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    • 2023.01.12 Thursday
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    ヘイト・ユー・ギブ

    3

    JUGEMテーマ:洋画

     

    ヘイト・ユー・ギブ

    出典:IMDb

     

    「ヘイト・ユー・ギブ」

    原題:The Hate U Give

    監督:ジョージ・ティルマン・Jr.

    2018年 アメリカ映画 133分

    キャスト:アマンドラ・ステンバーグ

         レジーナ・ホール

         ラッセル・ホースビー

         K・J・アパ

     

    白人社会と共存するように父親から教わってきた

    黒人のスターは、白人の通う私立校に在籍し、白人の

    友人やボーイフレンドと学校生活を楽しんでいる。

    しかしある日幼馴染のカリルが目の前で白人警官に
    射殺され、報道が真相をかけ離れたものであることから、

    彼女は真実を証言しようと決意するが..。


    <お勧め星>☆☆☆☆☆ 今年見た映画の中で今のところ

    ナンバー1です。きれいごとで済まされない不条理な

    世の中をリアルに描いています。


    憎み合うのが罪


    原作はアメリカで大反響を呼んだ小説「ザ・ヘイト・ユー・ギブ」

    です。銃による事件など日常茶飯事のように起こっている

    アメリカにおいて、日本人が犠牲になった事件がありました。

    1992年、ルイジアナ州バトンルージュで起きた日本人

    高校生射殺事件です。ホームステイ中の高校生がハロウィン

    パーティーへ出かけたものの、訪問先を間違え、住民の白人

    男性に射殺された事件でした。
    「Freeze」を「Please」と聞き間違えたとか、他人の敷地に

    入ること自体違法だとか、被害者が武器を持っていたかの

    ように見えたとか様々な報道がされました。結局裁判では

    陪審員の全員一致で無罪となり当時は怒りに燃えたものです。

    その後銃弾を放った白人男性の私生活を暴く記事が日本では

    幾つも取り上げられ、

    「彼が無罪になるのはおかしい。こんな私生活なのに」

    とアメリカ人で白人である義兄に訴えたところ

    「亡くなったことは悲劇だけれど、彼は天使ではない

    (つまり完ぺきな私生活を送るものなどいないという意味)」

    と言い返されました。わたしの問いが的を外れたものであった

    としても文化の違いを感じた瞬間です。

     

    ヘイト・ユー・ギブ
    出典:IMDb

     

    全く状況は異なりますが、この映画のヒロイン、スターは黒人

    低所得者地域ガーデン・ハイツに住みながら、両親の願いで、

    地元ではなく白人が通う私立校に在籍しているのです。彼女は

    学校と家の近所では頭を切り替え、言葉も使い分けていると

    言います。スポーツや勉強に励み、白人の友人やボーイフレンド

    すらいるのです。もちろん学校の中で差別の目で見る生徒も

    いるけれど、金持ちの白人はただ睨むだけ。

     

    ヘイト・ユー・ギブ
    出典:IMDb

     

    ところがある晩、黒人だけのパーティーで再会した幼馴染の

    カレリが、彼女の目の前で白人警官に射殺されてしまうのです。

    この時の状況は、いくつもの映画で見たシーンや実際に起きた事件の

    ようにまことに理不尽で一方的な発砲なのですが、地域的に見て

    犯罪率の高い場所を、夜一人でパトロールしている警官の恐怖心は、

    おそらくはかなりのものだろうと推測されます。

    映画内でスターが黒人警官にこう尋ねるシーンはあります。
    「白人がベンツに乗って、ドラッグを売っている可能性があったら

    どうするのか?」

    黒人警官は

    「まず手を挙げろと言う」

    と答えます。では相手が黒人だったらどうするかと尋ねると

    「危険を察知したら発砲する」と答えるのです。この矛盾した答えを

    黒人警官が苦しそうに口にします。そこにあるのは「犯罪率の多さ」

    であるけれど、根底に横たわるのは「貧困」にほかなりません。

     

    ヘイト・ユー・ギブ
    出典:IMDb

     

    カリルの死後、現場に居合わせたスターは大陪審で証言するか否か

    悩みます。それは彼女が「さらし者」になることを恐れる母親の

    気持ちと彼女自身が学校での状況が悪くなるのではないかと危惧

    するからです。
    一方で、街では事件によって、黒人は怒りを募らせデモを開始し、

    警察は彼らを格好の標的にしていくのです。この繰り返しは

    どれだけの期間続けられてきたのでしょうか。そしていつになったら
    止まるのでしょうか。積み重なった小さな怒りが、何かあるたびに

    爆発し、それを彼らが待っていたかのように感じてしまうのは

    大きな人種差別が存在しないと思われる(思いたい)日本にいるから

    こその浅はかな考えなのですね。
    またスターの親友だった白人のヘイリーのように、黒人の真似を

    したり、黒人の気持ちがわかるようなふるまいをしていても、実は

    根本には人種差別意識を持っている人たちが数多くいるのも現実です。
    「ゲット・アウト」(2017)はそれを逆手に取って驚くような

    ストーリー展開の映画でした。

     

    ヘイト・ユー・ギブ
    出典:IMDb

     

    後半、警官が無罪になったことへの抗議デモは、とにかく涙が

    溢れました。ここまで憎み合う人間の姿を見たくない。けれど

    それが現在進行形で起きているのです。スターの言う通り

    「憎み合うのが罪」であり、その連鎖は断ち切れるはずなのです。
    そして「子供に与える憎しみが全てをむしばむ」ということは肝に

    銘じておきたい言葉です。「理不尽な世の中でも黒人である誇りを

    忘れるな」とスターの父が言う通り、それぞれが誇りを持ち、

    互いを尊敬し、寛容な社会を築いていけるように少しずつ世界が

    変わっていくといいと心から思います。

     

     

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    輝ける人生

    3

    JUGEMテーマ:洋画

     

    輝ける人生

    出典:IMDb

     

    「輝ける人生」

    原題:Finding Your Feet

    監督:リチャード・ロンクレイン

    2017年 イギリス映画 114分

    キャスト:イメルダ・スタウントン

         ティモシー・スポール

         セリア・イムリー

         デビッド・ヘイマン

         ジョン・セッションズ

     

    夫と35年の結婚生活を送り、遂に彼が「ナイト」の

    称号を授与されることになったサンドラは、その祝賀

    パーティーで夫と親友の浮気現場を目撃してしまう。彼女は

    深く傷つき、疎遠だった姉ビフの住む団地へ向かうの

    だったが..。


    <お勧め星>☆☆☆☆ よくあるパターンの映画でしたが、

    ダンスがとても楽しくてラストも爽快でした。


    楽しい事への期待


    「わたしは生まれる前、長い間死んでいたが、なんの

    不都合もなかった」マーク・トウェインの言葉です。

    それが引用されるのは、姉ビフの家に転がり込んだサンドラが、

    ビフに

    「あなた死ぬのが怖くないの?」
    と尋ねた時に姉がこのように答えるのです。この言葉には

    姉自身の様々な気持ちも隠されているけれど、それは序盤には

    一切分かりませんし、サンドラも少しも理解できません。
    晴れて「ナイト」の称号を与えられ、妻として「レディ」と

    なったサンドラは、大邸宅に暮らすとても気取り屋さんなです。

    その称号がもらえたことが本当にうれしくてたまらず、祝賀

    パーティーでも
    「わたしを35年支えてくれた妻に感謝します」

    なんて紹介されて、もう有頂天...と思ったら、なんと夫があろう

    ことか親友パメラとチュッチュしているじゃありませんか!

     

    輝ける人生

    出典:IMDb

     

    良き妻、良き母として夫を支え、警察署長を引退した彼と

    これから第二の人生を楽しもうと夢見ていたのに、この

    仕打ちはどういうこと!!と怒りが収まらず、彼女はそのまま

    家を出てしまうのです。

     

    輝ける人生
    出典:IMDb

     

    そして行き着いたのが、ずっと疎遠だった姉ビフの住む団地です。

    大邸宅とは雲泥の差のぼろい作りだし、住民も明らかに

    低所得者層のように思えます。ツンツンしているサンドラをビフは

    嫌な顔一つせず受け入れます。
    ビフは自由奔放で、人目を気にせずいろいろなことを楽しみ、

    やりたいことはすぐに実行に移すという、サンドラとは全く別の

    タイプの女性です。なぜ疎遠だったのかは、今の生き方を見れば

    一目瞭然ですよね。
    ビフはすぐにサンドラを受け入れる一方で、サンドラはなかなか

    溶け込もうとしません。彼女の心は

    「マイクから謝罪の言葉があるはず。そして戻ってほしいと

    言われるはず」

    という期待しかなかったんですね。だからマイクから離婚申請書が

    郵送されてくると、それはそれは大ショックを受けるんです。

    その前後のサンドラとビフとの2ショットシーンは様々な笑いが

    込められていてここは必見です。
    気取り屋で世間体ばかり気にしていたサンドラは、これまでいかに

    束縛されてきたか、そして夫の付属品として自分を捨てて生きて

    来たかが次第にわかってきます。ビフの周りの人間は、みな境遇が

    違えど、決して相手を否定しないし、受け入れることを拒むことは

    ありません。

     

    輝ける人生

    出典:IMDb

     

    しかしマイクつながりの(それしかなかった)友人たちは手の

    ひらを返したような態度をとるわけです。マイクとパメラに対し、
    サンドラが放ったキツい一言は気分よかったわ。その店の客だけ

    でなくオーナーまで拍手喝采し、一杯おごってくれます。それは

    マイクのようなタイプの人間が多く存在して、それに対し、日頃

    からうっぷんが溜まっていることにほかならないと思うのです。

    もちろんマイクの付属品のパメラのような女性に対しても。

    (浮気が発覚しなかったらサンドラだって同じタイプだったはず)
    ビフの勧めで参加したダンスは、実はサンドラがかつて得意だった

    もので、それもマイクが好まないから封印していたという。

    ああ、どこまでも夫のお飾りだったんですね。
    ダンスのスキルをどんどん発揮するサンドラはかつての生き生き

    していた時代を思い出すし、チャーリーというビフの男友達と

    ちょっといい雰囲気になるのですが、この役が「否定と肯定」

    (2016)であの嫌な歴史学者を演じたティモシー・スポール。

    あのイメージが強すぎて全然いい人に見えないの。
    そんなこんなでサンドラが楽しい体験をしていると...。また

    いろいろなことが起きるのですよ。まさにこの数か月の間に

    人生の何十年か分の経験をしたかのように感じます。それでも

    ラストの爽快なワンシーンを見ると「楽しい事への期待」を常に

    持っている人生は、やっぱり楽しいなと思うのです。

     

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    グリーンブック

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    グリーンブック

    出典:IMDb

     

    「グリーンブック」

    原題:Green Book

    監督:ピーター・ファレリー

    2018年 アメリカ映画 130分

    キャスト:ヴィゴ・モーテセン

         マハーシャラ・アリ

         リンダ・カーデリー

         ディミテル・ロ・マリノフ

         マイク・ハットン

     

    イタリア系アメリカ人で粗野なトニーは、アフリカ系

    アメリカ人で教養溢れるピアニスト、ドンのツアー運転手

    として雇われる。ツアー先は人種差別が根強く残る南部の

    諸州であり、行く先々でドンは不快な出来事に遭遇するの

    だった。


    <お勧め星>☆☆☆☆ いろいろな考え方があるけれど、

    私は見終わって気分が明るくなれる映画でした。


    相手を知るチャンス


    まず始めに驚いたのが、ヴィゴ・モーテンセンの体型です。

    「イースタン・プロミス」(2007)でサウナ内の全裸、

    本当にぜ・ん・ら乱闘を見せてくれた時のあの精悍な身体は

    どこにいったのでしょう。切れ味抜群の剃刀のような視線や

    割れた腹筋はどこへ行ったのでしょうか。食べ物に目がなく、

    ホットドッグ大食い競争で勝ったり、ケンタッキー・フライド

    チキンを次から次へと口に放り込む違う意味での豪快な男かつ

    ポッコリお腹に変わっています。これはもちろん役作りの

    一つであり、14kg増量し、撮影中もずっと食べ続けていた

    らしいです。ああ、よかった。ただの中年太りじゃなかったんだ。
    全裸で思い出すのは「アメリカン・サイコ」(2000)

    でのクリスチャン・ベールの全裸チェーンソーです。全裸で

    チェーンソーを持って女性を追いかけるウルトラ怖い男を

    演じていました。写真を保存しちゃっているかも..。彼も

    役作りのために自由自在に体型を変える俳優であり、そういえば

    髪の毛や歯も抜いていた映画もありました。
    さてヴィゴが演じるイタリア系アメリカ人のトニーは、

    ニューヨークのナイトクラブで用心棒として働く無教養だけれど、

    口と腕力にたけた男です。ズルをしても結果的に勝てばいい的な

    考え方でまじめにコツコツというタイプには全く縁遠い模様。

    さらに最初のシーンからもわかるようにトニー自身は黒人に対し

    差別意識を持っているので、そんな彼が黒人であるドンの下で

    働くことなど受けるはずもないのです。

     

    グリーンブック

    出典:IMDb

     

    ドクター=医者=白人と思っていたら、現れたのはカーネギー

    ホールの2階の豪華な部屋に暮らす黒人のドンで、医者ではなく

    名ピアニストだという。どうやらとっても有名なピアニスト

    らしいし、ギャラも高額だけれど、おいら、ちょっとこの

    仕事は受けられねえわ!

     

     

    グリーンブック
    出典:IMDb

     

    とは言ったものの、家族を養うのにお金が必要なトニーは、

    運転手兼ボディガードとしてドンと共に出発します。

    その車はキャデラック・ドゥビルで色はブルーグリーンという

    トルコ石のような美しいボディカラーなんです。こういう風に

    ガソリンをダラダラ垂れ流しながら走る大きな車に一度乗って

    みたいものです。
    ドンを演じるのは「ムーンライト」(2016)の

    マハーシャラ・アリ。大家族で狭い部屋に暮らし、いつもワイワイ

    にぎやかに食事をしているトニーとは全く反対で、執事一人を

    したがえ、豪華な調度品に囲まれていても、たった一人で

    過ごしている孤独なドンの家族関係はほとんど語られません。

     

    グリーンブック
    出典:IMDb

     

    こうして出発したツアーで、教養もあり才能にあふれ上品な

    ドンという人が、トニーが抱いていた黒人像とは全く異なって

    いることに、彼はなかなか気づかないんです。黒人が好きだと

    自分で思い込んでいる歌や食べ物、行動を一方的に語り、

    ケンタッキー州に行けば、フライドチキンをバケツで購入し、

    食べながら運転します。ハンドルが脂でべたべたになろうが

    お構いなしなです。これを初めて食べるドンが「衛生面で」

    「この骨はどうすれば」などと語るのはクスリと笑えてしまう。

    ドンはニューヨークなど大都会では有名であり、彼の演奏を

    多くのお金持ちの白人たちが聴きに来ては大喝采を送るけれど、

    それは彼の演奏にではなく、有名である彼の演奏を聴いたことが

    ステータスなのだと思っていることにとっくに気づいているの

    ですね。だから南部の州をツアー先に選んだのです。
    トニーが黒人について知識が極めて浅かったのと同様に、ドンも

    才能にあふれ上流の生活をしてきたために、黒人文化になじみが

    全くなかったことがわかります。それはドンという人間のルーツは
    どこにあるのかということにもつながるような気がしてしまう。

    白人社会ではドンは「黒人」であり、黒人社会では「白人に

    等しい黒人」なのではないかということです。

     

    グリーンブック

    出典:IMDb

     

    終盤に車がオーバーヒートして止まってしまったときに、綿畑で

    働く黒人労働者が、ドンを極めて奇妙な目で見ることに象徴されて

    います。
    黒人向けガイドブック「グリーンブック」

    The Negro Motorist Green Bookを持ち、ジム・クロウ法が

    まだ存在していた時代の南部で彼らが、いやドンがどのような

    扱いを受けるのか、行く前からわかっているけれど、そこで彼と

    トニーがどう対処していくかを見ていると、このツアーがお互いの

    距離を縮め、そして深い友情を結ぶきっかけになったことは

    間違いありません。
    「暴力は敗北」とドンは言います。しかし耐え続けることだけで

    先に進めるものではないとトニーが体をもって教えてくれたと

    思っています。
    白人視点による黒人描写にすぎないという意見も読みましたが、

    こういう時代を知らなかった人がそれを知るきっかけになった

    のならそれはそれでいいと思うのです。さらに俳優2人の演技も

    素晴らしい。
    何より、バーミンガムの安酒場の舞台でドンが弾くクラッシック

    「木枯らしのエチュード」から始まり、その後のアドリブの

    セッションは、そこにいた人々全員の心を一つにしていくのが

    手に取るようにわかり、それがドンのピアノ演奏の力だと強く

    感じました。

     

     

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    寝ても覚めても

    4

    JUGEMテーマ:邦画

     

    寝ても覚めても

    出典:IMDb

     

    「寝ても覚めても」

    監督:濱口竜介

    原作:柴崎友香

    2018年 日本=フランス映画 119分

    キャスト:東出昌大

         唐田えりか

         瀬戸康史

         山下リオ

         伊藤沙莉

     

    朝子は大好きだった恋人、麦が突然姿を消してから

    2年余りたった時、東京で亮平という麦そっくりの

    男性と知り合う。彼女は戸惑い、ずっと彼を避け続けるが、

    愛を告白された後一緒に暮らし始めるのだった。


    <お勧め星>☆☆☆☆ 映画全体のフワフワした雰囲気が

    自分の心のある部分を刺激し、静かな共感を呼びました。


    これ以上行かれへん


    昨年鑑賞した邦画で同じような気持ちにさせられたのは

    「南瓜とマヨネーズ」(2017)で、臼田あさ美さん

    演じるダメ男を好きになる重い女(個人の感想です)に

    なぜか頷くしかありませんでした。

     

    寝ても覚めても
    出典:IMDb

     

    「寝ても覚めても」では、まず麦と朝子の唐突な出会いから

    始まります。建造物がお好きと語る柴崎友香さんの原作にも

    出てくるのでしょう。通天閣や大阪国際美術館が冒頭から目に

    入ります。つかみどころのない麦という男性に恋した朝子も

    どこか現実離れした雰囲気の女性で、一つ一つの表情がとても

    個性的です。

    「遅くなってもちゃんと帰ってくる」

    という彼の言葉を信じていたものの、ある日突然麦は帰って
    来なくなります。心から大好きで、そこにいるのが当然になって

    いた人が、何も言わずに姿を消した時、残された人の気持ちは

    どうなるのでしょうか。

    映画内で中盤に、震災から5年後の東北が映ります。
    そこには活気が戻ってきたかのように思えるけれど、かつて存在

    していた全ての物が人が戻ってきたわけではないのです。あの日を

    境に二度と会えなくなった人たちも数多く存在するのです。

     

    寝ても覚めても
    出典:IMDb

     

    そして麦が姿を消して2年余り後、東京で朝子は亮平と出会います。

    この2年余りをどのように過ごしたのか全く分かりません。

    ただ一つ分かるのは彼女の心の中には麦が存在し続けたことなのです。
    朝子の動揺ぶりが、その空白の期間の苦しい胸の内を物語ります。

    同一人物が演じているから当然ですが、全く別の人間なのに全く

    同じ顔をした男性が目の前に現れたら、せっかく進み始めた心の中の
    時計の針が一気に逆回転を開始してしまいそうで怖くてたまりません。

    性格も全く異なり、誠実で明るく、まじめな亮平に心を惹かれていく

    朝子が、彼から遠ざかろうとする気持ちも本当によくわかります。
    亮平のことを朝子はめっちゃ好きで、その気持ちが亮平をが頑張らせる

    と彼は言います。それを聞くと、あまりに強いつながり方は、

    ほんの少しの変化で一気に違う形になってしまうようにも思えるのです。

    映画内の猫の存在も時に麦を時に朝子を映しているように感じられます。

     

    寝ても覚めても
    出典:IMDb

     

    終盤はまさかの展開で、そこでそんなに必死で走るのか!と

    思ってしまいますが、全てを変えてしまえる人間など存在しないし、

    汚いと思う川も見る人や見る気分によってはきれいに見えるかも

    しれません。
    男女二人が全く同じ強さで惹かれ合う時期はわずかであり、一方が

    離れそうになると、もう一方がすがるし、切れかけた心が弱く細く

    繋がり続けるものも存在すると思うのです。
    その時々で折り合いをつけていくのが人生なんだろうなと感じて

    います。許すことも人生だし、憎むことも人生の一部になっていくの

    ですね。

     

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    ルック・オブ・サイレンス

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    ルック・オブ・サイレンス

    出典:IMDb

     

    「ルック・オブ・サイレンス」

    原題:The Look of Silence

    監督:ジョシュア・オッペンハイマー

    2014年 デンマーク=フィンランド=インドネシア

    =ノルウェー=イギリス映画 103分

    キャスト:アディ・ルクン

         アミール・シアハーン

         アミール・ハサン

         イノン・シア

     

    かつて兄を虐殺されたアディは、今も権力者として暮らす

    加害者たちに無料の視力検査と称して様々な質問を投げ

    かける。彼らには全く罪の意識はなく、逆に自らの英雄談

    として語り始めるが、アディの素性を知るとその態度は

    一変するのだった。


    <お勧め星>☆☆☆☆ 本当に辛い。しかし起きたことを

    正しく知らないで済ませることが幸せな未来につながるの

    でしょうか。


    過去は過去では済まされない


    アメリカ、テキサス州出身のジョシュア・オッペンハイマー監督

    が、本作の前に製作していた

    「アクト・オブ・キリング」(2012)

    をなぜ見逃していたのでしょう。その映画は今映画と同じ

    1965年に起きたインドネシアの「9月30日事件」以降の

    大量虐殺事件を加害者本人が演じていたと言います。もちろん

    彼らは自らを国のために共産主義者を粛清した英雄と思い込んで

    いるわけですから、映画も英雄伝説のように描かれると考えて

    いたはずです。それがふたを開けると、この虐殺事件を全世界

    に知らしめるおぞましい内容であり、オッペンハイマー監督が

    「アクト・オブ・キリング」の発表直前に

    「ルック・オブ・サイレンス」の撮影を終了していたことも含めて、

    極めて危険な行為であったと考えられます。いまだに

    インドネシア国内では、この事件いついて語ることはタブーであり、
    当時のスハルト大統領が亡くなった今となっては事件の全容解明

    は不可能に近いのです。
    事件は1965年9月30日、インドネシア共産党による

    軍事クーデター未遂から始まります。スカルノからほぼ無理やり

    大統領の座を奪ったスハルト政権は、クーデターの首謀者や

    共産勢力の一掃を図ります。そしてその思想に染まっていると

    疑われた人々も含めて100万人もの犠牲者を生む虐殺事件が

    起きるのです。さらに恐ろしいのは、その加害者たちが今も政権の

    内部にいたり、地域の有力者であるということです。

     

    ルック・オブ・サイレンス
    出典:IMDb

     

    主人公のアディは、1965年の事件で兄を虐殺され、その

    2年後に誕生したので、実際には事件を知りません。しかし

    母親からずっと聞かされてきたのでしょう。そして無料の

    視力検査を実施する話を持ち掛けて、加害者たちに接近し、

    事件についての話を聞き始めます。

     

    ルック・オブ・サイレンス

    出典:IMDb

     

    加害者が嬉々として語る虐殺行為は、耳をふさぎたくなるほどで、

    彼らはアディが
    「私の兄ラムリが殺された」
    と語るまでは、自分がいかに英雄だったというようにその様子を

    事細かに話すのです。そしてその言葉を聞いた途端、
    「覆われた過去を掘り返すな」
    「終わったこと」
    「過去の問題を騒ぎ立てると再び同じことが起こる」
    とまで言い始めます。誰もが自分の罪ではない、命令されたことを

    したまでだと言うわけです。

     

    ルック・オブ・サイレンス

    出典:IMDb

     

    ルック・オブ・サイレンス

    出典:IMDb

     

    加害者の家族も
    「全く知らなかった」
    と言い、アディの叔父に至っては、ラムリが収容されていた

    刑務所の看守で、ラムリが殺害のために連行されるのも知って

    いたのです。彼の言葉を借りると、
    「看守をしていただけで何も知らない」
    彼らがみな裕福な暮らしをしており、逆にアディの両親は貧しく、

    村の中でも疎外されているように感じます。
    アディが求めた謝罪の言葉は加害者たちから一切聞かれず、

    唯一加害者の娘の一人が
    「許してあげて」

    と涙を流します。それも父が娘に誇りに思わせていた殺害行為で、
    「人の血を飲むと殺しても狂わずに済む」
    と父親が普通に語った時に、涙が頬を伝います。彼女にとって

    尊敬すべき父が、国のために行動した父が、まさかそんな

    非人道的なことをしていたとは知らなかったのでしょう。
    アメリカが資源目的に介入し、共産主義者一掃に一役買っていた

    ことも知ると、軍は民間人に、人民闘争として共産主義者

    (そのように思われただけの人々)を虐殺させるという最も

    卑怯な行為をさせていたのだと思うのです。そこには共産主義者は

    「神を信じない」「不道徳である」という偽りのプロパガンダの

    大きな存在があります。
    しかしこの「絶対悪」の責任はどこにあるのでしょうか。彼らは

    命令に従い、インドネシアの民主主義のために闘ったと自負し、

    周りからも信奉されています。
    見終わって思うのは、人間の残酷さには際限がなく、そして

    加害者と被害者はいつ入れ替わるかわからないということでした。

     

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    ジェラルドのゲーム

    4

    JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

     

    ジェラルドのゲーム

    出典:IMDb

     

    「ジェラルドのゲーム」

    原題:Gerald's Game

    監督:マイク・フラナガン

    原作:スティーブン・キング

    2017年 アメリカ映画 103分

    キャスト:カーラ・グギーノ

         ヘンリー・トーマス

         ブリース・グリーンウッド

     

    マンネリの夫婦生活を解消しようとジェラルドと

    ジェシーは人里離れた別荘へやってくる。そして

    ジェシーを手錠でベッドの支柱に拘束し、楽しい

    時間を過ごそうとしたときジェラルドは突然心臓発作で
    倒れてしまうのだった..。


    <お勧め星>☆☆☆半 夢と現実に翻弄されながら、

    再生の道を歩み始める女性の姿がラストには見られます。

    ものすごく痛いけれど!


    月夜の幻は小さかった。


    子供の頃怖かったのは「ミイラ男」というテレビ番組で、

    姉たちがその真似をしてからだに包帯を巻き、手を前に

    突き出して足を曲げずにこちらに歩いてくる姿を見ただけで、

    あーんあーんと泣いた記憶があります。今その映像を

    見ても1ミリも怖くないんですよね。それだけ「恐怖」と

    いうものが人間の中で姿を変えていくのだなと実感しています。
    さてこの映画の監督は「ソムニア 悪夢の少年」(2016)

    のマイク・フラナガン。「ソムニア..」では美しい色彩と恐

    怖の映像が上手く組み合わさり、「ルーム ROOM」(2015)

    のジェイコブ・トレンブレイの演技の相乗効果で大へん切ない

    思いを抱きました。
    「ジェラルドのゲーム」も夢が主体の内容です。どこまでが

    現実でどこまでが夢か、そしてその夢を見させている過去の

    忌まわしい記憶はなんだったのか、1つずつ紐解かれていく

    のです。
    真っ赤なジャガーでラブラブっぽい中年カップルが小旅行

    スタート。なぜか小さなスーツケースに手錠を入れています。

    まさか「手錠プレイ」!!はい、そのまさかのためなんです。

    ジェラルドとジェシーはマンネリを解消するため、非日常を

    味わおうと人里離れた別荘へやって来て、さあお楽しみ開始!

    と思ったら、ジェラルドがひっくり返ってしまうのです。

    「ちょっと、あなた、あたしの両手はベッドの支柱に手錠で

    留められているのよ!」

    「助けて〜!」

     

    ジェラルドのゲーム
    出典:IMDb

     

    誰にも聞こえませんね。二人だけで楽しむように庭師も料理人も

    お休みにさせているし、すんごい道を走ってきましたからね。

    それとあの青い薬「バイアグラ」なんて飲むもんじゃありません。

    だから心臓発作を起こすじゃありませんか。ありのままでいいん

    です。あ、それがだめだから飲んでいたのね..。
    そしてここからジェシーの夢と現実の世界の往復が始まるのです。

     

    ジェラルドのゲーム

    出典:IMDb

     

    そもそも野良犬に一切れ200ドルもした「神戸牛」を与えた

    上に、玄関ドア開けっぱなしなので、その野良犬がもちのろん

    入り込んできますね。思った通りです。このわんこはよほど

    空腹だったのでしょう。床に転がるジェラルドの腕にがぶりと

    噛みついて肉を食べ始めるのです。このシーンはベッドの陰に

    なって映らないので、どんな風にかじったのかなあと想像する

    くらい。
    するとそのジェラルドが「ジェシーの恐怖心」として出現し、

    ベッドに拘束されているはずのジェシーが「ジェシーの自信、知恵」

    として出現します。よく見ると同じ人物が二人ずついてとても

    おかしな状況ですが、それが彼女の頭の中を描いていると思うと

    納得できます。冷静に考えるジェシーは水の飲み方や体の休め方を

    伝えるけれど、パニックに陥ったジェシーはただただ恐怖に震える

    わけです。

     

    ジェラルドのゲーム
    出典:IMDb

     

    この時点で1つだけわからないのは、大きな足跡の人物の存在で、

    彼女は「月夜の幻」と言って大層怖がりますが、それが全身を

    見せた時本当に怖いのです。これは何でしょう。

     

    ジェラルドのゲーム
    出典:IMDb

     

    ジェシーは少女時代に実父からある行動を見せられていて、

    それがずっと心の奥底に閉じ込めていた「トラウマ」だったと

    わかると、彼女が本心をジェラルドに話せなかったのも何となく

    わかるような気がしてしまいます。
    「皆既日食」の日の出来事。日食眼鏡がないからと言って3D眼鏡

    で絶対に見てはいけません。それで見たから見えるもんでも

    ないのです。(体験より)
    姿を消した太陽が真っ赤な光を見せる「皆既日食」が起こした

    出来事だったとしても、ジェシーはその呪縛から解き放たれること

    がないまま成長したのですね。ジェラルドのジャガーも真っ赤だった

    ことを思い出します。
    終盤は、まさかのウルトラ超絶痛いシーンがリアルに音も交えて

    映ります。絶対に「痛い!」と言うこと間違いなしです。
    冒頭、車の中で流れていたニュースがラストにつながり、とても

    よくできた映画でした。原作はもっとすごいそうです。

    読むかどうか考え中。

     

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    SOLO 孤独の淵で

    4

    JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

     

    solo

    出典:IMDb

     

    「SOLO 孤独の淵で」

    原題:SOLO

    監督:ウーゴ・ストゥーベン

    2018年 スペイン映画 90分

    キャスト:アライン・エルナンデス

         アウラ・ガリード

         ベン・テンプル

     

    カナリア諸島の孤島で一人サーフィンを楽しもうと

    考えていたペドロは、海岸の断崖から落ちてしまう。

    彼は大けがを負いながらもひたすら救助が来るの待ち

    続けるが、次第に衰弱していく..。


    <お勧め星>☆☆ 景色は本当に美しい。それに尽きます。


    甘ったれ男の成長物語


    実話ベースの映画ということで、最後のシーンには本人が

    登場し同じ崖から夕陽を見つめています。そして字幕で

    落ちた場所から2km離れた場所で48時間後に救助された

    と知ると、「127時間」(2010)の壮絶さや

    「オープン・ウォーター」(2003)の迫りくる恐怖と

    比べると格段の差を感じてしまうのです。

     

    solo
    出典:IMDb

     

    冒頭に海岸の断崖に辛うじてしがみついているスキンヘッドの

    男性を遠ざかるカメラで映し、それが次第に離れて景色と一体化

    してしまうと、「絶望」というものが脳裏をよぎります。そして

    突然回想映像に変わるのです。このスキンヘッドはペドロと

    言うらしい。そして恋人らしいオナとイチャコラべたべたして

    いるものの、次には完ぺきに彼女に無視されているシーンに

    変わります。

     

    solo

    出典:IMDb

     

    ペドロはとっくにフラれていて、それでも未練たらたらなのです。

    そして能天気なサーファー仲間と騒いでいると、親友のネロが

    カナダ人女性と結婚し、カナダに行くと言い始めます。

     

    solo

    出典:IMDb

     

    ペドロがっかり。オナにはフラれるし、ずっと一緒にサーフィンを

    し続けるはずだったネロは、その約束を反故にして結婚のみ

    ならず「父親」になるというのです。
    というわけで半ばやけっぱちで訪れた孤島の砂浜を、蟻地獄の

    ように滑り落ち、何度か止まりかけたものの断崖絶壁に

    しがみついている姿となります。

    「助けて〜」誰もいない場所だもの。
    一応地球の半分で波乗りをする計画を立てたぐらいなので、海に

    ついては詳しく、波の寄せて返す音を数えて、「せーの」と

    下へ飛び下ります。この判断は決して間違ってはいなかったと

    思う。でも当たり前だけれど、下はごつごつした岩場なんです。

    ペドロの体は強く岩に打ち付けられ、思わず「痛い!」という

    言葉が出てしまいました。さらに手のひらも深く切ってしまう

    のです。

    全然関係ないのですが、人間の手の平には多くの神経が通っていて、

    特に指の付け根辺りを傷つけると、指が一生動かなくなってしまう

    こともあるそうです。これは自分自身体験済み。

    いや体験しかけ済み。

    なのでペドロは極めて運の良い怪我の仕方?だったのでしょう。

     

    solo
    出典:IMDb

     

    これから大怪我を負ったペドロのサヴァイヴァルが始まるのです。

    と思ったらやはり回想映像が挟み込まれます。オナとの思い出、

    ネロとの友情、そして家族を大事にしなかった自分への後悔など
    どれも甘ったれてばかりの人生だったことを印象付けるばかりで、

    なんとも同情できないというかなんというか。
    美しいカナリア諸島の真っ青な空、明るい日差し、白い砂、

    透き通った海、打ち寄せる波、夜になると満天の星空が見られます。

    その美しさと裏腹にペドロは怪我や冷えで衰弱していきます。気を

    失っては夢を見て、はっと目が覚めるの繰り返しはかなり飽きますね。

    カモメが彼の傷をつつきに来たり、釣り針が腕に刺さったりと

    痛い状況は増えるばかりで、まさに満身創痍状態です。でもなぜか

    ペドロは衰弱しているように見えないんですよね。「渇き」に

    耐えかねて自分の尿を飲もうとすると..というシーンもあまりピンと

    きません。
    罪悪感を抱えたまま孤独で死ぬのは嫌だ、ということを知るために

    ペドロはものすごい体験が必要だったんだなと思うばかりです。
    倒れたままわずかに開いたペドロの瞳に飛び込む横向きの夕日や

    海面、真上からそしてはるか遠くから映す島の景色を見ると

    カナリア諸島へ行きたくなること間違いなしです。

     

     

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    有罪

    4

    JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

     

    有罪

    出典:IMDb

     

    「有罪」

    原題:Talvar

    監督:メーグナー・グルザール

    2015年 インド映画 133分

    キャスト:イルファン・カーン

         コンコナーセーン・シャルマー

         タッブー

     

    14歳のシュルティが自宅で惨殺遺体で見つかり、

    警察は使用人ケムパルを容疑者として捜し始める。

    しかしそのケムパルの遺体がその家の屋上で見つかった

    ことから、今度は父親ラメーシュが疑われるのだった。

    そして捜査はCDI(中央捜査局)の手に渡ると、

    クマール捜査官は全く違う人物を疑い始める..。


    <お勧め星>☆☆☆半 インド警察の杜撰な捜査方法だけ

    でなく、インド社会に渦巻く格差社会を見せつけられた

    気がします。


    正義の女神像


    2008年に実際に起きたノイダ殺人事件を基に作られた

    映画です。
    最近見たばかりのインド映画「尋問」(2015)では

    警察の体面を保つために、とりあえず犯人を作り上げ

    (それも拷問によって)それらは全て上層部の意向をくんだ

    ものであり、現場の警官はちっぽけなコマの1つでしかないと

    思わされました。同時に犯人に仕立て上げられた人々への差別、

    つまり今なお残るカースト制度を実感したものです。
    「有罪」はインド名はTalvar。「剣」を意味し、映画内で

    話される正義の女神像が持っているそれについて意味している

    らしい。

    インドの上位中産階級である医師タンダン家の一人娘シュルティが
    自宅の自室で頭を殴打され、首を切られて殺害された事件から

    話は始まります。

     

    有罪

    出典:IMDb

     

    当然のごとく所轄のビハール警部補は見るからに無能で、

    上司に弱く、部下に厳しいという最低のタイプです。また

    この役を演じている俳優さんの見てくれが、そのまますべてを

    表しているようで、途中でCDI捜査官に叱責されるとき、

    ものすごくいい気分になってしまいます。いけない、いけない。
    野次馬やマスコミの整理もせず、現場保存はおろか、証拠の保管も

    いい加減、そして鑑識すら呼ばないまま、使用人ケムパルを手配

    すると、彼はその家の屋上で腐乱遺体で発見されてしまいます。
    そうなると次は「名誉殺人」の線で捜査が進むのです。

    「名誉殺人」−家族や一族、地域社会が認めていない交際をした

    男女や婚前交渉、婚外交渉(強姦も含む)を行った女性を、名誉を

    守るために父親や親族が殺人を犯す風習は、今なお年間1000件

    程度起きていると言われています。つまりケムパルに襲われた?

    もしくはケムパルと交際していたシュルティを父親のラメーシュが

    2人とも殺害したのではないかというわけです。これに加えて、

    メディアは夫妻のスキャンダルを報道し、事実が何であるのか

    すっかりわからなくなるのです。この光景は日本でもよく

    見られるよな〜。

     

    有罪
    出典:IMDb

     

    そしてCDI(中央捜査局)が登場し、クマール捜査官の指揮で

    一から捜査をやり直すと、どうやらケムパルの友人たちが

    怪しいという結論になるのです。ここはなかなか鋭い推理です。

    このクマール捜査官役は

    「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(2012)

    「めぐり逢わせのお弁当」(2013)

    のイルファン・カーン。やはり「めぐり逢わせのお弁当」が

    ダントツ心に残りました。インドの弁当の姿(円柱型の入れ物を

    積み重ねたもの)を知り、その中に入れた手紙で、思いを少し

    ずつ伝えていく様子は胸がキュンとなります。あの後は

    どうなったんだろうという余韻も含めて大好きな映画です。
    さて、捜査に当たるクマールが理想的な姿なのかというと、

    実はそうでもないのです。もちろん証言や採取しなおした証拠

    から事件を追求していくものの、肝心の事情聴取の時には大好きな

    ゲームをしていたり、やや暴力的な取り調べ、催眠証法

    (これは証拠能力はないだろうなあ)で証言を取っていきます。

    さらに私生活では美しい妻との離婚話が進んでいるのです。

    理由は「一緒にいる理由がないから」そして容疑者として浮かび

    上がってくるのがケムパルの友人たちです。

     

    有罪
    出典:IMDb

     

    ところがCDI局長が変わると、捜査方針が一変し、新しい局長の

    見立てに合わせた証拠、証言集めが始まります。この辺りを

    見ていると、実は冤罪はこんな風に生まれるのかなというのを

    体感してしまいます。
    どちらの容疑者にも決定的な確証が存在しないのは、初動捜査の

    失敗や鑑識の杜撰さだけでなく、インド社会での身分の差を

    感じるのです。つまり世間は身分の低いものに罪を着せることへの

    嫌悪感を持っているのだということでしょうか。それは「差別」

    に基づくというメディアの批判を恐れる側面もあるかもしれません。

    さらにCDI内での出世欲まで絡んだら真相なんて見つかるはずも

    ない気がしてしまいます。
    一応犯人は逮捕されたけれど、迷宮入りに近い事件を様々な角度

    から描いた秀逸な映画だったと思います。
    「非合法的な合法行為」正義の天秤はどちらに傾いたのでしょうか。

     

     

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    判決、ふたつのの希望

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    判決、ふたつの希望

    出典:IMDb

     

    「判決、ふたつの希望」

    原題:L'insulte

    監督:ジアド・ドゥエイリ

    2017年 レバノン=フランス映画 113分

    キャスト:アデル・カラム

         カメル・エル・バシャ

         リタ・ハーエク

         クリスティーン・シュウェイリー

     

     

    判決、ふたつの希望

    出典:IMDb

     

    レバノンの首都ベイルートで自動車修理工場を営む

    トニーは身重の妻シリーンと暮らしていたが、ある日

    パレスチナ人の工事現場監督ヤーセルといさかいを

    起こしてしまう。謝罪を求めるトニーと彼が発した一言が
    許しがたいヤーセルは、法廷で争うことになってしまう。


    <お勧め星>☆☆☆☆ 禍根はいつかは消えることがあるの

    でしょうか。


    言論の自由と責任


    映画の冒頭に主人公のトニーはレバノン軍団の集会で演説者

    に向けて熱烈な支持表明を行っています。このレバノン軍団

    はキリスト教マロン派の右派政党で、トニーは仕事場でも

    演説を流し続けているほどの熱狂的な支持者らしい。この理由

    は映画の終盤に法廷で明らかにされてしまうのですが、この

    ように自分の過去の経験という理由は、そこにある怒りを

    ある程度は他者に説明する要素を持つかもしれません。
    しかし漠然と「強さ」を求めたり「幻想」のようなものに

    かられているとしたら、あまりに愚かだとしか思えません。
    そしてトニーの家のバルコニーから流れた水が、下で工事を

    しているヤーセルにかかってしまうのです。これは明らかに

    嫌がらせっぽい。違法建築を修理中の現場監督ヤーセルは

    「といを修理した方がいい」
    とトニーに言いに行きますが、トニーはけんもほろろに

    追い払ってしまいます。するとヤーセルは無許可でといを設置し、

    それをトニーが目の前でぶち壊すという行動に出るのです。

    「クズ野郎」
    ヤーセルが発したこの言葉にトニーは激怒し、謝罪を求める

    けれど、ヤーセルもなかなか謝罪をしません。なんとか所長と

    共にトニーの工場に謝罪に行くと、例の演説が大音量で流れて

    いるわけです。その上

    「シャロンに抹殺されてればな!」

    とトニーに言われたヤーセルは、遂に彼を突き飛ばしけがを

    させてしまうのです。子供の喧嘩がおおごとになった感じです。

    (ここで出て来たシャロンはイスラエルの15代首相で最も

    パレスチナに強硬姿勢を貫いたタカ派の政治家でした。)
    結局この喧嘩が法廷に持ち込まれ、互いに代理人なしの裁判と

    なります。不思議なことに行動としての暴力とその暴力を呼ぶ

    ような暴言が同等に扱われていることです。裁判官は両者に

    「何を言ったか」を尋ねるのですが、どちらも口にしません。

    おそらく何を言ったか想像がつくのでしょう。さらにトニーが

    悪態をついたこともあってか、ヤーセルは無罪になるのです。

    ずいぶん前に新幹線の自由席を巡って喧嘩になり、裁判に持ち

    込まれた事件がありました。確かカバンで席を確保していたのに、

    それをどかして座った相手と殴り合いになったんじゃなかった

    かしら。結局先に手を出した方が有罪になったと記憶しています。

    確保しておいて席を取られるのはすごく頭に来るけれど、よくも

    まあカバンをどかしてまで座った人がいるもんだと思ったものです。
    映画内の裁判の判決後、トニーが仕事場で倒れ、それを起こそうと

    したシリーンが切迫早産してしまったことで、彼はさらに怒りを

    募らせるわけです。そこでキリスト教右派の大物弁護士ワジュディー

    に相談すると無料で裁判を引き受けると言います。この時点で

    子供の喧嘩レベルが政治的なものへと変わりつつあることに気づく

    のです。

     

    判決、ふたつの希望

    出典:IMDb

     

    一方のヤーセルには、弱者救済を目指しているナディーンという

    女性弁護士がつきます。彼女がヤーセルの住む小汚い地域に

    ハイヒールで何となく嫌そうに入っていく姿を見ると、目標は

    高尚であるけれど、根本的には差別している心があるのだと

    感じます。そしてこの弁護士同士が実の親娘というのはちょっと

    余分な設定かしら。
    ちょっとした口喧嘩が民族、宗教、過去の戦争などで対立する

    国民の争いへと広がっていくのは本当にあっという間で、例の

    「シャロンに抹殺されてればな!」

    も「言論の自由」と言い切られてしまうのです。
    あとで監督の言葉を読みましたが、監督自身もどんなヘイトな

    内容も発信する自由はあると思っているようで、そこに「責任」を

    持つことが大前提だと言っています。逆に言うと責任さえ持てば
    何を言ってもいいのでしょうか。これは何か言うとすぐに殺される

    ことすらあった国で育った監督自身の経験からの独自の考えだと

    思います。
    レバノンという国が何度も中東戦争に巻き込まれ、PLO

    (パレスチナ解放戦線)に自治政府並みの特権を与える寛容な国で

    あったため、レバノンの主流であるキリスト教マロン派と

    イスラム教スンニ派、シーア派の民兵が入り乱れての内戦へと発展

    していきました。多くの犠牲を払ったレバノン人にとってなぜ自国

    レバノンで「パレスチナの大義のために」自国民が我慢をしないと

    いけないのかと思うのもある部分では理解できます。

    一方のパレスチナ人もレバノンで虐殺された過去を持ち、現在も

    何の保障もなく不能就労扱いながら多くの仕事をしているのになぜ

    憎まれなければならないのか。これまで積み重ねてきたレバノンと

    パレスチナの負の歴史が、この1つの裁判に集約されているかのように

    思われます。

     

    判決、ふたつの希望
    出典:IMDb

     

    トニーとヤーセルの駐車した車の位置が真逆であるのは、彼ら

    2人の心をそのまま表していますが、おんぼろでエンジンが

    かからないヤーセルの車を見て、先に発車したトニーが戻ってきて、

    修理をしてくれます。そんな小さなことでもつれあった心の糸は

    ほどかれていくのです。
    またヤーセルだけでなくトニーにも負の歴史を経験していたことを

    知ると、敗北は負の歴史を背負うことだけれど、歴史を踏まえて進む

    ことが「新たな時代」を意味するのだと実感しました。
    ワジュディー弁護士は過去に遡って見つめなおそうと言い、

    ナディーン弁護士は未来を見ようと言いました。その両方が正しく、

    それがラストのかつてのどかだった時と変わらない静かで美しい町を
    取り戻しているトニーの故郷ダムールの景色につながっていた気が

    します。

     

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    マドレ

    4

    JUGEMテーマ:Horror

     

    マドレ

    出典:IMDb

     

    「マドレ」

    原題:Madre

    監督:アーロン・バーンズ

    2016年 チリ映画 95分

    キャスト:ダニエラ・ラミレス

         アイダ

         クリストバル・タピア・モント

     

    身重のディアナは重度の自閉症を患うマルティンの世話で

    日々疲弊している。出張で家を空けることが多い夫トマスは

    あてにならず、雇った家政婦も数日でやめてしまう。そんな

    ある日スーパーでパニックを起こしたマルティンをルスと

    いう清掃係の女性がなだめてくれたことで、ディアナは彼女を

    家政婦として雇うことにするが..。


    <お勧め星>☆☆半 気軽に見始めるとまさかの展開にギョッと

    なります。でもラストがいまいち


    母は強しというけれど


    オープニングから重度の自閉症児であるマルティンの世話に

    手を焼く身重のディアナが次々に映ります。

    起床、食事、通学、入浴、就寝にいたるまで、すべてに

    おいてほとんど介助が必要で、それを一人でこなしている

    のです。自分が休憩を取る時はどうやらマルティンを拘束し、

    ドアに鍵をかけているらしい。それでも彼が発する大声に

    反応して体を動かさないといけないのです。その疲労と
    今お腹にいる子供が同じ症状を持っていないかという不安で、

    ディアナは少しも幸せそうな顔をしていません。

     

    マドレ

    出典:IMDb

     

    いつでも電話で話せる、という夫トマスだって手を貸して

    くれるわけでもないのです。雇ったメイドも数日ですぐに辞めて

    しまう。
    そんな時スーパーで暴れ始めたマルティンをそこの清掃係だった

    ルスがなだめてくれたことで、ディアナは夫の許可を得て彼女を

    住み込みの家政婦として雇うことにするのです。ルスの子供も

    同じ病だったけれど、ちゃんと克服して今は普通に暮らせている

    と言う。その話通り、マルティンはあっという間に症状がおさまり、

    普通に食事をするし、なんと言葉を発することもできるように

    なります。ディアナ自身もゆっくり体を休められるし、空いた時間

    でカタリナとお茶もできちゃう。気になるのはルスが「フィリピン語」

    でマルティンに何かを言い、彼もその言葉で答えることですね。

    これも勉強すればいいのですよ。

    フィリピン人は公用語である英語が堪能なため、世界中で様々な

    職業に就いており、OFW(オーバーシーズ・フィリピーノ・ワーカーズ)

    と呼ばれています。ただ「貧困層の出稼ぎ」の時代は終わったとは

    いえ、家政婦として働く女性への雇い主の不信感は強くあるし、

    逆に雇い主からの虐待、搾取もあるという問題は残されたままなの

    です。映画内でカタリナがディアナに話したように窃盗を働く

    家政婦の話はわたしも聞いたことがあり、認知症であった裕福な

    老人が知らないうちに貴金属類を持ち出され、換金されてしまった

    とのことでした。老人に身寄りがなかったため、結局大学の後輩たちが

    家政婦を追及しその罪が露呈しましたが、彼女に返済能力はなく、

    また老人の所持品リストがなかったために、何を持ち出されたのか

    全部はわからなかったとのことです。信頼できるかどうかは誰が

    決めているんだろう。
    それはさておき、カタリナお勧めの翻訳アプリ(5ドルの課金)を

    使ってルスとマルティンの会話を聞いたらあ〜らびっくり!

    「チリ人はバカばかり」

    「お前のママはお前を愛していない」

    「お腹の子供だけを愛している」

    などとディアナの悪口を息子に吹き込んでいるのです。カッチーン!!

     

    マドレ

    出典:IMDb

     

    トマスに言いつけてやる。でもトマスは、翻訳アプリには誤訳が

    多いからたった5ドルのものなど、信用するなというんです。確かに

    かつての面影がなく、すっかり年齢相応の子供になったマルティンの

    姿を見ればうれしいし、日々の生活もとても楽になっています。

    この辺りの揺れ動くディアナの心がとてもうまく表情に出ている

    のと、一切表情がないルスが対照的です。
    しかし7か月に入るというのに「つわり」がひどくて嘔吐を繰り返す

    ディアナは、体調が悪いし、耳の中がムズムズするし、そんな時に

    ルスがトマスの浮気をほのめかす話をするものだから、遂にプッツンと
    糸が切れてしまいます。

     

    マドレ

    出典:IMDb

     

    マルティンの描く絵がやけにオカルトめいているのも全部ルスの

    せいだ。彼女がマルティンを洗脳しているのだ。ルスが勝手に

    連れて来た彼女の息子ダビッドの言葉も彼女を追い詰めるのです。

    そしてすっきりさっぱりルスをクビにすると、あのマルティンが、

    結局最初の姿に戻ってしまいます。ディアナの見ているのは

    現実なのかそれとも心身の疲労から来る幻影なのかどちらだろうと

    考えているうちに、映画はすんごい方向に向かうのです。これは

    想像していませんでした。

    「ローズマリーの赤ちゃん」(1968)に似たような点もなきに

    しもあらずですが、そもそもの動機が最後まで不明で、そこの説明が

    あればすっきりしたのにと思います。

    「パラノーマル・アクティビティ」的なものととらえたらいいのかしら。

     

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