「11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち」
監督:若松孝二
2012年 日本映画 119分
キャスト:井浦 新
満島真之介
寺島しのぶ
1970年11月25日、三島由紀夫は自らが率いる「楯の会」隊員
とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地に立てこもり、自衛隊に決起を
呼びかけた後、割腹自殺をする。彼をそこまで導いたものは
何だったのか、また彼に従った若者たちの思いはどうだったのか...。
「実録・連合赤軍あさま山荘への道程(みち)」(2007)、「キャタピラー」
(2010)の若松孝二監督作品です。彼自身の昭和3部作の完結編
だそうですが、今年不慮の事故でお亡くなりになり、本当の意味で完結
してしまいました。まことに残念です。
まず、見終わって一言。ARATA改め井浦新のスマートな容姿が、本当の
三島由紀夫の筋骨たくましい、限りなく男性美をを追求した体とは全く
異なる印象を受けます。しかしそれを除くと、三島の発言、演説風景、表情において
はとても奥深い演技力を発揮しています。さらに彼と共に自衛隊市ヶ谷駐屯地
で割腹自殺をする森田必勝役の満島真之介が、真面目かつ男臭さがみなぎる
美しい青年を好演しています。これは素晴らしかった。
時は1960年11月2日、社会党浅沼書記長が少年に刺殺された事件まで
遡ります。当時、ベトナム戦争反対、日米安保条約反対を掲げた左翼の全学連
が活発の行動する中、逆に新民族主義を唱える右翼組織、日本学生同盟が作られ
ます。
三島はその頃、川端康成と並んで、ノーベル文学賞候補と言われていたのですが、
彼は書くこととではなく、行動することを選ぶようになるのです。そして自衛隊に
体験入隊した後、「楯の会」という民兵の指揮官養成組織を結成します。彼の行動は
悲憤に燃え、だらけきった日本を変えられるのは軍隊しかいない、という考えに
基づいていたのです。全てドキュメンタリー調に描かれ、彼と全学連の若者との
対談では、難しい言葉の羅列に頭はぽっかーん!でもこんなことを熱く語った
若者が今では普通のサラリーマンになっているんだろうなあ、などと考えてしまい
ました。
そして激しさを増す学生運動には全て警察が出動し、自衛隊はもはや自発的には
行動できない組織であることを悟るのです。その上「よど号ハイジャック事件」を
赤軍派が起こします。彼らは北朝鮮へと逃亡しました。三島は絶望からの出発
として5人で自衛隊市ヶ谷駐屯地に立てこもることを計画するのです。
彼が自衛隊員に決起を呼びかけ、本来あるべき軍を再生しようと考えたのですが、
この必死の演説に答える者はいなかったのです。当時の新聞記事では、彼の
演説に笑うものさえいたとか。その時の彼の大きな落胆は、その後行う割腹自殺
の予定をゆるぎないものにしました。三島はほぼ真一文字に深く腹を切っていた
そうですが、彼に続いた森田は最初の一刺しだけ深く、後は皮膚の表面を刺して
いっただけだそうです。三島のある意味、憂国の思いの強さがうかがい知れます。
ある新聞の翌朝の朝刊には2人の頭の写真が載っていたそうです。
彼の妻が5年後に
「何も変わらなかった。」
と言ったのが印象的でした。
何も変わらなくてよかったと思います。軍隊を持つことは戦争へと限りなく
近づくことだから。
<マープルの採点>
お勧め星 ☆☆☆
雨が降ってきた。冷たい雨だ。