「麦の穂をゆらす風」
原題:The Wind That Shakes The Barley
監督:ケン・ローチ
2006年 アイルランド=イギリス=ドイツ=イタリア=スペイン映画
126分
キャスト:キリアン・マーフィー
ポードリック・デイレーニー
リーアム・カニンガム
1920年、アイルランド。デミアンは、医者としてロンドンの病院で
働くことを取りやめ、IRAのメンバーとしてイギリス軍と戦うことを
決意する。彼は兄テディに従い、次々とゲリラ戦を展開していく
のだった。
この映画の撮影は、アイルランド南部の州、コーク州で行われたそうです。
その題名通り、一面にわたって麦の穂が揺れ、アイルランドの伝統曲、
「麦の穂をゆらす風」が流れる中、映画は進んでいきます。
1920年、デミアン達は村の友人、兄達とともに、ハーリングを楽しんでいます。
彼はロンドンで医師として働く日を控え、村の人々に別れを告げていきます。
ところが突然訪れたイギリス兵によって、デミアンが心を寄せるシネードの弟
ミホール(英語名がマイケル)が殺害されるのです。さらにロンドンへ向かう駅で
イギリス兵の横暴な行動を目の当たりにした彼は、義勇軍つまりIRAの一員と
なることを決意します。IRAと聞くと、かつて列車や建物を爆破したテロリスト集団
というイメージしかありませんが、この映画を見るとそこには深い理由があること
がわかります。いったんは自治領独立として認められたアイルランドの自治法が、
第一次大戦によって全て凍結され、さらに戦争終了後もイギリス領のままであり、
イギリス本国が決めた法によってアイルランド国民は搾取され、暴力、殺害行為
を受け続けていたのです。
英国兵は彼らを「汚い」「田舎者」と蔑み、IRA側は「イギリスは資本主義の手先」
とののしっていました。報復に次ぐ報復で、遂にテディを含めダミアン達もイギリス
軍に逮捕されます。正当な裁判もなく、テディは爪をはがされる拷問を受け、翌日
には銃殺刑が待っている。こんな人間とは思えないような行為が平気で行われる
のが戦争なのです。デミアン役は「TIME/タイム」(2011)でタイムキーパーを
演じたキリアン・マーフィー。しばしば悪役を演じる彼ですが、この映画のような
賢く意志の強い役もまことにはまり役です。
何とか仲間の手引きで脱走したテディ、ダミアン達は、彼らの隠れ家を話した
クリスという少年を処刑します。彼はデミアンの幼なじみであり、クリス自身も脅されて
白状しただけなのですが、組織のトップの意向は絶対なのです。クリスの死を
彼の母に告げに行ったデミアンは、「二度と目の前に現れないで」と言われます。
このセリフはラストにも聞かれます。
さらに英愛協定が批准され、北アイルランドを除くアイルランドが独立します。
しかしこれは今まで仲間だった者たちの分裂をも意味するのです。つまり完全独立
をめざすものと、この状況に妥協し、とりあえずイギリスの支配から逃れたことを
喜ぶものです。粗末な武器でゲリラ戦を戦った仲間が、今度は敵味方に分かれ、
同じ国内で戦い始めるのです。
「それだけの価値があるのか」
クリスを銃殺した時のデミアンの言葉です。
そして自由国軍兵士となったテディに対し、デミアンは
「仲間を裏切れない。何のために戦うのか」
と問いかけます。
イギリスの支配からの独立だった戦争が、アイルランドの内戦となり、かつての仲間、
友人、そして兄弟をも引き裂いてしまいした。教会さえ、IRAを疎外します。
平和、自由を求める気持ちは同じだったのに、どこで分かれてしまったのでしょうか。
<マープルの採点>
お勧め星 ☆☆☆☆ 今日は絶好の行楽日和。回転ずしに行きました。