スポンサーサイト

0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    • 2023.01.12 Thursday
    • -
    • -
    • -
    • -
    • by スポンサードリンク

    馬を放つ

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    馬を放つ

    出典:IMDb

     

    「馬を放つ」

    原題:Centaur

    監督:アクタン・アリム・クバート

    2017年 日本=ドイツ=キルギス=フランス

    =オランダ映画 89分

    キャスト:ヌラリー・トゥルサンコジョフ

         ザレマ・アサナリヴァ

         アクタン・アリム・クバート

     

    キルギスのある村に住む通称ケンタウロスは、耳と

    言葉が不自由な妻と一人息子との3人暮らしで大工を

    して生計を立てている。彼は深夜厩舎に忍び込む馬を

    野に放って、それを乗り回すということを行っていたが、

    ある晩放した馬が村の有力者カラバイのものだったこと

    から大騒ぎになるのだった。


    <お勧め星>☆☆☆半 キルギスの大草原をさっそうと

    駆け抜けていくケンタウロスの姿は自然と一体化して

    いて神々しいほどです。


    キルギス遊牧民の血


    映画内で吊り橋を渡るシーンが数回出てきます。1度目は

    女性に引率された子供の集団が半分以上橋を渡った時、

    前から来た主人公ケンタウロスを見ると、わざわざ

    引き返して道を譲ります。女性が髪を覆っていることから

    イスラム教徒であるとわかるのです。次はケンタウロスと

    妻マリパと息子ヌルペルティが仲良く橋を渡るシーンです。

    そして最後の方で中学生くらいの若い男女が橋の上で
    親し気の話し込んでおり、そこを通り抜けようとした

    ケンタウロスを見ても気にも留めず、そのまま話し続け、

    逆にケンタウロスの方が彼らをよけて通る抜けるのです。

    この3つのシーンだけでも多くの意味を持っているように

    感じます。
    キルギスという国は中央アジアに位置しており、東に中国、

    西にウズベキスタンから始まる地中海沿岸諸国をつなぐ古代の

    貿易ルート、シルクロード沿いにあるのです。民族としては

    キルギス人が7割占めているのに対し、キルギス語を母国語と

    する者が5割、3割弱はロシア語を話すという国で、

    ケンタウロスの妻がロシア語しか読めないというのも理解

    できるのです。彼女は耳が不自由で言葉を発することが

    できません。したがって手話かロシア語の筆談しかできない

    のです。

     

    馬を放つ
    出典:IMDb

     

    ストーリーは、深夜厩舎から馬を解き放ち、その馬に乗って

    両手を挙げながら草原を駆け抜ける男の姿から始まります。

    ケンタウロスは「馬は人間の翼である」と昔のキルギス人の

    考えを持ち続け、馬が食肉や競争用に使われることに強い

    抵抗感を抱いています。ケンタウロスが大工仕事で稼ぐ金が

    わずかなのかどうかわかりませんが、移動手段はもっぱら徒歩で、

    馬に乗って移動する者や日本製のSUV車に乗る者とは格差を

    感じます。かつては遊牧民として、家畜と共に家を移動した

    キルギス人も時代の変化で、貧富の格差が生まれてしまったと

    思えてなりません。

     

    馬を放つ
    出典:IMDb


    一方ケンタウロスの息子ヌルペルディは父親にとても懐いて

    いるし、成長も人並みなのですが、5歳になっても言葉を

    発しません。中盤、隣村で透視できるという人物のテントに

    向かうシーンがありますが、そういうもの頼っていることや、

    終盤、ケンタウロスの罪に対し、村長が村人を集めて多数決で

    贖罪の方法を決めるというのも、まだこの地に残る習慣と

    いうものを実感します。その時に女性もしっかり意見を

    述べるんですよね。

    「キルギス人の女性はかつて権力を持っていた」

    と語るけれど、近年では、この国で行われている「誘拐婚」と

    いうものが国際的に問題視されているので、そのあたりは
    どのくらい昔の時代のことかと考えてしまいました。
    またケンタウロスは、ちょっと女好きっぽく描かれ、マクシム

    売りの女性シャラパットととても親し気に接します。この

    シーンを見て「浮気」と告げ口するおせっかいおばさんが存在

    するのはどこの国でも同じだよなと少しだけ親近感?を覚えます。

    ケンタウロスはなぜシャラパットのマクシムばかり飲んでいたん

    だろう。彼女は未亡人で、夫は25年ほど前にアフガニスタンで

    戦死していているという話を聞くと、かつてこの国はソビエト連邦

    に属していたことを思い出しました。
    ケンタウロスはイスラム教に入信し、メッカ巡礼をした後、

    カラバイの厩舎で働くという罰を与えられます。これを受け入れて

    いれば妻子と再び暮らすこともできたはずなのです。しかし彼は
    礼拝中に、礼拝所のモスクの2階にある映写室に入り、映写技師

    だったことを思い出すかのように馬に乗って男性が草原を駆けて

    いくフィルムを見て満足気に笑います。本当にかつてのキルギス人

    の姿にこそ自分の中の魂が宿っていると信じているとしか思えません。

    その2階を木で打ち付けて入れなくすると、モスクのドアがぱたん

    と開き砂ぼこりが立ち込めるのです。過去との決別を表すの

    でしょうか。
    富や便利さと引き換えに失っていくものがそれだけ多いのか、人は

    それを受け入れつつも時々振り返ってみる必要があると思います。

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    ガンジスに還る

    3

    JUGEMテーマ:洋画

     

    ガンジスに還る

    出典:IMDb

     

    「ガンジスに還る」

    原題:Multi Bhawan/Hotel Salvation

    監督:シュバシシュ・プティヤニ

    2016年 インド映画 99分

    キャスト:アデイル・フセイン

         ギータンジャリ・クルカルニー

         パロミ・ゴーシュ

     

    高齢のダヤは自らの死期を夢で悟り、息子ラジーヴを

    伴い、バラナシへ向かう。「解脱の家」に滞在することに

    した二人のうち、ダヤは他の仲間とゆったりと過ごすが、

    仕事に追われるラジーヴは焦りが募るばかりで...。


    <お勧め星>☆☆☆☆ 題名通りゆったりとした気分で

    見られる映画です。


    いつでも心に従え


    主役のダヤの息子ラジーヴ役は

    「マダム・イン・ニューヨーク」(2012)でヒロインの

    夫役を演じたアデル・フセイン。

    「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」(2014)では

    主役の上司役、
    「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(2012)

    ではパイの父親役を演じていました。といってもほとんど

    覚えておらず、この映画を見て「どこかで見たインド人俳優だな」

    程度の印象です。
    今は亡き母親が名前を呼ぶ幼い頃の自分の姿の夢を見て、死期を

    悟ったダヤは、周囲の制止も聞かずバラナシを目指します。

     

    ガンジスに還る

    出典:IMDb

     

    バラナシはヒンドゥー教及び仏教の聖地で、ヒンドゥー教に

    おいては、輪廻転生のたびに受ける苦しみを解き放つ場所、つまり

    「解脱の地」と呼ばれています。

     

    ガンジスに還る

    出典:IMDb


    色鮮やかなボートや建物が並ぶ川岸はあふれるばかりの人々で

    ごった返し、そこで沐浴する者、瞑想する者、祈りを

    ささげる祭りを楽しむ者、といった生を感じさせる姿の中で、

    火葬場で焼かれる解脱を遂げた人の煙が立ち込めているのです。

    まさに生と死の境界点であるかのようです。

     

    ガンジスに還る
    出典:IMDb

     

    最大15日しか滞在できない「解脱の家」でなんと18年滞在

    する女性と出会ったり、そこでも仕事の電話に追われるラジーヴ

    の姿や、夜になると「お化け」を恐れる彼の姿がてても滑稽に

    描かれています。
    そしてある晩発熱し、「いよいよか」とダヤとラジーヴは考えると、

    今まで互いに話せなかったことがスルスル話せるんですね。

    教師だったダヤのせいで自分の子供時代は不遇だった、また

    ダヤはダヤでラジーヴの好きだった作文(詩)を自由に書かせて

    あげられなかった...。お迎えが近いと心を解き放って素直に

    なれるのでしょうね。
    しかし翌朝ダヤはちゃんと息をしているし、「空飛ぶ円盤」と

    いうテレビ映画を見て笑っています。この時のラジーヴの気持ちは

    「覚悟」が木っ端みじんになった反動とついでに18年滞在の

    ヴィムラと仲良くしている父親に嫉妬してイライラMaxだったと

    思います。いつかは起こる「死」というものを実感したものの、

    それが「いつ来るか」を待つ時間が長ければ長いほど、寄り添う

    気持ちが希釈されていくかもしれませんね。
    かつて勤務していた老人施設では、入所者はそこか提携した病院で

    最期を迎えるのが常でしたが、施設で最期を迎えようとしている時、

    連絡した家族が誰も来ないことがあって、その理由を尋ねたら
    「ああ、あの人何回も家族を呼ばれてるからねえ」と先輩に

    言われたことがありました。結局そのまま亡くなったので看取った

    のは看護師と介護士のみという状況。最期は家で過ごしたいと

    思っていたのではないかと今でも思い出すことがあります。重い

    認知症で家で過ごすことは難しかったし、もしも家族であった

    ならば、やはり同じような行動を取ったかもしれないとも考えて

    しまいます。

     

    ガンジスに還る
    出典:IMDb

     

    ただこの映画内ではダヤにとって「死」というものが少しずつ

    身近に感じられるようになり、「死」を迎えることが少しも

    怖くないし、かえって穏やかな気持ちになっていくのがわかる

    のです。

    さらにラジーヴの娘スニタをダヤはとても可愛がっており、

    スクーターに乗ることを教えたり、実は決まっている結婚に乗り気

    でないことも知っています。その事実をダヤの口からラジーヴに

    伝えるのですよ。

    結婚の中止など「恥」だと怒るラジーヴとテレビ電話で話す妻ラタと

    スニタの電波の状況が悪くて、うまく伝わらないところもまたおかしい。
    「そろそろ死にたくなった」

    という父に

    「生まれ変わったら何になりたい?」

    と息子が尋ねると父は人間ではなく「ライオン」「カンガルー」と

    ふざけながら答えます。しかし最後の最後に

    「象のように逝きたい」

    とラジーヴを家に帰して一人きりになるのです。見ている側も心の

    区切りがつくあたりです。ガンジスに還るーその邦題がピッタリの

    映画でした。

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

     


    ローサは密告された

    5

    JUGEMテーマ:洋画

     

    ローサは密告された

    出典:IMDb

     

    「ローサは密告された」

    原題:Ma'Rosa

    監督:プリランテ・メンドーサ

    2016年 フィリピン映画 110分

    キャスト:ジャクリン・ホセ

         フリオ・ディアス

     

    フィリピン、マニラのスラム街で小売店を営むローサは、

    生活のため陰で「アイス」(覚せい剤)の販売もして

    いた。ある晩、密告によりローサと夫は警察に拘束され、

    釈放のために高額の金を要求されるのだった。


    <お勧め星>☆☆☆半 スラムに生きる人々の強さと

    悲しさを同時に描いています。


    警察署の入り口が2つ


    始まりから驚かされるんです。スーパーのレジで釣銭が

    ないと言われ「この飴でお願い」。日本ならあり得ませんが、

    それがマニラのスラム街の日常風景なのでしょう。ローサは

    反撃したもののすぐに引き下がり、飴をふんだくって立ち

    去ります。
    主人公のローサはタクシーすら入り込めない狭い路地の一角で

    小さな店を持ち、夫ネストールと子供4人で暮らしているの

    です。家といっても本当に狭いし、そこらあたりに洗濯物が

    干してあり、2階ではネストールが覚せい剤を吸引中。彼らの

    収入が一日10ドル程度であり、それがフィリピンの80%の

    人々の生活だと言います。

    かつてマルコス大統領の妻イメルダ夫人の靴コレクションが

    テレビで何度も流れたけれど、そんな靴とは全く縁がない人々は

    ビーチサンダルで、ところどころに水たまりのある舗装されて

    いるかどうかもわからない道を歩くのです。終盤、娘のラケルが
    バケツの水を流されたばかりの道で滑って転びますが、彼女は

    それに全く動じません。そんなことは本当に些細なことに

    すぎないのです。
    ローサは生活のために「アイス」(覚せい剤)を販売していて、

    末端中の末端の売人というわけです。その代金すら支払えない

    隣人が、カードゲームで勝つから支払いの延期を申し出ても

    「全く、もう」と言う程度で特に督促するわけでもない。それも

    日常の1つなのでしょう。ここで暮らす人々は決して善行を

    しているとは言えないけれど、善人であると思うのです。

    それぞれの家族を愛し、支え合っているのです。

     

    ローサは密告された
    出典:IMDb

     

    しかしある晩、ローサとネストールが警察に逮捕されます。これが

    金曜日の晩のガサ入れというのがミソで、裁判所が閉まっている

    週末に逮捕すれば48時間は、金と引き換えに釈放できるという

    わけです。つまり警察の小遣い稼ぎ。
    警察署に何やら少年が小間使いとしていると思ったら、それは

    実際の警察署にも存在し、住所不定で小さな犯罪に手を染めた

    少年たちをそうやって警察官たちが利用しているとのこと。

    警察官も腐りきっていて押収物はまず自分たちの物にしていきます。

    これは韓国映画での韓国警察の腐敗ぶり以上じゃないだろうか。

    いや先進国であってもうわべはなかったことになっている膿は

    絶対に存在するし、逆にその方が大きな腐敗を含んでいると思って

    しまうのは考えすぎでしょうか。
    ローサはとにかく釈放してもらえるように、売人の情報を教えるの

    ですが、その情報で確保した男から取り切れなかった金をさらに

    要求されるのです。何度も映る警察署の入り口が2つ存在し、表と
    裏で全く行動が異なるのがよくわかります。

    正式な警察行為は表の入り口、アンダーグラウンドの行為は裏の

    入り口から始まるというわけです。そしてそれは上層部にも黙認

    されているのです。

     

    ローサは密告された
    出典:IMDb

     

    金の工面を任された子供たちは1人は家電を売ろうとし、1人は

    体を売り、1人は借金をするために知り合い全てを回るのです。

    涙一つこぼさずその行動をする子供たちも含め、ローサも生きる

    ことに必死で、ただただそのための逞しい姿を見せつけている

    ように思います。
    手持ちカメラのブレ方で登場人物の胸の内を表し、ドラッグで

    ハイになっている時は映像が時々ボヤけるなど、効果的なもの

    ばかりが使われています。

     

    ローサは密告された
    出典:IMDb

     

    これがフィリピンの多くの人々の姿だし、ラストにローサの頬を

    流れたのは涙ではなく汗だと思いたい。泣くわけないじゃない。

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

     


    とうもろこしの島

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    とうもろこしの島

    出典:IMDb

     

    「とうもろこしの島」

    原題:Corn Island/Simindis Kundzuli

    監督:ギオルギ・オヴァシヴィリ

    2016年 グリジア=チェコ=フランス=ドイツ

    =カザフスタン=ハンガリー映画 101分

    キャスト:イリアス・サルマン

         マリアム・プトゥリシュピリ

         イラクリ・サムシア

     

    エングリ川の中州に一人の老人が小屋を建て孫娘と

    一緒に例年のようにトウモロコシ栽培を始める。しかし

    岸ではジョージア軍とアブハジア軍が戦闘を続けており、

    ある晩、傷ついたジョージア軍兵士が流れつくのだった。


    <お勧め星>☆☆☆☆ 戦闘と一切無関係の老人と少女の

    姿が淡々と描かれていますが、なぜか心に残る映画です。


    誰の敵、誰の土地


    今作も「みかんの丘」同様にジョージア(旧グルジア)と

    アブハジアの紛争中の時期で、二つの勢力に分かれる境界線

    となっているエングリ川の中州でトウモロコシ栽培をする

    老人とその孫娘の姿を描いています。
    冒頭の説明の字幕は何度も見直しました。

    「この川は春の雪解けとともにコーカサスから肥沃な土を運び、

    中州を作る。地元の農民は、その中洲で春から秋にかけて

    とうもろこしを育てている。彼らは来るべき過酷な冬に向けて

    食糧を確保するのだ」

    つまり定住するのではなく、雪解けの時期に中州ができたとき

    だけ、そこで生活をし農業を営むのです。それはアブハジアに

    住む人々が全員同じというわけではなく、多くの民族から形成

    されている国であり、それぞれが固有の風習、生活習慣を持ち

    続けているということなのです。
    川の水の流れ、鳥がさえずる声、風が吹いていく音、草むらから

    聞こえる虫の音に耳を澄ませるほど静かな場所で、一人の老人が

    舟を漕いで中州に渡り、少しずつ何かを建て始めます。

     

    とうもろこしの島

    出典:IMDb

     

    そのうちに孫娘らしい少女も加わり、彼女が老いた祖父を

    さりげなく手伝うという優しい姿を目にすると、この映画が

    急に暖かく感じられ始めるのです。
    しかし突然響き渡るモーターボートの音の先に目を向けると、

    そこには軍服姿の兵士(ジョージア兵)が銃を構えて乗り込んで

    おり、この中州を挟んで両岸でジョージア軍とアブハジア軍が

    戦闘を行っているのだと知ります。
    「中州は耕すものの土地」
    祖父の言葉通り、彼らは老人たちを攻撃することはありません。

    例年のようにトウモロコシを撒き、育て、小屋でその収穫を

    待つ、という行動をするだけなのです。

     

    とうもろこしの島

    出典:IMDb

     

    とはいえ戦闘は、傷ついた一人の兵士を助けるという

    「いつもとは違う」

    出来事を引き起こします。
    一方、孫娘は、恥じらいを覚え、祖父の見えない場所で着替え

    たり、真夜中に水浴びしたり、膨らみかけた胸をのぞいて

    みたりするのです。恥じらいだけではなく、今まで祖父しか

    できなかった川魚をさばく行為もできるようになります。それが

    「成長」だとしたら、祖父は「老い」を実感しつつ同時に「喜び」

    も感じていたはずです。ところが孫娘は傷ついた兵士が回復して

    くると、彼に好意を持ってしまうのです。高いトウモロコシの

    木の間をじゃれ合うかのような姿は、何と言っていいのか、

    少女にとっての初めての気持ちを抱いた時と言ったらいいので

    しょうか。

    言葉すら通じない相手なのに。
    トウモロコシが収穫の時期を迎えようとしている時、ジョージア軍

    兵士が彼を捜すためにこの島に上陸した時には、すでに彼はおらず、

    トウモロコシを刈る孫娘はその葉で手を切り、涙をこぼします。
    この涙の理由は、手が切れて出血したことへの痛みだけじゃない

    んだよね。

     

    とうもろこしの島
    出典:IMDb

     

    幻想的な川上の景色と、中州に忽然と姿を現したかのような小屋と

    トウモロコシ畑は、まるでおとぎ話の中に出てくる映像のように

    思えます。そしてこの中州はこれからも多くの人々によって耕されて
    いくのだと感じています。

     

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

     


    みかんの丘

    3

    JUGEMテーマ:洋画

     

    みかんの丘

    出典:IMDb

     

    「みかんの丘」

    原題:Mandariinid/Tangerines

    監督:サザ・ウルシャゼ

    2013年 ロシア=グルジア=エストニア映画 

    87分

    キャスト:レンピット・ウルフサック

         エルモ・ヌガネン

         ギオルギ・ナカシゼ

         ミヘイル・メスヒ

     

    内戦下のジョージアに暮らすエストニア人のイヴォは

    ミカン箱を作り、隣家のマルゴスはミカンを栽培して

    いる。互いの家族は本国に帰り、どちらも一人暮らし

    だったが、ある時チェチェン人とジョージア人の戦闘で

    けがを負った二人の兵士の世話をすることになる。


    <お勧め星>☆☆☆☆ 絵画のように美しい景色と素朴な

    人たちの姿に最も似つかわしくない戦争というものが

    同時に描かれています。


    殺す権利を誰が与えた


    1991年にソビエト連邦が崩壊し、ジョージア

    (当時グルジア)は独立しますが、西部に住むアブハズ人が

    1992年に独立宣言をしたため紛争が始まったのです。

    この映画は1994年に停戦合意が成立するまでの混乱した

    時期を描いており、登場する人物が少ないながらその背景が

    複雑です。

     

    みかんの丘

    出典:IMDb


    アブハジアに暮らすエストニアからの移民、イヴォとマルゴス。

    アブハジアを支持するチェチェン人傭兵アハメド、アブハジアを

    ジョージアとして教え込まれているジョージア人兵士ニカ、

    その他に「兄弟」と呼びつつイヴォたちの様子をのぞきに来る

    アブハジア人兵士、そしてチェチェンの背後にいるロシア兵と

    いう構図です。
    この紛争の大義は「領土を守る」ということであるものの、

    そもそも戦争とは無縁だった元俳優のジョージア人や生活費の

    ために傭兵になったチェチェン人の存在を考えると、自分と密接に

    関係のあることで戦闘に加わったとはとても思えないのです。

     

    みかんの丘
    出典:IMDb

     

    ミカンの木箱を作るため、木にカンナをかけているイヴォの

    もとにやって来た礼儀知らずの兵士2人は、食糧をもらうと、

    ちゃんとお礼を言って去っていきます。何もそこにある食べ物を

    全部略奪するというわけではありません。イヴォの親切な行為に

    感謝して去るほどなのです。

    ところが突然外から銃撃と爆発音が聞こえ、先ほどの兵士たちと

    ジョージア人兵士が衝突をします。イヴォの家の隣に住み
    同じように家族をエストニアに帰したマルゴスは、たわわに

    実ったミカンを摘む作業をする人手を求めているものの援護は

    ありません。互いに静かに自分たちに家で自分たちの仕事をして

    いるだけなのに周りだけが騒々しいのです。
    そして例の戦闘でたまたまチェチェン人アハメドとジョージア人

    ニカが生き残ります。意識のあるアハメドは鼻息が荒いんですよ。

    「仲間の仇を必ず撃つ」
    しかしイヴォはただ静かに、そして強く

    「この家で殺しは許さない」

    と言い切ります。そうは言っても敵味方が1軒の家にいるのですし、

    さらにイヴォにとってもジョージア人を匿っていることは、

    自らの身を危険にさらすことを意味します。それでも二人を

    同じように介抱し、食事を与え、それぞれが回復していくと、

    イヴォに対しては「感謝」の気持ちしかなくなるんですね。この

    2人の胸の内が変わっていくのを短い時間に丁寧に描いています。

    最初は互いの部屋に鍵をかけ、危険を回避していたイヴォが

    「信頼」の意味を込めてその鍵を外します。それでも目を合わせる

    ことはなく、目を背けたまま二人は罵り合うんです。

    面白いことにイヴォはしょっちゅうお茶を勧めるんです。
    まるでイギリス人の「あなた、お茶はいかが?」みたい。
    そのお茶を飲むことで、数ミリずつ二人の距離が近づいていく

    ような気がします。
    「お前のような悪魔からアブハジアを守る」
    「ちゃんと歴史を習わなかったのか?学校へ行かなかったのか?」
    噛み合うはずもない口論を止めるのは、そこに住んでいるものの、

    エストニアという別の国から来たイヴォです。そしていつしか

    互いの仲間の死を悼むという極めて人間的な心を抱き始めます。

     

    みかんの丘

    出典:IMDb

     

    人間の心はとても複雑で個人個人がそれぞれ異なった感情を持って

    いるはずなのに、「敵」「味方」と2つに分けることによって

    いとも簡単に操ることができる生き物に変わってしまうのです。

    いやそうなってはいけない。
    橙色に光り輝くミカンやその青々と茂った葉をたくわえた木々

    などを印象派の絵画のように映しつつ、突然始まる銃撃や空爆は、

    あまりに不釣り合いで「戦争が終われば...」のささやかな望みすらも
    一瞬で打ち砕くむごいものだと実感します。
    イヴォの美しい孫娘マリについて多く語らなかったのは、そこに

    何かがあったのでは?と考えてしまうラストでもありました。

     

     

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    ハロウィン 2019年版

    6

    JUGEMテーマ:Horror

     

    ハロウィン

    出典:IMDb

     

    「ハロウィン」

    原題:Halloween

    監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン

    2019年 アメリカ映画 105分 R15+

    キャスト:ジェイミー・リー・カーチス

         ジュディ・グリア

         アンディ・マティチャック

         ニック・キャッスル

     

    40年前、実の姉たちを惨殺した殺人鬼

    マイケル・マイヤーズが刑務所移送中に脱走する。

    彼は次々に殺人を犯していくが、一方40年前の

    事件の当事者であったローリーは、マイケルとの

    対決を考えているのだった。


    <お勧め星>☆☆☆半 1978年版を思い出させる

    シーンが見られ、音楽も同じような雰囲気でした。

    恐怖健在です。


    「殺しの快楽」


    1978年ジョン・カーペンター監督が製作した

    「ハロウィン」は、オルゴールのような音楽と青白い

    映像が印象的で、その暗さの先に何があるのか、そして

    光り輝く包丁が幾人もの人々の命を奪っていきました。

    マイケル・マイヤーズがとても可愛い顔立ちの少年だった

    のでそのギャップに口あんぐりです。ハドンフィールドと

    いう地名は、クリスタルレイク同様に決して忘れないぞ、

    と思っていたのに、今回の映画を見るまですっかり忘れて

    いました。また78年版は、BFがシーツをかぶって

    ふざけていると思って胸をあらわにして抱きつく女子が、

    無残な切られ方をするというエロ、グロをうまく組み合わせた

    シーンもあり、ラストはこれまた続編ありきのものでした。

    その後第8作まで作られています。

    (全部見たかどうか覚えていません)
    「13日の金曜日」のジェイソン、

    「エルム街の悪夢」のフレディ、

    そして「ハロウィン」のマイケルはホラー映画の超有名人で

    あると言っても過言ではありません。ただジェイソンのように

    宇宙へ行ってしまったり、「フレディVSジェイソン」のように

    対決したりと、本来の筋から大きく外れた作品は作られていない

    と思います。もうホッケーマスク被って宇宙へ行くって笑うしか

    ないじゃない。
    そして2007年、ロブ・ゾンビ監督によりリメイクされた

    「ハロウィン」はマイケルの悲惨な少年時代を描き、残酷の

    極みといったような殺害方法で人々に手をかけていきます。

    その上を行くのが同監督による「ハロウィン2」(2009)で、

    血の量が半端ないって。もう血が噴き出せばいいってもんじゃない

    と感じたほどです。
    さて今回はオリジナルの直接の続編であり、ジョン・カーペンター

    の意志が強く反映され、マイケル・マイヤーズの過去はほとんど

    明かされずにストーリーは進みます。そしてネット番組の記者2人が
    彼を取材に行くことから始まるのです。医療刑務所で彼と対峙する

    シーンは、他の収容者の動揺が次々に映りそれが不協和音のように

    なって、これから始まる恐怖の連続を十分予感させるものになって

    いました。

    「事件の再検証」とか「ブギーマンの存在」とか理由を言っていた

    けれど、要するにネットでの再生回数を稼ぎたかったんだろうな。
    彼らは40年前にマイケルから辛うじて生き延びた

    ローリー・ストロードの家にも向かうのです。この家がすごく

    厳重な警戒態勢なのに、終盤割と簡単に出入りできちゃうのが

    ちょっと不思議だけれどそこはどうでもいいこと。あの絶叫

    クイーンっぽかったローリーも40年経ってすっかりおばあちゃま

    になりました。そしてか弱さとは真逆の姿に変貌しています。

     

    ハロウィン
    出典:IMDb

     

    ローリーはマイケルへの警戒心が強すぎて、娘とも疎遠となり、

    辛うじて孫娘アリソンとだけ交流があるらしいのです。

     

    ハロウィン
    出典:IMDb

     

    この映画はマイケルの過去や家族関係よりもローリーの方に

    スポットが当てられていて、今までになかった内容だと感じます。

    そんな時マイケルがさらに強固な刑務所に移送されるという。

    それはちょっと危険です。どうしてあんな厳重な医療刑務所から

    移送しようと考えたんだろう。はい、もちろんマイケルは野に

    放たれてしまいます。普通の囚人用の護送車では無理に決まって

    いるわ!

     

    ハロウィン
    出典:IMDb

     

    マイケルは高知能かつバカ力の持ち主なので、次々に人々を

    襲います。きらりと光る包丁だけが凶器じゃありません。金槌、

    洗濯ロープ、暖炉の火かき棒、もちろん素手もフル活用です。

    彼の狙いはローリーなので、ローリーはありとあらゆる銃を

    そろえているわけですよ。(あんまり活用しなかったな)

    またマイケルの担当医だったルーミス医師の後釜サルティン医師の

    執着心も絡んできます。

     

    ハロウィン
    出典:IMDb

     

    そういえば映画内で、ホーキンス保安官補が

    「わしがルーミス医師を止めた張本人なんだ」と言っていたのは、

    オリジナルのラストと異なる話で、そこは続編と言えど少し

    変えてあったのだと気づきます。
    まだまだ続ける気満々の包丁きらりでした。

     

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    クワイエット・ボーイ

    4

    JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

     

    クワイエット・ボーイ

    出典:IMDb

     

    「クワイエット・ボーイ」

    原題:In Fondo al Bosco/Deep in the Wood

    監督:ステファノ・ロドヴィッチ

    2015年 イタリア映画 92分

    キャスト:アレッサンドロ・コラーピ

         テオ・アキーレ・カプリオ

         カミッラ・フィリッピ

     

    12月5日、イタリア北部の町のクランプス祭の晩、

    5歳のトンミが姿を消す。そして5年後身元不明の

    少年が見つかり、DNA鑑定でトンミと判明するが、

    彼の性格は以前と全く異なっていた。


    <お勧め星>☆☆☆ 絶対にアレ系と思うはず。


    クランプスは怖すぎる


    クランプスは、ヨーロッパ中部の伝説の生物であり主に

    ドイツ東南部のバイエルン州とオーストリア中部・東部と

    ハンガリーとルーマニア北部のトランシルヴァニア地方と

    スロヴェニアにおいて、クリスマス・シーズンの間に

    聖ニコラウスに同行する行事でもある。(Wikipediaより)

    つまり宗教的な行事であるわけです。日本で言うと、秋田の

    なまはげのように恐ろしい扮装をした大人たちが子供たちを

    脅かすというお祭りのようなものかなあ。なまはげは、

    幼児に強い恐怖体験を記憶させ、その後望ましくない行為を

    した場合、その恐怖体験が再現され、抑止力となるとか

    なんとか。しかしあんなものが自分の家にどかどか入ってきて

    「悪い子はいねえが〜」などと顔をくっつけた来たら、当分の

    間夜泣きをする気がしてしまう。

     

    クワイエット・ボーイ
    出典:IMDb

     

    しかしクランプスの扮装はその100倍くらい怖いのです。

    「クランプス 魔物の儀式」(2015)はアメリカで製作

    された映画なのに、子供に対して容赦なく襲い掛かります。

    しかし登場するクランプス一味がありとあらゆる姿をして

    いるので、それが動いて襲ってくる姿を見ただけで楽しい

    ような怖いような感じでした。
    「クワイエット・ボーイ」はクランプス祭の晩、怖がって

    家に帰りたがる息子トンミを父親が振り払うシーンから

    始まります。トンミがとても可愛い子供なのに、父マヌエルは

    大酒飲みだし、母リンダは絶賛不倫中。相手はなんと町の

    警察署長ときた。さらにこのリンダを溺愛する父、つまり

    トンミから見たら祖父がいるのです。

     

    クワイエット・ボーイ

    出典:IMDb

     

    この中でトンミが姿を消したので、マヌエルが容疑者として

    拘束されてしまいます。結局トンミの遺体は見つからず彼は

    釈放されますが、その後リンダは自殺未遂するし、リンダの

    父からは「お前が目を離したせいだ」とずっとねちねちと

    イビられ続けているわけです。

     

    クワイエット・ボーイ
    出典:IMDb

     

    そして5年後、1人の身元不明の少年が見つかり、DNA鑑定

    からトンミと判明します。この子がまた美少年なんですよ。

    マヌエルは手放しで喜ぶのに、なぜかリンダと祖父、それに

    町に1軒しかないバーの店員たちの表情がおかしいですね。

    またトンミ自身もかなり無口で、突然攻撃的な行動を取ったり

    するのです。
    バーの店員のうち、知的障がいのあるディミトリは

    「トンミじゃない、悪魔だ」とまで言います。

    あれ?もしかして...。無理やり祖父が教会に連れ込むと

    トンミは吐いてしまいます。これ決定的じゃないですか〜。
    トンミにだけ吠える犬テックスを刺殺したり、リンダのシ

    リアルにガラス片を混ぜたり(どれも証拠なし)、これはもう

    絶対にアレ系ですね!ね!

     

    クワイエット・ボーイ
    出典:IMDb

     

    ところが5年前のその日のことが少しずつ説明されていくと、

    話は全く異なる方向に向かうのです。
    結局マヌエルは「よそ者」だったということでしょうか。

    予想外の展開でちょっと驚きました。

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    ちいさな独裁者

    3

    JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

     

    ちいさな独裁者

    出典:IMDb

     

    「ちいさな独裁者」

    原題:Der Hauptmann

    監督:ロベルト・シュヴェンケ

    2017年 ドイツ映画 119分

    キャスト:マックス・フーバッヒャー

         フレデリック・ラウ

         ミラン・ペシェル

     

    1945年4月敗戦寸前のドイツで、銃弾をよけながら

    ヘロルトは部隊を脱走する。そして偶然見つけた軍車両の

    中の将校の軍服を身につけ、大尉として振舞いながら

    出会った兵士たちを従えていく。しかしやがて彼の行動は

    エスカレートしていき...。


    <お勧め星>☆☆☆半 ドイツにおけるドイツ人による

    ドイツ人への残虐行為を初めて知ります。1着の軍服の

    威力には恐怖すらも覚えます。


    一兵卒による行為


    第二次世界大戦を語る時必ず触れられるのは、ヒトラー

    指揮下のドイツ軍の大量虐殺行為です。これについては、

    ドイツのみならず、占領下となっていた周辺国でのドイツ軍の

    暴挙は数多く映画化されています。最近見た「家へ帰ろう」

    (2017)はポーランドからアルゼンチンへ亡命した老人の

    話で、非道な行為に出たのはポーランド人達でもあったことに

    驚かされました。(それはポーランドがドイツに併合されていた

    からによる)

    一方同じように占領下にあったフランスではレジスタンス活動が

    行われ、「白バラの祈り ゾフィー・ショル 最期の日々」

    (2005)に描かれていたように、非暴力抵抗活動さえゲシュタポ

    の取り締まり対象となり、一方的な裁判によって、あの時代に

    ギロチン処刑となったことは、戦時の異常さを物語っています。
    そして今回の「ちいさな独裁者」は、敗戦寸前のドイツが舞台です。

    ある部隊から命からがら脱走していく兵士は、体が小さくやせこけ、

    目だけがギョロギョロしています。当時のドイツ軍は、国民突撃隊
    と称して14歳から50歳までの男子を動員していたものの、

    彼らの士気は高くなく、武器不足、食糧不足による脱走兵、

    略奪兵が数多く存在していました。それに対しドイツ軍は「銃殺」

    という方法で対処していたのです。

    この20歳のヘロルトが偶然見つけたドイツ軍の車の後部座席には、

    なんと将校の制服一式が入っています。ボロボロの衣服を脱ぎ棄て

    それを身にまとうと、すっかりヘロルト大尉ができがってしまうの

    です。

     

    ちいさな独裁者

    出典:IMDb

     

    今までの上等兵から一気に大尉に変わった途端、出会う兵士の

    態度が全く違うんですね。多分彼らも「隊とはぐれた」と言う

    もののヘロルト同様に「脱走」してきたのかもしれません。
    このヘロルトはなぜか嘘がとてもうまいのです。序盤はその姿が

    やや滑稽に見えるのですが、ヘロルト親衛隊と称してメンバーが

    増えるにつれ、彼の行為は異常さを増していきます。

     

    ちいさな独裁者
    出典:IMDb

     

    たった一着の軍服が人間をここまで変えるのかと驚きつつ、

    ヘロルト自身の幼稚さが、この後の暴走を止めることが

    できなかったと思えてなりません。

    脱走兵等囚人を収容した施設で、ヘロルトに取り入る所長の

    浅ましさと、それに抵抗する司法当局官もやはり下劣極まりない。
    ヘロルトの口の上手さと権力によって囚人は即決銃殺となって

    いきます。

     

    ちいさな独裁者

    出典:IMDb

     

    この数はなんと90名超だったそうです。この辺りの映像になると、

    もはや気分が悪く、同じドイツ人でありながら、何の大義もなく
    このような行為が平気でできたという事実は驚くしかありません。

    さらに終盤、彼の嘘がバレ、ドイツ軍に捕まった時の裁判では、

    断罪する裁判官に「軍人らしい態度」「戦争時ではよくあること」と
    弁護する軍人らしき人物がいたことには開いた口が塞がりません。

    「戦争」はこういう行為を許すものなんだと実感します。
    結局彼は再び前線に送られ、イギリス軍の捕虜になった後に、この

    行為が明るみとなり、1946年に処刑されています。しかし

    このような人物が他にも存在したのではないか?という思いを抱いて
    しまうような内容でした。
    エンドロール映像は、現代になってもいつ何時へロルトのような

    人物が現れるかもしれないという恐怖を感じさせるものです。

     

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ


    ザ・シークレットマン

    4

    JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

     

    ザ・シークレットマン

    出典:IMDb

     

    「ザ・シークレットマン」

    原題:Mark Felt:The Man Who Brought Down

             The White House

    監督:ピーター・ランデズマン

    2017年 アメリカ映画 103分

    キャスト:リーアム・ニーソン

         ダイアン・レイン

         アンジェロ・ラノ

     

    1972年、ニクソン大統領が再選を目指していた時期に、

    民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした男たちが逮捕される。

    彼らの経歴からFBI副長官フェルトは政権幹部の関与を疑うが、

    捜査は早々に打ち切りが決まってしまうのだった。


    <お勧め星>☆☆☆半 骨太で見ごたえのある内容でしたが、

    終盤少し端折った感じがしています。


    自己犠牲の精神


    リーアム・ニーソンを見たら「96時間」(2008)の娘を

    溺愛するものすごく強いパパとしか思えないのですが、今映画

    ではほとんど無表情で笑顔すら浮かべない仕事人間を演じています。
    時代はベトナム戦争反対デモが全米で起き、いわゆるヒッピーたちが

    自然回帰を目指しコミューンをあちこちに形成していたのです。

    映画内ではそのコミューンにフェルトの娘ジョーンがいるシーンが
    あります。

     

    ザ・シークレットマン
    出典:IMDb

     

    そして共和党のニクソン大統領は再選を目指し、目の上のタンコブ

    的存在のFBI長官フーヴァーの退任を望んでいたのです。なんせFBIは

    政治家の隠しておきたい嗜好や不倫、家族環境まですべて知り尽くして

    おり、それをいつ活用されるかわからないので、絶対に政権の傘下に

    置きたいと思ったのです。

    しかしFBIは独立機関であり、約50年にわたって長官を務めた

    フーヴァーによってその力は絶大なものでもありました。
    フーヴァーについては、レオ様主演の「J・エドガー」(2011)

    でリアルに描かれていました。
    そのフーヴァーが急死すると、あっという間に「公的機密資料」を

    廃棄、焼却するFBI職員の姿が映ります。さらに次期長官と思われた

    フェルトは副長官のままで、司法省からグレイが長官代理として赴任
    するのです。

     

    ザ・シークレットマン

    出典:IMDb

     

    これには次期長官になると信じて、今まで私生活を犠牲にして

    きたフェルトの妻オードリーは落胆極まりないし、そもそも

    FBI職員は生え抜きが出世していくと信じていたので、職員内

    にも動揺が走ります。

     

    ザ・シークレットマン

    出典:IMDb

     

    この時のフェルトの表情が全然変わらないんですよ。

    リーアム・ニーソンの演技がすごい。
    そして起きたウォーターゲート事件を当然のことながら

    グレイ長官代理は早々に捜査終了する指示を出します。なぜに

    こんな大きな事件を小さな目的で行ったと済ませるのか、普通

    疑問に思うけれどまあ、そんなことは今となっては幾つもあって、

    「慣れ」はこわいと思うほどです。
    そして反旗を翻すのが、FBIに仕えて30年のフェルトです。

    民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした犯人のうち4人が元CIAで

    あり、現政権と近い人々であれば、本丸は誰か言わずもがな。

    しかしそれに触れることは自分の地位を捨てることに等しい

    どころか罪に問われるかもしれません。それでもフェルトは

    「アメリカの正義」であると言い切り。猪突猛進するのです。

     

    ザ・シークレットマン

    出典:IMDb

     

    これは明らかに周りを巻き込んでの強引すぎる手法ですが、

    そこまで彼を行動させた原動力は何でしょうか。そこは彼の

    自己犠牲の精神という精神論で終わらせたくないですね。
    ニクソン大統領が「第二次世界大戦におけるドイツは正しかった」

    と発言していると言うセリフを聞くと、フェルトの「正義」と

    いうものの存在があぶり出されてきます。しかしそれは彼個人の

    もので、彼の家族や同僚にとって同じものであったかどうかは

    何とも言えない感じです。
    この映画よりかなり前に観た「ペンタゴン・ペーパーズ」(2017)

    はウォーターゲート事件の前のワシントン・ポスト紙記者の姿で

    あり、それも含めて権力に屈せず、事実を真実として報道する
    ことの重要さを確認できるものです。

    真実を曲げるのはあまりにも簡単なことなのかもしれません。

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

     


    オマールの壁

    4

    JUGEMテーマ:洋画

     

    オマールの壁

    出典:IMDb

     

    「オマールの壁」

    原題:Omar

    監督:ハニ・アブ・アサド

    2013年 パレスチナ映画 98分

    キャスト:アダム・バクリ

         ワリード・ズエイター

         リーム・リューバニ

     

    パン職人のオマールは分離壁をよじ登り、幼なじみの

    タレク、アムシャドに会いに行く。彼はタレクの

    妹ナディアと恋仲で手紙の交換をするのが楽しみである。

    しかし3人でイスラエル検問所を狙撃したことで、

    オマール一人が秘密警察に捕まってしまうのだった。


    <お勧め星>☆☆☆☆ ずっと見たい映画だったんですが、

    見終わると心が暗くなるばかりでした。


    猿の捕まえ方


    オープニングは、壁をよじ上る一人の男性オマールの姿です。

    若くて力がある彼は、スルスルとロープを上り反対側に

    下り立とうとした瞬間、イスラエル警察の銃撃を受けます。

     

    オマールの壁

    出典:IMDb

     

    しかし、彼も慣れたもので抜け道を通り抜け目的の家にたどり

    着きます。終盤に彼がこの壁を一人でなかなか上れない姿が

    映るんですよね。その理由を考えると本当に辛い。

    そもそもこの壁は何だ。
    この壁は、イスラエルがヨルダン川西岸地区との境界線付近に

    建てた分離壁であり、これによって自爆テロが大幅に減ったと

    いいます。イスラエルの目的は「自国民の命」であり、パレスチナ人

    の人権、自由は考慮されていないのです。したがって同じ

    パレスチナ人で幼なじみでありながら、オマールはこの壁を危険を

    冒してよじ登らなければタレクやアムシャドに会うことができません。

    オマールが壁を上るのにはもっと大きな理由があって、それは

    タレクの妹ナディアに会うためなのです。コーヒーカップの下に

    こっそり忍ばせた手紙を交換するシーンは、まるで中学生の恋の

    ようです。

     

    オマールの壁
    出典:IMDb

     

    しかし彼らが何かを準備し、そしてある晩突然、イスラエルの

    検問所員を狙撃した理由は何だったのでしょうか。そこには宗教的な

    意図が一切感じられないのです。ただ、イスラエルの秘密警察の
    監視下で、不自由な暮らしを強いられ、暴力を振るわれる不条理への

    怒りしか伝わってきません。

     

    オマールの壁
    出典:IMDb

     

    ただその銃撃が原因で、オマールは秘密警察に拘束され、拷問

    された上、収監されてしまいます。
    「誰が撃ったのか」
    自白=有罪の証拠、と考えるオマールは黙秘を続けますが、

    捜査官ラミの狡猾な手法で、協力者になることで解放されるのです。

    協力者にならなければ裁判となり、懲役90年ってどういうことだよ。
    パレスチナ地区には司法組織が存在しないのだろうか。

    それよりも恐ろしいのは秘密警察の情報収集能力で、

    イスラエル諜報特務庁(通称モサド)は世界最強のスパイ組織で

    あることはあまりに有名です。したがってオマールの弱点を巧みに

    ついてくるのです。オマールの場合はナディアとの結婚が最優先

    課題で、そのためには刑務所から出ないといけません。一方一旦

    逮捕されたオマールが、無事に解放されると彼は、「協力者」に

    なったのではないか?と疑いの目を向けられるのです。
    「抵抗と解放には犠牲が伴う」
    と主張するタレクはいつのまにか過激派組織「イスラエル旅団」の

    一員になっているし、アムジャドはナディアに接近しているように

    思えます。オマールとナディアが相思相愛であっても家族の了解が
    なければ結婚できない宗教的な戒律があるわけです。友情、恋愛、

    そして秘密警察の脅迫の中で揺れ動くオマールは、序盤ののんびりと

    パンを作っていた時とは人相も変わっています。精悍となり、

    様々な傷が体や顔に刻まれているのです。

     

    オマールの壁
    出典:IMDb

     

    映画の始めの方で、タレク、アムシャド、オマールが集まって

    雑談していた時、アムシャドが「猿の捕まえ方」という例え話を

    します。それがなんとラストに思い出すシーンがあるとは考えも

    しませんでした。
    みんなが嘘を信じていた。同胞どころか親友、恋人すらも信じる

    ことができないパレスチナ人の苦悩が伝わります。
    気づけなかった。「早産じゃなかったんですよ」

     

    ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ 人気ブログランキングへ

     



    PR

    カレンダー

    S M T W T F S
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930     
    << September 2019 >>

    ブログランキング

    今日のわんこ

    powered by 撮影スタジオ.jp

    アマゾン

    遊びにきてくれてありがとう!

    カウンター

    死語レッスン

    最新記事

    categories

    過去の記事

    コメントありがとうございます!

    トラックバックありがとうございます!

    recommend

    お友達

    ミス・マープルについて

    書いた記事数:3431 最後に更新した日:2023/01/12

    あの映画を探そう!

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM