コレクターー暴かれたナチスの真実ー

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JUGEMテーマ:洋画

 

コレクター

出典:IMDb

 

「コレクターー暴かれたナチスの真実ー」

原題:De Zaak Menten

監督:ティム・オリウーク

2016年 オランダ映画 130分

キャスト:ガイ・クレメンス

     アゥス・グライダヌス

 

1976年、アムステルダムの記者クノープの

もとに、美術収集家で大富豪のメンテンが、

第二次世界大戦中にナチスドイツとともに住民を

大量虐殺し、その美術品を強奪していたという情報が
寄せられる。クノープは事実を確認するため、

メンテンに面会を申し入れるのだったが...。


<お勧め星>☆☆☆半 戦争犯罪に時効はないという

思いを強く抱きます。


三つ編みにされた髪の毛


第二次世界大戦中、ポーランドにおいて、ナチスドイツと

組んで、ユダヤ人やソビエト共産党員などを虐殺し、

美術品等を略奪したオランダ人富豪ピーター・メンテンが、

1976年にオランダで起訴された事件をオランダにて

映画化したものです。

起きた場所はポーランド(裁判当時はソ連領)、犠牲者は

ユダヤ人にとどまらない、そして一度は戦争裁判で服役を

した人物への30年を経ての裁判であり、その人物は

オランダの実力者、一方の原告は一人のユダヤ人新聞記者と

いう極めて特異な構図になっています。

 

コレクター

出典:IMDb

 

メンテンは金の力で、最初の裁判の判決を下した判事等に

逆提訴を行っており、彼の言い分としては「ユダヤ人の

資産を買い取って、逃亡の手助けをした」。

そして没収された美術品を再び自分にもとに取り戻して

いたのです。
アクセス誌という雑誌の編集長クノープは、自らがユダヤ人で

あるということもあって、ナチスの犯罪には目をつぶれなかった

と思う。しかし親会社の新聞社のグループ会社からの抗議や
「新聞は両側に立って記事を書かないといけない」
というちょっと聞いただけなら正論のように思えるまやかしを

言われ、他の記者にメンテン擁護の記事を書かれてしまいます。

それでもクノープが調査すればするほど、メンテンの疑惑は

確信へと変わっていくばかりなのです。

 

コレクター
出典:IMDb

 

序盤から入り込む1930年代のポーランドののどかな村での

楽し気な人々の姿が、ある時急に、恐ろしい状況に変わった

とき、なぜメンテンがこのような行動をとったのか?という

大きな疑問を覚えます。メンテンはかなり裕福な生まれで、

たまたまポーランドのその村にいた時、ソビエト共産党軍の

襲撃を受け、辛うじて命拾いをしますが、その時から彼は、

権力を大変うまく活用し、自分の立場を固めたうえで、美術品

を獲得していったのです。それはナチスドイツの将校の機嫌取り

のために、ユダヤ系絵画商から高価な絵をタダ同然で買い上げる

という姿を映し、彼がいかにずる賢い人物であったかを

知らしめます。戦時中だったからこのような行動になった、

としてもそれがどうして、つい先日まで仲良く暮らしていた

隣人たちを虐殺したのか、という理由にはなっていません。

ここがどうしても引っかかるんですよね。これは彼が罪を

認めないまま亡くなってしまったので、二度とわからないでしょう。
起訴されてからの裁判風景も、一審は有罪判決を受けたものの

控訴審では、なんと無罪になってしまいます。それから上告して

どうなるのか。結果はわかっているけれど、金の力で人が操れる

という人間がいかにクズであるかと、お金がない自分は思って

しまう。そしてオランダというナチスドイツの侵略を受けた国で、

その国民の戦争犯罪を自国で映画化したことは大変価値がある

ことだと思うのです。でもメンテンがユダヤ人であるなしに

関わらず1000名以上殺害して禁錮10年、それもかなり早めの

仮釈放を受けたという話を聞くと、その軽さに驚くばかりです。

自ら掘らされた穴に横たわる血にまみれた人々の姿を見ると、

戦争が生み出したであろう人間の残忍性に言葉を失います。

 

 

 

 

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検事 フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男

3

JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

検事フリッツ

出典:IMDb

 

「検事 フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男」

原題:Die Akte General

監督:ステファン・ワグナー

2016年 ドイツ映画 93分 PG12

キャスト:ウルリッヒ・ノエテン

     デビッド・クロス

     ディーター・シャード

     ウーベ・ボーム

 

ナチスの戦犯アイヒマンを追い続ける検事総長バウアーは、

周囲の妨害にも耐え、独自の方法で捜査を進めていた。

そんな彼は若い検事ヘルを部下と共に情報収集に奔走

するが...。


<お勧め星>☆☆☆ かなり地味な映画ですが、

アウシュヴィッツ裁判開廷に向けていかに苦労したかが

伝わります。


「父親世代とは違う道を」


「ナチスの犯罪に関する細部を知らなければ、ヒトラー

体制の凶暴さは理解できない」この姿勢で負の歴史と

対決し続けているからこそドイツは、旧被害者国との

間に一定の信頼を回復できたと数多くの映画で描かれて

きました。しかしその過去にしっかり向き合うまでに、

ドイツ国内において幾多の苦労が重ねられてきたのです。

映画内の主人公、検事総長フリッツ・バウアーは、

ユダヤ人でかつて収容所生活を送った過去持つ人物。

この名前は「顔のないヒトラーたち」(2014)でも

登場しました。あの映画ではアウシュビッツ裁判を起こす

ために、一人の若い検事が上司の制止を振り切って調査を

開始し、そこから次々に明るみに出る悲惨な過去に言葉を

失ったものです。何度見ても酷すぎる。
敗戦国となり、その後十数年を経てようやく復興の兆しを

見せてきた西ドイツにとって、ナチスドイツ時代の

戦争犯罪を暴くことは、その復興に水を差す物であり、

東西冷戦の真っただ中だったこともあって、ソ連を中心

とした共産圏に取り込まれる発端にもなり得たのです。

東西ドイツに分かれていた時期に東ドイツにこの捜査の

主導権を握られるわけにはいかないという思惑も存在

しました。
そもそも戦争が終わりました、はい、ナチス党員だった

国民のすべてがその思想から解放されました。などと

言うわけがない。表面上は新生ドイツのように見えて

いても、ドイツ人の心の中からナチズムが全て消えた

はずもないのです。現に公職に就けないはずのナチスの

幹部が、首相の側近だったり、警察幹部だったり、あげくは

司法の場にもぞろぞろいるわけで、彼らにとってナチスの

戦犯捜しは西ドイツの信用を傷つけるものに他ならなかった

のも理解できます。映画の序盤に裁判風景が映りますが、

決して公平な裁判とは言えないのです。またユダヤ人で

あるバウアーには毎日脅迫状が数十通届くし、脅迫電話も

かかるし、家の塀には差別的な落書きをされてしまう。

これらが全て今のドイツで許されないことになっているのが

ある意味画期的だと思うのです。

 

検事フリッツバウアー
出典:IMDb

 

またバウアーの部下として起用した血気盛んな若い検事ヘルは、

戦後育ちであり、ナチスドイツの行ったことを全て知っている

わけではないことも歯がゆく感じます。「顔のないヒトラーたち」

で、若い検事が真実を知るたびに驚愕の表情を浮かべ、証人の言葉に

タイピストが涙にくれるシーンもありました。大変残虐な行為

だったけれど、それはどこでもいつでも起こり得ると思えて

しまうのが本当に恐ろしい。今でも世界のどこかで起きている

かもしれないのです。
バウアーがアイヒマンをモサドに確保させ、イスラエルは

まるでショーのように裁判を行うわけですが、何度聞いても

怖いのは、彼が

「600万ではなく1080万殺せば胸を張れた。ユダヤ人を亡ぼせた」
と言い切ることです。しかしそれはアイヒマンが一人で考えついた

ことではなく、ハンナ・アーレントが考察した通りかもしれません。

つまりユダヤ人としては、アイヒマンらを真っ向から非難し、

断罪することが当時の常識でしたが、彼女はそれをしなかった。

善悪を考える力もない連中の犯罪だった、と主張したわけです。

それは、単純な正義を振りかざす者に『お前は程度が低いよ』と

言ったようなもの。

 

検事フリッツバウアー
出典:IMDb

 

このあたりは映画では全く描かれておらず、バウアーが

東ドイツやイスラエルの人々と接触するうちに、彼自身が

西ドイツ内でスパイの疑惑を掛けられ、監視対象になって

いたことや、彼自身の性癖が当時のドイツでは刑法の抵触

するものであったことなど映されていきます。ヘル検事が

いかにも典型的なドイツ人の妻を持ち、かなり裕福に

暮らしているのも対照的に映るのです。
アイヒマンが証言すると立場が危うくなる公人が多くいた

けれど、それを暴かないで、つまり過去の悲劇と真摯に

向き合うことなくして、学び前進することはあり得ないと

いうことは確信できます。
そしてそれを行えたことこそが、ドイツが法治国家である

ことの証でもあると思うのです。
人間の基本的権利を守ること=司法の責務だとこれからも

ずっと信じられる国でいたいものです。

 

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幸福の罪

4

JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

幸福の罪

出典:IMDB

 

「幸福の罪」

原題:Nevinnost

監督:ヤン・フジェベイク

2011年 チェコ映画 102分

キャスト:オンドジェイ・ベトヒー

     アニヤ・ガイスレロバ

     ヒネク・チェルマク

 

リハビリ医をしているトマシュは、患者だった少女への

児童虐待の疑いで警察に通報され逮捕される。捜査を

担当するのは、トマシュの妻ミラダの前夫ラダであり、

彼女はラダへ憎悪の気持ちを募らせる。一方ミラダの

妹リダはトマシュや姉を信じ、父の介護をしながら

明るく振舞うのだったが..。


<お勧め星>☆☆☆半 表面上の幸福に隠された秘密が

1つの出来事をきっかけに露呈していく様が美しい音楽、

景色と共に描かれています。


「愛し合う」の意味


とても意味深なオープニングです。10代前半の下着姿の

少女を横たわらせ、腰から足にかけて触り、その動きを

確認する中年男性。よく見ると背後に看護師が映りこんで

いることから、この男性トマシュがリハビリ医であることが

わかるのです。ふむ、これは治療の一環だから何の問題も

ないよね。

 

幸福の罪

出典:IMDb
 

そして裕福そうな大家族が映り、彼らの人間関係を知ろうと、

まず必死になります。とりあえずは、認知症気味の老人は、

一家の主で、ミラダとリダ姉妹の父親らしい。ミラダには

息子ダニーと娘テレザがいるけれど、トマシュとの実子は

テレザで、ダニーは前夫ラダとの間の子供らしい。同じような

名前ばかりで混乱しますよね。映像を見ていると容貌がかなり

個性的な人たちばかりなのですぐに覚えられます。この一家は

プール付きの邸宅に住んでいて、なかなかよろしい生活を送って

いる模様。ただリダは父の意に反して、歯科医の大学を中退し、

施設や病院を回って、人々を励ます仕事をしているのです。

 

幸福の罪

出典:IMDb

 

この時に扮しているのが「ピエロ」。「ピエロ」というと一番に

思い浮かべるのが「ホラー」ですが、このリダの演じるピエロは、

本来の意味である「道化師」そのものの表情をしているのが

気にかかります。「クラウン」(2014)のように

鼻が取れない!!

なんてことは全くありません。
この表情が意味するものが分かるのは映画のかなり後半であり、

そこで一気に全てが見ている側に伝わります。しかしそれは映画の

中の人々がその時全員知っているわけではないのです。それを

知った時の状況は描かれないので脳内で推測するしかありません。

 

幸福の罪

出典:IMDb
 

そして事件の発端となるのが、オリンカという少女の親からの

通報で、彼女の日記を読むとまるでトマシュがオリンカを

性的虐待したかのように書かれているし、オリンカ自身も肯定

します。これがどう考えても夢見がちな少女の妄想の域を出て

いないのに、事件の担当がミラダの前夫ラダだったことで、

ミラダは怒りを募らせるのです。実はミラダは、ラダと結婚

している時にトマシュと浮気をし、テレザを授かったことから、

離婚、そして再婚しています。

「ラダが今になっても嫌がらせをするんだわ。」

この時に怒りをぶつけるラダの言葉は、ちょっと言い過ぎよ〜と

思うほど。追いつめられると言ってはいけない境界線を越えた

ことを気づかないまま言葉として発してしまうのかしら。

発してしまうな、きっと。
一方誕生日パーティーを自宅で開催し、あんなに盛り上がったのに、

この事件でテレザは友達から後ろ指をさされるわけです。

「患者の少女に性的虐待した医師逮捕」

なんてネットニュースが流れたら当然ですよね。
そんな中でリダだけが皆をなだめ、トマシュを信じ、事件前と

変わらない振る舞いをしています。しかし...。
たった一つの出来事で、表面上は幸せに暮らしていた人々の心が

大きくざわつき、思いもかけない方向へと向かってしまう。

それは地球温暖化の象徴映像としてしばしば使われる南極の

氷山が溶けていく姿を彷彿とさせるものでせす。溶け出した

ものはもう二度と凍ることはない。しかしそれはこの一家だけ

ではなく、ミラダの前夫で警官をしているラダにとっては、

妻を寝取られた15年前から始まっていたことなのかもしれません。

彼は妻を失い、息子(知的障がいのため施設に入っている)の

送迎もしなくていいと言われ、日々、クズや負け犬のような

犯罪者や悲惨な犠牲者ばかり見続ける人生になってしまった。

彼にとっては何もかも気に入らないことばかりだと思う。

希望すらも見えないじゃないか。
ラストは本当にゾクリとするもので、妄想癖は自分だけでなく

相手にも大きな恐怖を与えるのだと実感するのです。

 

 

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ブルーム・オブ・イエスタディ

4

JUGEMテーマ:洋画

 

ブルームオブイエスタデイ

 

「ブルーム・オブ・イエスタディ」

原題:Die Blumen von Gestern

監督:クリス・クラウス

2016年 ドイツ=オーストリア映画 123分 

R15+

キャスト:ラース・アイディンガー

     アデル・エネル

     ヤン・ヨーゼフ・リーファース

     ハンナー・ヘルツシュプルンク

 

ナチスの戦犯を祖父に持つトトは、ホロコースト

研究に力を注いでいる。その彼が務める研究所に

アウシュビッツで祖母を殺されたザジという研修生が

やって来るのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 過去は消し去ることはできない

けれど、未来には希望を持ち続けたいという思いが

伝わる映画です。


カルミアという名前


しょっぱなから2人の男がいがみ合い、遂には殴り合い

の大けんかになるシーンが映ります。口から唾を飛ばす

ような、いや飛んでいるに決まっているほどの罵り合い

の喧嘩ってなかなか日本では見ないよな。そのシーンに

驚いていると一人の老教授がぽっくり亡くなります。

喧嘩をしていたのはバルタザールとトトで、トトが全て

段取りを手配したのに、いざ会議を行うとなったら、
バルタザールが指揮をとることになっていることが原因

らしい。後に、なぜトトでないのか、多分これが理由だと

わかるシーンが出てきます。とにかくこの映画では言葉の

応酬が激しく、研修生としてフランスから来たザジとトトも

車がベンツであったことから、乗る乗らないで喧嘩になって

しまう。なぜベンツに乗らないのかは、ここですぐに

わかってしまうけれど、それが重苦しくなく、
「ガス・トラックの車種はベンツではなくオペル」

などとぶつくさトトが妻に愚痴る辺りで笑いに変わります。

笑っちゃいけないことなのに、何でも知っているつもりで

いるザジへの反論の場がなくてトトが妻に話すあたりは

彼の心の優しさも物語るかのようです。

 

ブルームオブイエスタデイ
 

しかし走行中の車から犬を放り投げるのはいただけません。

あのシーンは必要だったんだろうか。
実はトトの祖父はナチスの将校であり、ザジはユダヤ人の

祖母をアウシュビッツ収容所で殺されたことが、序盤に

わかるんですが、これは偶然ではなく事前にザジが調べ上げて

いたことを知ると、その事実に言葉を失います。ただ

ナチスドイツを描いた幾つもの映画のように、その悲劇的な

状況のみを見せるのではなく、世代を超えても残る憎しみの

連鎖の中に、それを断ち切ろうとする気持ちが芽生える
瞬間、まあそこはベッドの上なんだけど、新しい歴史が

開かれた気が少しだけするのです。ザジ役のアデル・エネルを

どこかで見たなと思っていたら「午後8時の訪問者」の

ヒロインの女性医師役を演じていました。

 

ブルームオブイエスタデイ
 

このザジはかなり奔放で、既婚者であるバルタザールと

恋人関係であるとトトに話すし、逆にトトは性的に不能で、

黒人の養女を育てており、妻は公認の男遊びをしている。

なんともややこしい。

 

ブルームオブイエスタデイ
 

これらの設定と彼らの過去を遡る旅とアウシュビッツ会議開催

に向けての準備が同時に描かれていき、次第に心を惹かれ合う

トトとザジの姿には、何となく胸キュンとなるのです。トトの

脳天の薄毛もここは可愛い...のかな。さらに2人はどちらも

心を病んでおり、特にザジはトトと一緒にいた時、リストカット

をしてしまいます。「5回やったの」さらりと言う彼女の心の闇

はなんでしょうか。
またザジがトトを誘惑すると、トトが「ぼくはエイズなんだ」と

言い、間をあけずに「あたしもエイズよ」とザジが返します。

え?と思うけれどもちろん嘘で、この絶妙な会話の繰り返しで、

ストーリーが重苦しい内容なはずなのに、明るく感じられて

しまうのかもしれません。
「あなたの歴史が好き。わたしの歴史だから。」この言葉は

本当に心に深く深く染み込みます。

「あの時代さえなければ」と思った人々がどれほど多くいたこと

でしょう。そして今逆にその暗黒の時代へ時計の針が戻ろとして

いることを絶対に止めないといけないと思うのです。
ラストのクリスマスの買い物シーンは良かったな。ザジの連れて

いる子供が実は女児で「カルミア」という名前だってすぐに

わかったけどね。

 

 

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僕とカミンスキーの旅

4

JUGEMテーマ:洋画

 

僕とカミンスキーの旅

 

「僕とカミンスキーの旅」

原題:Ich und Kaminski

監督:ボルフガング・ベッカー

2015年 ベルギー=ドイツ映画 123分 

R15+

キャスト:ダニエル・ブリュール

     イェスパー・クリステンセン

     アミラ・カザール

     ドニ・ラバン

 

マティス最後の弟子で盲目の画家カミンスキーの

伝記を執筆するため、自称美術評論家ゼバスティアンは、

彼の住んでいるスイスの山奥に向かう。しかし

カミンスキーを含め、周囲の人物たちに翻弄されつつ、
なんとか彼の元恋人を訪ねる旅に出発するのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 奇想天外なストーリーには

やはり驚かされますが、ラストには心が温かくなります。


何も捨てるものがないなら、それを捨てろ


「グッバイ、レーニン!」(2002)の

ボルフガング・ベッカー監督が同じくダニエル・ブリュール

を主演に製作した映画です。わたしは

「グッバイ、レーニン!」が大好きで、星5つの評価を

つけた記憶があります。
「オスタルギー」東西ドイツ統一後に旧東側出身者の

「昔だってそんなに悪くなかった」という感情を表す言葉を

初めて知ったのがこの映画です。東西ドイツ統一期に

昏睡状態になった母親が、ある時奇跡的に覚醒し、しかし

心臓発作で倒れたことを考慮して、息子が母親のために、

ドイツは分断されたままだと偽ニュース映像を作り続ける

というものでした。この苦労がしばしば水の泡になりかける

のをあの手この手でごまかすのですが、その手法は大笑い

の連続で、だからこそ息子の母親への深い愛情を感じるし、

最後のニュース映像は「多くの人の理想」を語っており、

それを見ると、現実との格差に思わずハッとしてしまうのです。

昔はよかったという思いは、過去の記憶が美しく書き換え

られていることに気づかないことが多いので、要注意。
その期待感を持ちながらこの映画を鑑賞。冒頭から流される

ニュース映像がフェイクであることにいつ気づいたかしら。

 

僕とカミンスキーの旅

 

前半は、自称美術評論家のゼバスティアンが、盲目の

画家カミンスキーの伝記を執筆するため、

「突撃!隣の晩ごはん」もしくは「鶴瓶の家族に乾杯!」の

ようにほぼアポなしで現地に向かい、ぶっつけ本番のような

取材をするのです。そこにはほんわかムードはないですよ。
むしろ胡散臭い、煩わしい、よそ者お断り感でいっぱいです。

徒歩で30分という裏の山を登って汗みどろになっていると、

実はタクシーで家の前まで行ける。嘘ではないんですよ、

宿主のただの意地悪です。

 

僕とカミンスキーの旅

 

カミンスキーの娘ミリアムに冷たくあしらわれても、

図々しくディナーの席に座っていたりするゼバスティアンは、

どんな扱いを受けようとも、とにかく金儲けがしたいという

欲にまみれているのが丸わかりです。この伝記を執筆中に
カミンスキーがぽっくり亡くなれば、本は売れるし、この娘

と結婚し、屋敷も手に入れて...。この妄想が映像として

現れてしまうのです。時々聞こえる心の声も、普通の会話

の声と全く変わらない大きさなんですよ。ああ、こんな風に

言ってしまいたいことってたくさんありますね。この間に

恋人に愛想を尽かされて別れを告げられるし、もうやる

しかないのです。
しかし後半になると、カミンスキーの気をひくために提案した

元恋人テレーゼ話に、彼が飛びつき、なぜかゼバスティアンと

カミンスキーが車で旅を開始することになります。この珍道中には
山あり、谷あり、同乗者あり、追跡者ありと波乱万丈で、

何ならこれを執筆したら面白い小説になるのにと思ってしまう。

そしてようやくたどり着いたテレーゼの家のドアを開けると、

なんとジェラルディン・チャップリン演じるテレーゼが、

それはそれは可愛い姿でちょこんと座っています。

 

僕とカミンスキーの旅

 

ここからはもう笑うしかありません。
映画のラストは、海辺に座ったカミンスキーが次第に絵に

変わり、それは赤い達磨大師のように見えてくるという、

極めて印象深いものになっています。「無功徳」というものを

身をもってゼバスティアンに伝えたのかもしれません。

 

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プラネタリウム

3

JUGEMテーマ:洋画

 

プラネタリウム

 

「プラネタリウム」

原題:Planetarium

監督:レベッカ・ズロトブスキ

2016年 フランス=ベルギー映画 108分 

PG12

キャスト:ナタリー・ポートマン

     リリー=ローズ・デップ

     エマニュエル・サランジェ

     ルイ・ガレル

     アミラ・カサール

 

1930年代のフランス。アメリカ人のローラと

ケイト姉妹は降霊術ショーを行っている。その

ショーに関心を持った映画プロデューサー、コルベンは

彼女たちに私的な降霊会を依頼し、さらには自宅に

住まわせ、映画を製作しようと考えるのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 美しい景色、衣装、音楽を

堪能しつつ、隠された悲劇を感じ取ることができる

映画です。


何も期待せず、希望だけ


ヒロインのバーロウ姉妹のうちローラ役は

ナタリー・ポートマン、ケイト役は、ジョニー・デップの

娘、リリー=ローズ・デップが演じています。

 

プラネタリウム
 

プラネタリウム

 

とにかくこの映画の雰囲気が素敵なのです。冒頭の降霊術

ショーを行うときのローラーのキリっとしたたたずまいには

気品さえ感じ、一方妹ケイトは、内気で純真でかなり幼く

感じられるのです。この対照的な姿が映画内でずっと

見られます。
1930年代のフランスですから、まだ戦争が始まっておらず、

上流階級の人々が優雅に遊び、シャンパンのグラスを傾け、

タバコを吸う。彼ら、彼女たちの衣装やヘアスタイル、

調度品にいたるまでその美しさに目を奪われます。
肝心のストーリーはどうか。実は何を言いたかったのか明確には

理解できていません。そもそも「プラネタリウム」という題名

すらもどういう経緯でつけられたのか、見る側が考えるしか

ないのです。
霊的な能力はないけれど、天性の美貌の持ち主であるローラは、

女優として役をこなし始め、霊的な能力を持つものの存在感の

薄いケイトは、コルベンに重用され、彼女の降霊シーンを映画に

残そうと、あちこちを飛び回る。この才能の違いが、深く

つながっていた姉妹の絆に少しだけ傷をつけてしまったような

気もするのです。そしてそこに戦争が大きく影を落とし始めます。
ただ戦争を主体に描く映画ではないので、あくまでも登場人物の

セリフやわずかなシーンで、時代が変遷したことを知るのみです。

そこがまたいい。
幾つも美しいシーンはありましたが、強いてあげるなら、序盤に

雪が降り始め、パーティーに来ていた客が雪の中はしゃぎまわり、

雪合戦を始めるシーンと、ローラが映画撮影に訪れた南仏の

真っ青な空と明るい陽射しです。

 

プラネタリウム
 

そしてコルベンの願いは理解されることがないまま、彼は

ポーランド系ユダヤ人だったことで拘束され、裁判を受け、

移送されていきます。彼が「あれは中傷ではなく憎悪だ」と

ローラに訴えた時、あの優雅な時代はとっくに終結し、時代は

戦時中になったのだと実感するのです。
降霊術によって他人に見せたものは、その人が見たかった世界で

あり、必ずしも「真実」ではないかもしれない。つまり「本物」

を見ているわけではないのではないか。したがってプラネタリウムの
星と同じなのではないかと思っています。
ちなみにバーロウ姉妹のモデルは19世紀アメリカで

スピリチュアルブームを起こしたフォックス姉妹であり、

コルベンはベルナール・ナタンという伝説の映画プロデューサー

だそうです。

 

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ありがとう、トニ・エルドマン

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ありがとう、トニ・エルドマン

 

「ありがとう、トニ・エルドマン」

原題:Toni Erdmann

監督:マーレン・アーデ

2016年 ドイツ=オーストリア映画 162分 

PG12

キャスト:ペーター・シモニスチェク

     サンドラ・フラー

     ミヒャエル・ビッテンホルン

     トーマス・ロイブル

 

悪ふざけが大好きなヴィンフリートは仕事に追われる

娘イネスを心配している。そして彼の愛犬が亡くなった

のをきっかけに、突然娘が暮らすブカレストへやって

来るのだった。


<お勧め星>☆☆☆半 とにかく長い。独特のテンポが

あって飽きることなく見られるけれど、長い。


その瞬間を生きる


映画の出だしのヴィンフリートの悪ふざけが全く笑えない

ので、少々不安になります。これは「Mr.ビーン」のように

どっちらけ映画になるのではないか。いやあれがイギリス風

ユーモアなんだからあれで笑わないとオシャレじゃないのよ、

という心の声はとても小さく「Mr.ビーン」より「Mr.Boo!」

の方が絶対面白いのだという絶叫にかき消されています。

(注:個人の好みです)
ヴィンフリートは老犬ヴィリーと暮らしていて、どうやら妻

とは離婚し、近くに住む老母の様子を見に行くのが日課らしい。

娘イネスが久しぶりに実家に戻ったということで妻の元を

訪れると、イネスは電話でずーっと話をしており、父娘の

団欒など夢のまた夢。ヴィンフリートは寂しいというより、

イネスをとても心配になるわけです。そして愛犬が亡くなった

後、ヴィンフリートは突然イネスの働く会社を訪れます。

母国ドイツを離れてルーマニア、ブカレストで働くイネスは、

ばりばりの仕事人間。そこにひょっこり現れたヴィンフリートは、

変なかつらと入れ歯で変装?をし、適当な職業を名乗るのです。

 

ありがとう、トニ・エルドマン
 

この変装に何か意味があるのかと深く考えようと思いましたが、

もしかしたら何も意味はなくて、ただ娘を笑わせたかっただけ

なのかも?などと思い画面を見続けます。
イネスは大きなプロジェクトを抱えており、変なおやじに

かまっていられないのに、行く先々に現れる父(トニ・エルドマン

と名乗る)にリズムを狂わされてばかり。とはいえ、イネスが

ほとんど笑わないのもとても気になります。いつも眉間にしわを

寄せ、顧客や上司、チームとの会議や電話に私生活の大半を

奪われている。恋人らしき同僚ティムとの逢瀬も普通じゃない

よねえ。クラブに行っても楽しめず、一人でタクシーで帰る始末。

これはちょっとまずい状況じゃないのかと思っていると、やっぱり

父がいたずらをするんです。ここはもうイライラマックスですね。
ところが序盤から感じるのですが、イネスがホテルに滞在するとき、

とても横柄な態度をとり、父が「あれはやり過ぎだ」と言うと

「うちの会社はお得意様だから」と答えます。その階級意識と

いうのでしょうか、顧客への対応と自分たちが客であることでの

態度の格差が大きすぎるのではないか。またイネスの会社が

関与する石油採掘現場での作業員への冷淡な対応や生活の格差に

彼女は何も感じず、ひたすら合理化のことばかり考えているわけ

です。ルーマニアのブカレスト市内の洗練された都会と全く異なる

田舎の姿は、そのまま貧富の差を物語るけれど、それすらも全く

意に介しません。
これでは「お前は人間か?」と父に問われても仕方がない。しかし

それらを全て見過ごさずにすくい上げていたら、彼女の会社の

仕事が成り立たなくなるのです。この辺りの矛盾はイネスや

ヴィンフリートが何かをしたところで絶対に変わるはずのないこと

でしょうね。余談ですが、この採掘作業のような労働を移民が安価で

請け負い始めたヨーロッパでは、元々の住民の仕事が奪われたわけで、

それにより移民排斥の機運が高まっていく構図もわかる気がします。

自分たちの生活を脅かす存在がこれ以上増えることを望む人間は

そうそういないと思う。どうしたら寛容な世界が生まれるのだろう。
イネスは自分の誕生日パーティーに何を着るかドレスが決まらず、

遂に素っ裸になるのです。素っ裸にはならないだろうけれど、時間が

迫った時に服が決まらない時の焦りは手に取るようにわかります。
こんな時に限って服がパツンパツンで脱げないんだよな。

汗が出るよな。でもこの姿を見ると、彼女が本当に切羽詰まった

状態で、コップの水が今にも溢れそうなくらいにたまっていた時の

ような心でいたことが理解できるのです。ちょっと揺らしたら

溢れちゃうんですよ。ちなみにこの時のイネスより部下のアンカの

ヌードの方がずっと魅力的です。

 

ありがとう、トニ・エルドマン

 

アンカはただ自分の存在を認めてほしくて裸になり、上司

ゲラルトは、イネスに機嫌よく仕事をしてほしくて裸に

なったんだろうか。どちらにしてもその後突然ブルガリアの

魔除け「クケリ」姿で現れる父の姿の方が、インパクト大です。

 

ありがとう、トニ・エルドマン
 

そして公園で抱き合って泣く父娘。この絵が短いガウン1枚の

女性と「クケリ」なので泣くに泣けないという感じになります。

娘の幸せのために、ひたすら自分の時間を削る父の姿を見ると、

親子のつながりの強さを実感するとともに、実は似た者同士

なんじゃないかと思ってしまいます。同じように入れ歯をはめて

帽子をかぶって笑うと...似てない。

 

ありがとう、トニ・エルドマン
 

「生きる意味」=その瞬間は気づかないけれど、後になって

もっと大事にすればよかったと思う瞬間を逃さないように、

そして自分のために使うことが大事なんだと思います。

それはとても難しいことだけれど。

 

 

 

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ハッピーエンド

4

JUGEMテーマ:洋画

 

ハッピーエンド

 

「ハッピーエンド」

原題:Happy End

監督:ミヒャエル・ハネケ

2017年 フランス=ドイツ=オーストリア映画 

107分

キャスト:イザベル・ユベール

     ジャン=ルイ・トランティニヤン

     マチュー・カンビッツ

     ファンティーヌ・アルドゥアン

     フランツ・ロゴフスキ

 

母親が薬物過剰摂取で入院したエヴは離婚した

父親トマの家に住むことになる。彼の実家は裕福で

あり、はた目には幸せそうに見えるのだったが、実は

家族それぞれが心に秘密を抱えていた。


<お勧め星>☆☆☆半 ラストがいかにもハネケ監督

らしいという感じでしたが、深く深く考えさせられ

ました。


無関心が悲劇を招く


ミヒャエル・ハネケ監督映画でこれまで見たものは
「ベニーズ・ビデオ」(1992)

バーチャルの世界にのめりこんだ少年の歪んだ心 ×
「ファニー・ゲーム」(1997)

見終わって嫌悪感と不快感しか残らない ×
「隠された秘密」(2005)

血も凍るような復讐の真相は? 〇
「白いリボン」(2009)

純粋無垢の象徴である白いリボンが与える抑圧 〇
「愛、アムール」(2012)

唯一見終わってしみじみと感動します 〇
と個人の好みで〇×をつけてみましたが、人間が不快に

感じることが、まだ生への希望を抱いている証と監督

自身が言うだけあって「不快」「嫌悪」を見る側に

これでもかと見せていくのがまことにうまい。だから
2度と見たくない映画も出てくるわけです。

この映画は冒頭からスマホで自分の母親を動画撮影

しながら、誰かとチャットしている少女がおり、その後

飼っているハムスターのショッキングなシーン、そして

母親の救急搬送、入院まで進んでいくのです。

 

ハッピーエンド
 

この不穏な空気感は主人公の少女エヴが、離婚した父親で、

富豪の息子であり医者をしているトマの家に向かってからも

くすぶり続けるのです。最初誰かわからなかったけれど、

トマは妻アナイス、息子ポールがいるにもかかわらず
チェリストと不倫をし、卑猥なチャットをしています。この

内容ももう字幕を追うのが嫌になるほどのもの。ああ、この

トマは根っからの女好きかつ変態なのだろうと思ってしまう。

 

ハッピーエンド
 

一方トマの姉で建設会社の社長アンヌ役はイザベル・ユベール。

出演した映画では「愛、アムール」よりも「アスファルト」

(2015)の方が未来への希望が強く感じられてわたしの

大好きな映画の1つになっています。
アンヌは父ジョルジュが母の介護のため引退した後家業を

継いでおり、バリバリのやり手なんですが、息子ピエールは

どうもヘタレで、彼女の過干渉ゆえか酒浸り。そうなんです。

エヴが初めてこのロラン家の食卓の前に座った時、みなが

自分の世界中心に動いていて、家族であっても相手への関心が

ほとんどないつまり理解しようとする気持ちすらないことに

気づくのです。唯一ジョルジュだけが関心を持っているよう

だけれど、彼は認知症ですぐに忘れてしまう。

 

ハッピーエンド
 

ジョルジュはその後車の事故を起こし、車いす生活になると、

自殺願望を抱くようになるのです。それはトマの浮気を知って、

自分の居場所がなくなることに絶望し自殺を図ったエヴが

体験した「死」と共振し、二人は心を通わせたかのように

思えるのですが、いやいやエヴは本心はsns上の匿名の誰かに

しかそれを明かしません。ここが複雑なところなのです。

誰かが共感を持ち、この家族が未来に向かって明るく再出発!!

などというありきたりの展開にならないのはわかっていた

ことかな。
ロラン家があるカレーという街は美しい場所であるけれど、実は

移民、難民(イギリスへ密入国するための拠点)問題を抱えて

いることに、彼らは一切関心を持たないのです。持っていない

ことがわかるかのようにそういうシーンはほとんど映りません。

アンヌが経営している建設会社の作業員たちの多くが移民であり、

経済的に困窮していることは、死亡事故の当事者の姿を見て

一目瞭然なのに、法と金銭で解決し、会社が盤石であること

しか興味がない。それは自分の家族に対しても全く同じで、

逆に言うと、家族に関心のない者が他人に関心を持つはずも

ないのです。
ラストに突然スマホを取り出し、撮影を始めるエヴの姿と、

慌てて走って行くアンヌとトマの姿に未来への希望が見えた

でしょうか。

 

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めぐりあう日

4

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めぐりあう日

 

「めぐりあう日」

原題:Je vous souhaite d'etre follement aimee

監督:ウニー・ルコント

2015年 フランス映画 104分

キャスト:セリーヌ・サレット

     アンヌ・ブノワ

     ルイ=トゥ・ランクザン

     フランソワーズ・ルブラン

     エリエス・アギス

 

パリに住むエリザは、生みの親を捜すため調査会社に

よって知った出生地ダンケルクへ息子とやって来る。

しかし守秘義務のため実母の名前は明かされず、彼女は

理学療法士として働きながら自ら調査を進めるが..。


<お勧め星>☆☆☆ 一人の女性が自らのルーツを知り

再出発を始める話です。


あなたが狂おしいほどに愛されることを、

私は願っている


ウニー・ルコント監督は「冬の小鳥」(2008)で

知りましたが、あの映画では自身の少女時代を映画化した

もので、主演のキム・セロンの演技が心に深く深く突き

刺さりました。養子縁組に希望を抱く...というあらすじを

書いているものもあるけれど、映画内ではまるで動物の

譲渡会のように韓国の施設からフランスへ向かう少女が

映し出されます。その時の笑顔とその直前の彼女の行動は、

自らのルーツを捨てることへの葛藤と、新しい旅立ちへの

希望の両方を感じさせ、見終わってからも静かに考え

込みました。
この映画は同じように養子に出され里親の元で育ったエリザが、

実の母親捜しをするという内容です。エリザの現在の姿を

見る限り、里親の元で幸せに成長したことは間違いないの

ですが、なぜに自分のルーツを知りたがるのでしょう。
またそこへ息子ノエまでも巻き込む理由は何でしょうか。

 

めぐりあう日
 

彼女がダンケルクで生まれたことを知り、夫を残して

息子ノエとその地へ向かいます。なぜ夫と上手くいって

いないのかわかりません。ただノエの容姿がアフリカ系の

血筋を感じさせ、映画内でもそれを指摘するシーンがあった

ことからエリザは自分のルーツに深く関心を持ったのだと

感じるのです。

 

めぐりあう日
 

実母である女性と偶然つながり、それはノエともつながりが

あるというストーリーは、特に違和感がなく描かれていきます。

理学療法士をしているエリザは、多くの患者の体を素手で

マッサージし、それがまことに生々しく、肌と肌を通じて

感じるものが血の繋がりへと変わった時、エリザは混乱します。

 

めぐりあう日

 

なぜだろう。

また行きずりの男と一夜を共にし、それを責めるノエをなぜ

平手打ちするのだろう。彼女の混乱に息子を巻き込んでいると

いう夫の指摘はズバリじゃないだろうか。さらに序盤にエリザは

妊娠がわかり、すでに中絶できる時期を過ぎていたため、

わざわざベルギーで手術を受けるのです。妊娠を夫に告げない

理由とか中絶する理由とか全くわからないのです。
こんな多くの疑問を抱きつつ、ラストに笑顔で向かい合う2人を

見ると、かつて破壊された経験を持つダンケルクという町が

彼女にとっての再生の町に変わったことがとても幸せに感じて

しまいます。
原題の意味は

「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」で、

作家アンドレ・ブルトンの著書「狂気の愛」の中で、娘に宛てて

書いた手紙からの引用だそうです。この作家の名前も初めて

知りましたが、「愛されていたのか」ということを確かめる旅が

ダンケルクへの旅だったのかなとも思ったりしました。

 

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君はひとりじゃない

4

JUGEMテーマ:洋画

 

君はひとりじゃない

 

「君はひとりじゃない」

原題:Body/Cialo

監督:マウゴシュカ・シュモフスカ

2015年 ポーランド映画 90分

キャスト:ヤヌシュ・ガヨス

     マヤ・オマダシェフスカ

     ユスティナ・スワラ

     エバ・ダウコフスカ

 

検察官のヤヌシュは妻の死後摂食障害に陥った

娘オルガと暮らしながら、日々の仕事に追われて

いる。彼は娘の治療のためにアンナのセラピーを

受けさせるのだったが..。


<お勧め星>☆☆☆☆ 何がおかしいのかわから

ないけれど、ラストは泣き笑いしてしまいます。


思いやる心


冒頭に出てくる首吊りをした男は、綱を外して下に

おろすと、知らないうちにスタスタ立ち去ります。

このシーンの意味はいくら考えてもわからないのです。
さてこの映画は大きな特徴が2つあって、1つは

食べ物や食事は真上から撮影すること。

 

君はひとりじゃない

 

まるでインスタ映えを狙うかのようですが、むしろインスタ

不映えというくらいまずそうです。これには理由が

あって、ヤヌシュが検察官という仕事柄、遺体を検死

した後に口にする食事とか、摂食障害のオルガが

どうしても口に入れることができない食事を映すので、

敢えてこのように描かれていると思います。
もう1つはBGMが一切ないこと。ラストに

ジェリー&ザ・ペースメイカーズの

「You'll Never Walk Alone」が流れるのみです。これが

とてもいい歌だし、このシーンにぴったりなんです。

邦題はここから来たのかしら。映画の内容とはかなり

違うけど。

 

君はひとりじゃない
 

ヤヌシュが妻を亡くした悲しさ、寂しさとオルガが母を

亡くした悲しさ、寂しさは、比べる物差しがなく、特に

オルガは父を憎み、摂食障害を起こすことで、その

張り裂けそうな気持ちを封じ込めているかのようです。

 

君はひとりじゃない
 

そこに登場するセラピストのアンナは霊媒師であり、死者

との交信ができるらしい。霊媒師といえば「死霊館」の

ウォーレン夫妻が有名ですが、こちらはそんな悪霊相手

ではなく、死んだ息子から母への手紙が届くようなとても
優しいお仕事なのです。間違ってもあちらの世界に行って

悪霊を戦うわけではありませんし、そもそもそういう映画

ではないのです。
ヤヌシュの家で誰もいないはずの場所の窓が開閉したり、

急に電気がついたり、音楽が鳴ったり、足音がしたり..。

やはり妻ヘレナの霊が家に帰ってきているのかと思うヤヌシュ。

しかし一方で墓地の水道管が破裂し、妻の棺が流され、

中身を確認するとやはり妻はそこに入っているのです。
確かに死んで葬られているのです。それでも妻からの手紙を

見つけ、遂に自宅でヤヌシュ、アンナ、オルガで交信を

始めるのですが、ヤヌシュは吹き出してしまう。この気持ちは

とてもよくわかります。笑ってはいけないと言われ、とても

まじめに行うべきことなのになぜか笑えてしまうことが往々

にしてあるものです。
手紙はオルガが書いたものだと白状し、いつまでたっても霊

と交信できないまま、大いびきをかき始めるアンナの姿を

見ると父娘は思わず吹き出します。もう笑いが止まらない

のです。こういう共通の思いを持った時、離れていた心が

少しだけ近づいていくのでしょうね。
ここで流れるのが前述の歌です。父娘の半泣きの笑い顔は

なぜか晴れ晴れしていたなあ。わたしも思い出しても笑って

しまいます。

 

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