ビリーブ 未来への大逆転

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ビリーブ

出典:IMDb

 

「ビリーブ 未来への大逆転」

原題:On the Basis of Sex

監督:ミミ・レダー

2018年 アメリカ映画 120分

キャスト:フェリシティ・ジョーンズ

     アーミー・ハマー

     ジャスティン・セロー

     キャシー・ベイツ

 

1956年、ハーバード大学法科大学院に入学した

ルースは、夫マーティン、娘ジェーンと暮らし、勉学に

励む日々を送る。そして極めて優秀な成績で卒業した

ものの法律事務所での職は得られず、大学講師として

働き始めるが、マーティンが持ち帰ったある案件に目を

留めるのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆半 自然と胸が熱くなります。

これこそ今もなお求められているものだと実感するのです。


We did it


1993年アメリカ合衆国最高裁判事となった

ルース・ベイダー・ギンズバーグの伝記映画で、ルース役は

「博士と彼女のセオリー」(2014)でホーキンズ博士の

妻役を演じたフェリシティ・ジョーンズ。
そして夫マーティン役は、

「ソーシャル・ネットワーク」(2010)で双子役を演じた

というより

「君の名前で僕を呼んで」(2017)で強烈な印象を残した

私の大好きなアーミー・ハマーです。あの映画でのオリヴァー役

はとてもいい男だったなあ。そして映画自体も胸がキュンキュン

するものだったなあ。

 

ビリーブ
出典:IMDb

 

1956年、ぞろぞろ歩くスーツ姿の男性に混じって1人の

女性が映ります。これはハーバード大学法科大学院の入学式

風景であり、女子学生を受け入れて6年目、そしてその年は

たった9人のみ入学という状況が説明されるのです。それを

説明する学部長の嫌みったらしい事。親が高名な弁護士で

その親の事務所を手伝うための入学は褒められ、看護師や

教師は自分のしたいことではないと発言した女子学生には

「ばかばかしい」と一蹴します。
500人超の入学者の中で女子学生が9人と聞くと、私の姉が

入学した高校のことを思い出します。田舎の中学から女子で

たった一人進学した地元の進学校では、入学者500人のうち、

女子学生は10人余りで、確か1クラスにまとめられていたはず。

姉の中学の同級生の女子は、ほとんど商業科や家政科のある

高校に通った時代です。そんなに昔ではないけれど、考えてみると

半世紀近く前になるか。
その後入学試験方法が変わり、男女比はほぼ半々になっていると

思うけれど、先生の頭の固さはどうだろうな。

 

ビリーブ
出典:IMDb

 

さて成績がたいへん優秀なルースには、同窓の夫マーティン、

娘ジェーンがおり、マーティンと二人三脚で生活と学業を

続けていたのです。夫が病気に倒れると、夫の代わりに

講義に出席し、二人分のタイプを打ちます。そのとき

「裁定は時代の空気に左右される」

と言ったある判事の言葉を心に留めるのです。
映像から見る限り、ルースの生育家庭や当時の家庭環境は

かなり進歩的であり、さらに勤勉さも加わって彼女が多くの

知識を入手できたと思っています。当時の女性の姿ー夫が外で

働き、生活を支え、妻は子供を産み、育て、夫のために料理や

洗濯など家事を行うーとは真反対であったとも言えます。

パーティーに出席しても議論をするのは男性のみで、女性は

ファッションやグルメや子育ての話をしている。(だと思う)

男性に対し意見を言うなんて生意気以外の何物でもないとまでは

言わないけれど、高校時代に「反論するなんて生意気だ」と

男子に言われたことを根に持つ私は、今も本当の思いを口に

するのは憚られてしまいます。

「キミの漢文は20点だったけれど、わたしは95点だったよ。

参ったか!」と心の中で今でも思っている。

(あまりに幼稚すぎるか)
ルースは性差別を是正したいと願っているけれど、ヒステリックに

その考えを押し付けて行くわけではありません。却下されると割と

簡単に引き下がります。
さらにマーティンが持ち帰ったある案件に目をつけ、他の裁判で

敗訴したケニオン弁護士のもとに向かうと「まだ時期は早いんだよ」

と言われてしまいます。このケニオン弁護士役はキャシー・ベイツ。

 

ビリーブ
出典:IMDb

 

シルエットだけでわかってしまうからすごいな。
しかし1970年だに入り、娘ジェーンが同じような道を歩もうと

し始めると、彼女に「ママは行動が伴っていない」と言われる

のです。ニューヨークで母娘2人をからかった作業員たちに

しっかり反論し、一人でタクシーを止めに行くジェーンはすごく

かっこいいですよ。ルースができなかったことが今行動できる

時代になりつつあることを体感します。
女性、母親、ユダヤ系ということで法律事務所で働けなかった

自分が、その姿にも後押しされ、米国自由人権協会の協力も得て、

ある案件を活用して、逆の方向から性差別を主張していく様は、

法廷での女性弁護士への偏見もあって、かなりもどかしいですが、

どのように反論していくか、本当に見てほしい姿です。
そして時代が逆行しているような錯覚にとらわれる今まさに

この時代にこそ見るべき映画だと思うのです。終盤のルースの弁論は

非の打ち所がないほど素晴らしく聞いていると自然と涙がこぼれて

きました。

 

 

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家へ帰ろう

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家へ帰ろう

出典:IMDb

 

「家へ帰ろう」

原題:El ultimo traje/The Last Suit

監督:パブロ・ソラーズ

2017年 アルゼンチン=スペイン映画 93分

キャスト:ミゲル・アンヘル・ソラ

     オルガ・ポラズ

     アンヘラ・モリーナ

     ユリア・ベアホルト

 

ブエノスアイレス在住のアブラハムは老人ホーム入所前日、

娘や孫たちに囲まれ、記念撮影をする。そして家政婦が

1着のスーツを見せ「これはどうします?」と尋ねてから、

彼はそのスーツと共にある場所に向かうことを決意するの

だった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 気難しそうな老人の胸の奥にしまって

あった思いを知った時、思わず涙がこぼれます。


封印した記憶とスーツ


学生時代のゼミの教授の専攻が「ポーランド現代史」だった

けれど、エアヘッドだったので、ポーランドという国について

ほとんど興味を持たず、また知る努力もせず、ただ見た目が

かっこいいというだけでゲバラを中心にキューバ革命について

卒論を書きました。今考えると全て参考文献から丸写しして

いたような気がします。ああ、恥ずかしい。
そのポーランドは、現在ナチス占領時代の損害賠償540億ドル

をドイツに請求することを検討し始めている

(2018 9/1付 朝日新聞より)

と知り、そしてこの映画を見て、ポーランド人に対し、先の
大戦中ドイツ軍が何を行ったのでしょうか。

それはあまりにも非情な行為の数々なのです。ユダヤ人に対する

ホロコーストは幾つもの映画で目にしますが、ポーランドに

対するドイツ軍、ソビエト連邦軍の行為は

「カティンの森」(2007)で初めて知ったくらいです。西から

ドイツ軍、東からソビエト軍が侵攻し、国を分断されたポーランド

において、ヒトラー率いるドイツ軍は、彼の著書「我が闘争」
で計画されたように大ドイツとして東ドイツが構成されるとし、

ポーランド文化そのものを破壊していきました。「カティンの森」

ではポーランド軍将校はソ連軍、兵士はドイツ軍の捕虜になったと

描かれていましたが、一般人は、ユダヤ人同様の扱いを受けていた

のです。

「家へ帰ろう」の主人公アブラハムが時折夢に見る過去の忌まわしい

記憶や彼が語る言葉から、彼がワルシャワでの生活をほとんど口に

しなかった理由がおのずとわかってきます。
序盤は老人ホームに入る前日の、そこそこ和やかそうに見える一家の

姿がややコミカルに描かれ、偏屈だけれど少しおちゃめなアブラハム

の性格が少しだけわかります。その彼が急に表情を変えたのは
1着のスーツを目にしたときです。そのときからある決意を抱き、

即行動に移すのです。

 

家へ帰ろう
出典:IMDb

 

マドリッドまで乗った飛行機の中で、話しかけ続け、相手が嫌がって

席を立つと、ゆったり3席独占して横になるアブラハム。

なかなかやるぞ。しかし入国審査で「目的」を話さないアブラハムは
管理官に別室に呼ばれるし、そこで例の相手と再会です。なんと彼は

妻子に会いに来たもののビザなし渡航かつ金がないので強制送還される

と言う。ここでケチなアブラハムは温情を示すんですよね。
足が悪く家から出ることが少なかった老人が、あかの他人と接した

ことで、気持ちが変化していくのがわかります。

ほんの少しですけどね。

 

家へ帰ろう
出典:IMDb

 

またマドリッドのホテルの女主人は、すばらしい歌声を披露し、

さらに久しぶりに男と女同士の会話をするんです。かつては

アブラハムもモテたのかもしれない。ところが留守中にホテルに

何者かが侵入し、有り金を全て盗まれてしまいます。

アブラハムがっかり。

そのときのアドバイスもこの女主人がしてくれたし、移動する際の

運転手は例の空港の青年です。

 

家へ帰ろう
出典:IMDb

 

勘当していた娘に金を借り、パリから目的地に行こうとすると、

彼が絶対に通りたくないし、名前すら口にしたくない国を通過する

ことに気づくのです。この時言葉の通じない駅で駅員に必死で

訴えるのですが、その言葉を理解しているだろうし、その歴史も

少しは知っているであろうという年頃の人々がみな眉をひそめる

のです。

「ノードイツ」「ポーランド」
その場を助けてくれたのは、スペイン語も話せるパリに住む女性

ですが、なんとドイツ人です。アブラハムが最も忌み嫌うドイツ人が

手を差し出すというのは何とも皮肉なことだけれど、その巡り合わせが
彼の心中を吐露するきっかけにもなるのです。

「罪は何だったのか」
「この目で見た」
楽しそうに創作物語を披露していた可愛い彼の妹やそれを笑いながら

聞いていた彼の両親も含め多くの人々は、その後どうなったの

でしょうか。さらに切断を勧められている彼の右足を傷めた原因は
なんだったのでしょうか。あまりにむごい戦争の傷跡は、70年間

封印され、決して思い出さないようにしてきたことが強く伝わります。
マドリッド、パリ、そしてワルシャワで人と出会い、人に助けられ、

最終目的地で彼がしたかったことができたのかどうか、必ず自分の

眼で確かめてほしいです。
列車の窓から見えるのどかな景色や歴史と現代が混在する街並みにも

目を奪われてしまいました。大好きな映画です。

 

 

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ビリー・リンの永遠の一日

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ビリー・リーン

出典:IMDb

 

「ビリー・リンの永遠の一日」

原題:Bily Lynn's Long Halftime Walk

監督:アン・リー

2016年 アメリカ映画 113分

キャスト:ジョー・アルウィン

     クリステン・スチュワート

     クリス・タッカー

     ギャレット・ヘドランド

     ビン・ディーゼル

 

イラク戦争で負傷した上官を援護し、敵を倒した

リン特技兵は、一躍英雄となり、彼の部隊は全米で

熱狂的な歓迎を受ける。しかしリンは戦争で負った

心の傷が癒えず次の出征を姉に止められているのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ リンの頬に伝わる涙の意味は、

悲しみなのか絶望なのか恐怖なのかと深く考えてしまい

ます。


故郷ではクズ、戦地では英雄


監督は「ブロークバック・マウンテン」(2005)

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流」(2012)の

アン・リー。
「ブロークバック・マウンテン」はアメリカ中西部を舞台に

したカウ・ボーイ同士のラブ・ストーリーで、とにかく印象

に残っているのが、季節労働者として過酷な作業にあたる

2人の男の姿でした。そこでまさかのラブストーリーが

繰り広げられるとは思わなかったのですが、切なくて、

どうすることもできない胸の内を、大自然と共に描いています。
一方の「ライ・オブ・パイ」はアカデミー賞監督賞を獲得した

大作です。でも今でもやっぱり監督賞も「アルゴ」だったよ、

とずっと心の中で思っている映画です。

題名通り、トラとずっと大海原を漂流する話が描かれ、へえ、

すごい冒険だったんだ、と思うと、ラスト2,3分で

「こんな風にも考えられるよ」

と語られる。さてどちらが真実でしょうか。いや真実なんて

最初から分かっていたのにと思ってしまいます。どこまでも

続く大海と夜に広がる満天の星の美しさ、そして嵐のシーンの

迫力、さらに86%がCGであるトラが全て本物に見えてしまう

ほどの見事な映像でした。
そしてこの映画はイラク戦争中、負傷した上官をただ一人で

助けようとした19歳のビリー・リンを描いています。

イラク戦争はそもそも存在しなかった大量破壊兵器を大義にし、

アルカイダともつながっていると判断したアメリカが始めた

戦争であり、その戦後処理から大きな混乱を招いています。

その戦争には大きな利権が渦巻いていると映画内で語るテキサス

の業者が映りました。
さらにフセインを倒し、民衆を独裁政権から救い、かつ学校を

作り道路を整備した有志連合に対し、イラク国民が感謝しているか

というと全く逆であり、平穏な生活を破壊され、家族を亡くした

憎しみが増すばかりなのです。有志連合側も、民間人の中に

かつての政府軍が隠れていることを疑い、疑惑を持つとすぐに

連行していく。連行されたら戻ってこないと泣いているイラク人母

の姿やその子供の憎しみに満ちた目も映ります。

まさに憎しみの連鎖を招いているのです。
それに気づいているのでしょうか、気づいていないふりをしている

のでしょうか。

 

ビリー・リン
出典:IMDb

 

そしてイラクでのリンの行動が、戦争への関心が薄れている国内に

向けての格好の材料として使われるのです。たった一人で銃撃

された上官を助けに向かい、そして向かってきた敵を倒したリンの

いた第2部隊は、「ブラボー隊」と呼ばれ、全米を回ることになる

のです。今回は次の出征前の日、アメフトのハーフタイムショーに

出演します。リンをはじめとして兵士はいずれも若く、生活のために
入隊した者がほとんどであり、「入隊ボーナス」「保険付き」が

いかに魅力的なのかを知ると、前日に集まった金持ちたちとの格差の

大きさに驚いてしまう。かたやへっぽこチームのスタジアムの年間

シートを買う権利を購入したり、彼らをハマーのリムジンで迎えに

来ることさえおちゃのこさいさいなのです。

そんなこと今頃知ったのかって感じか。
そしてリンにとって「英雄になった日」は彼個人としては

「人生最悪の一日」であり、それを何度もインタビューされるたびに、

その光景がフラッシュバックします。終盤、その時に起きたことが

全て映りますが、「人を殺す」ことが「戦争」であったとしても、

彼の行為は特別に胸に刻まれたもので、それを何度も思い出させる

のは拷問に近いと思う。

 

ビリー・リン
出典:IMDb

 

「戦争は地球の裏側のこと」と語るチアガールのフェイゾンの

言葉はそのままスタジアムで熱狂する人々と同じなのでしょう。

彼らにとって「戦争」はまさに「ハーフタイムショー」の1つに

すぎないのだと感じると愕然とします。そしてアメリカ国歌斉唱

の時にリンが流した涙は、何に対してのものだったのかを考える

とこの映画の深さを実感するのです。

 

ビリー・リン
出典:IMDb

 

リンの上官ブリーム軍曹役が「ワイルドスピード」シリーズの

ヴィン・ディーゼルでした。一目でわかる風貌と特徴のある声です。

 

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ファースト・マン

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ファースト・マン

出典:IMDb

 

「ファースト・マン」

原題:First Man

監督:ディミアン・チャゼル

2018年 アメリカ映画 144分

キャスト:ライアン・ゴズリング

     クレア・フォイ

     ジェイソン・クラーク

     カイル・チャンドラー

     コリー・ストール

 

1961年から1969年にかけてNASAでは

アポロ計画が進められており、

ニール・アームストロングは、アポロ11号の船長と

して月面着陸をめざすことになる。


<お勧め星>☆☆☆☆ シーンごとの音楽が見事に

マッチしていて、迫力のある映像と人物の心の動きを

同時に見ることができます。

 

月をどこから見るか


1970年の大阪万博の際、アメリカ館に展示してあった

「月の石」は、それが日本に来たというだけでワクワクし、

ほとんど記憶に残っていないけれど、ずいぶん並んで

入館し、その石(確かガラスケースに入っていて遠巻きに

しか見られなかった)を目にしたとき、「黒い小さな塊」

としか思えなかった。それでも「月の石」を見た、という

事実だけで、同級生に自慢できると思って、その後動く

歩道に乗り、チューリップ帽子を買って帰った覚えが

あります。あれ?記憶がよみがえったみたい。
この映画には序盤に大気圏付近でニールが見る月、ふだん

生活をしている時に昼間に見える月、夜に見える月、そして

後半、月面着陸をめざしてアポロ11号に乗船した時に、

宇宙空間で見える月、目前に迫った月、さらには、一歩を

踏み出した時に見える月の表面と様々な月の姿が見られます。

月面付近に到達したときには、逆に地球が目に入ってくるのです。

その美しさやシーンごとの音楽はさすがチャゼル監督と思って

しまいます。

 

ファースト・マン
出典:IMDb

 

一方月面着陸をめざすことは冷戦時代において宇宙開発でことごとく
遅れをとってきたソ連を一気に追い越すための最大のミッション

でもあったのです。幾度となく繰り返される実験は失敗に終わり、
国内では政府だけでなく国民からも反対の声が上がってきます。

さあ、月に行こう!はい月に行きました!アメリカが世界で

初めて偉業を成し遂げたんだぜ、すごいだろう。などという

単純な内容ではないのです。こんなにも多くの人々が犠牲に

なったのかと映画を見て改めて思います。記憶に新しいのは

1986年のスペースシャトル、チャレンジャー号爆発事故で、

発射成功を喜ぶ声が悲鳴に変わった映像を幾度となく見てきました。

 

ファースト・マン
出典:IMDb

 

また宇宙飛行士の家庭、ニールの家族について、娘の病気から

始まり、妻ジャネットの気丈な姿と、家族との時間を犠牲にして

プロジェクトに参加するニールの姿も映り、国と家という全く

違うレベルでのストーリーが同時に展開されていきます。
安定を求められない、普通の暮らしも求められない、華やかに

見える宇宙飛行士の妻たちの姿を描いているのも見逃せません。


ファースト・マン
出典:IMDb

宇宙へ向かう時、窓から見える外の景色、宇宙飛行士のヘルメット

の前面に映る外の姿、宇宙船内の計器のアラーム音や船体が揺れる音

(これがかなり激しい)点滅する明かりなど次々に映像が繰り出されて

いきます。スリルといったら失礼になりますがドキドキするのです。

これこそ現実なんだろうな。
確かに物議をかもした、月面に星条旗を立てるシーンが存在しない

ことに「あれ?」と思いましたが、映画の本筋を考えると、そのことが

大きな意味を持つとは到底思えず、そんなことで騒ぐことがいかに

低レベルのことであるかと実感します。

宇宙は美しい。それに尽きます。

 

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ある女流作家の罪と罰

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ある女流作家の罪と罰

出典:IMDb

 

「ある女流作家の罪と罰」

原題:Can You Ever Forgive Me?

監督:マリエル・ヘラー

2018年 アメリカ映画 106分

キャスト:メリッサ・マッカーシー

     リチャード・E・グラント

     ドリー・ウェルズ

     ジェーン・カーティン

 

かつてベストセラー作家だったリーは、今や酒に

おぼれ、家賃を滞納し、愛猫の治療費もままならない

状況である。彼女は遂に大切にしていた

キャサリン・ヘップバーンの手紙を古書店に持ち込むと
それなりの値段で売れてしまう。それに味をしめたリーは、

有名作家の手紙を偽造することを思いつくのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 人生の悲哀が感じられ、罪を犯して

いるのになぜか憎み切れないヒロイン役を

メリッサ・マッカーシーが好演しています。


卑しくも最高


リー・イスラエル役は「デンジャラス・バディ」(2014)

などでぽっちゃり体型を生かしたコミカルな役を演じている

メリッサ・マッカーシーです。この人に下品な言葉を使わせ、

だらしない服装をさせたら、もうどうしようもなく自堕落な

人間が完璧に出来上がります。

でも実際はこんな風に可愛い方なんです。

 

ある女流作家の罪と罰
出典:IMDb

 

「デンジャラス・バディ」では、FBI捜査官アッシュバーン役の

サンドラ・ブロックがくそ真面目で融通の利かない人間を演じ、

その真反対の野蛮で暴力的な不良刑事マリンズを

メリッサ・マッカーシーが演じています。このデコボココンビは

実はどちらも職場で浮いているんですね。それが捜査を続けて

いくうえでいかにして心を通わせていくか、コンビで進めていく

捜査状況とともに、数多くのずっこけシーンで楽しませてくれます。
さて、この映画のリーはかつては(10年前)ベストセラー作家

だったのに、今は一向に書くことは出来ず、会社もクビになり、

超ボンビーかつ酒におぼれた生活を送っているのです。最初この役は
ジュリアン・ムーアだったそうですが、メリッサ・マッカーシーに

替えて大正解だと思います。ジュリアン・ムーアがもし演じたと

したら、とことん不幸な女性に感じてしまいそう。確かに不幸の

どん底にいるけれど、そこに何となく沸き起こる笑いを秘めて

いることで、見ている側もウルトラ暗くなることはないのです。
そしてリーは、まず基本的に人間関係を築くのが苦手であり、

服装も言葉もその場にあったものが使えず(協調性ゼロ)

プライドだけは高いというかなりややこしい人物です。さらに

掃除や片付けが嫌いなのは映画の中盤に、ベッドの下に猫のウンチが

山ほどあることからも伺えます。いや猫トイレは置かないんだろうか。

まさに汚部屋なんですよ。ハエが飛んでいるのも当たり前。

ハエがいるということはその子供がいて...。キャー、考えたくない!
そんな彼女は家賃を滞納し、治療費滞納で病気の猫の診察もして

もらえず、本当に困ってしまうのです。ただ会社をクビになった

ことから始まった一連の不幸は、全て自分のせいにしないところが
リーの嫌なところです。本が出せないのも、自分の書きたいものを

サポートするエージェントの対応が悪いから。だいたい嫌われ人間

の定番は自分のせいにしないことから始まるというものです。

 

ある女流作家の罪と罰
出典:IMDb

 

でもとにかくお金がいるので、大事に飾ってあった

キャサリン・ヘップバーンの手紙を古書店に持ち込むと、

これが売れてしまうんですね。さらに図書館で彼女が調べて

いた人物の本に偶然その人物の私信が挟まっており、それも

売れてしまう。これだったら、何か家にあるお宝を探して、

メルカリで、いや古書店で売れば、家にいてお金が自動的に

入ってくるシステムができあがるのでないか。
それは無理。さすがにそれほどお宝は転がっておらず、リーは

試しに有名作家のサインを真似して手紙を偽造してみます。

するとそれも高値で売れる。そりゃもうやめられません。

もちろんその手紙のに価値を見出されたということは、その

手紙の文を書いたリーの才能をほめられたように思ったに

違いありません。オリジナルは書けないけれど、有名作家の

文体や私生活を調べて手紙という形で表現することは出来る

という謎の自信ですが。

 

ある女流作家の罪と罰
出典:IMDb

 

それと同時にジャックというチャラい初老の男性と出会い、その

秘密を打ち明け、束の間の幸せな時間を過ごすのです。いっしょに

酒を飲み、食事をし、いやな奴にいたずらをし..。これが恋愛関係に
ならないのは互いの性的嗜好もあるけれど、もしそうでなかった

としても絶対に恋愛対象にならない相手だったと思う。
とはいえいつまでもその時間が続くわけもありません。その崩壊

していく様も絶望的に感じられず、淡々と受け入れられたのは、

やはりメリッサ・マッカーシーがヒロインを演じていたからだと

感じます。
BGMのジャズはニューヨークの風景によく合っており、またラスト

の1カットにはニヤリとしてしまいました。

 

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パッドマン 5億人の女性を救った男

4

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パッドマン

出典:IMDb

 

「パッドマン 5億人の女性を救った男」

原題:Padman

監督:R・バールチ

2018年 インド映画 140分

キャスト:アクシャイ・クマール

     ソーナム・カプール

     ラーディカー・アープテー

     アミターブ・バッチャン

 

最愛の妻ガヤトリが生理中、不潔な布で処理をし、家の

外で生活するのを見て、ラクシュミは、女性用パッドを

プレゼントする。しかしそれはあまりに高額であり、

妻に断られてしまう。手先の器用なラクシュミは自分で

パッドを作ることを思いつくのだったが..。


<お勧め星>☆☆☆☆半 1人の男性の一途な思いに感動

するとともにさりげない大人の恋愛も楽しめます。


男として楽しむには女性的な面も必要


インド映画らしく華やかな結婚式のシーンから始まり、

歌と踊りと極彩色の衣装で楽しませてくれます。毎日

作業所に出勤するラクシュミのためにお弁当を持たせ

(「めぐり逢わせのお弁当」(2013)で見たあの

お弁当箱と同じ)シャツをズボンの中に入れてあげるのが

ガヤトリの日課なのです。

 

パッドマン

出典:IMDb

 

しかし月に5日だけ離れ離れにならなければなりません。それが

毎月訪れる月経で、その間女性は、布切れで処理をし、家の外の

部屋で隔離されたような生活をするわけです。そこには

ヒンズー教の法典「マヌ法典」の条文が根強く存在し、生理中は

「外出できない」「学校を休む」という差別的な問題と

「不衛生な布を使う」「病気の恐れが多い」という健康的な問題を

女性に課しています。映画内で何度も「恥」というセリフが

出てくるように、生理中は「恥じる身の上」であり、

「恥を抱えて生きるより病気で死ぬことを望む」
とまでガヤトリは言い放つのです。

中学生の頃修学旅行に行った先輩が帰ってきたときに

「○○って生理中にお風呂に入るのよ。汚い」

と言ったことを思い出しました。とても意地悪な先輩で苦手だった

けれど、その言葉を聞いて修学旅行の時生理中だったら嫌われる

のかなと心配したものです。全然汚くないのにね。
ラクシュミが生理用ナプキンを作ろうと考えたのは、市販のものが

あまりに高いのと最愛の妻ガヤトリが不潔な処理で病気になることを

恐れたからだけなのです。しかし家でも親戚でも村でも「変態」
「狂っている」「呪われている」とまで責め立てられ、夫を愛する

ガヤトリさえも彼がみんなに侮辱されることに耐えきれず、遂に

実家に連れ戻されてしまいます。ラクシュミの一途な思いはある意味
執着しすぎているようにも思え、郷に入ったら郷に従え的に

暮らしたらいいのにとさえ思ってしまいます。しかし今ある問題を

解決するためには、それに立ち向かう人間が存在しないと物事は

一つも前に進みません。どんなに不快でも波風のない生活を望むか、

その不快を打ち消すためにエネルギーを使うかは本人次第。

 

パッドマン
出典:IMDb

 

ラクシュミは幸いパリーという進歩的な女性と出会い、彼女の

アイデアで失敗を成功に変えていきます。パリーの父がインド

工科大学の教授だったことも本当にラッキーなことでした。

パリーの存在は女性には女性の力が必要なものもあるという

側面も描かれており、なぜラクシュミがあれほどまでに女性に

拒否されたのかも明確に示されているのです。さらに女性たち

の置かれている極めて低い地位を高めていくために、「仕事」

というものも与えます。「夫がいないと生活できないから」

ではなく自分の力で金を得るという行動を知るきっかけにも

なるのです。
今やもう過去の遺物のような言葉「男らしく」「女らしく」

ですが、男性ができることと女性ができることは全く同じ

ではなく、それぞれが互いの特性を理解し、尊重し合うことが、

社会の進歩にも繋がるのではないのかなと思っています。

それは単なる性別上の問題ではなく「男のくせにビービー泣く

なんて」や「女のくせに意見を言うなんて生意気だ」という

画一的な考え方は『時代遅れ』だと言いたいのです。これ

いつまで言わないといけないんだろう。
映画ではパリーとの淡い恋愛模様が描かれていますが、あの

部分はフィクションだそう。でもあの二人の空港でのシーンは

本当に心に残りました。それは互いの未来のため、本来の目的

のために前に進むということを意味しているのだと思うと

大変気分がいいです。でもちょっと胸が痛みました。
ラストは大団円の歌と踊りで大盛り上がり。しかし邦題の

「5億人の女性を救った男」は間違っているぞ。まだ普及率は

低くてこれからもっと努力が必要なのだから。

 

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足跡はかき消して

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足跡はかき消して

出典:IMDb

 

「足跡はかき消して」

原題:Leave No Trace

監督:デブラ・グラニック

2018年 アメリカ映画 109分

キャスト:ベン・フォスター

     トーマシン・ハーコード・マッケンジー

     ジェフ・コーパー

     デイル・ディッキー

 

退役軍人でPTSDに苦しむウィルは、13歳の娘トムと

森の奥深くで暮らしていた。しかしトムが誰かに姿を

見られてしまい、彼らは保安官によって山から降ろされ、

強制的に社会復帰を目指すことになるのだった..。


<お勧め星>☆☆☆☆ 静かすぎるほど静かな映画ですが、

2人の心の内が強く伝わる内容です。


自分を立て直す


監督は「ウィンターズ・ボーン」(2010)の

デブラ・グラニック。ミズーリ州の高原に暮らし、家を捨てた

父と心を病む母に代わって一家の主として弟妹との生活を

支える17歳の少女を、ジェニファー・ローレンスが
演じていました。彼女は当時20歳でアカデミー賞

主演女優賞にノミネートされています。どこまでも暗く

寒々しい空同様に、希望すら持つ余裕のない少女の姿を、

感情を押し殺したような表情と時折見せるその年齢らしい

笑顔とを見事に組み合わせて演じていたと思います。
あの映画同様にこの「足跡はかき消して」も強い少女の姿を

描いていますが、それは最初から強かったのではなく、映画で

映し出されている期間に、自らの意思を持ち、それを行動に

移す勇気を持つというものです。

 

足跡はかき消して
出典:IMDb

 

退役軍人でPTSDに悩まされているウィルが娘トムと暮らして

いるのは、外の世界と一切接触がない国立公園の森の奥深くです。

うっそうと生い茂る木々や草の緑の中のところどころから

漏れる明るい日差し。
そしてその光に照らされて輝く蜘蛛の巣の美しさは、2人が

自給自足生活をしていても、それなりに幸せなのだと感じさせて

くれます。いつ頃からこの生活をしていたのでしょうか。
しかしある時トムが誰かに姿を見られてしまい、その後訪れた

保安官たちによって2人は山から降ろされるのです。自らの

意志で山に入り込んだウィルと、山の中での生活しか知らない

トムとの心の隔たりはこの時から広がっていきます。
「ルーム」(2015)は全く異なる状況下から解放された

母子のその後を描いていました。しかしすぐに外の世界に順応

した息子の比べ、母親の状況の過酷さは、息子の存在も重なって、

胸が苦しくなり絶望すら感じてしまったほどです。

 

足跡はかき消して
出典:IMDb

 

同じように強制的に社会復帰させられたトムは、あらゆるものに

好奇心を持ち、目を輝かせながら他人と交流します。しかし

それがウィルにとっては「ルールに従う」という自らが最も

苦痛に感じることにほかならなかったわけです。山の生活では

お互いを信頼し合っていたのに(二人しかいないから当然)、

町では、トムの行動に疑いを持ち、いつもそばにいるわけでない

ことにウィル自身が疎外感を覚えてしまいます。信頼が揺らぐのです。

 

足跡はかき消して
出典:IMDb

 

終盤のワシントン州の森は、暗く、寒く、湿ったもので、二人の吐く息は

白く、トムの鼻は真っ赤に染まります。トムが気に入って受け入れて

いくものを、全てウィルは消し去っていくけれど、「父が家」
と言い切るトムが行動を起こすときが来るのでしょうか。そんな思いを

抱いていると、同じことを繰り返そうとするウィルに対し、トムは

遂に足を止めてしまいます。その時の二人の表情をじっくり見てほしい。

とても多くの思いが一気に押し寄せた二人の胸の内を感じ取ってほしい。

あんなに美しく見えた蜘蛛の巣は、やはり日差しを受けて光り輝いて

いるけれど、そこにかつての生活は存在し得ないと強く感じました。

 

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グリーンブック

4

JUGEMテーマ:洋画

 

グリーンブック

出典:IMDb

 

「グリーンブック」

原題:Green Book

監督:ピーター・ファレリー

2018年 アメリカ映画 130分

キャスト:ヴィゴ・モーテセン

     マハーシャラ・アリ

     リンダ・カーデリー

     ディミテル・ロ・マリノフ

     マイク・ハットン

 

イタリア系アメリカ人で粗野なトニーは、アフリカ系

アメリカ人で教養溢れるピアニスト、ドンのツアー運転手

として雇われる。ツアー先は人種差別が根強く残る南部の

諸州であり、行く先々でドンは不快な出来事に遭遇するの

だった。


<お勧め星>☆☆☆☆ いろいろな考え方があるけれど、

私は見終わって気分が明るくなれる映画でした。


相手を知るチャンス


まず始めに驚いたのが、ヴィゴ・モーテンセンの体型です。

「イースタン・プロミス」(2007)でサウナ内の全裸、

本当にぜ・ん・ら乱闘を見せてくれた時のあの精悍な身体は

どこにいったのでしょう。切れ味抜群の剃刀のような視線や

割れた腹筋はどこへ行ったのでしょうか。食べ物に目がなく、

ホットドッグ大食い競争で勝ったり、ケンタッキー・フライド

チキンを次から次へと口に放り込む違う意味での豪快な男かつ

ポッコリお腹に変わっています。これはもちろん役作りの

一つであり、14kg増量し、撮影中もずっと食べ続けていた

らしいです。ああ、よかった。ただの中年太りじゃなかったんだ。
全裸で思い出すのは「アメリカン・サイコ」(2000)

でのクリスチャン・ベールの全裸チェーンソーです。全裸で

チェーンソーを持って女性を追いかけるウルトラ怖い男を

演じていました。写真を保存しちゃっているかも..。彼も

役作りのために自由自在に体型を変える俳優であり、そういえば

髪の毛や歯も抜いていた映画もありました。
さてヴィゴが演じるイタリア系アメリカ人のトニーは、

ニューヨークのナイトクラブで用心棒として働く無教養だけれど、

口と腕力にたけた男です。ズルをしても結果的に勝てばいい的な

考え方でまじめにコツコツというタイプには全く縁遠い模様。

さらに最初のシーンからもわかるようにトニー自身は黒人に対し

差別意識を持っているので、そんな彼が黒人であるドンの下で

働くことなど受けるはずもないのです。

 

グリーンブック

出典:IMDb

 

ドクター=医者=白人と思っていたら、現れたのはカーネギー

ホールの2階の豪華な部屋に暮らす黒人のドンで、医者ではなく

名ピアニストだという。どうやらとっても有名なピアニスト

らしいし、ギャラも高額だけれど、おいら、ちょっとこの

仕事は受けられねえわ!

 

 

グリーンブック
出典:IMDb

 

とは言ったものの、家族を養うのにお金が必要なトニーは、

運転手兼ボディガードとしてドンと共に出発します。

その車はキャデラック・ドゥビルで色はブルーグリーンという

トルコ石のような美しいボディカラーなんです。こういう風に

ガソリンをダラダラ垂れ流しながら走る大きな車に一度乗って

みたいものです。
ドンを演じるのは「ムーンライト」(2016)の

マハーシャラ・アリ。大家族で狭い部屋に暮らし、いつもワイワイ

にぎやかに食事をしているトニーとは全く反対で、執事一人を

したがえ、豪華な調度品に囲まれていても、たった一人で

過ごしている孤独なドンの家族関係はほとんど語られません。

 

グリーンブック
出典:IMDb

 

こうして出発したツアーで、教養もあり才能にあふれ上品な

ドンという人が、トニーが抱いていた黒人像とは全く異なって

いることに、彼はなかなか気づかないんです。黒人が好きだと

自分で思い込んでいる歌や食べ物、行動を一方的に語り、

ケンタッキー州に行けば、フライドチキンをバケツで購入し、

食べながら運転します。ハンドルが脂でべたべたになろうが

お構いなしなです。これを初めて食べるドンが「衛生面で」

「この骨はどうすれば」などと語るのはクスリと笑えてしまう。

ドンはニューヨークなど大都会では有名であり、彼の演奏を

多くのお金持ちの白人たちが聴きに来ては大喝采を送るけれど、

それは彼の演奏にではなく、有名である彼の演奏を聴いたことが

ステータスなのだと思っていることにとっくに気づいているの

ですね。だから南部の州をツアー先に選んだのです。
トニーが黒人について知識が極めて浅かったのと同様に、ドンも

才能にあふれ上流の生活をしてきたために、黒人文化になじみが

全くなかったことがわかります。それはドンという人間のルーツは
どこにあるのかということにもつながるような気がしてしまう。

白人社会ではドンは「黒人」であり、黒人社会では「白人に

等しい黒人」なのではないかということです。

 

グリーンブック

出典:IMDb

 

終盤に車がオーバーヒートして止まってしまったときに、綿畑で

働く黒人労働者が、ドンを極めて奇妙な目で見ることに象徴されて

います。
黒人向けガイドブック「グリーンブック」

The Negro Motorist Green Bookを持ち、ジム・クロウ法が

まだ存在していた時代の南部で彼らが、いやドンがどのような

扱いを受けるのか、行く前からわかっているけれど、そこで彼と

トニーがどう対処していくかを見ていると、このツアーがお互いの

距離を縮め、そして深い友情を結ぶきっかけになったことは

間違いありません。
「暴力は敗北」とドンは言います。しかし耐え続けることだけで

先に進めるものではないとトニーが体をもって教えてくれたと

思っています。
白人視点による黒人描写にすぎないという意見も読みましたが、

こういう時代を知らなかった人がそれを知るきっかけになった

のならそれはそれでいいと思うのです。さらに俳優2人の演技も

素晴らしい。
何より、バーミンガムの安酒場の舞台でドンが弾くクラッシック

「木枯らしのエチュード」から始まり、その後のアドリブの

セッションは、そこにいた人々全員の心を一つにしていくのが

手に取るようにわかり、それがドンのピアノ演奏の力だと強く

感じました。

 

 

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判決、ふたつのの希望

4

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判決、ふたつの希望

出典:IMDb

 

「判決、ふたつの希望」

原題:L'insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ

2017年 レバノン=フランス映画 113分

キャスト:アデル・カラム

     カメル・エル・バシャ

     リタ・ハーエク

     クリスティーン・シュウェイリー

 

 

判決、ふたつの希望

出典:IMDb

 

レバノンの首都ベイルートで自動車修理工場を営む

トニーは身重の妻シリーンと暮らしていたが、ある日

パレスチナ人の工事現場監督ヤーセルといさかいを

起こしてしまう。謝罪を求めるトニーと彼が発した一言が
許しがたいヤーセルは、法廷で争うことになってしまう。


<お勧め星>☆☆☆☆ 禍根はいつかは消えることがあるの

でしょうか。


言論の自由と責任


映画の冒頭に主人公のトニーはレバノン軍団の集会で演説者

に向けて熱烈な支持表明を行っています。このレバノン軍団

はキリスト教マロン派の右派政党で、トニーは仕事場でも

演説を流し続けているほどの熱狂的な支持者らしい。この理由

は映画の終盤に法廷で明らかにされてしまうのですが、この

ように自分の過去の経験という理由は、そこにある怒りを

ある程度は他者に説明する要素を持つかもしれません。
しかし漠然と「強さ」を求めたり「幻想」のようなものに

かられているとしたら、あまりに愚かだとしか思えません。
そしてトニーの家のバルコニーから流れた水が、下で工事を

しているヤーセルにかかってしまうのです。これは明らかに

嫌がらせっぽい。違法建築を修理中の現場監督ヤーセルは

「といを修理した方がいい」
とトニーに言いに行きますが、トニーはけんもほろろに

追い払ってしまいます。するとヤーセルは無許可でといを設置し、

それをトニーが目の前でぶち壊すという行動に出るのです。

「クズ野郎」
ヤーセルが発したこの言葉にトニーは激怒し、謝罪を求める

けれど、ヤーセルもなかなか謝罪をしません。なんとか所長と

共にトニーの工場に謝罪に行くと、例の演説が大音量で流れて

いるわけです。その上

「シャロンに抹殺されてればな!」

とトニーに言われたヤーセルは、遂に彼を突き飛ばしけがを

させてしまうのです。子供の喧嘩がおおごとになった感じです。

(ここで出て来たシャロンはイスラエルの15代首相で最も

パレスチナに強硬姿勢を貫いたタカ派の政治家でした。)
結局この喧嘩が法廷に持ち込まれ、互いに代理人なしの裁判と

なります。不思議なことに行動としての暴力とその暴力を呼ぶ

ような暴言が同等に扱われていることです。裁判官は両者に

「何を言ったか」を尋ねるのですが、どちらも口にしません。

おそらく何を言ったか想像がつくのでしょう。さらにトニーが

悪態をついたこともあってか、ヤーセルは無罪になるのです。

ずいぶん前に新幹線の自由席を巡って喧嘩になり、裁判に持ち

込まれた事件がありました。確かカバンで席を確保していたのに、

それをどかして座った相手と殴り合いになったんじゃなかった

かしら。結局先に手を出した方が有罪になったと記憶しています。

確保しておいて席を取られるのはすごく頭に来るけれど、よくも

まあカバンをどかしてまで座った人がいるもんだと思ったものです。
映画内の裁判の判決後、トニーが仕事場で倒れ、それを起こそうと

したシリーンが切迫早産してしまったことで、彼はさらに怒りを

募らせるわけです。そこでキリスト教右派の大物弁護士ワジュディー

に相談すると無料で裁判を引き受けると言います。この時点で

子供の喧嘩レベルが政治的なものへと変わりつつあることに気づく

のです。

 

判決、ふたつの希望

出典:IMDb

 

一方のヤーセルには、弱者救済を目指しているナディーンという

女性弁護士がつきます。彼女がヤーセルの住む小汚い地域に

ハイヒールで何となく嫌そうに入っていく姿を見ると、目標は

高尚であるけれど、根本的には差別している心があるのだと

感じます。そしてこの弁護士同士が実の親娘というのはちょっと

余分な設定かしら。
ちょっとした口喧嘩が民族、宗教、過去の戦争などで対立する

国民の争いへと広がっていくのは本当にあっという間で、例の

「シャロンに抹殺されてればな!」

も「言論の自由」と言い切られてしまうのです。
あとで監督の言葉を読みましたが、監督自身もどんなヘイトな

内容も発信する自由はあると思っているようで、そこに「責任」を

持つことが大前提だと言っています。逆に言うと責任さえ持てば
何を言ってもいいのでしょうか。これは何か言うとすぐに殺される

ことすらあった国で育った監督自身の経験からの独自の考えだと

思います。
レバノンという国が何度も中東戦争に巻き込まれ、PLO

(パレスチナ解放戦線)に自治政府並みの特権を与える寛容な国で

あったため、レバノンの主流であるキリスト教マロン派と

イスラム教スンニ派、シーア派の民兵が入り乱れての内戦へと発展

していきました。多くの犠牲を払ったレバノン人にとってなぜ自国

レバノンで「パレスチナの大義のために」自国民が我慢をしないと

いけないのかと思うのもある部分では理解できます。

一方のパレスチナ人もレバノンで虐殺された過去を持ち、現在も

何の保障もなく不能就労扱いながら多くの仕事をしているのになぜ

憎まれなければならないのか。これまで積み重ねてきたレバノンと

パレスチナの負の歴史が、この1つの裁判に集約されているかのように

思われます。

 

判決、ふたつの希望
出典:IMDb

 

トニーとヤーセルの駐車した車の位置が真逆であるのは、彼ら

2人の心をそのまま表していますが、おんぼろでエンジンが

かからないヤーセルの車を見て、先に発車したトニーが戻ってきて、

修理をしてくれます。そんな小さなことでもつれあった心の糸は

ほどかれていくのです。
またヤーセルだけでなくトニーにも負の歴史を経験していたことを

知ると、敗北は負の歴史を背負うことだけれど、歴史を踏まえて進む

ことが「新たな時代」を意味するのだと実感しました。
ワジュディー弁護士は過去に遡って見つめなおそうと言い、

ナディーン弁護士は未来を見ようと言いました。その両方が正しく、

それがラストのかつてのどかだった時と変わらない静かで美しい町を
取り戻しているトニーの故郷ダムールの景色につながっていた気が

します。

 

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尋問

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尋問

出典:IMDb

 

「尋問」

原題:Visaaranai/Interrogation

監督:ヴェトリマーラン

2015年 インド映画 118分

キャスト:ディネシュ

     サムティラカーニ

     アナンディ

     ムルガドス

 

尋問

出典:IMDb

 

タミル州出身のパンディは友人ムルガン、クマール、

アフザルと公園で寝泊まりしながら小さな店で働いて

いる。ある日彼は店に来た警官に突然逮捕され、他の

3人と警察署で身に覚えのない泥棒の罪を認めるように
暴行を受けるのだった。


<お勧め星>☆☆☆☆ 陽気で勧善懲悪のインド映画を

イメージしていると全く異なる重い内容に驚きます。


生きるために人を殺す


118分の映画の中に3つのストーリーが盛り込まれて

います。
1つはタミル、ナードゥ州からアーンドラ、ブラデーシュ州、

グントゥーラに出稼ぎに来ているタミル語しかわからない

パンディ、ムルガン、クマール、アフザルが泥棒犯に仕立て

上げられ、自白を強要されて酷い暴行を受ける話。
2つめは、タミル、ナードゥ州の大物政治家たちの会計監査を

するKKが、警察官ムットヴェール主導で拘束され、彼以外の

警察官に拷問を受ける話。
3つめは、裁判官への必死の訴えで釈放された例の4人のうち

3人が再び警察署に戻り、そこからKK拘束の手伝いと警察署の

掃除を始めてからの話。
1つめと2つめの流れから3つめにつながるわけですが、実話は

1つめのみで、裁判所で釈放を言い渡され、ただ一人故郷の村で

車を降りたクマールが、その後、当時の体験談を「Lock Up」と

いう小説に書き上げています。

しかし、インド国内では事件を「片付けること」が優先され、

「真犯人」ではなく「犯人」を作り上げることが普通に行われて

いるそうです。そこには言語、宗教が混在する以上に、今なお

存在する「カースト制度」を認めなければなりません。序盤に

パンディが心を寄せるシャンティという警察官の家のメイドが、

あざだらけの腕をしていることからも予測できます。

 

尋問
出典:IMDb

 

そして突然拘束された4人が「認めろ」と言われ、殴られ続け、

水責めを受け、逆さづりにされるという拷問を受けます。

「何を認めるのですか」と尋ねただけでも再び暴行を受けるの

です。

 

尋問
出典:IMDb

 

1000万ルピー泥棒犯を見つけないと、自分の地位が危ういと

上司から叱責される警察官は、その上司がさらにその上司から

責められていることをとっくに知っているし、それがインドの

階級制度なのだろうと思ってしまう。そこには利権、縁故も絡み、

金も行き交っているのです。そんな複雑な情況の中で何も

わからないまま拘束された4人が不遇でなりません。
裁判所で、何とか裁判官に「拷問によって自白を強要された」

ことを認めてもらい(この裁判官が英語を話す)4人は釈放されます。

しかし村へ送ってもらう途中、クマルの下車の後、3人は

ムットヴェール警察官のある仕事を手伝い、その後警察署の掃除も

任せられるのです。

彼らがあまりに純真で人を疑わないことが全て裏目に出ていくのは

大変つらい。ムットヴェールには裁判所での通訳をしてもらった
という恩義もあったからで、そのお礼をしたかっただけなのです。

そもそも言葉がわからないのですから、警察署で話していること

などわかるはずもないのに。
恩を返そうと良心に従って行動したら、それがどんどん悪い方向に

向かってしまったと言ってしまうのはあまりに不条理ではない

でしょうか。
終盤、発砲による流血シーンがあり、そこだけ白黒に変わり、

スロー映像になります。そして闇の中に響き渡る2発の銃声で

エンドロールを迎えるのです。無音のエンドロールを見ながら

何を思い浮かべるか。
「生きるために人を殺すことなんてできない」という人間としての

普通の考えを踏みにじるのもまた人間なのだと実感しました。

 

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