夏をゆく人々

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夏をゆく人々

 

「夏をゆく人々」

原題:Le meraviglie

監督:アリーチェ・ロルバケル

2014年 イタリア=スイス=ドイツ映画 

111分

キャスト:マリア・アレクサンドラ・ルング

     サム・ルーウィイック

     アルバ・ロルバケル

     サビーネ・ティモテオ

     アンドレ・ヘンニック

 

イタリア中西部で養蜂業を営む父を手伝う

ジェルソミーナは、テレビ番組への参加を父に

懇願するが聞き入れられない。そんな時、ドイツ人

少年が更生プログラムのために、この家に連れて

来られるのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆ ヨーロッパ映画らしいラスト

です。美しい自然と家族の姿が上手く描かれています。

 

第67回カンヌ国際映画祭グランプリを獲得した映画

だけあって、芸術色の濃い内容になっています。

冒頭、狩猟をする人々が

「こんな所に家があったんだ」

と口にするほどの草原の真ん中にぽつりと立つ1軒の家。

そこには、ヴォルフガンブとアンジェリカ夫妻、そして

4人の娘、ジュルソミーナ、マリネッラ、ルーナ、カテリーナ

が暮らしています。時代遅れのトラックや映りの悪い古い

カラーテレビ、ドアないトイレなど、彼らは文明とは程遠い

自給自足のような生活をしているらしい。ココという多分

ヴォルフガンブの妹も家族の一員のようです。

 

夏をゆく人々

 

強権的な夫に妻は怒りつつ、ここでの生活に不満を漏らしません。

なにがしかの理由があって喧騒のないこの生活を選んだことが

伺えるのです。そんな時テレビ番組で「ふしぎの国コンテスト」

が開かれると知り、ご当地特産品をアピールして、賞金を獲得

しようと、ジェルソミーナは考えるのですが、もちろん父は却下。

テレビ番組の司会役でモニカ・ベルッチさんが出演しています。

さすが、イタリアの宝石だけあって、ダントツきれいです。

ところが一家の営む養蜂業の製造所の改善を求める通知が食品衛生局

から届き、かなりの費用が必要になって来ます。

 

夏をゆく人々

 

「それはただの脅しだ」

父はなにか権力に対して抵抗する考えの持ち主なのでしょうか。

そして勝手にドイツの少年更生プランを引き受け、ドイツ人少年を

4か月預かることにしてしまいます。これももちろん謝礼目当て

なんだけど。

 

夏をゆく人々

 

毎日仕事に連れて行って可愛がっていたジェルソミーナをその

少年マルティンと比べて

「女はダメだな」

と言い放つ昔気質の父は、自分が主である世界をここに作っていた

のでしょうね。それがとても心地よかった。しかしマルティンが

加わったことで、この家族の中にさざ波が立ち始めます。

更生プログラムの謝礼金を、ジェルソミーナが幼い頃ねだったラクダ

購入資金に当ててしまうと、大喜びするのは下の2人の娘のみです。

父が1適も垂らすことを禁じていたハチミツが床一面にあふれ、

ヤギは売れても引き取ることさえ断られるラクダが庭につながれている。

この滑稽な光景を見ると、子供は成長するし、時代も変わっていた

ことを受け入れるのは、何がきっかけになるのか。そんなことを

考えさせられる映画でした。

 

 

 

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裁かれるは善人のみ

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JUGEMテーマ:洋画

 

裁かれるは善人のみ

 

「裁かれるは善人のみ」

原題:Leviathan

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

2014年 ロシア映画 140分

キャスト:アレクセイ・セレブリャコフ

     エレナ・リャドワ

     ウラジミール・ウドボチェンコフ

     ロマン・マディアノフ

     セルゲイ・ポホダーエフ

 

モスクワから遠く離れた田舎町で自動車修理工場を

営むコーリャは、自分の土地を収用しようと決定した

市を相手取って裁判を起こすことにする。彼は旧友で

モスクワで弁護士をしているディーマを呼び寄せるが。

 

<お勧め星>☆☆☆ 圧倒的な映像美と音楽を堪能

しますが、あまりに不条理なストーリーは心が暗くなる

ばかりでした。

 

2014年第67回カンヌ映画祭で脚本賞、

第72回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞した

本作は、世界中の映画祭で26もの賞を獲得しているとの

こと。ロシアの田舎町に寂れた景色と対照的に広がる広大な

海や大地は、その大きさに息をのむほどです。

原題の「Leviathan」は、終盤酒に溺れるコーリャに対し、

ヴァシリー神父が引用した旧約聖書の1節に出てくる、

どんな武器も通用しない最強の生き物であり、つまり強大な

運命の前には、ちっぽけな1個人はなすすべもなく打ち砕かれ

ていくのだということを意味しているのでしょうか。

とはいえ、コーリャは格別善人というわけでもなく、日曜礼拝を

することや懺悔をするために教会を訪れることもないのです。

 

裁かれるは善人のみ

 

逆にこの映画で「悪」の象徴である、ヴァデイム市長は、余裕が

ある日は家族そろって日曜礼拝に出席するし、悩みごとは司祭に

相談しようと考える信心深い男。つまりロシアにおける国家権力

と教会の癒着をも皮肉っているのかもしれません。

 

裁かれるは善人のみ

 

コーリャは前妻の息子ロマと後妻リリアの3人暮らしで、彼は

自動車修理工場を営み、代々受け継いできたこの土地をどうしても

市に明け渡したくなかったのです。それは、壁にかけてある古い写真

からも十分伺えます。一方リリアは、なつかないロマに悩まされ、

さらに毎日早朝のバスで通う魚加工会社の仕事が全然楽しくない

のです。

 

裁かれるは善人のみ

 

確実に言えることは、彼女はこの町を出たかったのです。そして

モスクワからコーリャの戦友であり、今は弁護士をしているディーマが

やって来ます。明らかに不当な判決に、ディーマは市長の過去の悪事を

調べ上げ、その資料で彼と取引しようと考えるわけです。

しかし市長への告訴状はどこにも受理されず、警察、司法が全て権力と

癒着している構図を垣間見ることになります。逆にコーリャが拘束

されるという不条理の中、助けるはずのディーマが、コーリャの

家族の中に波風を立ててしまう。その後次々に彼に降りかかる不幸には、

「神」は本当に存在するのか。そしてその「神」は誰のために存在

するのか、大きな疑問を持つラストでした。

 

 

 

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パリ20区、僕たちのクラス

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パリ20区、僕たちのクラス

 

「パリ20区、僕たちのクラス」

原題:Entre les Murs

2008年 フランス映画 128分

キャスト:フランソワ・ベコドー

 

パリ20区にある公立中学校生徒は出身国も人種も

様々で、正しいフランス語を話すことすらできない。

そんな中で国語教師フランソワは、担任する生徒たち

に自己紹介文を書かせることにするが...。

 

<お勧め星>☆☆☆ ドキュメンタリータッチであり

ながら、教師の苦悩と喜びを体感できます。

 

2008年、カンヌ映画祭パルムドールを獲得した作品

です。ドキュメンタリー映画のように見えますが、生徒

24名は、全員演技経験のない本物の中学生で、7か月

にわたるワークショップの後、撮影したとのことです。

 

パリ20区、僕たちのクラス

 

あまりに行儀の悪い生徒の姿に不快感を覚えることが

しばしばありましたが、おそらく今の日本でもこんな学校生活

なのではないかと想像してしまいます。最も物事を複雑にして

いるのは、フランスが移民の多い国であり、特に映画の舞台、

20区の公立中学校は、多国籍の住民、様々な人種、宗教を持つ

人々が生活しており、彼らの子供たちが通学しているのです。

 

パリ20区、僕たちのクラス

 

映画の中で国語を教えるフランソワが、正しいフランス語の

文法を説明すると、それは「金持ちの言葉」だと言われてしまう。

さらにアフリカ系移民の子供は、スラングしか話せず、文字など

書けるはずもないのです。保護者会で通訳として兄を学校に連れて

くる母親の姿からも、彼らの家庭の事情が伺えます。

それでも教師は毎回話し合いをし、納得の上で行動を起こすので、

互いにストレスを分かち合います。中には心を病み、退職する者も

いますが。徹底的に話し合うという姿勢はフランスという国の精神

なのでしょうね。決して上から押し付けません。

今、日本で最も暴力事件が多いのは、小学校という記事を新聞で

読んだことがありますが、この親にしてこの子供というような生徒

に対し、日々苦悩する教師の姿は想像に難くありません。主役が

何人もいる学芸会なんて、外から見たら大笑いを通り越して、飽きれ

るけれど、それが「平等」だと思っているから仕方ない。

バカンスの前に、狭い校庭でサッカーに興じる教師と生徒の姿を

見ると、束の間だけれど、心が和みました。

 

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間奏曲はパリで

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間奏曲はパリで

 

「間奏曲はパリで」

原題:La ritournelle

監督:マルク・フィトゥシ

2013年 フランス映画 99分 PG12

キャスト:イザベル・ユペール

     ジャン=ピエール・ダルッサン

     ミカエル・ニクビスト

     ビオ・マルマイ

 

ノルマンディで農場を営むクザヴィエとブリジット

は倦怠期の真っ只中。ある日隣家のパーティーに

参加したスタンと知り合い、彼に再会したい一心で、

ブリジットはパリ旅行を決行するのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆半 いかにもフランス映画という

感じがする内容だけれど、見終わると少し気分の良く

なる映画です。

 

始まりは、妻を叱る夫の姿で、それは牛の品評会の直前

のできごとなのです。夫グザヴィエ役は「ル・アーブル

の靴みがき」(2011)のジャン=ピエール・ダルッサン。

武骨で生真面目な農場主役が良く似合います。そして彼の

妻ブリジット役は「愛、アムール」(2012)の

イザベル・ユペール。あの映画では冷たい雰囲気を感じまし

たが、この映画ではお茶目で好奇心旺盛、そしてまだまだ

若い心を持つ女性を演じています。息子も家を離れ、毎日

夫の指示で牛の世話をする生活の繰り返しに飽きているのは、

時折彼女がつくため息から伺えるのです。

 

間奏曲はパリで

 

ブリジットはストレスからか右胸の蕁麻疹が広がっています。

そんな時、隣家の姪がパーティーを開き、そこにパリから

スタンというイケメンが参加するのです。

「うるさすぎる」と言ってスタンはブリジットの家を訪ね、

その後彼女は誘われるまま、パーティーに参加し、若者の

楽し気な姿にすっかり舞い上がってしまう。こっそり帰宅して

ベッドに入る時、寝ているはずのクザヴィエの瞳が輝くのが

おかしい。心配でたまらないんだ。

ブリジットは音楽や本の話で盛り上がったスタンと再会しようと、

パリへ行く計画を立てるわけです。とはいえ、その過程は

さっさと描かれて、彼女の心の動きは見ている側が察する

しかないのですが。もちろん夫には「皮膚科の受診」と偽りの

理由を告げます。いけないんだー。

実はクザヴィエはかつて浮気をしたことがあって、それで妻が

傷ついていたことを知るのは映画の後半で、それも従業員の

レジスから初めて知らされる事実というのが、夫婦であっても、

すべてを知っているわけではないのだとことを表しています。

難しいよね。

さて、パリに行ってスタンとどうなるか。いえいえ、親子ほど

年が離れ、都会暮らしのスタンとは、全然意気投合できないの

ですよ。この若造は「年増の出会い系を捜せ」と言ったぞ。

せっかくパリに来たのにいいことないまま終わるのかと思って

いると、同じホテルの客でデンマークの歯科医ジェスパーと

出会うのです。ジェスパー役は「ミレニアム」シリーズの

ミカエル・ニクビスト。

 

間奏曲はパリで

 

ちなみに妻の嘘に気づいたクザヴィエが、パリまで彼女を

追って来ていると、こんな光景をばっちり目にするのです。

アンビリーバボー!

色男のジェスパーは、ブリジットの蕁麻疹をおぞましげに

見たスタンと真逆で、それを優しく愛撫してくれます。

このアバンチュールが夫妻にとっての再出発のきっかけに

なるというから、フランス人の気持ちってなかなか理解

しづらいです。変化のない生活に甘んじていた夫妻には、

このくらいの辛いスパイスが効果大だったのかしら。

ラストに死海に2人でぷかぷか浮かぶ夫妻の向きが、逆方向

から同じ方向に変わるのは、彼らの心の中そのものを表して

いるようでした。

 

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あるメイドの密かな欲望

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あるメイドの密かな欲望

 

「あるメイドの密かな欲望」

原題:Journal d'une femme de chambre

監督:ブノワ・ジャコー

2015年 フランス=ベルギー映画 96分

キャスト:レア・セドゥー

     バンサン・ランドン

     クロティルド・モレ

     エルベ・ピエール

 

パリ市内で小間使いをして暮らしているセレスティーヌは

初めて郊外の村のランレール家を紹介される。好色な主人と

人使いの荒いマダムに嫌気がさしつつも、彼女は使用人、

ジョゼフの存在が気になるのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆ レア・セドゥの魅力が堪能できます。

 

文豪O・ミルボーの名作「小間使いの日記」を映画化した

とのことですが、その原作はおろかミルボーも知りません。

ヒロイン、セレスティーヌ役は「美女と野獣」(2014)、

「007 スペクター」(2015)などで可愛いフランス

娘を演じたレア・セドゥ。わたしが一番好きなのは

「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014)のクロチルド役

です。ちょっと上を向いたお鼻が可愛いのよね。

 

あるメイドの密かな欲望

 

セレスティーヌは小間使いとしてパリ市内の名家を渡り歩いて

いるんだけど、今回紹介されたのは、郊外のランレール家。

迎えに来たその家の使用人ジョゼフ役は、「友よ、さらばと言おう」

(2014)のバンサン・ランドンです。なんか見るからに悪い

香りが漂ってきそう。

 

あるメイドの密かな欲望

 

ランレール家の主人は、とても好色だし、マダムは人使いが荒く、

意地悪なのです。セレスティーヌは不機嫌そうに「ウィ、マダム」

と言いつつ小声で悪口を言っています。そのセリフが的をついていて

とてもおかしい。この屋敷での仕事ぶりと、かつて彼女が使えてきた

家での人との関わりが回想シーンとなって流れ、彼女がここに

至るまでに、体験した笑える事実や、悲しい出来事などが描かれて

いきます。特に純真に愛した青年が、自分の腕の中で血を吐いて

亡くなる出来事は彼女にとって大きな心の傷になったはず。一方で

行きずりのの紳士と関係を持ったり、娼館にスカウトされたりする

シーンも流れます。ここでわかってくるのは、彼女は人に使われる

暮らしからひたすら脱却したいと考えていたことです。しかし彼女に

そんな機会もなかった。ところがこの家の使用人ジョゼフは、次第に

彼女に心を開き、彼女も彼に惹かれていくのです。映画の終盤に

少女の惨殺事件が起きるけれど、あれは誰が犯人なんだろう。それと

映画の内容に関係があったのでしょうか。支配されることに嫌気が

さしていたセレスティーヌは、自由を得るために自らジョゼフの

提案を承諾するのだけれど、それはジョゼフに支配されることに

飛び込んでいくということよね。ただ今までとは違う世界に向かう

ことは確かだから、彼女にとって希望に満ちた未来が開けるという

ことかしら。だといいけどね。

 

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ボヴァリー夫人とパン屋

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ボヴァリー夫人とパン屋

 

「ボヴァリー夫人とパン屋」

原題:Gemma Bovery

監督:アンヌ・フォンテーヌ

2014年 フランス映画 99分

キャスト:ファブリス・ルキーニ

     ジェマ・アータートン

     ジェイソン・フレミング

     ニール・シュナイダー

 

フランス北部の村で父から継いだパン屋を営むマルタンは、

大の文学好き。そんな彼の家の近所に1組の夫妻が転居

してきて、その名前を聞いたマルタンは「ボヴァリー夫人」

と彼らを重ねてしまうのだった。

 

<お勧め星>☆☆☆ 官能的ながら、美しいフランスの田舎

の自然とそこで起きる出来事がユーモラスに描かれています。

 

WOWOWで鑑賞したのですが、R15指定にするほどのシーン

は見当たらず、ジェマ・アータートンの体は確かに豊満だけれど、

それもほとんど映らないし、ラブシーンもソフトです。だから

誰が見ても平気だよーん。「アンコール!!」(2012)と

「ビザンチウム」(2012)で全く違う女性を演じた

ジェマ・アータートンの両方の姿が見られます。

 

ボヴァリー夫人とパン屋

 

さて主人公のパン職人マルタン・ジュベールを演じるのは、

「危険なプロット」(2012)のファブリス・ルキーニ。

どこかひょうきんなルックスながら、繊細な心を持ち、実は

女性に目がないという、ごくごくありきたりの男性をうまく

演じています。彼の場合やけに文学に造詣が深いから少々

困ったさんなんです。ストーリーはそんな彼の家の近所に

イギリス人夫妻が転居してきたことから始まるのです。そして

シーンは飛び、ジェマの荷物を燃やしているチャーリーの隙を

見て、彼女の日記を持ち去り、それを読みふけるマルタンの

姿に変わります。そこから日記に書かれていたジェマの日常と

マルタンの妄想が重なり合った映像となって流れていくのです。

 

ボヴァリー夫人とパン屋

 

夫妻の名前はチャーリーとジェマと言い、名字はなんと

ボヴァリーです。チャーリーはフランス読みではシャルルだし、

ジェマはエマ。ああ、何ということだろう!マルタンの頭は

「ボヴァリー夫人」の話でいっぱいになるのです。小麦粉を

こね、パン生地を成型していくシーンは、木漏れ日が降り注ぐ中、

まるで目の前に粉が舞ってくるかのように映され、絶対に

パンが食べたくなるはず。でもマルタンは、もうジェマに夢中。

案の定ジェマはかつての富豪の息子エルヴェと浮気をするし、

夫チャーリーとも不仲になっていきます。野ネズミに悩まされる

ジェマに殺鼠剤を絶対に使うな、と強く主張するマルタンの話の

根拠は、その中にヒ素が含まれているからで、小説「ボヴァリー夫人」

の死因となっていただけのこと。じゃあどうやって退治するかと

いうと、マルタンは叩き殺します。あらら、そっちの方が残酷だわ。

ジェマの元恋人パトリックも現れ、彼女を巡って男性が争う中、

ジェマはなんとマルタンがプレゼントしたパンを喉に詰まらせて

窒息してしまう。とてつもなく悲劇なのに、残された男たちが

滑稽に思えてしまうのです。さらにもっと滑稽なのは、次に

同じ家に引っ越してきた人を、マルタンのバカ息子が

「ロシア人で、名字はカレーニナ」なんて嘘をつくものだから、

彼女が生粋のフランス人と知らず、ジェマと同様に近づいていく

マルタンの姿です。舞台となっているノルマンディー地方の

のどかな景色とともに繰り広げられる人間ドラマはなかなか

面白かったです。

 

 

 

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ある神父の希望と絶望の7日間

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ある神父の希望と絶望の7日間

 

「ある神父の希望と絶望の7日間」

原題:Calvary

監督:ジョン・マイケル・マクドナー

2014年 イギリス=アイルランド映画 102分

キャスト:ブレンダン・グリーソン

     クリス・オダウド

     ケリー・ライリー

     エイダン・ギレン

 

アイルランドの小さな町の教会の司祭ジェームズは

ある日曜日、懺悔室でかつて司祭に性的虐待を受けた

男から、自分への殺害予告を受ける。彼はその日から

1週間町民と対話をして回るが...。

 

<お勧め星>☆☆☆ コメディのジャンルに入っていて

もちろん笑える要素もありますが、同時に閉塞感で

息苦しくなります。

 

calvary=キリストの磔の地、受難

日曜日ジェームズ司祭は、教会の懺悔室で1人の男の告解を

聞くのです。しかしそれは赦しを請うものではなく、7歳の

時から5年間司祭にレイプされ続けたこと。そしてその司祭

に復讐しようにも、彼は既に亡くなってしまったこと。さらに

「悪い司祭を殺してもニュースにならないが、善良な司祭を

殺せばニュースになる」ということで、ジェームズを来週の

日曜日に殺害すると告げるのです。声だけとはいえ彼は

その声の主が、誰であるかはすぐにわかっているのです。

その日から1週間、ジェームズと町の人々との対話のシーンが

曜日ごとに映し出されていきます。しかし見ている側には、

誰が声の主であるのか、ほぼわかりません。10人そこそこの

町人との会話は、ウィットに富んだもので、クスリとさせられる

ものばかりです。

 

ある神父の希望と絶望の7日間

 

これは脚本が上手なのでしょう。字幕で見たので微妙なズレは

あるものの、相手とのやり取りは飽きることがありません。

さらにその町民がおかしな人ばかりなのです。

夫ジャックからDVを受けているベロニカは、複数の愛人がいるし、

ジャックもそれで機嫌よく家族が過ごせるならそれでいいと言う。

富豪マイケルは酒浸りで、家族はおろかメイドまで家を出てしまい、

話し相手がいないのです。バーのオーナー、ブレンダンは不況の

影響で家を没収されているし、その従業員マイロは、退屈だから

自殺するか入隊するか究極の選択を考え中。実は女性とヤレないから、

というのが本心らしい。また身の危険を感じ、相談しようと考えた

警部補スタントンの家には、男娼レオがいる。とても相談できる状況

じゃないな。また彼の娘フィオナは、男性問題が理由で自殺未遂を

したものの、手首の切り方を間違えたので自殺に失敗し、それを

町民に指摘されてばかりなのです。

 

ある神父の希望と絶望の7日間

 

その他にも作家志望の死にかけた老人やジェームズの下で働く

リアリー司祭など個性的な人物との交流は、迫りくる日曜日を前に、

どこまでものどかに続くのですが、教会に放火され、さらに愛犬を

惨殺されるなど、彼の周りはにわかに危険を帯びてきます。

「カトリック教会の司祭による性的虐待問題」が露呈してから、

アイルランド国内での聖職者への考えが変わってきたことが皮肉めいて

映し出され、ジェームズは遂には泥酔し、バーのオーナーと暴力沙汰を

起こします。皆の不平不満を聞く司祭は、ある意味そのはけ口になる

使命を持たされてしまったのかもしれません。

「一番の徳は人を赦すこと」とジェームズはフィオナに語りますが、

それがラストにフィオナが発する言葉にどう影響を与えているのか、

いろいろ考えさせられるものでした。アイルランドの牧歌的な自然に

あふれた景色が、実はシリアスな内容の映画と真逆で、心に残る映画に

なっています。

 

 

 

 

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ハンガー

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ハンガー

「ハンガー」
原題:Hunger
監督:スティーヴ・マックィーン
2008年 イギリス映画 96分 R15+
キャスト:マイケル・ファスベンダー
スチュアート・グラハム
リアム・カニンガム

1981年、サッチャー首相が、北アイルランド
紛争に関連の囚人から政治犯の権利を剥奪した
ことに反発する囚人たちは、様々な抵抗行為を
続けていた。しかし成果は現れず、遂に彼らは
死のハンストを決行する。

<お勧め星>☆☆☆ かなりリアルな映像の連続で
心がズシリと重くなります。


「それでも夜が明ける」(2013)の
スティーヴ・マックィーン監督が、2008年の
カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞した長編デビュー
作です。
この映画を見て初めて知った言葉は

ブランケット・プロテスト
囚人服を拒否し、私服での収容を要求すると全裸にされ、
毛布だけを渡されるため、それを肩にかけて過ごす。

ダーティー・プロテスト
監獄に垂れ流した糞尿や食べ物を壁や床になすりつける
行為の繰り返し。


ハンガー

どちらもリアルな映像であり、何のBGMもなく、ただ汚れた
通路を、職員がデッキブラシでひたすら流していくシーンが
長回しで映ります。また壁に塗りたくられた糞尿も、映像
アーティスト出身の監督だけあって、まるで意図的に描かれた
絵画のように見えます。
1981年、北アイルランド紛争で逮捕された囚人たちは、
IRA暫定派と呼ばれ、各地でテロ行為を行ったり、計画をして
いた若者ばかり。彼らの行動には統一アイルランドを目指すという
究極の目的があったわけですが、その手段として無差別なテロ
行為だけでなく、映画内でも出てくるように刑務官たちへの
襲撃も行っていたわけです。
映画の冒頭で出勤前に、家の前の道路や車の下に不審物がないか
確認する刑務官の姿を見ると、彼らの恐怖も伝わります。その
一方で刑務所内では、IRAのメンバーを無理やり風呂に入れ、

デッキブラシで擦り、はさみで髪の毛を切り、抵抗すれば
さらなる暴力を加えるという行為を行っている。その暴力行為に
耐えきれず涙を流す機動隊員もいて、あくまでも公平な目で映画
は描かれていくのです。
刑務所内のメンバーをまとめているのが、マイケル・ファスベンダー
演じるボビー・サンズであり、彼らはさらなる効果を求めて遂に
「死のハンスト」を決行することにするのです。


ハンガー

その計画をボビーがモーラン神父に話すシーンは、セリフの応酬
がものすごく見ごたえのあるもので、20分間のセリフは2人が
15,6回練習して臨んだだけのことがあります。


ハンガー

さらにハンストを演じるため、体重を50kg台まで落とした
マイケル・ファスベンダーの体は、もう別人のようで、痩せた
だけでなく、瞬きや体の動かし方、息遣いにもこだわりが強く
感じられます。
このハンストで9名が死亡し、逆にこの時期に刑務官は16名
死亡していた...ラストの字幕はあくまでも公平なものであり、
テロリストを賛美したものではないという監督の言葉に納得します。



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君と歩く世界

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君と歩く世界

「君と歩く世界」
原題:De rouille et d's
         Rust and Bone
監督:ジャック・オーディアール
2012年 フランス=ベルギー映画 122分
R15+
キャスト:マリオン・コティヤール
マティアス・スーナールツ
アルマン・ヴェルデュール
セリーヌ・サレット

5歳の息子サムとアリは、姉の家に居候し、警備員
として働き始める。彼が勤務するクラブでトラブル
を起こしたステフは、シャチの調教師をしていたが、
思わぬ事故で両足を失ってしまい...。

<お勧め星>☆☆☆ 邦題や思い描いていた内容と
全く異なっていて、感情移入しづらかったです。


予告編やキャッチフレーズから想像すると、シャチの
調教師だったマリオン・コティヤール演じるステファニー
が、ショーでのアクシデントで両足のひざ下を失い、絶望
の中、いかにして再生していくのか、そこにアリが関わって
くるのだろうと予想します。しかし実はメインのストーリー
は、マティアス・スーナールツ演じる、5歳の息子サム
(多分元妻の連れ子)を抱えた筋肉自慢のプー男、アリが
原題「錆と骨」が意味する通り、格闘家としての道が開かれる
までの話のようです。


君と歩く世界

アリは冒頭から、列車の座席に残っている飲食物をかき集め、
息子と貪り食うような世の中の底辺にいる男。彼は姉アナの
家を頼って行っても、彼女もトラック運転手をクビになった
夫をスーパーのレジ打ちで支えているような貧しい暮らしを
しているわけで、冷蔵庫にはスーパーから持ち帰った賞味期限
切れの食品しか入っていません。この時点で映画の内容が
邦題とかなりかけ離れていると感じます。
そんなアリがステファニーと出会ったのは、まだ事故の前で、
娼婦のような姿でクラブに現れ、男性客とトラブルになり、
警備員であったアリがそれを止めたことからです。なんで
こんな格好しているかは、映画の後半に彼女の口から
「見られるのが快感だった」
と語られます。あれ?全然いい話ではなくなってるぞ。


君と歩く世界

そしてステファニーはショーの最中に事故に遭い、不運にも
両足のひざ下を失うのです。絶望に暮れる彼女の姿は、声は
入らずとも、何につけても関心の無くなった表情から伺えます。
そんなステファニーをアリは海に連れ出し、かつての喜びを
思い出させるのかと思ったら、自分だけちゃっちゃと泳ぎに
行き、彼女は置いてきぼり。でも彼女は海の美しさを感じ、
トップレスで水の中に入っていきます。水の中ではかつての
まま自由に動けるのです。このシーンとシャチと再び会話する
シーンは予告編でも映っていましたね。

とはいえ映画はそんな甘っちょろいものではなく、アリは
格闘で賞金稼ぎを開始し、それだけの女性と楽しむ日々を送り、
サムのことすらそっちのけなのです。サムに手を挙げることは
幾度となくあり、こいつただの暴力単細胞男だな、とやや
嫌悪感を持ちます。
opeと称してステファニーの相手をするアリも、それは愛情
からではなく、自分の欲望のためだけのように思えてしまう。
ステファニーは、それによってかつての自信を取り戻していくし、
自分の生活を再建しようとするのですが、アリは、目の前の
ことしか考えられず、ステファニーに「思いやり」を指摘
されたとて理解できたのかどうか分からずじまい。


君と歩く世界

アリが警備会社の責任者からの指示で行ったことが、姉の
持ち帰り行為を映すことくらい理解できるだろうにねえ。
ラスト付近もなぜに立ちション?背後でサムは氷の中に落ちて
いますよ!これだけの恐怖を経て、やっと「孤独の恐怖」に
気づくというのはよっぽど単細胞なんじゃないだろうか。
最後まで違和感の残る映画でした。



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ヒトラー暗殺、13分の誤算

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JUGEMテーマ:洋画

ヒトラー暗殺、13分の誤算

「ヒトラー暗殺、13分の誤算」
原題:Elser
監督:オリバー・ヒルシュビーゲル
2015年 ドイツ映画 114分
キャスト:クリスティアン・フリーデル 
カタリーナ・シュトラー
ブルクハルト・クラウスナー
ヨハン・フォン・ビューロー

1939年ミュンヘンで演説を終えたヒトラーが
次の場所に移動した13分後、その壇上で爆発
が起きる。ヒトラー暗殺暗殺未遂事件として
拘束された犯人は、ゲオルクという平凡な家具
職人だった...。

<お勧め星>☆☆☆ 主人公の、その計画への
思いが見る側にうまく伝わらないのが残念です。


1939年、11月のミュンヘン。暗闇の中で何やら
作業をする一人の男が映ります。彼が誰で、何を
しているのか。それは不審人物として拘束された後、
先ほどの酒場で演説を行っていたヒトラーが移動した
直後、そこで爆発事件が起きたことから、彼がこの爆発
に関わっていたとわかってくるのです。
演説中のヒトラーに
「霧で飛行機は飛ばない」
というメモが渡され、彼は鉄道で移動することになった
ため、演説を早めに切り上げていたというのが計画の
失敗の原因だと気づくのは映画の中盤くらい。

この男ゲオルク・エルザーは、即ミュンヘンに連行され、
刑事警察局長ネーベとゲシュタポのミュラー局長より
尋問を受けるのですが、このミュラー役が「顔のない
ヒトラーたち」(2014)で、ナチスの犯罪を暴く検事
の仲間だったことで、かなり違和感を感じます。
でもこの役のヨハン・フォン・ビューローは、とても上手。
表情も変えずに、残虐な拷問や、ラスト付近の処刑シーン
に立ち会うのです。


ヒトラー暗殺、13分の誤算

ラスト付近に処刑されるのは、ゲオルクではなくあっという
ような人物なんだけど、そのシーンは長回しで、映画の中で
最も恐ろしく感じます。
ストーリーは、ゲオルクに黒幕がいると決めつけた上層部の
指示で、彼に自白を迫るため、拷問を加えていくシーンと
彼がこの計画を決行するまでの若き日々の回想シーンとで
描かれます。

1932年のゲオルクは音楽を愛し、女性とは自由に付き合う
自由人だったらしい。それが酒飲みの父のせいで実家に戻り、
家具職人の仕事を始めるわけですが、そこにも時代の波が
押し寄せ、町はヒトラー率いる社民党支持者が幅を利かせ
始めます。ゲオルクは特に左翼思想ではなかったのに、暴力
を嫌う平和主義者だったため、次第に赤色戦線に同調していく
のです。この辺りが極めて分かりづらく描かれているので、
なぜゲオルクが社民党に入党しなかったのか、そうすれば
経済的にも楽に暮らせたのに、敢えて苦しい生活を選んだ
意味が理解しにくいです。ただ、収穫祭でヒトラーを讃える

人々が町の運動会の様子を撮影した映画を流し、彼がいれば
ドイツはどんどん繁栄していく、と浮かれまくる町民の姿に
いち早く危険を察知したのが、ゲオルクだったということでしょう。


ヒトラー暗殺、13分の誤算

ゲオルクは他の女性と子供をもうけていながら、離婚したのか
結婚しなかったのか。そこも映画だけではわかりません。
さらになぜ暴力をふるう夫を持つエルザを気に入ったのか、
それはエルザも、違う男の子供をもうけているという奔放な
女性であり、彼と波長が合ったのでしょうか。
彼がエルザの姿を見て、一切応じなかった取り調べにも素直に
応じ始め、彼とエルザとの悲しい過去も描かれます。
「単独犯ではない」
と決めつけた上層部の判断で、ゲオルクは自白剤まで注射され
ますが、それでも自分一人で計画したと言い続ける。
ラストは別の人物の処刑シーンが映り、ゲオルク以外にも暗殺
計画を立てた人物がおり、それはゲオルクよりも5年遅く決行
したと知ると、その人物が、ゲオルクの「賢さ」を見抜いていた
発言をしていたことに気づくのです。


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