカード。フォークリフトの上げ下げ。行き交う通路。無口なクリスティアン。
説明シーンを極力抑えて、淡々と描く演出が、私にはホント心地よかったです。
それでも、そんな繰り返される穏やかで大切な日常が、少しずつ変わっていくんですよね。
不良仲間が来たり、下手なフォークリフト運転でも試験を受けなきゃならなかったり。
クリスティアンのマリオンに対する愛情も、ブルーノとの信頼関係も、思いもよらない衝撃が訪れたり、と否応なく変わっていくわけでね。
だけど、たとえどんなに日常が変わったとしても、
「どんなことがあっても、俺たちは前に進んでいかなければいけないんだ!」
と、ルディが、悲嘆にくれるクリスティアンに言う。このシーンには胸を打たれました。
これだな!とも思いました。
あの戦禍を経験した彼らは、何があっても、穏やかで変わらない日常を手放したくないんだろうな、と。
まゆみさんが書かれた通り、とても美しい構図、巧みな演出、音楽の素晴らしいセンスでしたよね。
広い倉庫内の電灯に輝く通路のパンフォーカス。フォークリフトのパンフォーマンス。マリオンとクリスティアンのツーショットと光。「美しく青きドナウ」「G線上のアリア」、ドイツのロック?がとても効果的でしたよね。
あと、クリスティアンとマリオンのケーキにロウソクのシーン❤胸キュンシーン!
それと冷凍室のイヌイット族の鼻キス❤
ザンドラ・フラーは、私の一昨年のベスト10入りした作品『ありがとうトニ・エルドマン』のヒロインで、大のお気に入りです。
そうそう、マリオンの豪邸については、謎でしたが、なるほど、西ドイツと東ドイツの関係なんですか。あのシーンだけ、良く分からなかったです。
かなり長くなって、ごめんねm(__)m
つい、嬉しくなったので❤