ルイの9番目の人生

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JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

ルイの9番目の人生

 

「ルイの9番目の人生」

原題:The 9th Life of Louis Drax

監督:アレクサンドル・アジャ

原作:リズ・ジェンセン「ルイの9番目の命」

2016年 カナダ=イギリス映画 108分

キャスト:ジェイミー・ドーナン

     サラ・ガドン

     エイダン・ロングワース

     オリバー・プラッド

 

9歳の誕生日をピクニックで祝っていたルイは

崖から転落し昏睡状態になる。これまで幾度と

なく不運に見舞われたルイだったが、父ピーターが

同時に姿を消したことから事件性が疑われ始める。

一方主治医アランはルイの母ナタリーと次第に心を

交わすようになり...。


<お勧め星>☆☆☆☆ 幻想的であり、序盤のコミカル

な雰囲気がサスペンスから愛情物語へと変貌して

いきます。


9番目が最高の人生


I'm always with you.そうだよ。心の中にはずっと

いるんだよ。くくく...。
生まれた時から数々の危険と向き合ってきた

「へんてこ少年」ルイ。この危険具合はコミカルに

描かれているけれど、1つ1つはかなり厳しい内容

ばかりなのです。しかしこんなに不運が続くことがある

のだろうか。

 

ルイの9番目の人生
 

そしてルイは9歳の誕生日を祝うために、父ピーターと

母ナタリー(彼女がまたとても綺麗で、今にも壊れそうで、

男性が守らないと生きていけないように感じられる)の

3人でピクニックに行き、崖から転落してしまうのです。

同時にピーターは行方不明となる。いったい何があったの

でしょうか。助けられたルイは息を引き取るのですが、

な、な、なんと検死直前に息を吹き返すのです。この
生き返り方がまさにホラーです。監督はわたしの大好きな

アレクサンドル・アジャ。だーかーらー、グロいシーンも

リアルなのでちょっと要注意かもしれません。
ルイは大けがを負っており昏睡状態が続いていて、その状況と、

かつて通っていたセラピーのパスカル先生との会話や

ナタリーと今度の主治医アランが親密になっていくシーンが

ポンポン放り込まれ、はて、ルイはなぜにこの状況になって

いて、なぜにピーターはいなくて、なぜにセラピーに行って

いたのかなどが少しずつ解き明かされていくのです。

 

ルイの9番目の人生
 

ルイの9番目の人生

 

ナタリー役のサラ・ガドンは、2017年世界4位の美女に

なっただけあり、これはもう反則と思うほど美しい。男性

たちが一目で心を惹かれていくのもよくわかるのですが、

そこは女性としたら「この女要注意」と感じるはず。これは

「女の勘」ですね。
おそらくは...と思うのは映画の中盤。しかし、それだけでは

説明がつかない状況はどうして起きたのだろうか。ストーリー

が進んでいくと、海底の洞窟に住む怪人まで登場し、これは

ルイの夢の産物と思いつつ、その意味を考えてしまいます。

 

ルイの9番目の人生

 

ラスト付近はとにかく切ないです。
美しいピクニックの映像から海中を浮遊する姿、そして洞窟

の入口の景色などは大画面で見たらさぞかし美しかった

だろうと思います。個人的にはとても好きな映画です。

 

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ありふれた悪事

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JUGEMテーマ:韓国映画全般

 

ありふれた悪事

 

「ありふれた悪事」

原題:Ordinary Person

監督:キム・ボンハン

2017年 韓国映画 121分

キャスト:ソン・ヒョンジュ

     チャン・ヒョク

     キム・サンホ

     ラ・ミラン

     チョン・マンシク

 

1987年、軍事政権下の韓国で、刑事ソンジンは

1人の男を連続殺人犯に仕立て上げるように指示

される。彼の親友で新聞記者のジェジンはその

冤罪を暴こうとするが、国家安全企画部が事件に

注目し始めたことから、ソンジンの立場は一変する。


<お勧め星>☆☆☆☆ 30年前の隣国の話ですが、

ぜひ見てほしい映画です。


常識の通じる世界にしたい


映画内で主人公の刑事ソンジンの息子ミングクが

足が不自由なことを理由に、同級生からいじめを

受けるのですが、彼は一切抵抗しません。ソンジンが

その理由を尋ねると

「じっとしていれば早く終わる」

と答えるのです。
1987年の韓国は、光州事件の後も続く軍事独裁政権

への国民の反発が大きな民主化抗争へと盛り上がって

いった時期です。冒頭に映しだされる学生運動とそれを

鎮圧する警察の機動隊は、1960年代の日本のそれを

思い出します。
こんな時代、刑事ソンジンは上司から連続殺人事件の

犯人確保に向けて迅速に捜査を進めるように上司から

叱責されます。これは韓国映画ではよくある風景で、

とりあえず怪しい人物を拘束、とりあえず自白を強要し、

犯人に仕立て上げて自分は昇進、と思い描くソンジンには

耳が不自由な妻と足が不自由な息子がいるし、暮らしは

大変貧しいわけです。

 

ありふれた悪事

 

といって彼が無能かというと、連続殺人犯が知能や体の

障がいから、絶対にこの男ではないと気づいているし、
親友ジェジンは、有能かつ正義感溢れる新聞記者なのです。

 

ありふれた悪事

 

とはいえソンジンのような小市民が、絶大な権力を握って

いた国家安全企画部のギョナムに逆らえるはずもありません。

いや声をかけてもらったことで大きな便宜を図ってもらえ、

金も手にしたので、自分も大きな人物になった気がしてしまう

のは当たり前のことなのです。将来の希望のために目先の欲に

負ける。真実をねじ曲げてもギョナムに従う。そんな姿を見て

「常識が通じる世界にしたい。いい方向に向かうさ」と言い

続けた記者ジェジンはどうなったのか。

 

ありふれた悪事

 

さらにソンジン一家が身の危険にさらされた時、彼は初めて

自分が「単なるコマの1つ」に過ぎないと気づくわけです。

コマは幾つでもあるし、使えないものは捨て去られるのです。

ジェジンの尋問、拷問シーンは本当に心が苦しくなり、
日本で特高に拷問され、虐殺された小林多喜二を思い浮かべて

しまうのは私だけではないはず。
教育、警察、報道が独立してそれぞれの使命を果たさなくなった

時代が訪れたとしたら、それはまた同じことが繰り返される

のではないか。30年前の韓国の姿を見て、二度とこんな

ことが起きてほしくないと考えるのは高望みでしょうか。

それともう一つ、ギョナムが放った言葉

「国民の心をコントロール」

するということの恐ろしさは「ダークレイン」(2015)で、

最初は抵抗していてもみな同じ顔になり、それが自分では

気づかなかったり、気づいていても気づいていないふりを

するようになる、という決して起こっていけない世界に

変わってしまうきっかけになると思うのです。

 

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静かなる叫び

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JUGEMテーマ:洋画

 

静かなる叫び

 

「静かなる叫び」

原題:Polytechnique

監督:ドゥヌ・ビルヌーヴ

2009年 カナダ映画 77分

キャスト:マキシム・ゴーデッド

     セバスティアン・ユベルト

     カリーヌ・バナッス

     エブリーヌ・ブロシュ

 

1989年、12月、モントリオール理工科大学で、

1人の男子学生による銃乱射事件が起きる。女子学生

ばかりを狙ったその事件で辛うじて生き残った

ヴァレリーの心に傷は癒えることがなく...。


<お勧め星>☆☆☆☆ 少ない情報の中で犯人、犠牲者

たちの思いを想像させることができます。


男の子なら愛を、女の子なら世界に

羽ばたくことを教える


1989年、12月、カナダのケベック州にある

モントリオール工科大学で実際に起きた銃乱射事件を

もとに製作された映画で、

「未体験ゾーンの映画たち 2017」

上映作品です。監督は「ボーダーライン」(2015)、

「メッセージ」(2016)、「ブレードランナー2049」

(2017)のドゥヌ・ビルヌーヴ。全編モノクロであり、

それは当時の雰囲気を醸し出すためなのか、それとも

あまりに凄惨な事件であったためなのか、その両方

でしょうか。
事件を、犯人、被害者、そして被害者たちを助けようと

した男子学生の視点から描いていきます。犯人の学生が

抱いていた反フェミニズム精神は、女性全員に向けられて

おり、なぜそこまで女性を憎むのかと考えます。しかし

それはこの犯人が、学内を歩き回っても、他のどの学生も

声をかけることすらなく、銃を発射して初めてその存在に

気づかれるという、絶対的な孤独感に包まれていたことが、

映像から伝わります。

 

静かなる叫び
 

また冒頭に彼が書き残す遺書めいた手紙の内容からも彼の

いびつな、極めていびつな考えを知ることができるのです。

犯人の家庭環境や交友関係など一切描かれないことが、見る

側に余白を残した内容として与えられ、それをどう考えるか、

というのが監督のメッセージの1つかもしれません。

 

静かなる叫び
 

一方、被害に遭った女子学生で重傷を負いつつ生存した

ヴァレリーは当日、就職の面接で

「子育てするために退職されてはかなわない」

と面接官に言われ、自分が「女性」であることが世間に出た時

いかに厳しい風にさらされるのか実感したばかり。さらに

そのヴァレリーにノートを借りる男子学生は、事件が起きた時、

犯人の言うなりになって女子学生を残して教室を出たことを

深く後悔するのです。

 

静かなる叫び
 

あれは当事者でないとわからない。銃を持った犯人に

「男は出ろ」と言われて出ないことを選ぶ人間がいる

でしょうか。刃物ではなく銃ですよ。これらの映像を

時間軸をバラして描いていき、自殺する犯人の流す血と
被害に遭った女子学生の流す血が次第に混じり合うシーンが

映ります。これは同じ血が流れている人間なのだという

ことを意味しているのかもしれません。男女の差など単なる

性別の差だと。
事件後念願の航空会社の技術者になったヴァレリーが映り、

おそらくは夫と暮らしているのですが、それでも事件当時の

記憶がフラッシュバックし、悪夢に悩まされ続けているのです。

犯人は自分の目的を達成し、自らの意志で命を絶った。しかし

突然起きた事件で命を奪われた人々や生き残った人々の傷は

永遠に癒えることはないのです。ごく平凡な学生生活を送り、

夢を叶えたかもしれない人々の未来を一瞬で奪い去った犯人の

罪は誰が償うのか、いえ償うことができる者などいない。

二度と起こらせないことがせめてもの償いなのでしょうか。

これはとてもありきたりで、そしてあまりに消極的な考え

なのかもしれません。

 

 

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クーリンチェ少年殺人事件

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JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

クーリンチェ少年殺人事件

 

「クーリンチェ少年殺人事件」

英題:A Brighter Summer Day

監督:エドワード・ヤン

1991年 台湾映画 236分

キャスト:チャン・チェン

     リサヤン

 

1961年、台湾。中学受験に失敗した小四は、

夜間中学に入ることになる。そして不良グループの

縄張り争いに巻き込まれるうちに、一人の少女、

小明と出会うのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 久しぶりに長い映画をゆっくり

見ました。様々なシーンの意味を考えてしまう内容です。


手離した懐中電灯


映画の邦題にある殺人事件は、少年が殺害されたかの

ように思えますが、少年が殺人を犯したという意味なの

です。なんかややこしい。英題のA Brighter Summer Day

の方がポイントを上手くとらえていると感じます。
話の大筋は、1人の少年が1人の少女と出会い、周りや

自身の不幸な状況が重なり続けて遂には少女を殺害して

しまうということなのです。ただその背景に1961年

当時の台湾が世界において不安定な国情であり、中国本土

から移住した外省人と元々台湾に住んでいる本省人との
対立もあり、さらにはアメリカの影響を強く受けていた

時代であったことなどが、様々なシーンで映し出されていく

のです。
主人公の小四の家庭は、1949年に中国から台湾に移住した

ものの、昇進しないまま公務員として働く父と元教師で採用を

待っている母、英語が堪能な姉、不良グループに入っているけ

れど実は真面目で弟思いの兄、家族思いの姉、幼い妹が狭い家

にひしめき合って暮らしているのです。小四役のチャン・チェン

は「ブエノスアイレス」(1997)でトニー・レオンの2人目

の恋人役を演じたチャン・チェン。きれいな男性に成長したん

ですねえ。
食事のシーンは昔の日本映画を思い出させ、1つのテーブルに

全員が座って食べるという感じ。食べ終わった小四が入って

いくのは押し入れの下の段です。あれ?このシーン、最近観た

映画であったような...。
押し入れの中で、後に手に入れる懐中電灯を使って何かを

見たり、その明かりをつけたり消したりします。

社会の不安定さは大人の焦りにつながり、それは子供社会にも

波及していて、小四も不良グループ小公園に属しているのです。

対立するのは217というグループ。暗闇の中から突然飛んで

くるボールは目に見えない相手が敵であり、それが何かの脅威

を及ぼしているかのように感じます。

 

クーリンチェ少年殺人事件
 

冒頭の明るい日差しの下に描かれた小四と父の姿は、それが

建国中学入試失敗という結果から夜間部入学に変わると、ほぼ

夜の闇で活動するものに変わります。父はかなりプライドが高く、

多分本土ではインテリだったのでしょう。どこか相手を見下す

雰囲気があり、それは相手の敵対心を買ってしまうのです。

また小四の通う中学の教師たちの理不尽な言動は

「間違っていないのに謝るのはおかしい」

とい父の教え通りに振舞うと、さらに悪い方向に行ってしまう

ことに気づかない小四。全てが中途半端に大人で物事を理解

するのも不十分な少年の心は小明という少女に恋をすると、

これまた自分の中での理想像を彼女に当てはめてしまうのです。

 

クーリンチェ少年殺人事件
 

小明とデートをする時は晴れた昼間の空の下であり、それは

彼の胸の内を表しているかのよう。映画が小四の視点で描かれる

ので、彼が思っていることは理解できるけれど、他の人間の

心の中はストレートには伝わりません。逆に何気なく描く小明の

家庭環境や彼女が発する言葉は、小四が思い描いている小明とは

かけ離れた本質を持っているといつ頃から気づいたでしょうか。
もしかしたら終盤までわからなかったのかもしれません。映画の

オーディションで「泣き」の演技を求められると自然に涙が出せる。

恋人がいてそれはハニーというやけにかっこいい不良。母と

二人で居候生活を送る家庭環境..。
小四はたぶん賢い子供だったけれど、不運にも中学受験に失敗し、

不運にもカンニングを疑われ減点される。ここに弁明の機会は

ないのです。そしてまるでやくざの抗争のように台風の晩に起こる

不良グループへの襲撃事件。ここで使われるのが日本刀であり、

日本統治の歴史も感じます。
同時期に父も中国共産党との関係を疑われ、拷問に近い尋問を

受けることになります。この不遇な身の上はすべて台湾という

国の不安定な情勢に影響されたものにほかならないと思うのです。
小四が恋愛について純粋過ぎて、小明の本質に気づけなかったのか

とも思いましたが、ラスト付近に交わされる2人会話で
「君のことを全部知っているよ。でもいいんだ、僕だけが君を

救うことができる。君には僕だけだ」
「あなたも他の人と同じ。優しくするのは私の愛が欲しいからね。

でも、私はこの世界と同じ。変わることはないわ」
というものがあり、小四の傲慢さは父のみならず外省人の心を

描いていて、逆に小明の言葉は本省人が持つプライドと外省人や

大国への憎しみを描いているのだと感じます。

 

クーリンチェ少年殺人事件
 

この映画では男の友情が熱く描かれており、小猫王がずっと小四を

思い続けていることや、ボンボン小馬も小四だけが友人だと涙を

流すシーンを見ると、小四の一途な思いは一方的だけれど、それは

彼がまだ大人になりきれていなかったということで説明がつくし、

エンドロールに映し出される彼が死刑判決から懲役15年に

変わったことも心の救いになりました。

 

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オリエント急行殺人事件

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JUGEMテーマ:サスペンス映画全般

 

オリエント急行殺人事件

 

「オリエント急行殺人事件」

原題:Murder on the Orient Express

監督:ケネス・ブラナー

2017年 アメリカ映画 117分

キャスト:ケネス・ブラナー

     ジョニー・デップ

     ミシェル・ファイファー

     ジュディ・デンチ

     ペネロペ・クルス

 

雪の中を走るオリエント急行車内で1人の男が刺殺

される。偶然乗り合わせた名探偵ポアロは得意な推理を

進めて行くが、乗客の証言によって幾度となく先を

阻まれてしまう。


<お勧め星>☆☆☆☆ 原作を知っていても十分楽しめる

ミステリーです。


善と悪の中間はないのか?


映画館で流される予告編で幾度となく観たのですが、

どうしても灰色の脳細胞を持つエルキュール・ポアロが

1974年映画のアルバート・フィニーのイメージが強く、
TVドラマ版のポアロ役デヴィッド・スーシェに至っては、

小説から読者が想像するポアロ像そのものであるため、今回の

ケネス・ブラナーがかなり印象を変えてしまったと少々

心配しつつ鑑賞しました。

 

オリエント急行殺人事件

 

オリエント急行殺人事件
 

しかし考えてみると名探偵シャーロック・ホームズも

ロバート・ダウニー・Jr.によってダイナミックな変貌を

遂げたもののそれはそれで楽しさが増したことは確かです。

まさかのアクションが加わるなんて!
ストーリーは全て知っているし、犯人も動機もわかっている

のでさてどのように映画化されたのかと余裕で観られると

思っていたら、そうでもないのです。

 

オリエント急行殺人事件

 

映像が大変凝ったもので、乗客がオリエント急行に乗るシーン

から、車内を見せていく時、まことに滑らかに映し出され、

また車窓から見える景色も当然のことがら合成でなく、

かといってCGでもない雰囲気のあるものです。調べて

みたらスクリーン・プロセスという、合成を行わずに

映像を車外のスクリーンに投影するという、昔ながらの

方法とのこと。

 

オリエント急行殺人事件
 

また早々に起きるラチェットの殺人現場は最初はドア越しで、

見た人のみの表情でそれを知らせるものから、真上の映像に

変わり、ようやく無残な刺殺体の彼が映し出されます。

ラチェット役はジョニー・デップ。インチキ臭い嫌な男を

わずかな時間に感じ取れる好演技。遺体の彼が真っ逆さまの

位置に映るので、この列車の中で彼だけが唯一異なるタイプの

人間であると印象づけるのです。その後原作にはない雪崩が

起き列車が脱線するという事故が起きますが、これは原作では

雪だまりに突っ込んで立ち往生するというものでした。この時

に荷物がバラバラになったことで乗客の素性がポアロには

わかっていくきっかけになるのです。でも映画ではとっても

素早く描かれているので、まさかあの短い時間にあれこれ

見られたとは思えないけれど、そこはそれほど気にならず。
豪華なキャストに目を見張りながら、117分という時間内に

すべてを盛り込んで見ごたえのある映画にしたのは素晴らしい

です。ポアロが少しだけ列車外に出て追跡するシーンがあって、

あれをアクションと呼んでいいのかわからないけれど、動きの

少ないストーリーの中で「は!」と目が冴えてくる瞬間になる

かもしれません。
なんてベタ誉めしていますが、実は客人の素性が一気に分かり

すぎたというのは少し気になります。でもポアロのイメージを

一新したことは、既に公開が決まっている「ナイルに死す」に

期待が高まることは間違いありません。

ああ「ナイル殺人事件」(1978)のエンディングに流れた

「ミステリー・ナイル」が耳に蘇ります。

 

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特別捜査 ある死刑囚の慟哭

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JUGEMテーマ:韓国映画全般

 

特別捜査

 

「特別捜査 ある死刑囚の慟哭」

原題:Proof of Innocence

監督:クォン・ジョングァン

2016年 韓国映画 121分

キャスト:キム・ジョンミン

     ソン・ドンヨル

     キム・サンホ

     キム・ヨンエ

 

暴力事件を起こし刑事をクビになったピルジェは、

法曹ブローカーに転身し、コネを活用して荒稼ぎ

している。そんな彼宛に、スンテという死刑囚

から無実を訴える手紙が届くのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 勧善懲悪の話の中にコミカルな

シーンもあって十分楽しめます。


習慣は抜けないもの


韓国映画は、警察、検察、政治家、財閥批判などを

コミカルに描きながら実際は鋭く切り込んだに内容で

日頃不満に感じている観客にとっては大変救われるもの

が多いです。サスペンス映画に関して言うと、実際の

事件を扱っているものも多く、「チェイサー」(2008)

「イテウォン殺人事件」(2009)「殺人の告白」

(2012)などは犯人がわかるものの捜査における

警察のいい加減さやその事件を取り巻く人間関係などを

上手く絡めて描いていました。一方で「殺人の追憶」

(2003)「あいつの声」(2007)

「カエル少年失踪殺人事件」(2011)は、未解決事件

を扱っているため、当然モヤモヤとしたラストになるわけ

ですが、そこに郷愁を感じる景色や歌などを挿入しており、

決して不完全燃焼に終わることはありません。

(でも犯人が捕まらないのは悔しい)

 

特別捜査
 

突然の逮捕劇で始まるこの映画は、容疑者スンテが前科者で

あり、明らかに冤罪だとわかっているのに、死刑囚になって

しまうのは、すべて韓国国内における力関係、つまり財閥が

最大限の権力を握っていることを伺わせます。

 

特別捜査
 

一方ピルジェは刑事であったものの、暴力的な捜査を行い、

ライバル、ヨンスに嵌められて、その職をクビになって

しまうのです。ついでにヨンスに暴行をしたことで賠償金等々

のために家まで取り上げられてしまった模様。そして今は

元検事に誘われて金儲け主義の法曹ブローカーになって

いるわけです。もちろん愛車はBMW。アメリカ映画でも

お金持ちさんはBMWに乗っていることが多くてメルセデス

よりも人気があるのかしら、といつも思うのです。乗ってみたい。
で、このピルジェとスンテがどうやって結びつくかというと、

そこに善意があったわけではなく、スンテの事件を担当した

のがヨンスであり、彼に復讐するために再捜査してみようと

思っただけのこと。すごいんですよ。「コネ」があるから、

警察資料も検死報告書も入手できちゃう。するとこの事件、

つまり「テヘ製鉄の嫁殺人事件」の奥にものすごい闇が存在

することに気づいてしまうのです。事件の名前も「嫁」などと

つけているし、この「嫁」が何か所も胸を刺されていたものの、

シリコン入りだったため、致命傷は1か所だったなどという

点もなんとも韓国らしい。いや日本でも実はそういうことは

起きているかもしれない。ただ「シリコン入りの

(生食パックかも?)胸を刺されたので命を落とさずに済んだ」

などとは発表されるはずもないですよね。

 

特別捜査
 

ヨンスへの仕返しだけだったピルジュの心が変わったのは、

スンテの娘ドンヒョンと幾度も会って会話をしたから、と

だけ考えるのは少し無理があり、自分自身の父が前科者で

そのせいで苦労したことを彼女に投影していたのかと考える

方が納得できるかな。

 

特別捜査
 

刑務所で死刑囚として過ごすだけのスンテにまで数々の力を

及ぼす財閥の力ってすごい。財閥の女史役は2017年に癌で

亡くなったキム・ヨンエ。大変美しいのですが、その中に

冷酷さを秘めた表情、行動は秀逸です。あちこちで起きる争い

に毎回ハラハラされつつ、ラストへと向かうとこれはもうスリル抜群。
「習慣は抜けないもの」ということを実感します。さらに

「恥」の認識を再びそして強く確認するピルジェの一言が胸を

打ちます。「恥の意識」は本当に大事なことなんです。
多少ツッコミどころがありますが、見ごたえのある映画でした。

 

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インビジブル・ゲストー悪魔の証明

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インビジブル・ゲスト

 

「インビジブル・ゲストー悪魔の証明ー」
原題:Contratiempo
監督:オリオル・パウロ
2016年 スペイン映画 106分
キャスト:マリオ・カサス
アナ・ワヘネル
ホセ・コロナド
バルバラ・トニー
フランセスク・オレーリャ

 

青年起業家アドリアンは、愛人ローラ殺害の罪で

起訴される。その彼を弁護するため敏腕弁護士

グッドマンがやって来るが、彼女は彼に対し、

隠していることをすべて話すように迫るのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 状況が二転三転しつつ、

やっぱりねと思うけれど面白いです。


演劇仲間だったがカギ


「インビジブル」(2000)はケヴィン・ベーコン

主演のSFスリラー映画で、透明人間になったものの元に

戻れなくなった男が好き勝手しまくる内容で、VFX技術が

とても上手く使われていました。「ザ・ゲスト」

(2014)はダン・スティーヴンス主演のウルトラ

不気味な映画で、突然訪れたゲストがまさに不死身の

姿を見せつけます。ダン・スティーヴンスがイケメンな

だけに怖さ倍増(いや別に顔にこだわらないけれど)

かつかなりグロ映像もあったはず。
もちろん邦題はこの2つを合わせたような感じだけれど、

もちろん全く異なる内容であり、そもそも原題の意味が

「不慮の事故」..。これもまた地味。

スペイン映画で「悪魔」とつけばオカルト映画を必ず想像

しますね。もちろん全く関係ありません。
監督は「ロスト・ボディ」(2012)の

オリオル・パウロ。わたしは個人的にこの映画が大好きで、

トリックに全く気づかなかったのとヒロインの女優さんが

とてもきれいなのが印象に残っています。こんな感じ。

 

ロスト・ボディ
 

今回の映画も派手な映像はなく、トリックにトリックを

重ねた内容でしっかり見ていないと、いや見ていても

騙されるんです。登場人物は少なく、若手起業家

アドリアン・パウロ、愛人ローラ、そして彼の顧問弁護士

とその推薦でやってくるグッドマン弁護士、あとはある

事故の被害者の両親です。シーンも少ないんですよ。ほぼ

ホテルと回想シーンのみで動きも少ない。

 

インビジブル・ゲスト
 

インビジブル・ゲスト

 

インビジブル・ゲスト

 

それでもうまいと思うのは、前半から中盤にかけての伏線の

張り方とアドリアンとグッドマンの会話が進むうちに、

見ている側のアドリアン像がどんどん変わっていくことです。

愛人とは割り切った関係で妻子を大切にするアドリアン。

富も名誉も持っている。しかし隠してあった事実が露呈する

につれその姿は本当に醜悪なものの思えてきます。
但しサスペンス映画を見る人なら最初からピンとくるものが

あって、絶対に胡散臭いんだから確認した方がいいと思って

しまうけれど、人間追いつめられるとこうなるものだろうと

納得してしまうのです。
嘘に嘘を重ねていくと、結局の残るのは真実であって、自らの

手で首を絞めていくのだなあというのが実感。
こんな風に悪行が駆逐されていくといいのにね。
とてもおもしろいのでお勧めです。

 

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スリー・ビルボード

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スリービルボード

 

「スリー・ビルボード」

原題:Three Billboard Outside Ebbing ,Missouri

監督:マーティン・マクドナー

2017年 アメリカ映画 116分

キャスト:フランシス・マクドーマンド

     ウッディ・ハレルソン

     サム・ロックウェル

     アビー・コーニッシュ

     ルーカス・ヘッジス

 

娘を殺害されたミルドレッドは、7か月たっても捜査が

進展しないことに憤りを覚え、3枚の巨大な看板を設置

する。しかしそれは町民の反発を買い、彼女は孤立して

いくが...。


<お勧め星>☆☆☆☆半 とてもよく練りこまれた内容

かつラストに心地よい余韻を残す映画です。


ミルドレッドの怒りの正体

 

 

(多分ネタバレしていません)


監督は「ヒットマン・レクイエム」(2008)

「セブン・サイコパス」(2012)の

マーティン・マクドナー。どちらの映画も題名は知っている

ものの未見なのでこれを機会に見てみようと思います。

そして主演はわたしの大好きなフランシス・マクドーマンド。

「ブラッド・シンプル」(1984)から彼女の出演作品は

数多く鑑賞してきました。決して美人とはいけないけれど、

表情が豊かで、特に真面目な顔をしながらものすごく

おかしいセリフをサラリと言う姿はたまりません。

ミルドレッドの息子ロビー役は「囚われて夏」(2014)

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016)の

ルーカス・ヘッジスで、彼の繊細そうな顔立ちはこの役に

ぴったりです。

 

スリービルボード
 

ミルドレッドが笑顔も見せるのは映画のラストのみで、

冒頭から終始不機嫌そうな表情を浮かべており、それが

怒りなのか悲しみなのか嘆きなのか絶望なのか判断

つきかねるのですが、そのほぼ同じ表情でシーンごとに

違う印象を与える演技はまさに素晴らしいの一言に尽きます。
彼女はなぜ不機嫌なのか。それは冒頭に立てる3本の巨大な

看板に書かれた文字からすぐに理解できます。
「娘はレイプされ焼き殺された」

「犯人は捕まっていない」

「ウィロビー、なぜ?」
この3つの看板は町を通る1本道に立っており、町民は誰も

皆目にするし、名指しされたウィロビー署長以下警官も

見るわけです。ここで個性あふれる人々の姿を挿入し、

ウッディ・ハレルソン演じるウィロビーは人望が厚く、

サム・ロックウェル演じるディクソン巡査は人種差別主義者で

極めて暴力的...と印象づけていくのです。

 

スリービルボード

 

スリービルボード

 

この辺りも無駄な映像がなく、またすんなり理解できる内容で

知らないうちにこの町エビングに住んでいるかのような錯覚に

陥ってしまう。さてこの看板のせいでミルドレッドは町民の

大反発を買うわけですが、彼女は息子の怒りすら買っても

全く気にも留めません。そこにはミルドレッドとロビーの関係、

ミルドレッドと殺害された娘アンジェラの関係、ミルドレッドと

元夫チャーリーとの関係、ミルドレットとウィロビーの関係と

彼女を取り巻く人々との関係性も絡んでおり、この先ストーリー

はどう展開していくのか全く予想できないけれども、それらが

すべて固くつながっているのも確かなのです。

 

スリービルボード
 

そしてある事件から一変する人間関係がこれまた目を離せない

シーンの連続で、こんな風に映画を作ることができるのかと

とても感心してしまいました。
実は映画内でアメリカ国内で抱える大きな問題を提示している

のですが、それが露骨でなく、またそれを覆い隠すのに十分

すぎるほどの内容で、まさに今年見た映画ではナンバー1だと

思っています。

(あ、「バーフバリ」は別枠です。)

 

 

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お嬢さん

4

JUGEMテーマ:韓国映画全般

 

お嬢さん

 

「お嬢さん」

原題:Ah-ga ssi

監督:パク・チャヌク

2016年 韓国映画 145分 R15+

キャスト:キム・ミニ

     キム・テリ

     ハ・ジョンウ

     チョ・ジヌン

     キム・ヘスク

 

1939年の朝鮮半島。華族である上月家の令嬢、

秀子のもとに新しい侍女スッキがやって来る。

スッキは珠子と名乗り、詐欺師である藤原伯爵の

手先として秀子を騙す計画だったが、秀子の孤独と

純真さにいつしか心惹かれていく...。


<お勧め星>☆☆☆☆ はい、どこまでもエロティック

であり、サスペンスも味わえ、最後まで見逃せない

シーンの連続です。


純粋な愛


原作はサラ・ウォーターズの「荊の城」で、日本でも

「このミステリーがすごい!」で第一位を獲得して

います。これは読まないといけない。2005年には

イギリスBBC制作でテレビドラマ化されており、今回は

パク・チャヌク監督によって映画化されました。
パク・チャヌク監督といえば絶対に思い出すのが

「復讐三部作」と呼ばれる「復讐者に憐れみを」(2002)、

「オールド・ボーイ」(2003)、「親切なクムジャさん」

(2005)です。三部作とはいえストーリーにつながりが

あるわけではなく、それぞれの復讐の形を驚くような展開で

描いていました。「オールド・ボーイ」は2013年に

スパイク・リー監督でアメリカにてリメイクされましたが、

映像が美しくなりすぎて、やはりオリジナルの良さを実感。

復讐っていうのはドロドロした怨念がこもったような映像で

見せられてこそ復讐なのだと思ってしまう。
他にも「渇き」(2009)があるのですが、どの映画も

スリルと残酷さと時々コミカルな映像が組み込まれていて、

必ず楽しめる内容になっています。暴力的な内容に耐えられる

ことも必要かな。
さてこの「お嬢さん」は映画が三章に分かれていて、それぞれが

予想できない展開を見せます。主要な登場人物は、泥棒の娘で

スラムに暮らすスッキ、彼女を侍女に迎える秀子、秀子の叔父で

日本人華族の上月、そしてスッキを手配した詐欺師、藤原伯爵。

だんだんわかってきますが、上月は「ど変態」なんですよ。

「悪魔のいけにえ」(1974)ではイカれた一家が登場

しましたが、それは2になるとコメディ要素が入り、能天気な

イカれた一家に変わっていました。上月の「ど変態」はこの2の

ようなどこかコミカルなイカれ具合を見せるのですが、それが

殺人ではなく、性的な変態であるのでものすごく気色悪いんです。

この役を演じるチョ・ジヌンが「最後まで行く」(2014)で

主役を演じていた人と同一人物とは到底思えません。スケベで

好奇心だらけのエロおやじぶりを好演?しています。

 

お嬢さん
 

また藤原伯爵を演じるハ・ジョンウも実はくそ野郎で、

もうね、登場する男性は変態だらけなんですよ。

 

お嬢さん
 

逆に女性は秀子とスッキ(珠子)が生まれや境遇は全く異なる

のに、どこか純粋な一面があり、この2人が繰り広げる

ラブシーンは、まことにエロティックなのです。

 

お嬢さん

 

WOWOW鑑賞だったので、ちょっと〜、ボケボケにもほどが

あるでしょう!と思うほどボケボケ。ところがペチャペチャと

響く音や声や肌のこすれる音だけでもゾクリとします。ズーム

アップされた舌や瞳...。
第一部ではスッキ視点の話。秀子の入浴を手伝うスッキこと

珠子のシーンでは、秀子が棒つきキャンディーを舐める口や舌が

ゆっくりと映ります。歯がとがっていて痛いという秀子の歯を

少しずつ擦り取ってあげるスッキの姿を見ていると、2人が、

特にスッキが秀子に惹かれていくのが手に取るようにわかるのです。
そして第二章の秀子視点の話。ここで秀子の生い立ちや上月との

関係が露呈するのですが、上月のど変態ぶりが徹底的に描かれて

おり、黒い墨のついた筆を舐めて真黒くなった舌を出す上月は

「キモイ」の一言に尽きます。チョ・ジヌン様、あなたはこんな

役もできるんですね。主役しかできない日本の一部の俳優とは

格が違いすぎます〜。
そして第三章の終盤で起きる出来事で、この上月だけでなく

藤原伯爵の端正なマスクとは全く異なる異常さ、冷酷さ?いや

劣等感からくる歪んだ上昇志向を見せつけられ、それでいて

笑っちゃう一言を言うんです。ここは見てのお楽しみ。そして

やっと出てきたグロシーン。その一方でスリルがありつつ希望の

あるシーンが交互に映り、もう145分見てよかったと実感

するのです。
映画の後調べたところ、スッキ役のキム・テリが1500分の1の

オーディションを勝ち抜いた新人女優であると知り、彼女の

体当たり演技に驚きました。
これもう一回、今度は劇場で観たいなあ。

 

 

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トンネル 闇に鎖された男

4

JUGEMテーマ:韓国映画全般

 

トンネル

 

「トンネル 闇に鎖された男」

原題:Tunnel

監督:キム・ソンフン

2016年 韓国映画 127分

キャスト:ハ・ジョンウ

     ペ・ドゥナ

     オ・ダルス

     チョン・ソギョン

 

自動車ディーラーのジョンスは仕事を終え、

妻娘の待つ自宅へ戻る途中、トンネルの中で

崩落事故に遭遇する。命はとりとめたものの

一向に救助隊は到着せず。彼は次第に疲弊して

いく...。


<お勧め星>☆☆☆☆ 単なるサヴァイヴァル物

ではなく、様々なストーリーが盛り込まれています。


人の命は地球より重い


1977年日本赤軍によるダッカでの日航機

ハイジャック事件で、実行犯の連合赤軍の要求に

従った福田赳夫首相の言葉として有名なのが

「人の命は地球よりも重い」。

これによって犯行グループは身代金と拘留中の仲間を

数名獲得し、逆に人質は数々の苦難を経たものの

最終的には全員無事解放されました。
これに対し、一部諸外国や日本国内からも批判を

浴びることになるわけですが、この言葉が映画の

ラストに韓国政府高官の口から発せられるのです。

そこに至るまでの多くの状況の変化を知っていると、

この文字だけなぞっただけの言葉に何と重みのない

ことか。そこにこの映画のメッセージも含まれていると

思うのです。
映画は大きな契約を無事成功させ、娘の誕生日ケーキを

買って自宅に向かうジョンスの姿から始まります。

もう〜、運転しながらスマホで話しちゃダメですって。

ジョンス役は「チェイサー」(2008)などの

ハ・ジョンウ。そしてその妻セヒョン役は「空気人形」

(2009)でとても可愛いかったぺ・ドゥナともう

見慣れた顔ばかり。

 

トンネル
 

トンネル

 

ジョンスがハド・トンネルという新しいトンネルに

入ると何やら音がするし、トンネル内のライトが点滅

し始めあっという間に大崩落を起こすのです。ここが

怖いんです。崩落するのがわかっているのに、それが

いつなのか、どういう形で起きるのか全く予想できません。
で、いちおうジョンスは怪我無く助かるのですが、彼は

地下180m地点に埋まってしまったらしい。携帯で

のんきに警察に連絡すると、警察も相変わらずののんきな

応対、そして到着した救助隊も全く手順が悪いわけです。

毎度おなじみですねえ。おまけに人権への配慮など一切

ない報道関係者も押しかけている。とりあえずこの時点

では「チリ33人 希望の軌跡」(2015)のように

時間はかかるもののどうやって救助を待つのかその姿のみ

描かれると思うわけですよ。ところがどっこいすっとこどっこい。
ここから全く違う展開になります。序盤は救助最優先だった

はずが、掘削作業の失敗から、絶望的状況へと変貌するのです。

この手のひらを返したような対応は、マスコミに誘導された

世論にも表れるわけで、わたしたちがいかに情報によって

考えを操作されやすいか実感します。救助隊の目標は「助ける」

ことなのですよ。

 

トンネル

 

オ・ダルス演じる救助隊の隊長デギョン個人が、ジョンス

の生存を信じ、彼の行動で結果的にはジョンスは救出

されますが、その前に第二トンネル工事の遅れでかさんで

いく費用を主張する政府や救出作業中に死亡者が出たことなど、

様々な苦難を描きます。ここは多く詰め込みすぎたかも。
トンネルといっても出口も入り口もなくなった地下の

密閉空間で、少しの揺れで音がして土がこぼれ岩が動く恐ろしさは

まことに上手に映されています。ああこんな可愛いワンコも

出てきました。

 

トンネル
 

思い出されるのは1996年の北海道でのトンネル崩落事故で、

あの時は巨大な岩をどかすために爆発作業をせざるを

得なかった。しかしそれを行うことは、バスや車に残された

人々の死を家族が認めることにほかならず、彼らが流した

涙を見て胸が締め付けられる思いになりました。この映画では

妻セヒョンがたった一人で承認するのです。あんなに救出を

祈ってくれた人々が誰も「生存」を信じなくなっても、唯一の

通信手段だった携帯のバッテリーが切れ、夫の声すら聞けなく

なって幾日たっても、彼女は「生存」を信じるのです。それが

家族なんですよね。終盤はやや駆け足気味だし、あちこち

突っ込みどころもありましたが、そんな小さなことを忘れて

しまう見ごたえのある映画でした。
「全員クソ」と言ったジョンスの言葉が爽快だったなあ。

 

 

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