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- 2023.01.12 Thursday
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JUGEMテーマ:コメディ映画全般
出典:IMDb
「テルアビブ・オン・ファイア」
原題:Tel Aviv on Fire/Te Aviv Al HaEsh
監督:サメス・ゾアビ
2018年 イスラエル=フランス=ルクセンブルグ
=ベルギー映画 97分
キャスト:カイス・ネシフ
ルブサ・アザバル
ヤニブ・ビトン
イスラエルに住むパレスチナ人のサラームは、叔父が
監督を務める映画のヘブライ語指導のために、毎日
パレスチナのスタジオに通っている。しかし朝晩
検問所を通過する必要があり、ある時、不審人物扱い
され、彼は検問所の軍人アッシの尋問を受ける。
サラームが「テルアビブ・オン・ファイア」という
ドラマに関わっていると知ったアッシは、妻がその
ドラマの大ファンであることから、脚本にあれこれ
注文をつけ始めるのだった。
<お勧め星>☆☆☆☆ 対立ばかり目にするイスラエルと
パレスチナですが、この映画を見ると個人レベルでは
かすかな希望が存在するのではないかと感じます。
失ったものを取り戻す
パレスチナ、ラマッラーでテレビドラマ
「パレスチナ・オン・ファイア」の撮影をしているクルー
の中で、監督の甥サラームは、ヘブライ語指導のために
アシスタントとしてそこに毎日通います。このドラマは
パレスチナ、イスラエルの主婦層に大人気であり、いわば
パレスチナ版「冬のソナタ」という感じでしょうか。
いやそんな恋愛ものではなく、パレスチナ女性が活動家の
恋人の指示でイスラエルの将軍に接近し、情報を得ると
いう「マタ・ハリ」もどきの内容なのです。パレスチナ側
からすると、女スパイの活動頑張れとなるし、イスラエル側
からすると、パレスチナの男を捨てて、イスラエルの将軍と
結ばれてほしいと考えるのが普通。
かつて存在した昼メロでは、だいたい「許されない恋」とか
「どろどろの人間模様」とかが描かれていました。
「牡丹と薔薇」というドラマでは「あんたなんて牡丹じゃ
なくてブタよ!」というセリフがあった覚えがあります。
二人は姉妹なんですけどね(ネタばれ)。
出典:IMDb
さて、サラームはイスラエルに住んでいるので、朝晩、
検問所を通らなければならないのです。イスラエル軍の
兵士が横柄な態度で彼らをチェックします。
「進むか戻るか」
この地域の問題は紀元前までさかのぼるもので、いろいろな
ことが絡み合っています。ただ第二次世界大戦前あたりは、
アラブ人を中心としたパレスチナという国が存在したのです。
しかし戦後世界各地に散らばっていたユダヤ人がこの地に戻り、
アメリカやイギリスなど西側の国の力を借りて「イスラエル」
という国を建国しました。そして既にいたパレスチナ人の
居住区を占領していったわけです。
何度も繰り返される中東戦争は1993年、アメリカの
クリントン大統領の仲介で「オスロ合意」が結ばれ落ち着いたか
に見えましたが、その取り決めをイスラエル側が一方的に
反故にします。
それが映画内で「アラブ人とユダヤ人が結婚するなんて、
オスロ合意の二の舞になる!」というセリフと繋がっている
のです。
検問所で不審人物扱いされ、そこの軍人の取り調べを受ける
サラームは自らの仕事を、人気テレビドラマ
「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本家と言ってしまうん
ですね。ぴかーん!軍人アッシは家で妻やその母親が必死で
見ているドラマを思い出します。どうやら入り婿のような
扱いらしい。アッシは妻たちを喜ばせるために、そのドラマの
脚本を読み、さらには先の展開に口出しをし始めます。
一方ドラマの本当の脚本家は自分の書いたものを変えられた
ことに腹を立てて降板してしまい、なんとサラームが脚本の
一部を担当することになるのです。
出典:IMDb
しかーし、元恋人マリアムの言う通り5分と座っていられない
男サラームの頭に文字が浮かぶはずもありません。そこで
アッシのアドバイスを受けるのです。彼はイスラエル人で
ありながら伝統的なアラブ料理「フムス」が好物だと言います。
しかしサラームはそれが大の苦手なのです。この理由もやはり
紛争と関係していて実は暗い。けれどもそこはさらりと描かれ、
映画は進んでいくのです。
「フムス」知らない食べ物ですが、Costcoでは販売されている
ようです。調べたら成城石井やデパート、さらにはAmazon
でも買えるみたい。これはゆでたひよこ豆にニンニク、
練りごま、オリーブオイル、レモン汁を混ぜてペースト状にし、
塩で味つけたもので、ピタというパンにつけて食べるらしい
です。あまり触手が伸びませんが、欧米のベジタリアンには
人気とのこと。
サラームは「フムス」を手土産にして、検問所のアッシの元を
訪れアイデアを求めます。
出典:IMDb
彼の軍人ならではの知識は、ドラマにリアリティを持たせますが、
パレスチナ人のクルーが考えていたラストとは全く異なる
ものを要求するのです。そもそも女スパイがイスラエル将校と
キスすることは、スポンサー(パレスチナ)のハラール認証の
危機になるし、逆にイスラエル側からすると、「アラブ式キス」
なんてあり得ない、となります。
へえ、こんなに習慣が違うんだ。
またアッシは妻が望むラストを求めて、サラームを拉致するの
です。この手法はイスラエルの秘密警察モサドを彷彿とさせ、
さすが世界最強の諜報機関を持つ国だと感じます。モサドに
ついてググってください。現実にこんなことが起きているのか、
という事件ばかり出てきます。
アッシはモサドではないので、かなり生ぬるいですが、それでも
サラームを怯えさせるのには十分でした。
ところでサラームには元カノ、マリアムという美人さんがいるん
です。サラームは未練たらたらなのに、マリアムはつれない
素振りばかりです。ところが彼がこのドラマの脚本を担当して
いることを知り、また彼女の勤務する病院で大人気のドラマだと
知ると、ちょっとサラームに気持ちが向き始めるんですね。
サラーム、チャンス!
もちろん仕事も恋もそんなに簡単にうまく行くはずもありません。
サラームは主演女優にパリ行きを勧められるし、アッシには
女スパイとイスラエル将軍の結婚を求められるし、監督には
結婚式に持つ花束に起爆装置を仕込むことを決められるし。
八方ふさがり状態から彼はどう脱すのでしょう。アッシにIDを
奪われ、イスラエル側に戻れないサラーム前に立ちはだかる
高い壁こそ、彼の心の中の葛藤を描いています。
出典:IMDb
そして衝撃のラスト!!こんな方法もあったのかと思うし、
これが広がっていけば、長い争いにも終止符がうたれる日が
来るのではないかというかすかな希望を感じます。