グリーンブック

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JUGEMテーマ:洋画

 

グリーンブック

出典:IMDb

 

「グリーンブック」

原題:Green Book

監督:ピーター・ファレリー

2018年 アメリカ映画 130分

キャスト:ヴィゴ・モーテセン

     マハーシャラ・アリ

     リンダ・カーデリー

     ディミテル・ロ・マリノフ

     マイク・ハットン

 

イタリア系アメリカ人で粗野なトニーは、アフリカ系

アメリカ人で教養溢れるピアニスト、ドンのツアー運転手

として雇われる。ツアー先は人種差別が根強く残る南部の

諸州であり、行く先々でドンは不快な出来事に遭遇するの

だった。


<お勧め星>☆☆☆☆ いろいろな考え方があるけれど、

私は見終わって気分が明るくなれる映画でした。


相手を知るチャンス


まず始めに驚いたのが、ヴィゴ・モーテンセンの体型です。

「イースタン・プロミス」(2007)でサウナ内の全裸、

本当にぜ・ん・ら乱闘を見せてくれた時のあの精悍な身体は

どこにいったのでしょう。切れ味抜群の剃刀のような視線や

割れた腹筋はどこへ行ったのでしょうか。食べ物に目がなく、

ホットドッグ大食い競争で勝ったり、ケンタッキー・フライド

チキンを次から次へと口に放り込む違う意味での豪快な男かつ

ポッコリお腹に変わっています。これはもちろん役作りの

一つであり、14kg増量し、撮影中もずっと食べ続けていた

らしいです。ああ、よかった。ただの中年太りじゃなかったんだ。
全裸で思い出すのは「アメリカン・サイコ」(2000)

でのクリスチャン・ベールの全裸チェーンソーです。全裸で

チェーンソーを持って女性を追いかけるウルトラ怖い男を

演じていました。写真を保存しちゃっているかも..。彼も

役作りのために自由自在に体型を変える俳優であり、そういえば

髪の毛や歯も抜いていた映画もありました。
さてヴィゴが演じるイタリア系アメリカ人のトニーは、

ニューヨークのナイトクラブで用心棒として働く無教養だけれど、

口と腕力にたけた男です。ズルをしても結果的に勝てばいい的な

考え方でまじめにコツコツというタイプには全く縁遠い模様。

さらに最初のシーンからもわかるようにトニー自身は黒人に対し

差別意識を持っているので、そんな彼が黒人であるドンの下で

働くことなど受けるはずもないのです。

 

グリーンブック

出典:IMDb

 

ドクター=医者=白人と思っていたら、現れたのはカーネギー

ホールの2階の豪華な部屋に暮らす黒人のドンで、医者ではなく

名ピアニストだという。どうやらとっても有名なピアニスト

らしいし、ギャラも高額だけれど、おいら、ちょっとこの

仕事は受けられねえわ!

 

 

グリーンブック
出典:IMDb

 

とは言ったものの、家族を養うのにお金が必要なトニーは、

運転手兼ボディガードとしてドンと共に出発します。

その車はキャデラック・ドゥビルで色はブルーグリーンという

トルコ石のような美しいボディカラーなんです。こういう風に

ガソリンをダラダラ垂れ流しながら走る大きな車に一度乗って

みたいものです。
ドンを演じるのは「ムーンライト」(2016)の

マハーシャラ・アリ。大家族で狭い部屋に暮らし、いつもワイワイ

にぎやかに食事をしているトニーとは全く反対で、執事一人を

したがえ、豪華な調度品に囲まれていても、たった一人で

過ごしている孤独なドンの家族関係はほとんど語られません。

 

グリーンブック
出典:IMDb

 

こうして出発したツアーで、教養もあり才能にあふれ上品な

ドンという人が、トニーが抱いていた黒人像とは全く異なって

いることに、彼はなかなか気づかないんです。黒人が好きだと

自分で思い込んでいる歌や食べ物、行動を一方的に語り、

ケンタッキー州に行けば、フライドチキンをバケツで購入し、

食べながら運転します。ハンドルが脂でべたべたになろうが

お構いなしなです。これを初めて食べるドンが「衛生面で」

「この骨はどうすれば」などと語るのはクスリと笑えてしまう。

ドンはニューヨークなど大都会では有名であり、彼の演奏を

多くのお金持ちの白人たちが聴きに来ては大喝采を送るけれど、

それは彼の演奏にではなく、有名である彼の演奏を聴いたことが

ステータスなのだと思っていることにとっくに気づいているの

ですね。だから南部の州をツアー先に選んだのです。
トニーが黒人について知識が極めて浅かったのと同様に、ドンも

才能にあふれ上流の生活をしてきたために、黒人文化になじみが

全くなかったことがわかります。それはドンという人間のルーツは
どこにあるのかということにもつながるような気がしてしまう。

白人社会ではドンは「黒人」であり、黒人社会では「白人に

等しい黒人」なのではないかということです。

 

グリーンブック

出典:IMDb

 

終盤に車がオーバーヒートして止まってしまったときに、綿畑で

働く黒人労働者が、ドンを極めて奇妙な目で見ることに象徴されて

います。
黒人向けガイドブック「グリーンブック」

The Negro Motorist Green Bookを持ち、ジム・クロウ法が

まだ存在していた時代の南部で彼らが、いやドンがどのような

扱いを受けるのか、行く前からわかっているけれど、そこで彼と

トニーがどう対処していくかを見ていると、このツアーがお互いの

距離を縮め、そして深い友情を結ぶきっかけになったことは

間違いありません。
「暴力は敗北」とドンは言います。しかし耐え続けることだけで

先に進めるものではないとトニーが体をもって教えてくれたと

思っています。
白人視点による黒人描写にすぎないという意見も読みましたが、

こういう時代を知らなかった人がそれを知るきっかけになった

のならそれはそれでいいと思うのです。さらに俳優2人の演技も

素晴らしい。
何より、バーミンガムの安酒場の舞台でドンが弾くクラッシック

「木枯らしのエチュード」から始まり、その後のアドリブの

セッションは、そこにいた人々全員の心を一つにしていくのが

手に取るようにわかり、それがドンのピアノ演奏の力だと強く

感じました。

 

 

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判決、ふたつのの希望

4

JUGEMテーマ:洋画

 

判決、ふたつの希望

出典:IMDb

 

「判決、ふたつの希望」

原題:L'insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ

2017年 レバノン=フランス映画 113分

キャスト:アデル・カラム

     カメル・エル・バシャ

     リタ・ハーエク

     クリスティーン・シュウェイリー

 

 

判決、ふたつの希望

出典:IMDb

 

レバノンの首都ベイルートで自動車修理工場を営む

トニーは身重の妻シリーンと暮らしていたが、ある日

パレスチナ人の工事現場監督ヤーセルといさかいを

起こしてしまう。謝罪を求めるトニーと彼が発した一言が
許しがたいヤーセルは、法廷で争うことになってしまう。


<お勧め星>☆☆☆☆ 禍根はいつかは消えることがあるの

でしょうか。


言論の自由と責任


映画の冒頭に主人公のトニーはレバノン軍団の集会で演説者

に向けて熱烈な支持表明を行っています。このレバノン軍団

はキリスト教マロン派の右派政党で、トニーは仕事場でも

演説を流し続けているほどの熱狂的な支持者らしい。この理由

は映画の終盤に法廷で明らかにされてしまうのですが、この

ように自分の過去の経験という理由は、そこにある怒りを

ある程度は他者に説明する要素を持つかもしれません。
しかし漠然と「強さ」を求めたり「幻想」のようなものに

かられているとしたら、あまりに愚かだとしか思えません。
そしてトニーの家のバルコニーから流れた水が、下で工事を

しているヤーセルにかかってしまうのです。これは明らかに

嫌がらせっぽい。違法建築を修理中の現場監督ヤーセルは

「といを修理した方がいい」
とトニーに言いに行きますが、トニーはけんもほろろに

追い払ってしまいます。するとヤーセルは無許可でといを設置し、

それをトニーが目の前でぶち壊すという行動に出るのです。

「クズ野郎」
ヤーセルが発したこの言葉にトニーは激怒し、謝罪を求める

けれど、ヤーセルもなかなか謝罪をしません。なんとか所長と

共にトニーの工場に謝罪に行くと、例の演説が大音量で流れて

いるわけです。その上

「シャロンに抹殺されてればな!」

とトニーに言われたヤーセルは、遂に彼を突き飛ばしけがを

させてしまうのです。子供の喧嘩がおおごとになった感じです。

(ここで出て来たシャロンはイスラエルの15代首相で最も

パレスチナに強硬姿勢を貫いたタカ派の政治家でした。)
結局この喧嘩が法廷に持ち込まれ、互いに代理人なしの裁判と

なります。不思議なことに行動としての暴力とその暴力を呼ぶ

ような暴言が同等に扱われていることです。裁判官は両者に

「何を言ったか」を尋ねるのですが、どちらも口にしません。

おそらく何を言ったか想像がつくのでしょう。さらにトニーが

悪態をついたこともあってか、ヤーセルは無罪になるのです。

ずいぶん前に新幹線の自由席を巡って喧嘩になり、裁判に持ち

込まれた事件がありました。確かカバンで席を確保していたのに、

それをどかして座った相手と殴り合いになったんじゃなかった

かしら。結局先に手を出した方が有罪になったと記憶しています。

確保しておいて席を取られるのはすごく頭に来るけれど、よくも

まあカバンをどかしてまで座った人がいるもんだと思ったものです。
映画内の裁判の判決後、トニーが仕事場で倒れ、それを起こそうと

したシリーンが切迫早産してしまったことで、彼はさらに怒りを

募らせるわけです。そこでキリスト教右派の大物弁護士ワジュディー

に相談すると無料で裁判を引き受けると言います。この時点で

子供の喧嘩レベルが政治的なものへと変わりつつあることに気づく

のです。

 

判決、ふたつの希望

出典:IMDb

 

一方のヤーセルには、弱者救済を目指しているナディーンという

女性弁護士がつきます。彼女がヤーセルの住む小汚い地域に

ハイヒールで何となく嫌そうに入っていく姿を見ると、目標は

高尚であるけれど、根本的には差別している心があるのだと

感じます。そしてこの弁護士同士が実の親娘というのはちょっと

余分な設定かしら。
ちょっとした口喧嘩が民族、宗教、過去の戦争などで対立する

国民の争いへと広がっていくのは本当にあっという間で、例の

「シャロンに抹殺されてればな!」

も「言論の自由」と言い切られてしまうのです。
あとで監督の言葉を読みましたが、監督自身もどんなヘイトな

内容も発信する自由はあると思っているようで、そこに「責任」を

持つことが大前提だと言っています。逆に言うと責任さえ持てば
何を言ってもいいのでしょうか。これは何か言うとすぐに殺される

ことすらあった国で育った監督自身の経験からの独自の考えだと

思います。
レバノンという国が何度も中東戦争に巻き込まれ、PLO

(パレスチナ解放戦線)に自治政府並みの特権を与える寛容な国で

あったため、レバノンの主流であるキリスト教マロン派と

イスラム教スンニ派、シーア派の民兵が入り乱れての内戦へと発展

していきました。多くの犠牲を払ったレバノン人にとってなぜ自国

レバノンで「パレスチナの大義のために」自国民が我慢をしないと

いけないのかと思うのもある部分では理解できます。

一方のパレスチナ人もレバノンで虐殺された過去を持ち、現在も

何の保障もなく不能就労扱いながら多くの仕事をしているのになぜ

憎まれなければならないのか。これまで積み重ねてきたレバノンと

パレスチナの負の歴史が、この1つの裁判に集約されているかのように

思われます。

 

判決、ふたつの希望
出典:IMDb

 

トニーとヤーセルの駐車した車の位置が真逆であるのは、彼ら

2人の心をそのまま表していますが、おんぼろでエンジンが

かからないヤーセルの車を見て、先に発車したトニーが戻ってきて、

修理をしてくれます。そんな小さなことでもつれあった心の糸は

ほどかれていくのです。
またヤーセルだけでなくトニーにも負の歴史を経験していたことを

知ると、敗北は負の歴史を背負うことだけれど、歴史を踏まえて進む

ことが「新たな時代」を意味するのだと実感しました。
ワジュディー弁護士は過去に遡って見つめなおそうと言い、

ナディーン弁護士は未来を見ようと言いました。その両方が正しく、

それがラストのかつてのどかだった時と変わらない静かで美しい町を
取り戻しているトニーの故郷ダムールの景色につながっていた気が

します。

 

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尋問

4

JUGEMテーマ:洋画

 

尋問

出典:IMDb

 

「尋問」

原題:Visaaranai/Interrogation

監督:ヴェトリマーラン

2015年 インド映画 118分

キャスト:ディネシュ

     サムティラカーニ

     アナンディ

     ムルガドス

 

尋問

出典:IMDb

 

タミル州出身のパンディは友人ムルガン、クマール、

アフザルと公園で寝泊まりしながら小さな店で働いて

いる。ある日彼は店に来た警官に突然逮捕され、他の

3人と警察署で身に覚えのない泥棒の罪を認めるように
暴行を受けるのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 陽気で勧善懲悪のインド映画を

イメージしていると全く異なる重い内容に驚きます。


生きるために人を殺す


118分の映画の中に3つのストーリーが盛り込まれて

います。
1つはタミル、ナードゥ州からアーンドラ、ブラデーシュ州、

グントゥーラに出稼ぎに来ているタミル語しかわからない

パンディ、ムルガン、クマール、アフザルが泥棒犯に仕立て

上げられ、自白を強要されて酷い暴行を受ける話。
2つめは、タミル、ナードゥ州の大物政治家たちの会計監査を

するKKが、警察官ムットヴェール主導で拘束され、彼以外の

警察官に拷問を受ける話。
3つめは、裁判官への必死の訴えで釈放された例の4人のうち

3人が再び警察署に戻り、そこからKK拘束の手伝いと警察署の

掃除を始めてからの話。
1つめと2つめの流れから3つめにつながるわけですが、実話は

1つめのみで、裁判所で釈放を言い渡され、ただ一人故郷の村で

車を降りたクマールが、その後、当時の体験談を「Lock Up」と

いう小説に書き上げています。

しかし、インド国内では事件を「片付けること」が優先され、

「真犯人」ではなく「犯人」を作り上げることが普通に行われて

いるそうです。そこには言語、宗教が混在する以上に、今なお

存在する「カースト制度」を認めなければなりません。序盤に

パンディが心を寄せるシャンティという警察官の家のメイドが、

あざだらけの腕をしていることからも予測できます。

 

尋問
出典:IMDb

 

そして突然拘束された4人が「認めろ」と言われ、殴られ続け、

水責めを受け、逆さづりにされるという拷問を受けます。

「何を認めるのですか」と尋ねただけでも再び暴行を受けるの

です。

 

尋問
出典:IMDb

 

1000万ルピー泥棒犯を見つけないと、自分の地位が危ういと

上司から叱責される警察官は、その上司がさらにその上司から

責められていることをとっくに知っているし、それがインドの

階級制度なのだろうと思ってしまう。そこには利権、縁故も絡み、

金も行き交っているのです。そんな複雑な情況の中で何も

わからないまま拘束された4人が不遇でなりません。
裁判所で、何とか裁判官に「拷問によって自白を強要された」

ことを認めてもらい(この裁判官が英語を話す)4人は釈放されます。

しかし村へ送ってもらう途中、クマルの下車の後、3人は

ムットヴェール警察官のある仕事を手伝い、その後警察署の掃除も

任せられるのです。

彼らがあまりに純真で人を疑わないことが全て裏目に出ていくのは

大変つらい。ムットヴェールには裁判所での通訳をしてもらった
という恩義もあったからで、そのお礼をしたかっただけなのです。

そもそも言葉がわからないのですから、警察署で話していること

などわかるはずもないのに。
恩を返そうと良心に従って行動したら、それがどんどん悪い方向に

向かってしまったと言ってしまうのはあまりに不条理ではない

でしょうか。
終盤、発砲による流血シーンがあり、そこだけ白黒に変わり、

スロー映像になります。そして闇の中に響き渡る2発の銃声で

エンドロールを迎えるのです。無音のエンドロールを見ながら

何を思い浮かべるか。
「生きるために人を殺すことなんてできない」という人間としての

普通の考えを踏みにじるのもまた人間なのだと実感しました。

 

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1987.ある闘いの真実

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JUGEMテーマ:韓国映画全般

 

1987

出典:IMDb

 

「1987.ある闘いの真実」

原題:1987:When the Day Comes

監督:チャン・ジュナン

2017年 韓国映画 129分

キャスト:キム・ユンソク

     ユ・ヘジン

     キム・テリ

     ソル・ギョング

     カン・ドンウォン

 

軍事独裁政権化の1987年、韓国。ソウル大学の

学生が警察の取り調べ中に死亡する。チェ検事は上司の

指示に背き、慣例通り検死解剖を命じると、死因が拷問

によるものだったと判明するのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆半 どうしてこんな映画を自国で

作れるのだろうか。ラストは涙が止まりませんでした。


真実を求める声ははやがて沸点に達する


昨年見た「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017)

が1980年の光州事件を一人のタクシー運転手の視点で

描いていたのに対し、「1987.ある闘いの真実」は、

その後続いた全斗煥大統領による軍事独裁政権への市民全体

の視点で描いています。それは学生であり、検事であり、

新聞記者であり、神父であり、看守であり、被害者家族でありと、

本当に多くの視点で映し出されていくのです。
翌年にソウル五輪を控えた1987年。漢江の奇跡と呼ばれる

ほどの経済成長を遂げていた韓国は、国内ではレーガン政権の

支持を得た全斗煥大統領が、北朝鮮の脅威を煽り、強圧的な

軍事独裁政権を行っていたのです。冒頭にあるように南営洞

では、多くの人々が「北のスパイ」容疑をかけられ、数々の

拷問を受けていました。鼻歌を歌いながら無実の人々を水攻め

にし、電気ショックを与え、椅子をけり倒す。この場所が

映画内で映るたびに、遠くから悲鳴やうめき声が聞こえてくる

のです。
そして一人の学生が「心臓発作」で死亡します。明らかに

「何かがあった」はずだけれど、そこは目をつぶって

「即火葬せよ」と言われれば指示に従うはず。ところが、

公安部長のチェ検事は「解剖してから火葬するのが慣例」と

突っぱねるんですね。

 

1987

出典:IMDb

 

いろいろな脅しやわいろにも目もくれず、「検死」を主張

すると、その検死自体にも邪魔が入るし、家族は直接遺体に

面会することすらできないという事実を知ります。そこで、

さあ、彼が...。

 

1987

出典:IMDb

 

この役は「お嬢さん」(2017)のハ・ジョンウなんですが、

そこそこ頑張った後にその情報を新聞記者に渡して、職場を

去ります。では新聞が当時正確なことを報道していたかというと、

実は「報道指針」という政府が出したものに従って報道しており、

政権に都合の悪いことは書くことは許されなかったのです。

映画の中盤にそれを破ったことで、警官が押し掛け、社内を破壊

していくシーンがあります。こんなことが許されていた時代が

ほんの30年前にあったのですね。

 

1987
出典:IMDb

 

さらに警察内でも治安部と対共部との対立があり、拷問が

バレると警官が警官を逮捕していき拷問するという、極めて

おかしな状況を目にします。「正義」は存在しないのかと

思ってしまう。いや「正義」の定義はどこで決めるかが問題

になってくるか。

 

1987
出典:IMDb

 

一方、おなじみのユ・ヘジン演じる看守ビョンヨンは、実は

手配中のキム・ジョンナムへ獄中の情報を提供する任務を

背負っています。「タクシー運転手」では広州のタクシー運転手

の一人で、あり得ないようなカーチェイスを繰り広げていた

けれど、今回は、人のよさそうな顔つきで、大変重要な役割を

果たしていきます。そしてヨニが思いがけずデモに巻き込まれた

時に、その身を救ってくれた延世大学生、イニョル役は

カン・ドンウォン。すっごくイケメンだからすぐにわかっちゃう。

そして彼がこの役を自ら演じることを望んで取り組んだことを

知ると、勇気ある行為にまた惚れ直してしまいます。映画製作当時

朴槿恵政権であり、表現に対する弾圧が強かったため、極秘裏に

撮影が進められたそうですが、その時期に決して潤沢と言えない

資金でこのような映画を作れたことは本当に価値のあることだと

思います。

またイニョルが主催する漫画サークルで「1980年の光州事件」

のビデオが流されます。あれは、「タクシー運転手」でドイツ人

記者が持ち出したあの映像なんですね。監督自身が高校3年生の

時にそのビデオを見て、事件について初めて知りとても驚いたそうです。
綺麗ごとだらけの歴史映画ではなく、国の闇の部分に光を当てて、

多くの人々に知らせることこそが映画や出版物の役割ではないかと

実感します。コミックが原作の映画やアイドル主演の映画で
興行収入を上げることだけを考えていたら、映画の質は下がる一方

だよなあ。
独裁打倒、護憲撤廃、と強く叫ぶデモの人波が、どんどん膨れ上がる

のは、それだけ多くの人々が怒り、嘆き、悲しみ、国を愛している

ことの表れであり、これをきっかけに、韓国に民主化宣言が発表
されたことは、大変意義のある行為だったと思います。
ラスト付近からエンドロールにかけては涙が止まらなかったです。

 

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否定と肯定

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否定と肯定

出典:IMDb

 

「否定と肯定」

原題:Denial

監督:ミック・ジャクソン

2016年 アメリカ=イギリス映画 110分

キャスト:レイチェル・ワイズ

     トム・ウィルキンソン

     ティモシー・スポール

     アンドリュー・スコット

 

アメリカのホロコースト研究家デボラ・リップシュタットは、

自分の著書で、ホロコースト否定論者のアーヴィングを攻撃

したことから、彼によってイギリスの裁判所に名誉棄損で

訴えられる。彼女は弁護チームを結成し、アーヴィングの

嘘を暴いていくが..。


<お勧め星>☆☆☆☆ 事実は1つだけれど、真実はいくつも

あって、そこに嘘が混じる恐怖を体感します。


同じ土俵に乗ってはいけない


この映画は、今まで何作品も見て来たナチスドイツ関係の

映画の中で最も胸が痛くなる内容でした。それは

「ホロコーストはなかった」

と大きな声を上げる人々の存在を知ったからでしょうか。

そしてその一人であるアーヴィングというイギリス人歴史学者の

手法が、既視感のあるものだったからかもしれません。

1994年、アトランタのエモリー大学でホロコーストについて

講義を行うデボラのもとに、突然一人の男が入ってきて大きな声

で質問をするのです。その男こそデボラが書いた

「ホロコーストの真実」
という本の中で攻撃を受けたアーヴィングです。彼は彼女の

「ホロコースト否定論者とは討論しない」

という立場を利用し、その映像をビデオに収め、ネット上で

「尻尾を巻いて逃げた」

などとさらなる攻撃をするのです。彼女がターゲットになった

理由は、もちろん本で彼を攻撃をしたこともありますが、

彼女自身がユダヤ人であり、女性だったことも大きく影響しています。
「ホロコーストの存在」は生存者の証言や数多くの文書、研究で

確固たる事実だと信じていたし、これからも疑いようのない事実と

受け止めていきますが、アーヴィングのような論法で

「ガス室はチフス蔓延を防ぐ消毒室だった」

「ヒトラーはユダヤ人を救った」

と変えられることもできると知り愕然としました。

 

否定と肯定

出典:IMDb

 

彼は他の裁判では生存者に対し、極めて侮蔑的な質問を投げかけ、

「恥」を与えることもいとわない人物なのです。この役を演じる

ティモシー・スポールが本当に嫌らしい男で、話し方一つを

とっても軽蔑に値するのです。上手だなあ。深く考えると、論理が

破綻している内容もその声の大きさに惑わされて、それに煽られて

「正しい」と信じてしまう人が出てくるのもとても理解できます。

 

否定と肯定

出典:IMDb


デボラはランプトン弁護士たちをチームにして、イギリスで

起こされた名誉棄損裁判に立ち向かいますが、イギリスの法廷は、

被告側が立証義務があるのです。つまり訴えを起こした側の内容が
正しくないと証明していくのは被告側にあるということ。ここが

ずる賢いアーヴィングの作戦でもあるんですね。デボラは自らが

口を開き、そして生存者の証言で「ホロコーストの存在」を主張

しようと考えるけれど、ランプトンたちは裁判と被害者の気持ちは

別と考え、アーヴィングの著書の嘘を暴いていくことで裁判を

進めることを主張します。

 

否定と肯定

出典:IMDb

 

この時のデボラがあまりにヒステリックだし、アメリカ人と

イギリス人との「違い」というものが随所に見られます。

自己主張の強いアメリカ人と奥ゆかしいというか悪く言うと

世間体を気にし過ぎるイギリス人という感じかな。
ただこのランプトンたちの方法は大きなポイントでもあると

思うのです。反ユダヤ主義の歴史曲解者と同じ土俵で争ったら、

言葉尻をとらえられ、次々に追求をされてしまうことは目に

見えています。デボラはここは歯を食いしばって良心を他人に

委ねるんです。
ところが裁判官が終盤に発する

「信念に基づく発言なら詐欺師とは言えない。つまり故意に

歴史を歪めて論じているのではない」

という言葉もある意味納得します。だからこそこの表現の自由の

悪用と嘘と説明責任の放棄によって論じられる、極めて大きな

声の人達の言葉には決して頷いてはいけないと実感します。

確実に起きていた事実をなかったことにはできないのです。

 

 

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7月22日

3

JUGEMテーマ:洋画

 

7月22日

出典:IMDb

 

「7月22日」

原題:22 July

監督:ポール・グリーングラス

2018年 アメリカ映画 144分

キャスト:アンデルシュ・ダニエルセン・リー

     ヨン・オイガーデン

     ハン・トラン

 

2011年、7月22日、ノルウェーの官庁街で

自動車爆発事件が起こる。そして続けてウトヤ島での

労働党青年部主催キャンプで、一人の男による銃の

無差別発砲事件が起こるのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ いま世界が抱える問題を全て

あぶりだしているようなメッセージ性の高い映画です。


一人の暴力行為など目的の足しにならない


監督は「ボーン・スプレマシー」(2004)

「ユナイテッド93」(2006)

「グリーン・ゾーン」(2010)

「キャプテン・フィリップス」(2013)などの

ポール・グリーングラス。ジェイソン・ボーンシリーズ
は、どれもストーリーが緻密で、スパイ映画の醍醐味を

味わえるとともに、キレのいいアクションが楽しめました。

「ユナイテッド93」は9.11事件で唯一目標に

到達せず墜落した航空機の内部を、まるでノン・フィクション

のように緊張感ある映像で見せています。さらに

「グリーン・ゾーン」はイラク戦争のおける安全地帯を指し、

『大量破壊兵器があるのか。そしてその情報は正しいのか』

という問題提起よりも(そもそも、存在しなかったと結論

付けられている)銃撃戦、カーチェイス、アクションに重き

を置いた映画だった気がします。

そして「キャプテン・フィリップス」はソマリアの海賊に

襲われたコンテナ船を描いており、フィリップス船長役の

トム・ハンクスの骨太な演技とオーディションで選ばれた

ソマリア人海賊役の人達のリアルな姿に、まさに手に汗を

握って見た覚えがあります。

「アメリカに行くのが夢」...夢は叶ったけれど。
さて、今映画は2011年に発生したノルウェー連続テロ事件と

その後の状況が映し出されています。オスロから遠く離れた

農場で何やら製造している男。市長選挙に向けて準備を行う

女性たち。通常通りの任務を遂行している首相の姿。労働党

青年部主催のキャンプが開催されるウトヤ島へ到着した若者たち。

それらが次々に映り、あれは爆薬で、そして多くの銃器は

あそこで使われて、とその時間が刻々と迫るのを体感します。

官庁街での自動車の大爆発は、導火線に点火してからの時間が

少しあり、監視カメラ映像や警備員の目に見える白いバンが

「いつ爆発するのか」と、今まさにそれを見ているかのような

錯覚に陥ります。
それはウトヤ島での若者の様子も同じで、この後に待っている

阿鼻叫喚の地獄と化すこのキャンプ場を微塵も感じさせません。

だからこそ突然日常を引き裂いた人物への「大きな怒り」を

覚えるのです。

 

7月22日
出典:IMDb

 

ウトヤ島で、無表情に若者に銃を向けるブレイビクと逃げ惑う

若者たちの絶望的な状況。しかし映画のメインテーマはこの

惨劇後の生存者やその家族、犯人に指名され弁護人になった

人物が法に基づいて弁護を進める苦悩、自分が指導者だと自負

する犯人の姿なのです。
銃ではなく法で裁く、と言い切る首相や、法に基づいて弁護を

する、と語る弁護士には、被害者家族の悲痛な叫びを見ていると、

かなり不当な思いを抱きます。しかし自分が正しいと思い込んで

いる者へ何をどうすれば全員が納得のいく結果が得られるのかと

考えると、そこで行き詰まります。死刑制度のないノルウェーでは

「木に吊るしてしまえ」と叫ぶ被害者家族の言葉が実現するはずも

ありません。またそれが被害になった関係者の総意であるはず

もないのです。

 

7月22日

出典:IMDb


映画内の裁判風景はリアリティに富んでおり、大変見ごたえの

あるものになっていますし、必ず怒りを覚えることでしょう。

さらに重傷を負ったビリヤルの手術から覚醒、そして

リハビリ風景も大変過酷なものなのです。

なぜ生き残ったのか。なぜこのような苦痛を受けるのか。

なぜ自分たちを襲ったのか。なぜは尽きません。
当時の首相が、この事件後
事件を事前に防げなかったか
爆破事件後の対応は適切だったか
ウトヤ島への警察出動に遅れはなかったか
など、きっちり検証したことは「被害者に寄り添う」という

真の姿はこれなのだと実感しました。

 

7月22日
出典:IMDb

 

7月22日

出典:IMDb

 

ラストにビリヤルの前に広がる広大な雪原は、彼のこれからの

可能性を表し、逆に狭い独房に立つ犯人は「孤独」しか

与えられない人生を送るのだということを意味していると

思っています。

 

 

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12年の長い夜

4

JUGEMテーマ:洋画

 

12年の長い夜

出典:IMDb

 

「12年の長い夜」

原題:La Noche de 12 Anos/A Twelve-Year Night

監督:アルバロ・ブレッヒナー

2018年 ウルグアイ=スペイン=アルゼンチン

=フランス=ドイツ映画 123分

キャスト:アントニオ・デ・ラ・トレ

     チノ・ダリン

     アルフォンゾ・トール

     セサル・トロンコーソ

 

軍事独裁政権下の1973年、ウルグアイ。政権に

敗北した極左ゲリラ組織トゥパマロスのメンバーは

政治犯として刑務所に収監される。そこでの数々の

劣悪な環境を耐えた一人が、後の大統領になる

ホセ・ムヒカだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 地味な映画なのですが、

ウルグアイという国について少しだけ知ることができます。


あなたを忘れてない

 

 

<ネタバレしています>


20世紀初頭、南米唯一の福祉国家であり、チリと並んで

民主主義国家であったウルグアイも、経済の低迷から政情が

不安定になります。そして映画に登場する極左ゲリラ組織

トゥパマロスが台頭するわけです。
この治安抗争から始まった内戦状態を、軍部に頼って終結

させたことで、1973年に軍事独裁政権が誕生し、

ゲリラ組織のメンバーは政治犯として収監されていくのです。

映画の中盤にこの制圧方法が描かれていて、明らかに無防備な

女性を銃撃し、そしてその家に入り込み、メンバーを射殺して

いく軍人の姿が映り、政府の幹部はその制圧した後を確認します。

「ゲリラが発砲したため制圧した」

と印象付けようとする軍部と政府幹部に「投降する」と訴える

ゲリラの姿を見ると、本当は全部射殺したかった軍部の思惑が

手に取るようにわかるのです。これが立場の違いなんだろうな。

 

12年の長い夜
出典:IMDb

 

ストーリーはこのうちのニャト、ルソ、ペペというメンバーの

監禁生活を延々と映し、時折、捕まる前の幸せな映像も流されます。

それはごくわずかで、ほぼ独房での過酷な状況を映し続けるのですが、
不思議と全く飽きません。

それは各々の状況をリアルに再現しているからでしょうか。
目隠しをされ、独房に入れられ、ずっと壁をむいて立たせる。

囚人同士の会話、呼びかけ、看守への声かけ禁止。

さらには唯一光が差し込む窓にトタン板が打ち付けられるのです。

食事はおろか、水分もろくに与えられず、トイレすらない暗闇に

一人で閉じ込められる事の恐怖は想像できないほどのものです。
あばら骨が浮き上がるほどやせ細り、髪の毛やひげは伸び放題、

葉は黒ずみ、爪の間や皮膚が垢だらけの姿では、家族とは面会

させられないと、急に髪を切り、ホースで冷水を浴びせ、一応

身なりを整えたところで、家族は息子の姿を見れば、彼が今どう

いう状況にいるのか一目でわかるはずです。

過酷な獄中生活の中にも笑えるシーンもいくつかあり、トイレに

座れないから手錠を外すか否かで、どんどん上官に尋ねにいき、

最終的に最も上の地位の軍人がトイレまで来るのは大笑いです。

いかにも縦割り社会の縮図という感じがしました。

 

12年の長い夜
出典:IMDb

 

ルソとニャトは同時期に房が隣同士だったこともあり、壁を叩いて

それを文字に変化する会話法を会得しますが、たった一人

閉じ込められているペペは、その孤独から精神状態が悪化して

いきます。

 

12年の長い夜
出典:IMDb

 

この時、フラッシュバックして映るのが彼らの受けた数々の

拷問シーンで、いつの時代にも政治犯には「拷問」がつきもので、

それに「意味」を求めているわけではなく、痛めつけるという

「目的」を持っているのすぎないと実感します。「拷問」で

思想を変更させるとか、真実を語らせるとか、そんなことは

できないことなどとっくにわかっているのに、なぜに存在

し続けるのでしょう。
ペペの母親の言葉「乗り越えて先に進むしかない」

しかし長い期間監禁されているうちに、ルソは、持ち前の文才で、

軍曹のラブレターを代筆ことになります。それが成功するたびに、

鉛筆がもらえ、紙がもらえ、パンをもらえ、たばこをもらえ、

遂には外の景色を見ることもできます。その景色がとても美しく

感じるのは、彼らが収容されている場所があまりに劣悪すぎる

だけでなく、本当に緑があふれて青空が広がって明るい日差しに

あふれているいるからだと思う。

映画内でジーンと来たのは、ニャトが娘のガブリエタと面会する

シーンです。手錠でつながれた両手を隠す父に

「どうして手がないの?」

と尋ねると、父は

「手はいろいろな形に変わるんだよ」

と手錠がわからないように蝶々が羽ばたく姿を演じます。

ここは泣ける。ガブリエタはニコリと笑うんですよ。オヨヨ。
最終的には1985年、3人を含めた政治犯は解放され、家族の

もとに戻ります。その後の活躍は字幕で流され、ペペこと

ホセ・ムヒカが2009年にウルグアイ大統領に就任したこと、

ルソは詩人、作家になったこと、ニャトも国会議員になった

ことを知ります。ホセ・ムヒカの質素な生活ぶりは彼の強い

意志に基づくものだったろうし、「園芸」を愛したというのは

出所の際に、トイレ用に支給されたボウルに花を育てていた

ことからも伺えました。彼についてこの映画で初めて知った

けれど、調べれば調べるほど尊敬に値する人物だという思いが

募るばかりです。

 

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ROMA/ローマ

4

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ローマ

出典:IMDb

 

「ROMA/ローマ」

原題:Roma

監督:アルフォンソ・キュアロン

2018年 アメリカ=メキシコ映画 135分

キャスト:ヤリッツァ・アパリシオ

     マリーナ・デ・ダビラ

     マルコ・グラフ

     ダニエラ・デメサ

 

1970年代のメキシコシティのある中流家庭で、

クレオはアデラと家政婦として働いている。子供たちの

世話と家事に忙しい日々を送っていたが、アデラの恋人の

友人フェルミンと関係を持ち、妊娠してしまうのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ モノクロ映像と人の声も含め様々な

音が交錯して、心に中にするりと入り込んできます。


喪失の共有


映画内でメキシコシティ五輪のポスターが映り、1971年

の新年を祝うシーンや街で大規模なデモが繰り広げられて

いるのを見て、当時の状況を調べてみました。

軍事独裁政権が数多く生まれていたラテンアメリカの中で

「メキシコの奇跡」と呼ばれた高度経済成長を遂げ、

1968年には近代国家の象徴ともされるメキシコシティ五輪が

開催されていたのです。しかし国内では経済格差が広がり、
アメリカの自由に比べて制約が多いことから、学生、知識人の

中から反政府運動機運が高まり、数々のデモが起きていました。
五輪については、1964年が東京、1972年がミュンヘンと

いう時代を考えると、かなり昔のように、いや本当に一昔前の

ことなのかと思ってしまいます。

 

ローマ
出典:IMDb

 

クレオとアデラが家政婦として働く医師アントニオの家は

妻ソフィとその母、そして4人の子供が暮らしているのですが、

この子供たちがとても騒々しいし、家の中の散らかり具合は

半端ではありません。いつもどこかで喧嘩をし、泣き、大騒ぎを

しているみたい。

 

ローマ
出典:IMDb

 

冒頭にクレオと一番下の息子が「死んだふり」をする姿があり、

この会話で一気に映画の中へ吸い込まれます。今度この手を

使ってみよう。

「できない。死んでるもん」
そしてこの家の玄関通路はとても狭く、ギャラクシーという

大型車はすりすり通れる幅なのです。そこを通る時、アントニオは、

何度も切り返し、コツっと当たるとバックして入れ直します。

一方のソフィはというと、ガー、バリバリ、ザザザーとダイナミック

にこすりつけながら侵入するのです。2人の性格の違いが表れて

いますね。
そのアントニオは仕事でケベックへ行ったきり戻らず、クレオは

フェルミンという男と関係を持ち、妊娠し、それを告げると、

男は姿を消すのです。この時、男性の無責任さを露骨に見せつけ、

それに「オヨヨ」
と耐えるだけではいられない女性の姿を映し出します。

子供にも会いに来ない、生活費も送らない男。

 

ローマ
出典:IMDb

 

ローマ

出典:IMDb

 

2度と会いに来るなと言い放つ男。
多くの困難に立ち向かい、それでも前に進んでいくのは、

メキシコという国がこの後起こる苦難の時代も乗り越えて

いったことを象徴しているのかもしれません。
1971年の「コーパスクリスティの虐殺」も映画内に映し

出され、無関係な市民が銃撃で命を落とす姿が見られます。

そこで明らかに息をしていない男性を抱えて助けを求める

女性の泣き声が虚しく長い時間聞こえるのです。
そして悲しい出来事がクレオに起き、ソフィもすべて受け入れた時、

その喪失感が二人の心を強く結びつけ、ひいては、本当の意味

での家族として、これから生きていくのだと実感します。

このシーンはやはり涙が出ました。彼女たちの気持ちが手に

取るようにわかるのです。
鳥の声、犬の鳴き声、水の流れる音、車のエンジン音、浜辺に

寄せては返す波の音、パレードの音楽、それらと共に幾度と

なく空を横切る飛行機が、これから切り開いていく人生の

大きさを物語っているようにも思えます。
監督は「ゼロ・グラヴィティ」(2013)の

アルフォンソ・キュアロン。

 

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君の名前で僕を呼んで

3

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君の名前で僕を呼んで

出典:IMDb

 

「君の名前で僕を呼んで」

原題:Call Me by Your Name

監督:ルカ・グァダニーノ

2017年 イタリア=フランス=ブラジル

=アメリカ映画 132分 PG12

キャスト:アーミー・ハマー

     ティモシー・シャラメ

     マイケル・スタールバーグ

     アミラ・カサール

     エステール・ガレル

 

1983年夏、北イタリアでバカンスを送るエリオは、

大学教授の父が招いたアメリカ人大学院生オリヴァーと

出会う。はじめは彼を敬遠していたエリオだったが、

その気持ちが「恋」であると気づき、オリヴァーの胸の

内も知った時...。


<お勧め星>☆☆☆☆ 景色や建物の映像だけでなく2人の

男性、そしてBGMのピアノの音色もとても美しかった。


later 「あとで」


原作はアンドレ・アシマンの同名小説で、設定が1987年で

あり、エイズ問題を扱っていたり、全裸の男性が描かれている

など、映画とはやや異なる内容になっているようです。
主演のエリオ役は「レディ・バード」(2017)でヒロインの

処女を奪った童貞詐称のバンドマン、カイルを演じた

ティモシー・シャラメ。物憂げで、どこか遠くを見ているような

黒い瞳とふんわりカールの髪の毛がとても魅力的です。

 

君の名前で僕を呼んで

出典:IMDb

 

一方、大学院生オリヴァー役は「ソーシャル・ネットワーク」

(2010)でイケメンのウィンクルヴォス兄弟を演じた

アーミー・ハマー。わたしの一押し俳優さん。

 

君の名前で僕を呼んで
 

195cmの高身長と長い手足、真っ青な瞳には絶対にハートを

射抜かれること間違いなしです。
1983年夏、北イタリアの避暑地で夏を過ごす両親とエリオの

もとにアメリカから博士課程の論文を執筆中の大学院生オリヴァー

が訪れます。いかにもアメリカ人というファッション、ポロの

シャツや短パン(かなり短い丈)、コンバースの靴は、かつて

日本でも大流行したのを覚えています。他にも

「アメリカ人らしい」

とイタリア人に言われる雰囲気を醸し出しており、それは、初対面の
女性とすぐに親し気に踊ったり、あっという間に町のバーで

なじみ客になる姿に現れていて、陽気と思っていたイタリア人

以上に陽気であるような気がします。みんながそうじゃない

だろうけど。
しばしばドアが「バタン」と大きな音を立てて閉まるのと、

美しいピアノのBGMがあまりに対照的だし、もう一つ、悶々して

いるエリオの周りに必ずハエの羽音が聞こえるのも気になります。

それらはエリオがオリヴァーへの気持ちに正直になれない間ずっと

続き、心が平穏な時、心がざわついた時、心を閉ざした時などにも

効果的に使われているような気がするのです。エリオは一応

マルシアというカノジョがいて、オリヴァーへの当てつけから?

初体験もすませちゃう。マルシアを好きなんだろうけど、「恋」

とは違うんだろうな。必死で昔の気持ちを思い出してみたけれど、

その一瞬の気持ちは、その時にしか感じられないし、それを記憶と

して残すことはできない気がします。何かのきっかけで心の奥の

扉が開いて、その気持ちを味わうときが来る可能性があるのは

否定できないとも思う。

 

君の名前で僕を呼んで
出典:IMDb

 

とにかく北イタリアの古い街並みや緑あふれる田園地帯が美しく、

その中で時折「ドキリ」というシーンが入り込むのです。

わたしが一番「ドキリ」としたのは、エリオが熟した

アプリコットに指で穴をあけ、その汁を吸うシーンで、上半身に

ほとばしる汁、それをぬぐう彼の手、その後に続く映像は、

まことになまめかしいのです。これが不細工なぽっちゃり男子が

演じたら、
「ちょっと、汁でべたべたじゃないの。ちゃんとして!」
と言いたくなりますが、なんせエリオは美少年。

美しいって罪ね、本当に。
実は序盤は、金持ちの道楽を描いているような気がして、気持ちが

入り込めなかったのですが、セリフ1つ1つがとても深い意味を

持っていて、それらを聞いているうちに自然とエリオに同調

できるようになります。
第90回アカデミー賞脚本賞を獲得しただけあります。

原題「Call Me by Your Name」はそのセリフの1つなんです。

そのセリフが発せられるシーンがなんと切なく愛しいものであるか、

ぜひ見てほしい。
また終盤の父がエリオを褒める「悲しみ、痛みがあっていいんだ」

以降のセリフとそれを聞いて涙をこぼすエリオの姿を見ると、

この夏の経験は、一生の思い出になったし、エリオ自身の成長の証
でもあったと気づくのです。流行病のように突然かかり、鮮烈な

記憶を残して去っていたけれど、「何一つ忘れない」ものであった

ことは確かだと思うのです。
スフィアン・スティーヴンス作のテーマ曲や80年代のヒット曲、

そしてクラッシック音楽も心に残りました。

 

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マーシャル 法廷を変えた男

3

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マーシャル

出典:IMDb

 

「マーシャル 法廷を変えた男」

原題:Marshall

監督:レジナルド・ハドリン

2017年 アメリカ映画 118分

キャスト:チャドウィック・ボーズマン

     ジョシュ・ギャッド

     ケイト・ハドソン

     ダン・スティーブンス

 

1941年アメリカで唯一黒人弁護士だったマーシャルは、

全米黒人地位向上委員会のメンバーであり、無実の黒人の

弁護活動を行っていた。そして彼はコネティカット州で

起きた黒人運転手による雇い主の白人女性レイプ事件の

裁判の弁護に向かい、その地のユダヤ人弁護士フリードマン

とともに法廷に立つのだが...。


<お勧め星>☆☆☆半 法廷ドラマが主体で動きが少なく

かなり地味な内容ですが、俳優の演技力が光ります。


法律が武器


アメリカにおける黒人差別を扱った映画は数多く作られており、

私がここ数年見たものだけでも
「ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜」(2011)

「フルートベール駅で」(2013)

「大統領の執事の涙」(2013)

「それでも夜は明ける」(2013)

「グローリー/明日への行進」(2014)
「デトロイト」(2017)

などすらすらと題名が口から出てきます。この中でも

「フルートベール駅で」と「デトロイト」は白人の大柄な

黒人に対する恐怖が「暴力」という形に変わって現れるという
ことを描いており、それは相手を知らない、知ろうとしない

想像力の欠如も恐怖の原因の1つであるのかなと思います。
この映画の主役サーグッド・マーシャルは1941年、黒人

として唯一の弁護士であり、人種のせいで疑われた無実の

黒人の弁護を続けていたのです。NAACP(全米黒人地位向上協会)

に属し、「法律」を武器に弁護を続けます。彼自身も希望の

大学へは「隔離政策」により入学できなかった過去を持って

いるし、曾祖父は奴隷だったのです。映画のあちこちに黒人

への差別状況が描かれますが、ほかの映画に見られるように直

接的な恐怖のシーンは1か所のみであとは、法廷での様子に

徹しています。

その事件というのが黒人運転手が雇い主の妻である白人女性

をレイプしたというもの。強要された自白だけで極刑を言い

渡されて時代に、黒人が白人をレイプし、橋から川に落とした

となると大事件です。早速足を運んだマーシャルは地元の

弁護士でユダヤ人のフリードマンを助手にするのですが、

まず判事が他州の弁護士は認めないと言う。つまりマーシャルは

発言権が与えられません。

 

マーシャル

出典:IMDb

 

さらに陪審員選びでも、明らかに差別主義者であるのに判事は

認めていく。弁護側の異議は却下、検事側の申し立ては採用、

と露骨な行為を平気で行います。もう、検事ローリン役の
ダン・スティーブンスや判事役のサム・ロックウェルがものすごく

嫌な奴に描かれています。そしてそれを見事に演じています。

 

マーシャル

出典:IMDb

マーシャル

出典:IMDb

 

このように表立って差別を口にしていた時代も酷いけれど、

表面的には「差別主義者じゃないのよ」と言いつつ、心の底では

根強い差別を持つ人々が今なお多く存在していることは確か

ですよね。「ゲット・アウト」(2017)はそれをホラー仕立て

で描いていました。あれは怖かったなあ。
人種や民族、宗教で人々を差別することは絶対にあっては

ならないと常々思っていますが、それは一人一人の心の問題で

あり、誰かが説得したから変わるものではないかもしれません。

逆にヒステリックな騒ぎを大きくするだけなのかもしれない
けれど、やはりいけないことはいけないんだよと言い続けたい。

小さな声でも言い続けたい。
そして裁判は進んでいくのですが、最初の陪審員選定の時に

マーシャルが主張したことがばっちり当たるのがラスト付近。

引っ越して1か月足らずの女性はその地域では「よそ者」で

あったことをマーシャルはすぐに見抜いていて、すごい!と

思ってしまいました。

 

マーシャル
出典:IMDb 

 

被害者女性のの証言、司法取引の持ちかけ、医師の診断書など

すべて夫が主導権を握っていることから推測されるように、

次第にあるストーリーが浮かび上がり、それは裏付けられて

いきます。誰も想像しなかった内容であるけれど、それでも

誰もが納得できてしまう。
このマーシャルが1967年、黒人初の最高裁判事になったことや

フリードマンがこの後、公民権運動に精力的に活動したことを知ると、

今ある権利を獲得するために注がれた莫大なエネルギーを感じる

のです。そして今逆方向に向こうとしている時計の針をもう一度

前に向かせるために、この映画をぜひ見てほしいと思います。

 

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